とある六兄妹と名探偵の話   作:ルミナス

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第2話〜美術館オーナー殺人事件〜

毛利一家と話をしたあと、その流れのままに一緒に回ることとなった瑠璃と彰は、お互いの自己紹介をしたあとに絵の話を蘭と共にし始めた。

 

「それにしても、ここの絵って素敵なものばかりだね〜」

 

「そうですね!私もそう思ってたんです!!それなのに、この2人は全然興味が湧かないみたいで……」

 

そう話しながら次のブースへと行こうとするが、そのブースには入れなかった。なぜならその前に『立ち入り禁止』の看板が置かれていたからだ。

 

「あれ?立ち入り禁止……」

 

「おかしいね?この先にはもう1つ展示ブースがあるのに……」

 

その瑠璃の断言するような言葉にコナンは首を傾げたが、それが瑠璃と彰の視界には入っておらず、2人は首を傾げていた。

 

「清掃中とかか?」

 

「いや、それだったら清掃中の看板じゃない?」

 

「放っとけ。ほら、さっさと次行くぞ」

 

今のメンバーの中では一番年上の小五郎にそう促されれば流石に立ち止まるわけにもいかず、蘭、瑠璃、彰は疑問を持ったまま立ち去ることとなった。

 

ーーこの時、殺人が行われていたことも知らずに。

 

***

 

それから暫く周り、既に時刻は夕方となっていた。その所為か小五郎とコナンは既にヘトヘトで、2人だけ設置されている椅子に座って休んでいた。

 

「疲れた〜。蘭姉ちゃん、もう帰ろ〜」

 

「腹減ったぞ〜……」

 

「もう、だらしないわね〜。このぐらいのことでへたばってしまうなんて」

 

「いや、まあ小五郎さんも良い歳だし、子供にはちょっとキツかったかもね……」

 

蘭が疲れ切った2人に対して言った言葉に、瑠璃は苦笑しながらフォローに回った。

 

そこで蘭が2人から視線を外すと、あることに気づいた。

 

「あら?立ち入り禁止の立て札がなくなってる……」

 

「あれ?本当だ。前に通った時にはあったのに……何時なくなったんだろ?」

 

瑠璃は首を傾げるが、蘭は逆に嬉しそうな笑顔を浮かべ、その笑顔を浮かべたまま疲れ切った2人に顔を向けた。

 

「ねぇ!折角来たんだから、最後の部屋にも行ってみようよ!」

 

「「えぇ〜!!」」

 

2人が嫌そうな声を上げれば、蘭は意地の悪い顔を浮かべる。

 

「先に帰っても良いけど、夕飯は2人で作るのよ?オホホホホホ」

 

高笑いをあげながら、最後の部屋へと1人向かう蘭に向けて悔しそうな顔を浮かべる2人。その背中に「きったね〜」と投げかけるも、この2人は料理経験が皆無。作られるものがどうなるかなど予想し易いだろう。

 

「うわぁ、流石にこれは……」

 

「ちょっと同情するわ……これは」

 

このやり取りに、彰と瑠璃は残された2人に同情の視線を向けるのだった。

 

***

 

最後の部屋、『地獄の間』はとても薄暗い部屋となっており、灯りは入り口まで付けられている廊下の電気だけである。

 

「ずいぶん、薄暗い部屋ね……」

 

「地獄の間だからね……」

 

全員が周りの展示物に目を向けて歩いている時、彰は背後にある監視カメラに気付いた。

 

「……」

 

「彰?どうしたの〜?」

 

瑠璃が歩みを止めた彰に声をかければ、彰は首を横に振り、瑠璃の横にやって来た。

 

「……いや、なんでもない。閉鎖されることになったこの美術館だけど、最後まで大切に完備されてるんだなと、そう思っただけだ」

 

「そりゃ、美術品を大事に思う人がこの美術館にいるからね!当たり前だね!」

 

そう互いに話し、お互いに笑みを浮かべた。

 

離れてしまった毛利一家の後を追うために歩き始め、少し経った時、蘭の叫び声が部屋の中に響き渡った。

 

「!?何事!?」

 

すぐにただ事ではないと察知し、走って近付き、全員の視線が向けられた方に視線を向ける2人。

 

そこにはーー首に剣を突き立てられた状態で壁に縫い付けられ、血達磨となり、その血さえも床に滴り落ちているーー明らかに死んでいると分かる真中オーナーの姿が、そこにはあった。

 

「っ!!!!?」

 

「ーー瑠璃!!もう見るな!!」

 

