とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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日常編
第12話〜探偵団大追跡事件〜


学校のガラスが全て修復された頃、登校が再開され、咲も瑠璃に送ってもらう形で学校に登校していた。その間の瑠璃との会話といえばいつも内容は「彰が待ってくれない」「なぜ事件が多発してるの」などと言った文句ばかりだ。その声量がほとんど怒鳴るような声量だった為、咲はずっと耳を手で軽く塞いで聞いていた。

 

「事件が多発しているのは……流石に分からないが、『彰が待たない』じゃなくて『瑠璃が起きるのが遅い』じゃないか?」

 

「そうだけど!!そうだけどさぁ!!」

 

「ハンドルに額を付けるな。前を見て安全運転でお願いしたい」

 

「少しぐらい待ってくれてもいいと思うんだよ!!そうじゃなくても起こしてくれても良いんじゃないかな!?兄妹だからそこらへん気にせず出来るでしょ!?」

 

「お前は子供か。立派な大人が言う言葉じゃないな」

 

「う〜……」

 

最後の言葉で遂には呻き声しか出せなくなった瑠璃を見て漸く咲は耳から手を離した時、瑠璃が小さく呟いた。

 

「……修斗と梨華は、気にするのかな?」

 

「……?」

 

その呟きが自然と聞こえてしまった咲は首を傾げた。それに瑠璃は困ったような笑顔を浮かべる。

 

「……うちは本当に色々あるから。だから、修斗と梨華の関係が『今』に収まってくれたことは嬉しいんだよね。正直、ギクシャクするかとか、私も彰も心配してたし」

 

「……何があったんだ?」

 

その咲の質問に、口に人差し指を当て、ウインクを向ける。

 

「ごめんね、これは内緒なんだ〜。もう昔の事とはいえ、そう人にバラして良い『秘密』でもないからね」

 

「……」

 

それに咲はジッと瑠璃の目を見据えたあと、溜息を一つこぼした。

 

「なら最初から話題として出さないでくれないか?この距離だと、どんな小声でも普通の会話の声量で聞こえてくるんだ」

 

「あ、そっか。咲は耳が良いんだったね。その特技、行方知れずの優を思い出すなぁ」

 

その瑠璃にとっては何気ない一言が、優本人である咲にとっては思いがけないもので、体が固まってしまう。しかしそれに気付かない瑠璃は咲に向けて話を続ける。

 

「もうみんな殆ど覚えてないみたいなんだけどね?優とは本当に数回、会ったことがあっただけだったんだけど、人見知りで大人しい子だったんだよ?あ、優っていうのは私達の妹の1人で、六女なの。今は18歳で、最近、漸く修斗が見つけたらしいんだ〜。でも実際、あの子、どこにいるんだろ?優のお母さんが小さな優を連れてドイツ旅行に行った時から行方知れずだったのに……」

 

「あ、学校……もう直ぐ着くから、此処で降ろして」

 

そこで咲が震える声を抑えながらそう伝えれば、瑠璃もその指示を聞き、車を止める。あと数メートルほどの距離に帝丹小学校の門がある。咲がそこで静かに降りれば、瑠璃が窓を開けて声をかける。

 

「帰りは修斗が来るはずだから、連絡は修斗にお願いね?あ、何か話したい事とかあったら私でも大歓迎だからね!」

 

瑠璃は咲に手を振ると、窓を閉めて去っていく。それを見送った咲の顔色は、明らかに悪かった。

 

(大丈夫。もう私はあそこに戻ることはない。もう誰も私を攫うことはないはずなんだ。大丈夫……大丈夫……)

 

震える体を抑える咲。しかし過去へと飛ぶ意識は止められない。彼女が覚えているのは、人混みで母と分かれてしまい、迷子になったこと。その後に大男に腕を掴まれ、路地裏の奥まで連れて行かれ、地面に放り捨てられ、馬乗りになられ、ナイフを向けられ、そこから、それからーーー。

 

「咲ちゃーん!」

 

そこでハッと意識を戻して振り向けば、歩美が笑顔でこちらに手を振りながら走って近づいて来ていた。その後ろには他の探偵団の子供達もいる。

 

「咲ちゃん、おはよう!!」

 

「おはようございます、咲さん!」

 

「よーっ!咲!」

 

「おはよう、咲ちゃん」

 

