とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第13話〜帝丹小七不思議事件〜

それは、授業中での会話が始まりだった。

 

「この学校が呪われてる?」

 

「ああ。マジだぜマジ」

 

「もう学校中で噂になってますよ」

 

「どうせよくある『学校の七不思議』ってやつだろ?『勝手に鳴るピアノ』とか『一段増える階段』とか」

 

それに光彦はそんな子供騙しではないと断言する。その根拠は一週間前の早朝、ある生徒が美術室に入ったとき、美術室にある大きな絵が大好きな子で、毎朝眺めに行っていたらしい。そんなとき、彼女は見てしまったのだ。学校にある8体の石膏が彼女の方を睨む異様な光景を。

 

「どうです!ミステリアスでしょう?」

 

光彦が顔色を青くしてそう語れば、コナンはそれを偶然と片付ける。しかしそれはその子だけではなく、この学校、最近、生徒の数が減ったのだ。それは風邪が流行っていると聞いていたコナンはそう伝える。それが現実的な問題であり事実ではある筈なのだが、光彦はそれはもしや石膏像の呪いにかかったのではと言う。しかしそれに元太はそんなの怖くない、自分の聞いた話の方が怖いと語る。それは保健室にある人体モデル、それが4日前の夜、学校の廊下をものすごいスピードで走っていたらしい。コナンも意外と聞いてた咲もそんな訳ないだろと呆れた顔を浮かべるが、そこで元太が歩美にも話しかける。

 

「おい歩美!オメーの話も聞かせてやれよ!」

 

「え、歩美ちゃんもなんか見たの?」

 

「う、うん……」

 

コナンの質問に、歩美らしくない元気のない返事を元気のない顔で返す。それに咲は首を傾げたが元太はそれに気づかず、少年探偵団が早く調べないと大変なことになるとコナンに身を乗り出して言ったところで彼の頭に衝撃が走る。元太はその痛みにすぐに気づき上を向けば、其処には担任の『小林 澄子』が指示棒を持ってとても怖い顔で立っていた。

 

「大人しく先生の授業が受けられないのなら、今すぐ帰りなさい」

 

そのまま小林は前へと歩いて行き、福本という生徒に次を読むように言う。怒られた元太は不機嫌そうな顔を隠しもせずに小林に文句を言う。

 

「なんだよ、鬼ババア。あーあ、前の戸谷先生の方が良かったなぁ。優しくてよ」

 

「仕方ないですよ。戸谷先生は結婚して退職しちゃったんですから」

 

「やってらんねーぜ」

 

そんな元太に咲は苦笑い。彼女は既に担任が小林の時に来たのでその戸谷先生は知らないが、小学生のうちからアレだけ怖い先生にあったなら、中学に行っても慣れて問題なく過ごせるだろうとさえこの時は思っていた。その間のコナンは歩美の様子が気になり、そちらに視線を向けていた。そしてその元気のなさが気になり、掃除時間の時に理由を聞いてみれば、彼女は変な人を見たらしい。

 

「変な人を見た?」

 

「うん、3日前の夜、この教室で」

 

「なんで夜に学校なんか来たんだよ」

 

「だって、心配だったんだもん。お魚さん」

 

彼女が言う『魚』は教室にて飼われている魚のこと。彼女が学校に来たのはその日、餌を与え忘れてしまったことが原因だった。

 

「私、お魚さんが元気か気になって来てみたの。そしたら、誰かいたのよ、この教室に!真っ白なマスクを付けてウロウロしてる不気味な人が!」

 

その人の顔を見たのかと聞けば、声も籠っておりよく分からなかったらしい。しかし怒っていたようではあったと言う。

 

「どうして先生に相談しないんだよ!」

 

「言ったよ!近所に住んでる教頭先生に!……調べてくれるって約束したもん」

 

「で、教頭はなんて?」

 

「それが……」

 

そこで彼女は一度口籠もり、涙を目に浮かべて事実を伝える。

 

