私、彼も好きなんですよ!特にコナンとのバトル、そして掛け合いが!
そして新たなオリキャラ初登場!どんな立ち位置かは決めてます!つまり、実は今回のオリキャラが一番今後、登場するのではないかと予想しております!でもタイトル詐欺にならぬように努力します!
それでは!どうぞ!
朝から新聞を開いて読んでいる修斗はとある記事を見て首を傾げる。
「怪盗1412号?」
「……なんだ、知らないのか?」
それに返事が返され、驚きの表情を浮かべて顔を上げる修斗。読み始めた当初は誰もいなかったのだから驚くなという方が無理だ。そしてそこにいた人物を見てホッと安堵の息を吐き出す。この手のことでは1番の情報の持ち主がいたからだ。
「『優』か……驚いたな。扉を勝手に開けたのか?」
「……一応はノックした」
そう言う彼女の姿は、小学生の姿で、しかしどこか大人びた雰囲気を持つ黒髪でポニーテールの少女は手に持っていたコーヒーをテーブルの上に置いたあと、腕を組み「で?」と修斗の言葉を促す。それに苦笑いを浮かべる修斗。
「いや、この新聞にその怪盗が載っていてな……」
「ああ、また宝石を盗み、持ち主に返したとでも書いてあったんだろう?」
「なんだ、やっぱりその手のことの情報は早いな」
「情報屋も兼任していたんだ。別の奴に取られてしまったその役職だが、私の趣味でもあるからな。情報は集めれば集めるだけ私が有利になるんだ。……しかし、その怪盗は一時期消えていたはずなんだがな」
「そうなのか?」
その情報に修斗は目を丸くすると、優は頷く。
「ああ。……まあ、折角私を匿ってくれてるんだ。もうちょっと情報をやろう」
「まあ、見つけれたの最近だけどな……」
「で、なんの情報がほしい?」
「今は別段何も……ああ、でも、なんで持ち主に返してるのかは気になるからそれを頼む」
それに優は頷く。
「あくまで噂だが、その怪盗は盗んだ宝石を必ず月に翳すらしい。その姿から、かの怪盗は目的の宝石があり、それは月の光によって何かが起こるものである、というのが私の見解だ。得られた情報からはその推測が出来た」
「ふーん……なんだ?月に翳せばその宝石から涙よろしく雫が垂れて、非常識な力でも得られるってか。お伽話もいい加減にしろ。最近、非常識な事があり過ぎだろ……」
「そうだな。私も驚いたよ。まさか自分もその非常識な体験をする羽目になるとはな」
「お前はその前に誘拐されてたからな……」
「……思い出させんでくれ」
優が強く自分の腕を掴んで悔しそうな表情を浮かべているのに気付き、修斗は謝罪をする。
「すまない……」
「……いや、いい。私を見つけてくれたあと、ちゃんと母様に誤魔化しをしてくれたからな。私を見つけ、誤魔化しもしてくれた恩を忘れない為に、私はこうしてお前の手となり足となり……」
「すまん、そこまで重く考えてくれてるところ悪いけど、そんな風には考えてなかったからな!?」
そこで修斗が耐えきれないとばかりに机に突っ伏す。それを見てクスクスと笑う優。
「ふふっ、冗談だ。まあ、忠義に関しては本当のことだ。お前から情報を得ろと言われたら、私は喜んでするつもりだ」
「……危険なことだけはしないでくれ」
「善処しよう」
優はそこまで言って部屋を去ろうとした。しかし、一度立ち止まり、修斗に声を掛ける。
「……もう一度だけ、聞いてもいいか?」
「……なんだよ」
「……手の汚れた私でも、本当にお前にとっての兄妹だと、大切な者だと……そうお前は断言出来るのか?」
その言葉に修斗は呆れたように息を吐き出す。
「ああ勿論だ」
修斗のその優しい笑顔を見て、優は安心したように笑い、扉を閉めて去って行った。
***
そしてそれから数日後、北星家にとある招待状が届いた。それは横浜港から出航するQエリザベス号の船上パーティで、それは鈴木財閥60周年記念のパーティーのもの。断るに断れない。だからこそ、修斗は少女を連れてこのパーティーにやって来た。修斗はダークグレーのスーツを着て、優少女は上がレースで下が黒いスカートのレーストップスシフォンワンピースという、結婚式の時のような少女のドレスを着て。
「あそこの爺さんとうちの父親って仲悪かったんじゃなかったか?」
「さあな。私は屋敷に住み始めたのも最近だからな。知らんよ。そこはお前の方が知ってるんじゃないか?」