彰が声をかけた頃には時既に遅く、瑠璃は目を見開いてその酷い惨状を目にしたまま、動きを止めていた。

 

それに小さく舌打ちを1つし、彰は直ぐに瑠璃の目を右手で覆った。

 

「あっ……」

 

「これ以上見なくて良い……もう、『見なくて』良いんだ」

 

彰の声で少し安心を覚えた瑠璃とは反対に、彰は小五郎に視線を向けた。

 

「毛利さん、2人をお願いします。俺はその間に警察に連絡を入れます……俺と瑠璃だけじゃ、現場検証なんて無理な話ですから」

 

「あ、ああ、分かった」

 

小五郎はそれに頷き、2人の側に寄る。その間に彰は警視庁に連絡を入れ、応援を呼んだ。それから美術館にいた全員に事件が起こったことを話し、現場の近くまで来てもらい、その後に少し辺りを見ている頃に、漸く応援がやって来た。

 

「彰くん!瑠璃くん!」

 

「目暮警部……応援に来ていただき、感謝します」

 

「彰くん、お礼はありがたいがそれよりも……瑠璃くんは」

 

目暮警部が心配そうにそう聞けば、彰が瑠璃が座っている椅子に視線を向ける。そこに座っている瑠璃は、明らかに元気が無く、体を震わせながらも、必死に何かに耐えるように唇を噛んでいた。

 

「……ふむ、本当は直ぐにでも帰って休んで欲しいところだが……」

 

「無理ですね。彼奴も、俺も、第一発見者に入ります……毛利さん達よりも少し遅れたとはいえ、ですが」

 

「そうだな……彰くん、瑠璃くんの様子をちゃんと見てやってくれ。正直、彼女の証言が一番、我々の中では『重要』だからな」

 

「分かっていますーー彼奴は俺の、大事な妹ですから」

 

彰のその言葉に目暮警部は頷き、次は小五郎に近づいていく。その背を見送ったあとに瑠璃に近づけば、目を瞑って、視界から入る情報をシャットアウトしている様だった。。

 

「瑠璃……大丈夫か?」

 

彰がそう声をかければ、瑠璃はゆっくりと目を開き、視線を向ける。

 

「……大丈夫。刑事になった時点で……ううん、警察を目指した時点で、こうなる事は既に覚悟してたから……既に何度も見てるはずなのに、相変わらず慣れてない私の言う言葉じゃないか」

 

瑠璃はそう言って笑うが、彰は酷く悲しそうな表情を浮かべている。

 

「……無理に笑わなくて良い。今のその表情は流石に酷い。折角の美人な顔が台無しな酷さだ」

 

「ちょっ!?その言葉を私に使わないで!?兄妹じゃなかったら正直、勘違いしてもおかしくないからね!?」

 

「いや、兄から見たお前の評価だぞ?素直に嬉しがっとけ」

 

「ああもう!この女誑しが!!」

 

「正直、俺が女誑しなら修斗はどうなるんだと聞きたくなるんだが……」

 

「ごめん、それは確かにだね。一番の女誑しは彼奴だったか……」

 

瑠璃がそこで頭を抱える。が、そこでクスリと小さく笑い、徐々に笑う声が大きくなっていく。

 

「ふっ、ふふっ……ははっ」

 

「元気は出たか?」

 

「ははっ……うん、大丈夫。元気付けてくれてありがとう、彰。さすがは私達兄妹の長男だね」

 

「俺の長男らしいものなんて、こういうことぐらいだからな」

 

彰が肩を竦めれば、瑠璃は首を横に振る。

 

「ううん、彰が長男だから、私達は安心するんだよ。これで正直、修斗が長男だったら、もう心配しかないよ」

 

「ああ、確かに……心労とか苦労とか、一番かけさせてしまってるからな……」

 

そんな風に話した後、瑠璃は小さく深呼吸をし、立ち上がる。

 

「っよし!元気出た!じゃ、お仕事始めよっか!」

 

「……本当に大丈夫なんだな?」

 

「うん!問題なしだよ!」

 

瑠璃が元気よく答え、笑顔を向ければ、彰もそれを見て安心したように笑みを浮かべ、2人で目暮に近づいた。

 

「目暮警部」

 

「おお、彰くん!……瑠璃くん、もう大丈夫かね?」

 

「はい。ご心配お掛けしてすみません。ですが、私の『力』はこういう時こそ、役立たせるべきだと思ってますから」

 

「うむ。無理はせんようにな」

 

「はい!」

 

瑠璃が敬礼をすれば、目暮警部は1つ頷き、次の行動を伝える。

 

「実はな、今から防犯カメラの映像を見にいくのだが……」

 