「来ないのよ!昨日も今日も学校に!!小林先生にも他の先生にも聞いたけど知らないって言うし、 ……教頭先生の家に行って呼び鈴を鳴らしても誰も出ないし……」

 

それこそ風邪で寝てるんじゃないかと元太は言うが、それなら学校に連絡を入れるだろうと光彦が言う。

 

(確か教頭は、奥さんを亡くして一人暮らしだったな)

 

「きっと……きっと私のせいだよ!私があんなこと頼んだから……教頭先生、あの変な人に殺されちゃったのよ!」

 

そこで小林先生がやって来る。既に歩美たちの声は丸聞こえ状態だったのだ。その為、静かにちゃんと掃除するように注意したあと、今日渡した授業参観の通知、休んだクラスメイトのうちに必ず持っていくように強く言う。それに返事が返って来たのを聞きながら教室を出た小林は青い顔で扉の前で何か考え事をする。そこに同じ先生仲間である『大畑 裕之』がその様子に気づき、話しかける。

 

「この学校に転任になった早々、一年坊主が相手で大変でしょうけど、もっと気楽に……」

 

「いえ、そんなんじゃありませんので」

 

小林はそう素っ気なく返してその場を去っていく。そこで大畑も廊下を歩いて行こうとしたが、そこをコナンが呼び止める。彼に聞きたいことがあるからだ。

 

「教頭先生ってどうしたか知りませんか?」

 

「えっ?」

 

その質問に大畑は目を丸くし、驚き、言葉を濁す。

 

「そ、それは……さ、さあね?二日間、無断欠勤されてるみたいだけど、そのうち出て来られると思うよ?」

 

そう伝えたあと、走り去ってしまった。その後ろ姿を見て、少年探偵団5人全員が疑問に思う。

 

「……アレは何か隠してますね」

 

「くそっ。どいつもこいつも感じ悪い先公ばかりだぜ」

 

そこでイラつきの発散として壁を蹴った時、なだめる声がかけられる。

 

「これこれ、むやみに校舎を蹴るでない」

 

そう声をかけたのは黒髪に黒髭のお爺さん、この学校の校長『植松 竜司郎』だった。彼は優しく校舎の壁を撫でながら、子供達にも優しく語りかける。

 

「この校舎もはや30歳。その間、ずっと苦労を分かち合ってきた、謂わば儂の分身じゃ。もっと労ってくれんかの?」

 

そこで去っていく校長にコナンは同じ質問をすることにした。

 

「あの、校長先生は知ってますか?教頭先生のこと」

 

そこで校長は足を止め、振り向く。

 

「ふっ、隠し事はいつか暴露る。確実に運がなかった……天命じゃよ」

 

その言葉の意味を子供達は理解することができず、そのまま見送ることとなった。しかし子供達もそのまま引き下がることは出来ない。その日の夜、少年探偵団全員で夜の学校にやって来たのだ。

 

「おうし!分かってるなオメー等!」

 

「おう!僕達、探偵団はこの学校で起こった数々の謎を解き明かすために!」

 

「これより、この校舎に突入しちゃいます!」

 

それを聞いていた咲は溜め息を吐きながら携帯の電源を落とす。先にメールを修斗に送っており、その返信が今先ほど返ってきたのだ。『今から学校の七不思議を解決をしてくる』と送ったその内容の返信は、一言『分かった』だけ。彼も心配はしているだろうし、もしこれが咲を入れて子供4人ならまず間違いなく止めたことだろう。しかしコナンがいると言うなら話は別だ。修斗は彼を信頼し、信用している。だから引き止めることをしなかった。そしてそれを咲も理解している。なぜ人間不信気味のあの修斗がそれ程までに信用しているのかを理解することはまだ出来ていないが、しかしその一端に触れる事は既に出来ているのだ。

 

咲がそんなことを考えている間にコナンは帰る前に開けておいた窓を開き、1人で中に入り、窓の鍵を閉める。しかし開けた時の音でまず咲が気付き、鍵を閉めた頃に他3人が気付き、コナンの元へとやって来る。しかし入ろうにももう窓は閉められ、入らない状態になってしまった。