4人のその声に咲は咄嗟に挨拶が返せずに固まってしまった。その様子にコナンは観察するような視線を向け、歩美は心配そうに近づいて来る。

 

「……咲ちゃん?」

 

「…………あ、えっ……あ…お、おはよう」

 

漸く意識を現実へと戻すことができた咲が作り笑いを歩美に向ければ、歩美はそれに気付かずに挨拶を返してくれる。それに咲は心の底からホッとした。一度過去へと意識を飛ばしてしまったら、もう自分では止められないのだ。今回は歩美の声のおかげで戻ってこれたが、これが1人の時だと最終的にパニックに陥って涙が止まらなくなり、過呼吸も起こす。この症状はすべてそれを見つけてくれた修斗の言であり、本人である咲には記憶がない。今回はそれに陥ることなく済んだようだ。

 

「咲ちゃん、大丈夫?顔色、悪いけど……」

 

「大丈夫。ちょっと、寝付きが悪かっただけだ」

 

それに歩美は余計に心配そうな顔を向けるが、それに咲は笑顔しか返せなかった。そんな朝の登校時間から時が過ぎ、全ての授業を終えて咲が帰ろうとした時、コナンに呼び止められる。どうやら彼には気になることがあるらしい。それが何かはまだ知らない咲がコナンの下校の帰り道に隣を歩く。学校から離れて少しして、コナンが口を開いた。

 

「なあ、咲」

 

「なんだ?」

 

「……お前、本当に子供か?」

 

その言葉に咲はキョトン顔を浮かべる。その表情は半分演技だが、半分は本当に不意の質問だったのだ。咲は確かに耳は良いが、それだけの子供の筈。そう『見える』ようにしていた筈なのだ。

 

「……イキナリなんだ、藪から棒に」

 

「いや、だってお前……なんか違和感が……」

 

それに咲は眉を顰める。子供のうちからその聡い勘は結構なのだが、しかしそれは咲の正体を暴こうとするのには使わせたくない。でなければ、コナンが危ないと頭の中で回答を出し、早めにその芽を摘む事にした。

 

「私は子供だよ。確かに大人びているかもしれないが、君と同じで知識欲があるだけさ。これは自覚もある。おかげで中々に色々な知識を得れたよ。知識を得るというのは楽しいものだ。特に、シャーロック・ホームズの話は」

 

その名前を出した途端、コナンの目がキランと光り、それに気づいた咲はニヤリと笑う。これは彼女の作戦通り。彼の好きな物に意識を反らせ、有耶無耶にさせたのだ。暫くすれば何を質問したかも忘れるだろうと咲は考えた。そして思惑通りに彼は毛利探偵事務所に着くまでの間、シャーロック・ホームズの話で盛り上がり、そこで自然と別れる事に咲は成功したのだった。しかし次の休日に、また別の事件に遭う事になるとは、この時、咲は思いもしなかった。

 

***

 

休みへと入り、探偵団全員で遊ぼうと商店街を歩いていた時、宝石強盗と遭遇した。しかもその強盗はすでに余罪50件もある強盗。それを探偵団は目撃し、コナンの指示で犯人を捕まえるための網を探す間、彼は犯人をスケボーで追っていく。そして網を見つけ、とある行き止まりの木々に姿を隠れさせ、コナンに準備が出来たこと、どこの行き止まりかを伝えた。

 

「ーーーという場所にある行き止まりだ。分かるか?」

 

『ああ、問題ねぇ。ならその近くまで来追い詰めたらまた連絡する!』

 

その言葉を受け、それを他3人にも伝えれば全員がジッと待つことを決めた。そして少ししてコナンから探偵団バッチに連絡が入った。

 

『歩美ちゃん!光彦、元太、咲!行くぞ!!』

 

「了解よ!コナンくん!」

 

「任せて下さい!」

 

「いつでも来いってんだ!」

 

「こちらは静かに待っておくから、きちんと追い詰めてくれ」

 

『ああ、任せろ!』

 

そこで漸く咲達のいる行き止まりに犯人を追い詰める事に成功したコナンは、近くに転がっていた缶をキック力を上げた状態で犯人の腹へと蹴飛ばした。そして犯人が倒れたのは、ちょうど咲達がセッティングした網が敷かれた所で、それを見ると全員でタイミングを合わせて木の枝から降り、その勢いで紐を引っ張り犯人を捉える。

 

「降ろしてくれーー!」

 

「「少年探偵団!」」

 