「ああ、彰が気付いたあの防犯カメラですね」

 

そう言って瑠璃が視線を向けたのは、部屋の隅に設置されているカメラ。

 

「なんだ、彰くん。気づいておったのか。なら早めに言ってくれれば……」

 

「すみません。流石にちょっと頭から抜けてました……」

 

「彰も内心、動揺してたもんね」

 

「なんでお前、俺の内心知ってんだ」

 

「妹舐めんな」

 

まだやり取りが続くかと思われたところで、目暮が咳払いをし、話を続ける。

 

「それでだな、毛利達も連れてその映像を見にいくのだが……2人はどうするかね?特に瑠璃くん」

 

目暮はそこで瑠璃に心配そうな視線を向けた。

 

「君の能力を儂も理解しておる。だからこそ、無理強いは出来ん。無理そうなら儂らと彰くんで見るが……」

 

目暮の提案に、瑠璃は首を横に振った。

 

「提案はとてもありがたいです。しかし、先程も言った通り、私の力はこういう時にこそ役立てるべきものだと思ってますーーだから、私にも見させてください」

 

「……わかった。無理だった時には途中でも良い。目を瞑り、耳を塞ぐんだ……いいね?」

 

最後まで心配そうな目暮の言葉に、瑠璃は柔らかく微笑みながら、頷いた。

 

そうして全員で監視カメラを見始めれば、最初に映った時刻は午後4時25分。そこにあるのは鉄の甲冑だけで、他には特に目を向けるものはない」

 

「馬鹿な犯人だ。ビデオに撮られているとも知らないで……」

 

その小五郎の言葉に、彰は違和感を持つ。

 

(本当に犯人は監視カメラがある事を知らなかったのか?大抵の美術館にも監視カメラというのはちゃんとある。それは盗難防止の役割が主だ……それを知らないなんて事、本当にあるのか?)

 

そんな時、ビデオが始まってすぐ、被害者の真中オーナーが映り込んだ。

 

「お、オーナーだ。さぁ、出てこい犯人!!」

 

ビデオ内の真中オーナーはそこで腕時計の時間を確認する様子を見せた。

 

(誰かとあそこで待ち合わせをしていたのか……)

 

「お前の面をシッカリ見届けて……」

 

ーーそうして、犯人は現れた。

 

いや、最初から写り込んでいたのだーー剣を構えた、鉄の騎士甲冑。それに真中オーナーが背中を向けた途端、動き出し、剣を振り上げた。

 

全員がそれに驚いた様子を浮かべるも、映像は止まらない。そのまま真中オーナーは背中から斬られ、血を流す。鉄の騎士は前に飛び出し、動きを止めた。そこから少ししてまた振り返り、また同じように上から振りかぶり、斬り裂き、真中オーナーの顔を掴み上げ、その首に向けてまっすぐ、力強く突き刺しーー血を吐き出させる。

 

流石にその部分では殆どが目を瞑る。勿論、探偵である小五郎と、警部である目暮は片目だけでも開き、一般人である蘭は両目とも閉じて、顔を下に向けている。そんな酷い映像だ。小学生であるコナンなど同じく目を閉じているだろうと思った彰はコナンを退出避けるべきだと思い、目を向けるーーしかしそこにあったのは、視線をそらさず、鋭い視線で映像を直視しているコナンの姿があった。

 

(はっ!?嘘だろ!?普通、小学生ならこんなショッキングな映像、泣き叫ぶもんだぞ!?)

 

彰がそんなコナンの姿にあり得ないようなものを見たような視線を向ける横で、瑠璃は一つも視線を動かさず、静かに映像を見ている。

 

と、そこで漸く目暮警部が映像を止めた。止めた箇所は血を大量に浴びた騎士が突き刺された真中オーナーから離れるところでーーー。

 

「……あっ」

 

そこで瑠璃が何かに気付いたかのように小さく声をあげる。

 

「?瑠璃くん、どうしたのかね?」

 

「この構図、あの絵と同じ……」

 

「あの絵?」

 

目暮警部は首を傾げているが、その一言でコナンと小五郎、彰は気付いた。

 

「本当だ!あの絵とそっくりだ!!」

 

「瑠璃くん、あの絵とは?」

 

「害者の正面に展示されていた絵です。題名は『天罰』。位置的には、真中オーナーと同じ首に剣を突き立てられた者が右奥におり、左前にはこの騎士と同じ血塗れの騎士がいるんです」

 

「確かに、この構図と同じだな……」

 

「おそらく、あの絵と重ね合わせる為にこんな殺し方を……」

 