 

「あけてよ!コナンくん!」

 

「開けろよ!こら、こら!」

 

「開けてください!!」

 

「あぶねーから早く帰りな」

 

「いやそれならお前も……」

 

その時点でコナンは辺りを一度キョロキョロと見渡し、3人の少年探偵団は近くにあった大きな岩を3人で抱え上げ、窓を破ろうとしていた。それを見て慌てて声を出す咲。

 

「いやいやいや!?そんなもの使おうとするな!!もう諦めて帰ろう!!」

 

「諦めて帰れるわけねーだろ!!絶対に解決してやるんだ!!」

 

そんな3人の姿にコナンも気づき、ギョッとする。しかしこのままでは窓を割ってでも入ろうとするだろう事は想像に難くない。コナンは4人を入れることを決め、学校のガラスは延命出来たのだった。

 

そして今は5人揃って夜の校舎を歩いている。

 

「夜の校舎って不気味だよな〜」

 

「ほんと!ドキドキしちゃうね!」

 

「皆んなには内緒ですね。こんなの先生にバレたら……」

 

「いや、もうバレてると思うぞ」

 

先の言葉に3人が振り向くと、咲は苦笑いしながら脱いだ靴を掲げてみせる。

 

「靴の泥、落とさないと足跡がな……」

 

それで子供達3人もようやく気付き、靴を洗い始める。その間、コナンと咲は話をしていた。

 

「なあ咲。お前、暑くねーの?」

 

「ん?なんでだ?」

 

「いや、お前だけだろ?クラスの中、先生を退けてたった1人、黒い長袖のカーディガン着てんのは」

 

それに咲は苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、暑いといえば暑いんだが、これは薄いものだから風通しもいいんだ。案外、快適だよ」

 

「ふーん、紫外線とか気にするタチなのか?」

 

「いや、あまり。ただ、一年の中で殆どを長袖で過ごしているから、日焼けすること事態が少ないんだ」

 

「……なあ、なんでそんなに長袖着てるんだ?」

 

その問いに、咲は答えれない。いや、答えたくないのだ。

 

答えてしまえば最後、自分が本当は大人である事も話さなければならない。そこをなんとか逃れたとしても、最大の理由を話してしまえば、周りは必ず自分から離れていってしまう。そう彼女は思っているのだから。

 

「……すまないが、その質問には黙秘をさせてもらう」

 

「……そうかよ」

 

其処で漸く洗い終わったようで、光彦と元太が近づいてきた。それにコナンと咲は気付き、歩き出す。そこで歩美も気付き、走って光彦達の後を追う。その時、彼女は水を出しっぱなしのまま走り去ってしまったのだが、その水は程なくして蛇口を閉められ、止められた。

 

探偵団が最初に赴いたのは美術室。そこで元太が灯りをつけようとしたがそれをコナンと咲が止める。

 

「灯りをつけるな!」

 

「そうだ。灯りをつけたら俺たちがいる事がバレちまう……たく、懐中電灯ぐらい持ってこいよ」

 

そう言ってコナンと咲は持って来た懐中電灯を点け、光彦もそれに習い、持ってきていた懐中電灯を点ける。

 

その時に一番に光に浮かんだのは石膏像だった。

 

「あ!あったよ!石膏像!」

 

コナンはその石膏像に近付き、観察する。すると像と机の接点に印が付けられていた。それを見て、コナンは光彦の話がただの噂ではないことを理解した。其処で視線を少し上にあげた時、像の額にセロハンテープが貼られていることに気付き、それを手に取る。その間、咲は人の足音を耳に拾うために1人だけ目を瞑って立っており、3人は美術室の中をキョロキョロ見渡し、何もないと決め次に行こうと決める。其処で光彦が保健室と提案を出したことで、5人は保健室にやって来た。

 

「例の動く人体モデル、人体モデルと……」

 

其処でキョロキョロと探すが人体モデルは見つからない。

 

「変ですね。見当たりませんよ」

 

「まさか噂どうり走って廊下を……」

 