「確か反りが合わないとか、あとは方針の違いでのぶつかり合いとか……そんな事は聞いたことあるが……」
「ふむ、お前はどちらの方針の方が良いんだ?」
「鈴木財閥だな。ウチは寧ろ根っから引っこ抜いてやり直した方が早いんじゃないか?」
「ならお前は財閥のそのお爺様と気が合いそうだな」
「流石に散財するような金の使い方には文句言いたいけどな」
「金持ちなのに貧乏性か」
「貧乏性のつもりはないんだが……」
修斗は溜息を吐きながらシャンパンを飲む。その隣の彼女はオレンジジュースを飲んでいた。そんなことをしている間にどうやら代表がステージにやって来て、話をし始めた。しかし、修斗のその視線は鋭く尖っていた。
「なんだ。あの叔父様がどうした」
「いや……アレ変装だな」
「ほう?距離があるのに分かるものなのか」
少女が少しだけ尊敬の眼差しを修斗に向ければ、それに困ったように笑う修斗。彼自身、推理でそうなったのではなく、自身の勘がそう言っただけなのだ。尊敬されても困るものだ。
「我が鈴木財閥も今年ではや60周年、これも一重に皆様のお力添えの賜物でございます。今夜はコソ泥の事など忘れて500余名が集まった優雅かつ盛大な船上パーティーをごゆるりとお楽しみ下さい」
それに少女が拍手をしようとしたが、そこで別の女性の声が遮った。その声の主はステージ上で演説していた少しぽっちゃり目の白髪の紳士の後ろから優雅に現れた。その女性は『鈴木 朋子』。あの花嫁の事件であった鈴木園子の母親である。
「その前に、今夜は特別な趣向を凝らしております」
朋子がそう言って掲げて見せたのは小さな箱。
「乗船する前に皆様にお渡ししたこの小さな箱、さあお開け下さい」
それに従い二人も箱を開けてみれば、黒い真珠の様な宝石があった。
「それは愚かな盗賊へ向けた私からの挑戦状。……そう、我が家のシンボルであり、怪盗キッドの今夜の獲物でもある『
それに少女は驚きで目を見開き、修斗は呆れ顔でその宝石を箱から取り出しポケットの中に突っ込んだ。扱いが雑過ぎる。しかし修斗は自分の持っているものが偽物であると分かったのだ。それもただの予測だが。
(どう考えても、本物持ってるのは鈴木財閥関係者だろ。信用ならない奴に本物持たせるバカは世の中いない。間違えたら持って帰られるかもしれないんだから。そしてそこから考えれば一番本物を持ってるの確率が高いのは朋子さんだろ。裏をかかれたらそれまでだが、普通持ち主が本物持っておくことほど安心するもんはないしな)
そこまで考えて少女にも言おうかと考えたが、やめておいた。折角の彼女が考えた余興だ。乗っかっておいた方が少女も楽しめるだろうと考えたのだ。
「勿論、本物は一つ。それを誰に渡したかも私一人。あとは全て精巧に作られた模造真珠というわけです。さあ皆様、それを胸にお着け下さい?そしてキッドに見せ付けてやるのです。『取れるものなら取ってみなさい』とね」
それを言われては修斗も着けないわけにはいかない。変な疑いもかけられたくないのだ。ポケットからもう一度取り出し、胸辺りに着け、少女も着けたかを確認し、前を見る。
「勿論、船が洋上している三時間の間にどれが本物か、彼に判別出来たらの話ですが?」
それに周りが笑いだすが、少女が呆れた様に溜息を吐く。
「全く。怪盗が宝石の判別も出来ないようなら、最初に盗みを働いた時点で捕まってるだろう」
「言ってやるな。あの人は盗めないという自信があるんだろ」
少女と修斗はそこで互いに顔を見合わせ苦笑い。二人からしたら、朋子は自身が人形であるとも気付かない哀れな踊り子人形にしか見えなくなったのだ。いや、もっと言うなら下手な踊りをしているのにそれに気付かず自身が一番だと思い込んでいる哀れな人、と例えるべきだろう。そして二人はそんな喜劇を楽しむという性格の悪さがあるのだ。こんなおもしろい舞台はないとばかりに傍観する事を決めた。
「さーって、誰が一番に気付くかな?」
そんな二人の事を知らないコナンは、園子の電話でまだ会長が自宅にいる事を知り、先程まで演説していた会長が偽物だと漸く理解した。そして周りの人へと聞けば偽物はトイレへと行ったと教えられた。そこからトイレへと急いで行き扉を開ければ、そこには変装マスクと服が隠されていた。