「大勝利ーー!」

 

その後、咲達は目暮から表彰の為に呼ばれたが、咲だけはそれを辞退した。それに目暮は文句を言わずに受け入れてくれ、そのまま少年探偵団の他4人は記者達にその様子を撮られていた。

 

「どんな事件でも引き受けまーす!」

 

「追っかけまーす!」

 

「解決しまーす!」

 

(おいおい……大法螺吹き広げすぎだぜ」

 

『少年探偵団に、おまかせー!』

 

その写真は新聞の一面に大きく乗せられ、その新聞を読んだ時、修斗はあからさまにホッとした様子を見せた。そしてその北星家とは違う場所では、その新聞を見てニヤリと悪どい笑みを浮かべる男がいたのを、この時はまだ誰も知らなかった。

 

そして少年探偵団と言えば、表彰帰りに小五郎の奢りでレストランに来ていた。子供3人は遠慮なく食べ、口元を汚していたが、この場で小五郎家に住んでいるわけではない咲だけは、流石に遠慮し、パフェとオレンジジュースだけ頼んでいた。

 

『ごちそーさまでした!!』

 

「たくっ、めいいっぱい食いやがって。遠慮というものを知らんのかオメー等は」

 

小五郎がレストランに来て歩美達に食べさせているのは、そもそもは目暮の言葉が原因だ。目暮からお手柄の探偵団達にご馳走でもしてやってくれ、と言葉を貰わなければ、まず小五郎は奢ることはなかっただろう。

 

「ちぇ、今月の小遣いこれでパーだ」

 

レストランで代金を払い、そのまま全員で帰る途中、蘭がまた探偵団を褒め始める。

 

「でも凄いわね!余罪50件の強盗を捕まえるなんて!」

 

「宝石店のお客さんで怪しい人がいるってコナンくんが見つけたの!」

 

それはただの偶然ではあったが、しかし手柄は手柄である。その結果に変わりはないのでコナンは少しだけ笑みを浮かべていた。

 

「これで依頼者がドンドン増えるな!」

 

「はい!事務所も開けたりして!」

 

その時、咲の耳にだけ車のエンジン音が聞こえて来た。そこで立ち止まり振り向いた咲に気付き、コナンが咲に声をかける。

 

「咲、どうした?」

 

「いや、後ろから車のエンジン音が……」

 

その瞬間、距離が離れかけていた赤い車がスピードを上げてコナン達に向かって来た。そこでコナンが全員に車が来たことを注意した時にはもう遅い。避けそこねた歩美が轢かれ、赤い車はそのまま去っていく。

 

「歩美ちゃん!!」

 

「車のナンバーは新宿33、なの33-96……」

 

「轢き逃げだわ!」

 

小五郎は蘭にこの場にいるように指示し、指示した本人は警察と救急車に連絡をしてくると言う。そしてコナンは車を追うためにスケボーに乗った。が、其処に光彦と元太も乗る。

 

「えっ?」

 

「何も言うな!コナン!!」

 

「警察だけに任せられませんよ!!」

 

その言葉にコナンは了承し、シッカリ捕まっておくように言うと追跡を始める。その様子を見ていた咲は思う。

 

「……この場合、私を連れて行った方が良かったんじゃないか?」

 

しかしあの2人が乗ったのを見た時点で定員オーバーだと察した咲が自ら引いたので、本人からはそれ以上、何も言えなかった。その呟きを聞き取ることなく追い続けるコナン達だが、車が角を曲がり、一時的に視界からいなくなった。

 

「左に曲がりましたよ!」

 

「スピード上げねーと見失うぞ!!」

 

「分かってるって!」

 

その会話をしながら更にスケボーの出力を上げて追跡する。そして角を曲がった時、コナンは赤い車が止まっていることに気付き、それに疑問を持つ。しかし光彦と元太は違う。これに疑問を持つことなくチャンスと捉えたのだ。

 

「車が止まってます!」

 

「撒かれたのかと思ったぜ!」

 

そこで車がエンジン音を響かせ、また走り出す。そしてまた角を曲がり、少ししてコナン達もまた角を曲がった時、車がまた止まっていることに気づいたコナンは更に疑問を持つ。逆に光彦達は車のエンジンの調子が悪いと捉えたが、そんな訳がない。

 

(カーブの度に停車。まるで俺達が追い付くのを待ってるようだ)

 

そしてまた距離が縮んだ時、車は走り出す。

 