光彦と元太は其処で歩美と少し離れて探し、歩美はシーツが掛けられた『何か』を見つけ、それを引っ張る。すると其処から人体モデルが現れた。

 

「ウワァーーー!」

 

歩美はそれに驚き、泣き叫びながら保健室から出て言ってしまう。それにコナン達も気付き、歩美の後を追って行く。歩美が無我夢中で走った時、階段のすぐ横を曲がったところで何かとぶつかり、倒れた。その表紙にその箱からいくつか物が落ちたが、それはどうやら人形劇用の人形のようだった。

 

「歩美、大丈夫か?」

 

其処で追いついた元太が声をかけ、歩美もそれに頷く。

 

「でも、ハンカチ何処かに落としちゃった……」

 

「ん?それなんだ?」

 

元太は其処で人形に気付き指を指す。歩美の近くに落ちていた人形はどうやら鳥のようで、歩美はそれを抱き抱える。

 

「お人形さんよ!」

 

「うわぁ!いっぱいあるぜ!」

 

元太は大きなダンボール箱の中を覗き込み、光彦はそれがどこかのクラスが人形劇に使ったものだろうと言う。

 

(しかし変だな……)

 

コナンはそれに疑問を持ち、階段裏にある鍵が開きっぱなしの倉庫に視線を向ける。

 

(なんでこんなものが外に出てるんだ?)

 

その間に子供3人は箱の中を漁る。そこで歩美が『吉田』と名札がつけられた三蔵法師の人形を手に取る。

 

「ねえ見て見て!この三蔵法師、私と同じ名前がついてる!」

 

「僕のは沙悟浄に!」

 

「ちぇ、俺のは猪八戒かよ」

 

その猪八戒は元太が持った時に首が捥げ、そのまま床に落ち、コロコロと転がる。それに元太は怖がる。

 

「首が取れてる!」

 

「首だけじゃありません!この人形だけ何故かボロボロですよ!」

 

「お、おい!まさか誰かが俺を……」

 

それに歩美と光彦は同じ名字の誰かだろうと言うが、コナンはそれを否定する。その断定した証拠は、彼が持つ孫悟空の人形。其処には『江戸川』と名付けられていた。

 

「見ろよ。『江戸川』なんてそうザラにある名前じゃないぜ」

 

「そうだな。それに、私の名前が付いた黒猫の人形もあるわけだし……」

 

そう咲が良い、持っているのは確かに『月泉』と名が付けられた黒猫の人形。最遊記とはまた別の劇で使ったものだろうと咲は予測した。

 

「じ、じゃあこの名前……」

 

「まさか、最近生徒の数が減ってるのと関係があるっていうんじゃ……」

 

「だぁぁ!それじゃあ次に消されるのは俺かよ!?」

 

元太がそう怖がるが、光彦はそんなことないという。自分達は噂に振り回されてるだけだと。

 

「現に石膏像はちゃんと美術室にあったし、人体モデルだって保健室の中に……」

 

そう光彦が保健室の方に指をさした時、確かに人体モデルはあった。しかしそれは保健室の中ではない。ーーー保健室前廊下の窓から、光彦を見ていたのだ。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

その叫び声にさっきから耳をやられ続けた咲は眉間にしわを寄せる。まだ我慢ができる叫び声の大きさだったから良かったものの、これ以上の大声を出されては、彼女にとってはたまったものではない。しかしそれでダメージを受けないコナン達は直ぐに光彦に近寄る。そこで光彦から人体モデルのことを聞き、直ぐに窓から保健室前を見る。しかしそこには既に人体モデルなどなかった。

 

「なんだよ、どこにもいねーじゃねーかよ!」

 

「でも今本当に!!」

 

そこで漸く黒猫を抱えたままの咲がやって来る。ずっと聞こえていた声で内容は既に把握済み。さてどう行動するかと考えた時、コナンの方が先に動いた。

 