(なるほど、会長に変装して乗り込んできたってことか。……ふっ、感謝するぜ怪盗キッド。お前のその不敵な仮面を剥ぎ取るチャンスをくれたんだからな)
そしてトイレから戻ってきたコナンは直ぐに園子達にその事を知らせる。
「えーっ!?怪盗1412号がもうこの船に乗り込んでる!?パパに変装して!?」
「さっきトイレで見つけたんだ。園子姉ちゃんのお父さんの服と、変装に使った道具を。今刑事さん達が調べてるよ!」
それに驚きの表情を浮かべる朋子。そこから証拠が出てくれば無問題なのだが、生憎とそこから証拠はいつも出てこないのだ。と、そこでコナンがその場に蘭がいない事に気付く。
「あれ、蘭姉ちゃんは?」
「オメーが中々戻って来ねえから探しに行ったぜ。もしかしたら、怪盗1412号に捕まってるかもしれねえってな。」
「怪盗1412号じゃない」
そう言って小五郎の言葉に割り込んできたのは、緑のスーツを着た男。彼は『中森 銀三』。怪盗キッド専任の刑事だ。ちなみに彼の階級は警部である。
そんな彼は小五郎に詰め寄り、訂正する。
「奴の名前は『怪盗キッド』だ!ややこしいから間違えんで下さい!」
「は、はぁ……」
そう言って離れていく中森を見ながら朋子に誰かと説明を受け、秘宝を守るナイトの一人だとも言う。
「しかしですな、奥さん。今夜集まった500人を超える客は全員、問題の黒真珠を胸に着けてるんですよ?しかもたった一つの本物以外は全て精巧に作られた偽物。……どれが本物か教えていただかないと守りようが……」
「精巧に作られていると言っても所詮は模造品。よーく見定めれば多少は数が絞れますわ。中には私が着けてるような光沢が鈍くて冴えないものや、貴方が着けてるような、輝きすぎて安っぽい失敗作も混ざっていますので」
それでも食い下がる小五郎に朋子はヒントを一つ与える事にした。
「ブラック・スターは60年前、祖父を魅了したあのピーコックグリーンの光沢を持つ黒真珠に最も相応しい方にお預けしてあります」
それにコナンは反応する。しかし誰もそれには気付かない。
「偶然にもそれに値する人物は500人中たった一人」
「宝石が似合うとなると、やっぱり女性に……」
その小五郎の言葉に朋子は「貴方もお似合いですわ」と返した。そんなタイミングで小五郎の名が呼ばれ、誰かと振り返れば、小五郎にとっては一度事件であった時に出会った関係者であった。
「貴方は確か、旗本グループの……」
そんな言葉が聞こえたのか、修斗は壁に背を預けて溜息を吐く。
「あ〜……後で挨拶しよう」
「なんだ、また父親からの依頼か?」
少女の言葉に「それもあるけど……」と言いながら料理に目を向ける。
「これ、あの人が作ったものなんだ。とても美味しかったと伝えるべきだろ?」
「なるほどな」
「それに、年下の友人もいるみたいだしな」
「?」
その言葉に少女は首を傾げるが、それを知らぬふりしてキョロキョロと辺りを見て、目的の人物を見つけたのか少女に手を差し出した。
「行くぞ。目的の奴を見つけ」
「?ああ、分かった」
それに少女は首を傾げながら掌を掴み、歩き出す。そして修斗が近付いた小五郎達の輪の中には、少し黒く焼けた男がいた。彼は『三船 拓也』。彼ともまた事件の時に知り合ったのだ。
「ふんっ、残念だったな祥二さんよ。どうやら怪盗キッドの所為で鈴木会長は欠席。おべっかの為の料理が泣いてるぜ?」
それに祥二が軽く拳を当て笑うと、相手も楽しそうに笑う。どうやら所謂、悪友の関係のようだ。
「相変わらずの悪態ぶりだな」
「いえいえ」
そこに割り込む修斗。別に彼とは旧知の仲という訳でもないのだが、実は小五郎が三船と知り合った事件の時、彼もまた雪男と共に参加しており、その時に拓也の性格を見て信用できる奴だと確信を持ち、それ以後、偶然でも出会うと絡みに行っているのだ。
「よーっ、たーくやくん?そのいつも通りな悪態ぶりに、お兄さん安心したわー」
「……この気持ち悪い態度……修斗さんかよ!」
修斗が腕を掛けながら声を掛けると、その腕をぞんざいに退けられる。拓也はウザったそうな表情を浮かべているが、その態度が逆に修斗を安心させるのだ。
「……ってあれ?お前、黒真珠は?」
そこで修斗は彼が黒真珠を着けていない事に気づいた。それに拓也は呆れたように箱を軽く投げながら答える。