「また走り出したぞ!おいコナン!もっとスピード上げねーと逃げられちまうぞ!」

 

そして車の後を追い続けたとき、とある道で車を見失ってしまった。

 

「おい、車が見えねーな」

 

「今度こそ撒かれたんじゃ……」

 

「探すんだ!!」

 

3人が走って車を探し出した時、道の左側に建てられていた『石倉工業』という工業に元太は目を向けた。

 

「お、おい!此処に隠れたんじゃねえのか?」

 

それを聞き、光彦が工業の中に入ってあたりを見るが、車が入れるようなスペースはないことが分かった。

 

「それに、休みみたいです。この工場……」

 

そこで裏へと回ってみようとコナンが指示し、それに従って裏へと3人が回る。しかし裏へと回るための道は舗装されておらず、泥となっていた。

 

「うわ、ヒデー道!舗装なしかよ!!」

 

元太はそう文句を言いながらもキチンと後を追う。すると車の通った跡を見つけ、その道の先へと出れば、左へと曲がった跡が見つかる。コナンはその後の方へと視線を向けたが其方は階段。まず車が通ることは出来ないと判断し、車線の方へと向ける。しかし車の姿はない。

 

「いねーな……」

 

「彼処にタバコ屋さんがあります!聞いて見ましょう!」

 

そこで唯一開いていたタバコ屋さんに向かい、そこの店番をしていたおばあさんに話しかけた。

 

「おばあさん、今赤い車が通らなかった?」

 

「さぁて、2、3台の車は通ったかのぉ」

 

「スポーツカーですけど……」

 

「車のことはさっぱり……」

 

そこで店の電話が掛かり、お婆さんはそれに手を取り話し出す。

 

「はいはい。……おお、大家さんかい」

 

話し出したことでもう話を聞かないと悟ったコナン達。すでにこの道に来て3分は経った。その時間ならすでに逃げ切ってもおかしくない。それにコナンは悔しそうに顔を歪める。その時、道の先に赤い車を発見し、それに元太と光彦は少し興奮気味に口に出す。

 

「ああ!道の先にあの赤い車がありますよ!!」

 

そこでまたコナンのスケボーに乗り、追跡を再開させる。

 

「逃したかと思ったが、ツイてるぜ!」

 

しかしコナンはそうは思わない。思える訳がない。

 

(いや、今までとは違う!さっきまで彼処に車はいなかった。……バックで戻った?何のために?)

 

考え事をしながらも後を追い続ける。

 

「今度こそ捕まえてやる!」

 

「逃しませんよ!!」

 

そしてしばらく鬼ごっこを続けた時、ようやく後少しで車に追いつける距離となった時、赤い車が急ブレーキを掛けた。それに驚くがスケボーに急停止のスイッチはない。そのままトランクにぶつかってしまった。コナンは頭を痛まだ抑えるが、しかしたどり着いた場所に声を上げた。この車が止まった場所、それは米花交番だったのだから驚くなという方が無理だ。

 

「こ、ここは……」

 

「交番……」

 

そこで車から運転手が扉を開き、降り立ち、警官に両手を差し出す。

 

「お巡りさん、俺を逮捕してください。轢き逃げをして来ました」

 

その自供に警官と3人は驚く。

 

「じ、自首……」

 

その事を3人は米花中央病院の廊下で話をしていた。

 

「その人は、歩美ちゃんを跳ねて一旦は逃げようとしたんだけど、罪の意識から自首しようって考え直したんだそうです」

 

元太は拍子抜けだと言う。もっと少年探偵団のパワーを発揮したかったのにとも言うが、歩美の顔が晴れることはない。その間、コナンはずっと考え続けていたのだが、そこで蘭に声をかけられ、意識を現実に戻す。

 

「う、ううん!別に……それで、歩美ちゃんの怪我の方は?」

 

「幸い、擦り傷だけで済んだ。入院しなくても大丈夫だそうだ」

 

それに光彦達が安心し、励ましの言葉を投げかけるが、歩美は良くないと言う。

 

「折角コナンくんから貰った探偵団のバッチ、無くしちゃったんだもん」

 

「跳ねられた時に落としたんですね」

 

「警察の人に聞いたけど、無かったって」

 

それを聞き、また博士に作って貰うとコナンが言えば、歩美の顔色がようやく晴れ、嬉しそうな表情を浮かべる。それに咲がようやく安心し、ホッと息を吐き出す。

 