コナンは直ぐに廊下を走り保健室へと向かう。その後を元太達も追って行く。咲も追おうとしたが、その前に黒猫の人形を人形箱に乱雑に放り投げた。そしてそのまま後を追い、一番最後に辿り着いた頃には元太と歩美が怖くて見間違えたのだろうと話していたが、それは違うとコナンが否定する。

 

「この人体モデルの足元を見て見ろよ。歩美ちゃんがさっき落としたハンカチが挟まってる」

 

「なるほど。つまり、私達が保健室から出た後、その人体モデルが動いたということだな」

 

「じゃあ、その人形が勝手に……」

 

「バーロー。誰かが動かしたに決まってんだろ?」

 

コナンはそう言いながら歩美にハンカチを渡す。光彦はコナンに誰が何故そんなことをしたのかと聞けば、元太は自分達を脅かす為にと言う。

 

「ただ脅かす為なら、態々元の場所に戻したりしねーさ」

 

そこで保健室から出て行き、歩き出す。その間、5人は話をする。

 

「でも良かった!お化けのせいじゃないんだな!!」

 

「ふっ、お化けなんかよりよっぽど気味悪いぜ。こんな時間に学校でコソコソ奇妙なことをやってる人物の方が……」

 

そこで咲はバッと先ほどの保健室の方に顔を向け、走り出す。

 

「咲!?おい、どうした!!」

 

「今、私達を見る視線をさっきの保健室前から感じたんだ!!」

 

「え!?」

 

そこで保健室前に辿り着くが、そこには誰もいなかった。

 

「なんだよ、誰もいねえじゃねえかよ」

 

「いるわけありませんよ!だって僕が人体モデルを見たのは保健室の向かいの窓からですよ!犯人が僕の叫び声を聞いて、人体モデルを咄嗟に保健室に戻し、その後、ここの窓から覗いていたのなら、保健室に駆けつけた僕達と何処かですれ違ってるはずですよ!」

 

その光彦の説明は最もであり、それは咲の見間違いだと片付けられ掛けたが、それをコナンが見間違いではないと証明した。

 

「いや、誰がここにいたのは確かだ。……ほら、その窓」

 

コナンがそう言って指差したのは、先ほど咲が視線を感じた場所と同じ位置、そして大人程の高さの位置にある白く曇った部分があった。

 

「誰かが頬を窓ガラスにくっ付けて覗いてた証拠だよ!」

 

そこで子供だけでは危険だと、コナンは警備員の人を呼ぼうと提案。そこで電話を探せば、光彦が職員室にあると言う。そこで子供達はそのまま職員室の扉を開けたが、コナンは疑問に思う。

 

(どうして職員室の扉が開いてるんだ?)

 

咲がそのことに疑問を抱かないのは、彼女が18年間、一度も学校に通ったことがないからだ。組織に誘拐されてから一度も。彼女が持つその知識はすべて、その後に世話をしてくれた『先生』、その先生の死後は金髪褐色の男とその相棒だった髭の男が教えてくれたのだ。だから、世の中の常識である『夜の職員室は鍵が掛かっている』ということに彼女が疑問を抱くことはない。

 

コナンが職員室から警備員に電話を掛けた。しかし中々相手が電話を取らない。光彦はそれに何かあったのかと心配するが、コナンはそれにまた酒飲んで寝てると言う。

 

「昔っからいい加減なんだよなぁ、あの警備員のおっさん」

 

(『昔っから』……?)

 

「昔っからって?」

 

それにコナンは慌て、蘭がそう言ったのだと言い訳する。咲はその答えを素直に受け取ることが出来ない。そう、このコナンの言葉で、彼女の中で疑惑が大きくなる。

 

(……まさか、こいつ!)