そこまで言った所で、ふと、小五郎が瑠璃に視線を向ける。

 

「それにしても、彼女、あの一瞬でよく直ぐに天罰だと分かりましたね……」

 

「ああ。彼女はな、特別な能力があるんだよ」

 

「特別な能力?」

 

コナンが首を傾げて問い返せば、目暮警部は同じく瑠璃に目を向けながら答える。

 

「彼女には『完全記憶能力』というものがあってな。彼女が一度でも見たもの、聞いたものは嫌でも忘れる事が出来ないのだよ」

 

そう言いながら目暮警部が目に浮かばせる感情は哀愁だった。

 

「儂にはそんな力はない。だからこそ、今まで、彼女がその力でどのくらい苦しんできたかは分からんが、正直、とても心強い力である反面、無理をさせてしまっていると思っておるよ」

 

そこで話を切り、話を戻す目暮警部。

 

「しかし、大胆な犯人だな。こんな格好を誰かに見られでもしたら大騒ぎに……」

 

「だからこそ、ならないようにしたんでしょうね。犯人は」

 

そこで彰がそんなことを言うと、目暮警部は彰に目を向けた。

 

「というと?」

 

「俺達が見て回っていた時、あの展示部屋も行こうとしたんです。けど、その時には立ち入り禁止の立て札があって……瑠璃、アレいつだったか時間見たか?」

 

「いや、時間までは見てないけど、多分、四時ごろじゃないかな?そのあと、5時ごろに小五郎さん達が疲れちゃって休憩って時に目を向けてみれば、もう立て札がなくなってて……」

 

「ほぉ……」

 

「犯行時刻が4時半ごろ。つまり、あの立て札は俺達みたいな客を遠ざける為に犯人が置いたもの。そうやって人を遠ざけたあと、甲冑を着てあの部屋に潜んでたんでしょう」

 

「そして、呼び出した真中オーナーを殺害した」

 

「あと、目暮警部」

 

そこで瑠璃が目暮警部を呼べば、全員の視線が集まる。

 

「どうしたんだね?瑠璃くん」

 

「あの映像、もう一度回してもらってもいいですか?その方が指し示しやすいので……」

 

それを聞き、目暮警部が操作する為に振り返れば、既に映像が流れていた。

 

「うんっ?なぜ映像が……」

 

「え、コナンくん!?」

 

目暮警部が首を傾げているその横で、映像を動かしているコナンに気付いた瑠璃は、驚いたように声をあげる。と、そこでコナンが声を上げた。

 

「ねぇ!真中オーナー、何かしてるよ?」

 

それを聞き、一度目暮警部が瑠璃に視線を向ければ、瑠璃が一瞬映像を見て、頷く。

 

「私が気になったのもちょうどそこです。見ていただけませんか?」

 

「うむ、分かった」

 

そうして見ていれば、コナンが説明をしだす。

 

「ほら、最初に斬りかかった弾みで犯人が前に出た隙に……」

 

「真中オーナーが何か壁にあった紙に気付いてそれを見たあと、今度は机の上にあるペンを掴んで何かを書いてるんです。その後、ペンを捨てて、紙は手で丸めて、そのまま……」

 

その説明のすぐ後、もう一度真中オーナーが殺されるシーンを見ることとなった全員。しかし、その映像を気にしている場合ではなくなった。

 

「……つまり、あの札はオーナーの手にあるようだな」

 

そこで鑑識の人に被害者の手を開いて取り出して貰い、その紙を開いてみれば、そこには『クボタ』と書かれていた。

 

「なっ!?なんで私の名前が!?」

 

「防犯カメラから身を隠す為に甲冑を着たみたいだが、被害者は犯人の正体に気づいていたようだな……」

 

「…………」

 

その小五郎の推理に、彰は難しい顔をする。

 

「……なんか納得出来ない事でもあるの?」

 

「……こんな単純な事件じゃない気がするんだ。それに普通、声だけで人を判別出来るか?長年、付き合いがあってとかなら分かるが、俺達が見た限り、被害者と窪田さんは初対面。真中オーナーが一方的に知ってるだけの間柄だった。そんな相手の声なんて、いちいち覚えてるもんか?」

 

「……私みたいな能力があったとか?」

 

「そんな近場に特殊能力持ちがいてたまるか」

 

「デスヨネー。じゃあ声フェチだったとか?」

 

「お前ふざけてないか?」

 

「マジサーセン」

 

流石に瑠璃が頭を下げれば、彰もため息一つ吐いて許し、話を続ける。

 

「……まあ、窪田さん自身には動機はあったみたいだが」

 