「ありがとう!だからコナンくんって好き!」

 

そのナチュラルな告白の言葉に光彦と元太が嫉妬の視線をコナンに向ける。

 

「汚ねーぞコナン」

 

「物で気を引くなんて、卑怯者」

 

その言葉にコナンは苦笑い。別に彼は引きたくて引いた訳ではないのだ。そんな時、小五郎がコナン達の元に歩いて来た。

 

「おい、お前達!直ぐに俺と共に4丁目の工場へ行くんだ!警部殿が待っている!」

 

その言葉の意味をこの時、まだよく知らなかったコナン達は首を傾げていた。

 

「4丁目の工場って、車を追ってた時に通った道の所ですよね?」

 

「そこがどうしたの?おじさん」

 

「そこの工場で人が死んでいたんだ。殺人らしい」

 

その言葉にその場の全員が目を見開いた。コナン達は直ぐにその工場へと小五郎に続いて赴けば、現場の前で待っているように言われる。そして小五郎だけが入れば、その場には目暮と彰がいた。

 

「警部殿」

 

「おお、来てくれたか!早速だが、こう言う状況でな……」

 

その目暮の視線の先には、背中からナイフで刺された遺体が倒れていた。

 

「被害者はこの工場の社長『石倉 久志』さん、50歳だ」

 

「こりゃ、物取りですな」

 

小五郎がそう断言したのは、金庫が開き、物が出されていたからだ。

 

「俺達も一応、強盗殺人の線で捜査を進めてます」

 

「今日は工場は休みなんだが、石倉さんは1人で製品のチェックに来ていたらしい」

 

その間にコナンは現場に入っており、遺体のチェックを始めていた。

 

(口と手首に粘着テープの痕……ってことは縛られていた。だが何故それを剥がして行ったんだ?)

 

そこまで考えた時、コナンは後ろから小五郎に口の端を両手で引っ張られ、現場をチョロチョロするなと叱られる。それに謝りながら裏口から外へと出れば、あのタバコ屋の前に出た。

 

(裏口はタバコ屋のお婆さんの斜め前か……)

 

その間に事件の詳細の説明が高木から話される。

 

「え〜、詳細は解剖待ちですが、死亡推定時刻は1時間前といったですね」

 

それに光彦が反応する。

 

「1時間前ならちょうど此処を通った頃です!」

 

「間違いねえ!」

 

「やっぱりか!その時、不審な人物は見なかったかね?」

 

それに元太は考えようとするが、しかしその時には轢き逃げ犯を3人は追いかけるのに夢中だったのだ。しかしそこで元太が写真立ての一つに視線を向け、その轢き逃げ犯を見つけた。その轢き逃げ犯がいたのは、どうや会社の人が全員集まって撮られた集合写真のようで、その真ん中から左後ろにて顔を少しバツの悪そうな顔で背けている男性。その男性は確かに歩みを轢き逃げした男だった。

 

「なんだって!?本当かね?」

 

「間違いないよ!」

 

元太はその轢き逃げ犯が犯人ではないかと疑う。しかし光彦はただの偶然だというが、彰は全く納得しない。子供の戯言だと思っているわけではなく、彼の中で違和感が大きくなっているのだ。

 

(轢き逃げとこの殺人……本当にただの偶然か?……それとも……)

 

しかし小五郎は光彦の言葉に当たり前だという。轢き逃げして逃げている時に強盗殺人などしないと断言する。しかしとりあえずはと米花警察署に連行された轢き逃げ犯『宍戸 健一』にアリバイを聞くことにした。

 

「その時なら、子供達に追いかけられて、工場の裏を過ぎたカーブで車がエンストしたんです。だから、工場の裏口になんか止めてません。ましてや殺人なんて……偶然ですよ」

 

それをマジックミラー越しに聞いていた6人。

 

「あの人は元従業員で、先月、素行不良で解雇されたんだ」

 

「まさか警部殿!」

 

その目暮の言葉にやはり健一が犯人だと元太は言う。確かに怪しいのは怪しいが、しかし今の状態では証拠などない。それに、まず犯行は不可能なのも事実なのだ。そう、彼は子供達に追いかけられたと言うアリバイがある。しかも工場の表には探偵団の3人がいた。

 

「でも警部殿、子供達が見失ってる間に裏から入ったのかもしれませんよ」

 