 

(ははっ、まさか俺がここの小学校の卒業生だなんて、言えねーよな)

 

そこでコナンは悩む。まだ事件も起きていないのに警察を呼ぶわけにもいかない。そこで次に連絡したのは毛利探偵事務所。その電話はすぐに出られたが、取ったのは酔っ払った小五郎だった。

 

『はいぃ、探偵事務所ぉ……』

 

「あ!おじさん?」

 

『お?コナンか!今どこだ?蘭が心配してたぞ?』

 

「帝丹小学校だよ!ちょっと今から来てくれない?」

 

『学校に来いだとぉ?バーロー!俺はもう小学校は卒業しちまったよ!』

 

「だからー!今すぐ来て欲しいんだよ!蘭ねえちゃんと一緒に!」

 

『おーう!了解しました!』

 

小五郎はそこで切る。コナンは次に咲に顔を向ける。

 

「なあ、修斗にいちゃんってこの時間、仕事してるのか?」

 

「え?……いや、急な仕事がない限り、この時間は家で寛いでるはずだが……」

 

それを聞き、今度は修斗に電話をかける。その電話は2コール目で取られた。

 

『もしもし、修斗ですが』

 

「あ!修斗にいちゃん!」

 

『……坊主?お前、咲と一緒に夜の学校で七不思議の解明をしてるんじゃないのか?」

 

「そうだったんだけど、学校内に不審者がいて……」

 

『は?不審者?……取り敢えず、軽く状況説明だけ頼めないか?』

 

それを聞き、コナンはここまであった事をかいつまんで話す。しかしそれでも修斗は理解出来たようで、深い溜息を吐き出した。

 

『はぁ〜……まあだいたい理解出来た。けど俺は行かんぞ』

 

「え、なんでだよ!?」

 

『お前らを帰りに乗せるぐらいならしてやるけどな……まあその人、危ない人ではないだろうから安心したらいいと思うぞ。それじゃあな』

 

そこで修斗も電話を切り、コナンは悪態を吐きながら電話を置く。しかし小五郎達が来るまでにもう少し探ろうと決め、校舎内を走り出す。そして階段を登り始めた時、歩美が「ウキウキするね!」とはしゃぎ出す。

 

「ウキウキですか?」

 

「だってほら!なんだか夢の中にいるみたい!」

 

歩美がそう言いながら煙を蹴り上げる。しかしそれは異常な光景であり、コナンはすぐにその煙の正体を探るために駆け上る。しかしそこで次に階段の手すりから赤い何かが触れ、それに触れた元太は青ざめる。

 

「ち、血だ……!」

 

その一言が聞こえた咲はバッと元太に振り向く。一瞬、彼女の中で彼がもしや自身に触れたのではと疑ったのだが、それなら咲はすぐに気配を察知して気づくし、何よりいつも彼女に纏わり付くように見える『赤黒い液体』はただの『幻覚』であり、それは彼女自身も自覚しているもの。他の誰かに見えるものではない。なら何故、彼が見えているのかと疑問に思った時、その正体をコナンが説明する。

 

「血じゃねえよ。ただの赤い絵の具だ」

 

「……絵の具?」

 

曰く、誰が手すりの隙間を通して絵の具を垂らし、それを張り付いた紙を伝って絵の具が手すりに流れるようにしているのだと。

 

「じゃあ、この煙は?」

 

「……ドライアイスか?」

 

「ああ。理科の実験用のドライアイスを水に入れてたんだよ。階段の上で見つけたぜ」

 

「てことは、犯人は僕達を脅かして返すために?」

 

「よーし!上に行って捕まえてやろうぜ!」

 

それにコナンは無駄だと言う。どうせ逃げられてしまうと。しかし犯人がその気ならとニヤリと笑うのを見て咲は察し、耳を塞ぐ。それを見てコナンは頷き、大声を出す。

 

「わーっ!お化けだお化け!!怖いよーー!!!……ほら、お前らもやれよ。咲もだぞ」

 

それに少し戸惑う子供達だが、光彦はすぐに理解する。逃げた『フリ』をするのだと。それに乗っかり子供達は叫ぶ。そんな子供達の様子を階段の隙間から覗き見る人影が1人。それに気付かずコナン達はトイレに逃げ込む。そして少しして、元太がもういいんじゃないかという言葉を皮切りに外に出る。そこでコナンは一度時計を確認する。小五郎から連絡が全くないのだ。

 

(それにしてもおっちゃん遅いな……おっちゃん、何してんだ?)