そう言って視線を向けた先には、窪田が密かにこの美術館の作品を売り飛ばし、被害者に多額の損害賠償を請求されていたことが暴露されていた。

 

「……まあ兎も角だ。気になることの一つである真中オーナーが投げたあのペン、探さないか?」

 

「了解。なら、投げた方向を考えるなら、こっちだね」

 

そう言って真中オーナーの死体があった方から左の方へと足を進めれば、そこには既にコナンが床を這い、顔を左右に動かし、何かを探す様子があった。

 

「……あいつ本当に小学生か?」

 

「行動力が凄いね。今時の小学生はそんなものなのかな?」

 

「俺達兄妹の中にはいないからな、小学生」

 

「実は従兄弟とかいて、その中に小学生がいたりして」

 

「流石に今、その事を修斗から聞けないからな……って、そんなこと言ってる場合じゃない。取り敢えず止めないと」

 

彰がそこでようやく動き出し、コナンの背後に立つと、首根っこを掴み上げた。

 

「こらっ!小学生が事件現場を荒らす真似をするな!」

 

「うわっ!?」

 

コナンはそこでようやく彰達に気付き、慌てだした。

 

「ご、ごめんなさい!でも、僕気になって……」

 

「あのペンの行方のことかな?なら、もう見つけたよ」

 

瑠璃がそう言って指をさしたのは、別の甲冑の足元にあるペン。それを手袋をつけた手で拾い上げれば、ふと首を傾げる。

 

「あれ?確か、これを使って真中オーナーはあの紙に名前を書いたんだよね?」

 

「ああ……そしてそのまま放り投げた。となると、そのペンからはペン先が出ていないとおかしい」

 

「しかもこれ、ボタン式じゃないみたい。ほら」

 

そう言ってボタンがある場所を指先で押しても、それが沈む様子はなく、ペン先が出る様子もない。

 

「となると……ちょっと貸してみろ」

 

そこで一度コナンを下ろし、瑠璃に手を差し出せば、ペンを渡される。それを片手でペン先近くをつかみ、もう片手でもう半分の方をつかんだ状態で回すようにすれば、ペン先が出て来た。

 

「…………おい、これ本当にあの人が投げたのか?」

 

「どう考えてもこれ、誰かが置いたよね?」

 

「取り敢えず、警部に話すか」

 

そう言って一度ペンを戻すと、目暮警部に声を掛ける。そうして状況を報告すると、そこでこのペンが米花美術館50周年記念に今年造られたボールペンであり、関係者なら誰もが持っているものだと判明した。そうして目暮警部が彰と同じようにペンを回してその先を出し、インクが出る事、そして、その色と太さが同じであることを瑠璃に確認させ、同じであると言葉に出されると、これを真中オーナーが使ったのだろうと予測が立てられた。

 

「いやちょっと待ってください警部。それ、さっきも言った通り、ペン先が戻されてたんですよ?真中オーナーがそれで書いていたなら、ペン先は出されたまんまだったはずです」

 

「どうせ何かの反動で戻ったんだろ」

 

(どうしてそんな見解になる!?)

 

小五郎の言葉に彰はまるで呆れたかのように片手で額を抑える様子を見せると、瑠璃が慰めはじめた。

 

「確かに。この場合、反動じゃなくとも犯人が戻した可能性もある」

 

「それをする意図が分かりませんが……」

 

「それは、本人から直々に話して貰えばいい」

 

そこでついに小さく溜息を吐いた彰。そもそも彰自身は、目暮警部が劣っているなど微塵も思っていない。寧ろ『警部』に昇進したほどだ。自身の位も『警部』である為、そこまでどれほど大変だったか、分かっている。勿論、それは小五郎にも言えることだ。あの目暮警部が賞賛するのだから間違いはないだろうと思っている。しかし、時にこんな風に突飛な考え方をするのはいただけない。そこで彰は話すことにした。

 

「目暮警部、そもそも犯人はどうしてあの天罰と同じような構図で殺したのか、分かりますか?」

 

「ん?というと?」

 

「意図としては多分、真中オーナーへの制裁、もしくは題名と同じ天罰を下す為だと俺は思ってます。そしてそれは美術品への拘りがない限り難しいです。姿を隠して殺すだけなら、そんな凝ったことをしなくてもいいんですから」

 

「ふむ、確かにな」

 

「そして窪田さんは、ここの美術品を勝手に売り捌くほど、美術品への愛情なんてカケラもない。となると、そんな面倒なことをするとは思えません」

 

「ここの美術館関係者に疑いを向ける為だろ」

 