「だがな、裏口の所にあるタバコ屋のお婆さんが証言しているんだ。車はどこにも止まっていなかった、と。何しろ、工場の裏口のすぐ近くだからな。信用できる証言だ」

 

それに小五郎は唸り、やはり偶然だと片付けた。それにスッキリとしないのはコナンと彰。

 

(いや、そんな訳ないはずだ……)

 

(この二つの事件の裏には何かある!俺達が気付いてない、とんでもない何かが……)

 

そこでコナンは一時的にその場を離れ、元太と光彦を連れて工場を探る。

 

「おいコナン、まだ何かあるのかよ……」

 

「歩美ちゃんの家へお見舞いに行きましょうよ……」

 

その2人の言葉にコナンは先に行くように言えば、光彦はその提案を断った。

 

「いいえ!少年探偵団のチームとしては常に行動を共にしないと!」

 

「……俺はその前にジュースが飲みたいぜ。喉が渇いちまった……」

 

「ジュースならそこにありますよ。ほら!タバコ屋さんのところに!」

 

2人はジュースを買いに駆けていくが、コナンは考え事をしながら歩く。そしてタバコ屋の前を通った時、またお婆さんが電話で会話をしていた。その会話を聞いた途端、コナンにはとある仮説が浮かび、それを確かめるために、電話をちょうど終えたお婆さんに話しかける。

 

「ねえねえお婆さん!工場で事件があった頃、間違い電話なかった?」

 

それにお婆さんは首を傾げて考えるが、確かにその時、二回も間違い電話があったとの証言を得ることができ、コナンは確信する。

 

(思った通りだ……。確か脇道のところに……)

 

そこでコナンはお婆さんにお礼を言って1人で裏へと回る道に戻り、工場の壁を確かめる。その時に光彦と元太もコナンの様子がおかしいことに気づき、近づいて来た。

 

「どうしたコナン?」

 

そこでコナンは元太に肩車を頼み、それに2人はキョトンとなるが、しかしその頼み通り元太はコナンを肩車し、コナンはそこに付けられた窓から中を覗く。

 

「何かあるんですか?」

 

(やっぱり!思った通りだ!)

 

コナンがその中に見つけたのは、車庫に入れられた赤い車だった。その時、光に反射して光る物に気付き、コナンはニヤリと笑う。

 

(そうか、あんな所に!)

 

そこまで推理すればあとは謎解きショーの開幕だ。まずコナンは小五郎の声を使って健一を連れてくるように目暮に伝え、次に小五郎に目暮の声を使って工場に至急来るように伝える。そして小五郎が現場へと入って来て目暮を探しキョロキョロ辺りを見渡し出した。

 

「警部殿、どこです?」

 

「「お待ちしてました〜!」」

 

そこで光彦と元太が笑顔を浮かべて小五郎を出迎え、それに小五郎は怒鳴る。こんな所で何やってるのか、と。しかし2人は笑顔のままだ。

 

「目暮警部殿ならすぐ来ますよ!」

 

「それまでこちらでお待ちください!」

 

その2人のあからさまな演技に小五郎は気付かず、テーブルに用意された飲み物を手に取り、飲もうとした。その瞬間、隠れていたコナンが小五郎の首元に向けて麻酔針を撃つ。その眠気に小五郎は耐えきることは出来ない。

 

「せめて……一口飲んでから、来て欲しかった」

 

そのままガックリと眠った。そんな小五郎に元太と光彦はコナンから伝え聞いた通りだと感心する。

 

「へ〜、コナンの言った通りだぜ」

 

「事件現場に来た途端、眠りの小五郎になりましたね」

 

「空き缶に水入れといてもバレないはずだよな!」

 

そして2人はコナンに次の指示を仰ぐ。そこでコナンは小五郎の声を使うことにした。

 

「コナンから話は聞いている。あとは引き受けた」

 

それに2人は引き下がりたくないというふうに声を出すが、2人の出番もあるから心配するなと言えば、2人は喜び、良い子の返事で引き下がった。そこから少しして目暮が健一を連れてやって来た。

 

「毛利くん、来たぞ。それでどういうことかね?」

 

「それは、宍戸さんがよく知ってますよ」

 

それに宍戸は何故俺がと言う。

 

「貴方は今日、1人の少女を車で轢き逃げした。そして、其処にいる子供達に追われるまま車を走らせ、ここに差し掛かった。貴方がよく知る……いや、恨みを持つ石倉さんのいるこの工場に!」