 

その時、咲と子供3人は目の前の光景に目を見開く。その様子に気付いたコナンがどうしたと本当に不思議そうに問い掛ければ、3人がそれに声を震わせながら答える。

 

「い、いるんです、人が!」

 

「私達の教室に!」

 

「1人や2人じゃねえぞ!」

 

その言葉にコナンも目を見開く。コナンの目から見ても少なくとも10人はいる。真っ暗の中で何をしてるのかと目を凝らしてみれば、歩美がまた人物が一番前に立っていた。コナンと咲はその人物が何か棒状のものを持っていることに気づき、理解した。そこまで理解すればコナンはニヤリと笑い、廊下の壁に隠れるように屈む。そしてユックリと歩き出すと、その背中に元太からどこに行くのかと不思議そうな声で聞かれ、キザな笑顔のまま答える。

 

「決まってんだろ?犯人を捕まえに行くんだよ」

 

その言葉に3人は目を見開き、咲はジッとコナンを見つめる。この時、咲の中ではある程度、彼が『自分と同じ』状態にあるのではないかという推測が生まれていた。しかしそれは確証ではないため、コナンを観察しているのだ。そんな時にコナンが走りだし、4人もそのあとを追うように走り出す。そして昇降口前を通る。その間、3人から心配そうな声がコナンに掛けられたが、それにコナンは静かにするように人差し指を立てる。そして自分達のクラスにたどり着くとコナンは一つ咳払いをし、扉を二回ノック。それに3人は驚くが、それに気付かないままコナンは扉を開け、灯りを点ける。すると中にはあ美術室にあった石膏像、保健室にあった人体モデルが窓や後ろの棚に並べられ、あの階段下にあった人形がそれぞれの名前の席にそれぞれの名前が付いたものが置かれていた。

 

「わ〜っ!何これ?さっきのお人形さん?」

 

「他にもいっぱい並んでるな」

 

「後ろには石膏像が!」

 

「人体モデルまであるぜ……なんだ紙が貼って書いてあるぜ。父兄?

 

そこで歩美が「なんだか参観日みたい」と言い、コナンはそれに笑顔のまま答える。

 

「そう。犯人は人形を生徒に、石膏像と人体モデルを父兄に見立てて夜な夜な練習してたんだよ。来週行われる参観日の練習を、声が外に漏れないようにマスクを着けてね。……そうでしょ?教壇の中に隠れている、一年B組担任の小林先生」

 

そのコナンの声に隠れていた小林は目を見開き、3人は声をあげて驚く。しかしすぐに歩美が確認するために教壇へと走り、教壇の中で体育座りのようにして座っている小林を見つけて安心したような笑顔を浮かべる。

 

「あっ!本当だ!小林先生!!」

 

そこで小林は観念したような笑みを浮かべ、教壇から出てくる。

 

「じゃあ、位置が変わる石膏像や、走る人体モデルの噂は?」

 

「先生が毎晩此処に運んでたからだよ。走る人体モデルは、急いで運んでたのを見間違えたんだよ」

 

その説明で元太はジト目になり、その目を小林に向ける。

 

「でもよ、そんな練習する前に優しくしてくれよな」

 

「そうですよ!それよりも前にその子供嫌いな性格を直した方が……」

 

「違います。その逆です」

 

小林はそこで過去を思い出すような、懐かしむような、しかし少し悲しそうな表情を浮かべて語りだす。過去の失敗を。

 

「先生ね、好きで好きで堪らないのよ。貴方達生徒のことが。……可愛くって可愛くって、前の学校じゃ怒る気にもならなかった。でも、初めての参観日、先生、あがっちゃって大失敗。その時、ある男の子が私を茶化したら隣の男の子と大喧嘩になって、2人とも大怪我を……。だから、学校ではもうあんな事、二度とすまいと心を鬼にして自分にも生徒にも厳しくしてきたの。……でも、授業参観日が近付くとその事が頭に蘇って、いてもたってもいられなくなって……。夜にこっそり練習してたってわけ」