「向けるだけなら他にも方法はありますよ。例えば、自身以外の誰か別の関係者の私物を落としておくとか」

 

「それがそのペンなんだろ」

 

小五郎言葉に彰は首を横に振る。

 

「これはあくまで真中オーナーが投げたものだと思わせるためのもので、誰かに疑いを向けさせるためのものじゃない」

 

そこで一度、彰は瑠璃に目を向けた。それは瑠璃が今この時の動向の確認をして、この後に自身がすべき行動を考えるためのものだったが、その瑠璃はというと、何故かコナンとともに鑑識の人から貸してもらった証拠品、被害者の持っていた紙を観察していた。

 

(っておい待て待て待て!?何小学生巻き込んでるんだ!?)

 

そこで不自然にも彰の言葉が止まり、目暮警部と小五郎は首を傾げながらその視線の先を見れば、瑠璃とコナンの二人がそこにいた。それを見て、小五郎がすぐにコナンを掴み上げ、邪魔するなと叱ったその時、タイミング良く窪田のロッカーの中から甲冑が見つかったと実物を持って来た警察官から連絡を受けた。その甲冑を見て見ると、血でベトベトになっており、これが殺人で使われたものだとハッキリと分かる証拠品となった。

 

「そ、そんな馬鹿な!?私は知らない!」

 

「しかし、これが一番な動かぬ証拠品だ。この血まみれの甲冑がな」

 

それにさえ彰は違和感しか抱かない。そもそも、証拠品となるその甲冑でさえ、罪を着せるためだと思えば窪田のロッカーの中にあっても仕方ないだろうと思っている。

 

(くっそ。窪田さんはきっと犯人ではない。強盗みたいなことはしてるからそこは見逃せないが、殺人を犯すならもっと適当なはずだ……しかし、このままだと……)

 

「それにしても、酷いものですな。せっかくの美術品が血塗れで台無しに……」

 

「いえ、それは騎士甲冑のレプリカです。確か、昼頃に窪田さんが運んでいたはずです」

 

それを聞き、あの時、館長であるはずの落合さんが怒らなかったのはそれが理由かと思い至った。そしてそれと同時に一つの可能性に辿り着いた。それを確認するためか、真中オーナーが殺された壁を見て見れば、紹介の紙は貼られているにもかかわらず、作品は一つも掛けられていないことに気づいた。

 

「……おい瑠璃」

 

「……ごめん、言いたいことはわかってる。でも流石に言い訳ぐらいさせて。あの時は私も動揺してたし、正直、思い出したい光景でもなかったから記憶を遡ってなかった」

 

「覚悟は出来てたんじゃなかったか?」

 

「足らなかったみたいです」

 

「……まあ、怒ってはないからそんなショボくれるな。ミスぐらい誰でもあるから気にしなくていい」

 

彰はミスをして落ち込んでいる瑠璃の頭を軽くポンポンと叩くと、それで少しだけ安心したのか、瑠璃の表情が柔らかくなる。

 

そんなことをしている時、窪田さんが連れていかれかけていた。それを彰がまた止めようとした時、

 

「うわぁ!漏れちゃうよぉ〜!」

 

そんなコナンのようやく見れた子供らしい声と言葉に反射的にそちらを見れば、マップを持ったまま足をバタバタさせて『トイレ』と連呼しているコナンがそこにいた。そうしてそのまま落合館長の前まで行くと、トイレの場所を聞き出し始めた。

 

普通ならここで瑠璃が案内してもいいのだが、彰からの制止の視線に気が付き、声を掛けるのをやめた。

 

「おじさん、トイレどこっ?」

 

「トイレならこの部屋を出て右に曲がった所にある階段を下りて、突き当たりを……」

 

「口で言われてもわかんない!これに行き方書いてよ」

 

そうしてマップを渡すと、落合館長はそれを受け取り、胸の内ポケットからペンを取り出す。コナンが急かすと、それに答えてペン先を出し、書こうとするが、そこで焦った表情を浮かべて動きが止まる。ペンを持っている手も震わせ、書こうとしない。

 

「どうしたの?おじさん。どうして書かないの?」

 

「……」

 

「あ!そっか〜!おじさん書く前からそのボールペンが書けないことを知ってたんだ!」

 

コナンが可愛らしく首を傾げ、上目遣いで言葉を投げかける。しかしそこでは終わらず、さらに追求される。

 

「でも変だよね?書けないとわかってるボールペンをなんで持ってたの?」

 

そのコナンの言葉に小五郎と目暮警部がいた。が、そこで小五郎がふと何かを閃いたかのように口に出す。

 