 

「だから、何のことです?」

 

「ほー?やはり言わせますか。私に。……石倉さんを殺したのは宍戸さん!貴方だ!!」

 

その言葉に全員が驚く。これには彰も少なからず驚いた。こんな短時間で、この探偵はどうやって証拠を集めたのか、それに考えが行き出そうとしたがすぐにその思考を堰き止め、現実へと戻す。

 

「おいおい、何を言い出すんだ!彼の、少なくとも殺人については白ということになったじゃないか!」

 

「そう。『逃走中に実行は不可能』ということで疑いも晴れました」

 

そう、それが原因で彰も頭の中に違和感を燻らせたままになっているのだ。それをこの探偵はどう解いたのか、彰は注目しだした。

 

「そうとも!証人だってそこにいるじゃないですか!」

 

健一はそう子供2人を見ながら言う。しかしコナンはそれを最初から仕組んだのだという。

 

「少年探偵団を証人にすることこそが計画だとすれば……」

 

それにまた全員が驚きの表情を浮かべる。

 

「な、なんだって!?どういうことだ!!」

 

「警部、小五郎さんが言いたいのはつまり、歩美ちゃんを轢き逃げしたのが、この殺人のカモフラージュをする為……そう言いたいんですよね?」

 

その彰の言葉にコナンは肯定を返す。その言葉に健一は密かに額に焦りの汗を浮かばせる。しかしそのことに誰も気付かない。

 

「ま、まさか!そんな事が出来るのか!」

 

「コナンの話では、カーブの所で不自然なくらい度々、徐行してくれたので見失うことはなかったと」

 

その証言で、確かにそれはカモフラージュの為だと考えなければおかしいものだと彰は理解した。一度ならばいざ知らず、何度もとなるとおかしいと思っても仕方ない。

 

「なるほど。確かにそれは、自分を追わせる為だと考えれば……」

 

「ええ、説明がつきます」

 

「車は本当に調子悪かったんだ!」

 

「そうだぞ、彰くんと毛利くん。彰くんは知ってるだろう?押収した車は確かに、プラグがかぶっていてエンジンは不調だった」

 

「警部、その程度のものなら素人でも細工できますよ」

 

その彰の回答に健一は挑戦的な笑顔を浮かべる。

 

「良いだろう。もしそうだとしても、俺にはアリバイがあるんだ。完璧なアリバイがな」

 

それは確かに、彰には崩せない。彰には知らない話もあるのだから。しかしコナンは違う。轢き逃げの話も、殺人の話も、全ての情報が手に入っているコナンには、この事件の全容を理解出来た。

 

「そう、子供達が見失った3分間を除いてね」

 

それに健一は笑う。3分では何も出来ないと更に主張するが、コナンは十分だと答えた。それも、ここに入り込むにはとも言う。

 

「ふん!馬鹿馬鹿しい!裏口に車を止めれば、タバコ屋の婆さんが目撃するはずだ!」

 

「ほー?よくご存知ですな?」

 

「俺はここで働いていた。知ってて当然だろ」

 

「なら知ってるでしょうな?あの店の電話番号を」

 

それに健一はウッと呻いた。そして何を言っているのか分からないと惚けた。

 

「裏口には車を止めなかった。歩いて貴方は此処に入ったんだ」

 

それに健一は更にウッと詰まらせた。

 

「じゃあ、車はどうしたんだ?どうやって!」

 

そこでコナンは小五郎の声で自身を呼び、コナンは後ろから姿を表す。それに光彦と元太はどこに言っていたのだと声を掛けた。それに対して「そんなことより」と言い、肩車した倉庫に目暮達を案内するように指示を出す。

 

「あの倉庫に?」

 

その指示に従い、倉庫へと案内する。その倉庫のシャッターを彰が上げれば倉庫の中にはあの轢き逃げした車が止められていた。

 

「こ、この車は!?」

 

「轢き逃げの車と同じだ!」

 

「ナンバーもピッタリです!」

 

その車を外に出し、警官達が観察する中、目暮が健一に顔を向ける。

 

「宍戸さん、なぜ轢き逃げした車と同じ車が此処に存在するんです!」

 

それに健一は抵抗するように知らんと答えれば、代わりにコナンが答えた。

 