 

小林はそこで、元太はその時に喧嘩を仕掛けた子供に似ていたから心配で仕方なかったらしい。それに元太は苦笑い。あの元太に見立てた人形がボロボロだったのはそれが理由らしい。

 

「お陰で生徒は怖がるし、鬼ババアなんて呼ばれるし……向いてないのかな、私が先生なんて」

 

それに歩美はそんな事ないという。それに咲も頷く。彼女達は小林の良い所を知っているのだ。

 

「小林先生だけだよ?皆んなが帰った後、お花にお水あげたり、お魚さんの水取り替えてくれるの」

 

「ああ、それは私も見たな。だから、安心して良い。貴方は誰より、先生という職に向いている」

 

その2人の褒め言葉に小林は照れる。歩美はそこで光彦と元太にも声を掛ければ、光彦も他の先生はそんなことしていないと言う。元太も「鬼ババアにしては珍しい」と褒め言葉に思えない褒め言葉を言い、しかし光彦からの肘打ちを腹に食らう。

 

「要するに、いくら自分を偽っても、子供の目は誤魔化せないって事だよ。どうせ暴露てんなら、いっそ地に戻した方がいいんじゃねえな?まあ先生の場合、上がり症をなんとかする方が先だろうけど」

 

そのコナンの言葉に小林は理解してると言う。確かにまずはそこから直さなければならない。

 

「でも酷いよ先生!煙や絵の具で脅かすんだもん!」

 

『絵の具』の言葉であの階段のことを思い出し、咲は苦虫を噛むような顔をする。勘違いだったとはいえ、彼女からしたら背筋がゾッとするような思いを、あの時は本当に抱いたのだ。

 

「先生でしょ?窓越しから僕達を除いてたのは」

 

光彦のその断定するような言い方に小林は笑顔で違うと否定する。曰く、彼女は彼らを見たのは今夜が初めてらしい。何故なら、光彦の声に驚き、人体モデルを戻した後、しばらくそのまま保健室の中に隠れていたらしい。それにコナンは目を見開く。全部が全部、小林が仕組んだものだと思い込んでいたのだ。

 

「じゃあ、職員室の鍵を開けたのは?」

 

「職員室?なんのこと?」

 

(やっぱり……!)

 

コナンはそこで走り出す。そんなコナンに小林は声を掛けるが気にしていられない。コナンが目指すのは職員室。そしてその中から光が漏れていた。

 

「そこか!」

 

コナンが声を上げた時、中にいた人物は懐中電灯を掴む腕を顔の前にだし、隠そうとするが灯りで隠せていない。そう、そこにいたのは教頭先生であった。

 

「ど、どうされたんですか?その頭」

 

小林が驚くのも無理はない。普段の教頭の髪は頭にも髪は生えていたはずなのだが、今は後ろにしか髪がないのだ。

 

「こ、小林先生!!」

 

そんな教頭の姿に皆んな笑いを堪え切れず、大声で笑いだしてしまった。咲もこの時、クスクスと可笑しそうに笑っていたのだ。そう、彼ら5人を脅かして帰そうとしていた犯人は教頭先生だった。此処へ来た理由は5日前、職員室で風に吹かれてどこかに飛んで失くなってしまったカツラを探すため。その衝撃的シーンを作り出してしまったのは窓を開けた大畑先生だったらしい。

 

かくして、全員で夜を徹してのカツラ探しが始まったのだが、全く見つからない。

 

「どこにもねーぞ?」

 

「もう諦めたら?」

 

「駄目だ駄目だ!アレがないと学校に出られん!」

 

この時の全員が知らない事実として、実は校長先生がそのカツラを預かってたりするのだが、それに気づくのはまだ先の話。




今回の話に出て来た『先生』ですが、これはエレーナ先生とはまた別のオリキャラです。咲の中で一番、彼女の心の中にその存在を残していった人物でもあります。

……はてさて、この先生は咲に何を残していってくれたんでしょうね。それを語るのはまた先になります。

それでは!

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