「待てよ?もし真中オーナーの使ったペンが書けなかったとしたら、このダイイングメッセージは……」

 

「別の人、今回の場合だと犯人が書いたんでしょうね」

 

彰が小五郎の代わりに答えれば、次に瑠璃が答える。

 

「私とコナンくんがその紙を確認した時、変わった跡がありました。その跡は、まるでインクの出ないペンで力強くグリグリと書いた跡でした。最初はなんなのかと思いましたが、今の推理通りなら、それは最初から書いてった文字を、書けないボールペンで消そうとした跡だと予想がつきます」

 

そこで目暮警部が驚いた様子を見せたあと、では何故なのかと問い掛け、それは小五郎が答える。

 

「それは簡単ですよ。犯人はオーナーにこう言ったんですよ。『後ろの札を見てみろ。犯人の名前が書いてあるぞ』ってね。だが、オーナーがとった物には犯人の名前ではなく『クボタ』と書いてあった。驚いたオーナーは机の上にあったボールペンでその名前を消し、自分をこの部屋に呼び出した犯人の名前を書こうとした。しかし書けなかった。何故ならそれは、犯人が最初から用意していた書けないボールペンだからです」

 

「だからあの時、オーナーはペンを投げ飛ばし、紙をもみ潰そうとしたのか」

 

そこでようやくトリックが暴かれ、事件が収束するかに見えたところで、目暮警部から疑問の声が飛ぶ。

 

「しかし、発見されたこのボールペンは書けるぞ」

 

その疑問に答えようとしたコナンだが、それよりも早く彰が答える。

 

「そのボールペン、俺達が発見した時からペン先が引っ込んでいました。しかし、真中オーナーが使おうとしたが使えず投げ飛ばしたなら、ペン先なんて戻さずに投げ飛ばしたでしょう。瑠璃、ペン先を戻すような行動、被害者はしてたか?」

 

彰が瑠璃に問えば、瑠璃は首を横に振る。

 

「そもそも、これから殺されると理解している人が、そんなことする余裕はありません。つまり、そのボールペンは後から犯人がすり替えたもの。だからこそ、今、書けないボールペンを持っている人、つまりは落合館長、貴方が犯人であると示す証拠となります」

 

それがトドメとなり、犯行時刻のアリバイを聞けば、落合館長はゆっくりと犯行時刻に何をしていたのかを話し出す。

 

「……その時刻といえば、ちょうど待ち合わせをしていた頃です。あの腸の腐った悪魔を待っていたんです。甲冑に身を包んで。あとは探偵さん、そして刑事さんが言った通りですよ」

 

「はんっ。しかしまあ、上手い具合に映像に残ったものですな」

 

小五郎が呆れたようにいえば、壁に背を預けて静かに聞いていた彰がそれに首を振る。

 

「いや、偶然ではないと思いますよ。俺の兄妹から実は聞いてたんですが、ここ最近、この美術館で、夜になると騎士甲冑がひとりでに歩き回るという噂が流れていたそうです。その騎士甲冑、貴方ですよね?落合館長」

 

「ええ。刑事さんのいう通り、私です。オーナーに隙を見せたように前に飛ぶタイミング、札を貼る位置、ペンを置く場所、全て計算づくでした。何度もここで練習しましたからね。……愚かなことだとは思いましたが、全ては真中オーナーを葬り去るためにやったこと。私利私欲のために、この聖なる美術館を潰し、我が子のような美術品を私から取り上げようとしたあの悪魔をね。そして、勝手に作品を売り飛ばした窪田くん。君にも罰を与えたかった」

 

「絵と違って落合館長。貴方にも天罰が下ったようですね」

 

小五郎の言葉に、落合館長は否定の言葉を返す。

 

「いいえ。あの絵の通りですよ。あの絵は、悪魔は正義の騎士に葬られたがその邪悪な返り血を浴びた騎士はやがて悪に染めていく事を示しているんです。……理由はどうであれ私は殺人者。私もまた悪魔になってしまったんです。その証拠に、純粋な小さな正義の目は欺けなかった」

 

「純粋な小さな正義の目?」

 

それに小五郎は疑問を持った様子で問い返すと、落合館長はコナンに顔を向ける。

 

「ボウヤ、トイレはもう良いのかい?」

 

それにコナンは困ったように笑えば、落合館長は楽しそうに笑い出したのだった。

 

***

 