「多分、盗難車を改造したんでしょう。板金塗装の工場で働いていた宍戸さん。貴方なら簡単だったはずです。まず貴方は工場の事務所に、麻酔か何かで眠らせた石倉さんをガムテープで縛り上げ残しておき、改造した車に乗って轢き逃げを実行したんです。子供達が追って来られるように時折止まったり、進んだらしながら、貴方は巧みに子供達を工場前まで誘導すると、倉庫に車を隠した。続いて、タバコ屋のお婆さんに携帯から電話をかけ、お婆さんが通りに背を向けている隙に通過し、裏口から事務所に入った。すぐに石倉さんを殺害して粘着テープを回収し、強盗殺人に見せかけた。……おそらく金庫は先に荒らして置いたんでしょう。事務所から抜ける時は再びタバコ屋のお婆さんに電話した。そして隠してあるもう一台の車のところに急ぎ、車を出してカーブで子供達を待った。勿論、その車はプラグに細工をし、エンジンを調子悪くして置いた、ナンバーも本物の自分のクルマだ」

 

その説明に元太と光彦は感心した様子を示す。しかし健一はそれに激昂した。

 

「ふざけるな!!俺が轢き逃げしたのは押収された車だ!!そうじゃないという証拠がどこにある!!」

 

そこでコナンは高木に指示を出す。

 

「高木刑事、押収した車には泥水が跳ねた痕はあったかね?」

 

「ど、泥水?」

 

「いえ、洗車したようにピカピカでした」

 

それで彰は理解し、ニヤリと笑う。

 

「なるほど。工場の横には水溜りがあったな」

 

「そうです。そこを車が通過すれば、泥が跳ねて車体に付着する筈だ」

 

そこで目暮がすぐに車の近くに待機させた警官に跳ねた痕があるかを聞けば、確かにボディの下の方に泥水が跳ねた痕があった。

 

「知るかよそんなこと!俺の車の泥は走ってるうちに落ちたんだ!」

 

「いや、普通走ってるうちに洗車された後のように綺麗になるわけがないだろ」

 

「俺のはなったんだよ!!」

 

その健一の滅茶苦茶な言葉に彰は呆れてものも言えなくなってしまった。走っただけで泥水が取れるなら洗車機など、全てのガソリンスタンドに設置しなくともよくなるだろと思ってしまったのだ。

 

「探偵さんよ、アレが轢き逃げした車だってんなら、それを証明してみろよ!」

 

健一はそれは無理だろという心持ちで言えば、コナンはその勝負になることにし、また小五郎の声で自分の名を呼び、後ろからまた現れ、光彦に声をかける。

 

「おい光彦!バッチで歩美ちゃんを呼ぶんだ!」

 

「えっ?バッチで?でも、歩美ちゃんはバッチを失くしたんですよ?」

 

「いいから呼んでみろよ」

 

その言葉に背中を押され、バッチで歩美を呼び出す。勿論、持ち主がいないのだ。どこかに失くなってしまったバッチが反応することはないだろと光彦は思うが、しかし予想と反することとなる。

 

「もしもし歩美ちゃん?聞こえますか?聞こえたら返事してください」

 

その光彦の声は、外の車からも聞こえ、近くの警官がその声の場所へと行けば、車からバッチを見つけた。

 

「警部殿!車からバッチが!!」

 

「なにっ!?」

 

それはこの世で今の所、五つしかない探偵団バッチ。何処にでも売られてるものではない。

 

「それは!?」

 

「ああ!歩美のバッチだ!!」

 

「轢き逃げされた時にポケットから落ちて引っかかったんですよ!!」

 

それに健一はついに何も言えなくなった。そんな健一にコナンはトドメを刺しに行く。

 

「俺達を自分のアリバイに利用するつもりが、自分の罪を立証してしまったようだね」

 

そこで健一は膝をつく。この事態に、彼は認められないままに事件は終幕を迎えた。

 

その後、歩美のバッチは公園でコナンからの手渡しで戻ってきた。歩美はそれにいたく感激し、コナンの頬にキスを一つあげた。それにコナンは頬を赤くし、咲はニヤニヤと笑い、光彦と元太は嫉妬の視線をコナンに向ける。そしてコナンが投げた時、元太と光彦も追い、歩美がキスしたところにキスさせろとまで言いだした。それには流石に咲も苦笑いを浮かべていたのだった。




ちなみに次回もまた少年探偵団の話です……やっぱり多くなるな〜……

それでは!さようなら〜!

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