「……そうか。兄貴達もお疲れ様。もう帰れるんだろ?……ああ、少し時間が掛かるのか。なら、メイドさん達にはそう伝えて置く。『雪菜』と雪男、それから『梨華』にもな。あいつ、もしかしたら拗ねるかもしれないぞ。折角、アメリカから一旦帰国してくるのに、迎えに出たのが全員じゃないかもしれないからな」

 

執務室のような部屋で一人、携帯の先の相手を思い浮かべて談笑に耽る男がそういえば、相手の方が少し焦ったような声が聞こえてきて、さらに笑みを深める。

 

「ははっ。そうなったらまあ、なんとかフォローはしてやるけど、多分難しいぞ?……ああ、米花美術館のことは任された。やってみるだけやるさ。けど、きっと俺が手を貸さなくても潰れたりしないさ。何せ、それだけ愛されてるんだ。自治体が動くと思うぞ」

 

男が少し羨ましそうな声を言葉に乗せると、相手は心配そうな声を掛ける。

 

『……やっぱり、羨ましいか?『修斗』』

 

「……兄貴はどうなんだ?それから『瑠璃』の奴も。俺達は、『愛され』てこの世界に生まれてきたわけじゃない。ーーー俺は、羨ましいよ」

 

そこで相手が息を呑む音が聞こえ、修斗は笑顔で「冗談だ」とおちゃらけて返した。

 

『そうだ。修斗、今日な、少し変わった子供とあったんだ』

 

「ん?子供?」

 

『ああ。『江戸川 コナン』というらしいんだが、行動力があり、かつ推理力も高く、知能も理解力すらも高い。それはもう、小学生の枠には収まりきらないぐらいにな』

 

「……ふーん?」

 

修斗がそれを聞き、手近にあったパソコンを使い、調べ物を始めた。

 

「というか、仕事はいいのか?事件終わりだと忙しいんだろ?」

 

『ああ、そうだった。お前も休めよ、修斗』

 

「休憩ぐらいなら考えとく」

 

『……はぁ。兎に角、俺は仕事に戻るな。じゃあな』

 

そこで相手から電話が切られ、修斗もその携帯を閉じ、近くに置く。そして、パソコンの画面を見ながら呟く。

 

「ーーー江戸川コナン。まるで江戸川乱歩とコナン・ドイルを掛け合わせたような名前だな。それこそ、『偽名』だと思っても仕方ない名前だ」

 

そうして呟きながら見つめているのはーーー工藤新一の特集ページ。

 

「最近、あれだけ持て囃されていた工藤新一の活躍がイキナリなくなり、それとほぼ同タイミングで現れた江戸川コナンという小学生……さて、お前達二人は、どう関係しているのか。少し興味があるな」

 

修斗は最後に少しだけ楽しげな笑みを浮かべると、パソコンの電源を落とし、そばに置いてあった仕事関係の書類を手に取ったのだった。




長い!私にしてはとても長く書いた!!というか、最高文字数じゃないかな今回!

とりあえず、此処に軽いキャラ紹介だけ載せときます。あ、まだ、姿すら出てなくて名前だけのキャラもです!(ただしその場合詳しくは書かない)

ーーー

*北星 彰 (ほくせい あきら)

年齢:29歳
職業:警視庁捜査一課の刑事。階級は警部

鋭い洞察力と観察眼、推理力を持っている兄妹達の長男。運動能力に優れており、そこに関しては『天才』とも言われている。勘も鋭い。ちなみに同期組に松田がいる。


*北星 修斗 (ほくせい しゅうと)

年齢:28歳
職業:サラリーマン(次期社長)

正直、お前出てきたらもう刑事いらないと兄妹に言われるほどの勘の鋭さと頭の回転の速さを持つ。結構色々できるオールラウンダー。ただしその本心に関しては誰にも悟らせないほどの演技力さえある。が、兄妹間だと時折本心を漏らす。心理学させたら真面目にやばい。隠し事なんて出来ない。


*北星 瑠璃 (ほくせい るり)

年齢:27歳
職業:警視庁捜査一課の刑事。階級は警部補。

『完全記憶能力』を持つ者。その力を使って彰の手伝いをよくする。反面、記憶から消去が出来ないので、悪夢を見るとしたら大抵、過去の死体が出てくる。ちなみにアニメと漫画オタクなので千葉刑事とはその話でよく意気投合する。


*北星 梨華 (ほくせい りか)

年齢:??歳
職業:??

最近まで仕事でアメリカにいた。趣味は音楽。


*北星 雪男 (ほくせい ゆきお)

年齢:??歳
職業:??

体が弱い男性。コンプレックスが色々ある。


*北星 雪菜 (ほくせい ゆきな)

年齢:??歳
職業:??

色んな意味での問題児。

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