「こういう餓鬼っぽいゲームは嫌いでね」
「俺、彼とは知り合って間もないんですけど、そうなんですか?」
「そうだよ。彼は元よりこんな性格だ」
祥二の言葉に修斗はまたホッと安堵の溜息を吐く。こういうパーティーの場で、しかも育ちが裕福なら此処まで裏表ない性格の持ち主は珍しいのだ。そしてそれは逆に信頼や信用に値する人物でもある。
「でも着けてないと疑われますよ?」
そこで小五郎からそんな注意を受け、拓也は仕方なさそうにハンカチを使って真珠を掴み、襟に着けた。それにコナンは何かに気付いたかのように目を見開き、それに修斗も気付いたのかジッとコナンを見つめる。そんな修斗を見て、少女は彼のスーツの裾を引っ張る。
「……彼は?」
「ああ、彼は……」
「おい修斗さん。あんた、お守りするような人だったか?」
修斗が紹介しようとした時、拓也が割って入る。雪男と会った時は確かに見た目は小学生にも中学生にも見えていたが、最初からしっかりした雰囲気を感じ取っていた為に『お守り』をするという印象はなかったが、今回は中学生にも見えない、誰が見ても小学生の少女がそこにいたのだ。彼から見たらそれは『お守り』に見えたらしい。そこでコナンも気になったのか少女を見れば、少女は視線に気づき、コナンをジッと見つめる。
「ああ、この子は『咲』だ。ウチの親戚筋で、この子の親が……その、言いにくいんだが亡くなってな。ウチで預かる事になったんだ」
「……そうかよ」
そこで『咲』はニコッと微笑むとコナンに近付き右手を出す。
「『
「よ、よろしくね!僕、江戸川コナン!」
コナンはそれに同じように笑顔で答えて握手をする。しかし、咲のその笑顔が作り笑いである事はすぐに分かった。
「そろそろお前と同じ学校に通わせるつもりだから、仲良くしてやってくれ」
「そんなに手続きが掛かったのか?」
「いや、そんなには掛からなかったさ。ただ、うちの中で揉めただけだ」
その言葉でコナンは理解した。転校するにしても時期がおかしいのはそれが理由か、と。しかし修斗側の家ではそんな揉め事、実は一切起こってない。時期がおかしいのは彼女とコナンを一度接触させて、咲の様子を見てからと決めていた修斗のせいだ。しかし理由付けでおかしく思われないのはコレが一番だと彼も理解している。北星家が複雑である事を利用したのだ。
「そういえば、蘭さんは?」
「あ、僕を探しに行っちゃったんだ……」
「となると、お前とのすれ違いか……一人になるのは危険だろ」
修斗が心配そうにキョロキョロしだすその横で、小五郎も同じような事を言い、園子から「きっと何処かで迷っているんですよ」と言われると、修斗は首を傾げた。
「彼女、方向音痴なのか?」
「どうせ方向音痴ですよ!」
その言葉を聞き、振り向けば確かに其処には蘭がいた。が、その時点で修斗は頭を抱えたくなった。彼はその鋭い勘で目の前にいる蘭が『変装』である事に気付いたのだ。
(なんで目の前に怪盗キッドがいるんだよーーー!)
しかしそれは顔におくびにも出さず、安心した表情を浮かべる。
「なんだ、迷ってなかったのか。まあ、怪我してないようで良かったよ」
「あ、修斗さん!心配かけてすみませんでした」
と、そんな時に目の前のステージに別の刑事が立ち、もうこの船の中に怪盗キッドがいると説明しだした。しかも、既にこの中に混ざっているかもしれないと不安を仰ぐような事を言い出した。
「……おいおい。これでパニックになったらどうするんだ」
「お兄ちゃん、私怖い……もしかして、お兄ちゃんは怪盗キッド?」
「俺は怪盗キッドじゃないぞー。ずっとお前の隣にいただろ?」
修斗は咲の言葉に柔和な笑みを浮かべて答えるが、内心では『そこで子供らしい演技すんな』と呟いており、それに気づいているらしい咲はニヤリと笑みを浮かべる。
「本来は入念に調べ上げるところですが、今回はそんな無粋な真似は避けましょう。合言葉です!そばにいる方とペアを組んで、二人だけの合言葉を決めて下さい!」
それに小五郎は名案だと手を打つ。確かにそれを決めておけば、キッドは次から次へと変装できなくなる。その思い付きに修斗は感心した。
「へ〜。あの人、よく考えたな。けど、それはもっと早くに提案すべき事だったな……」
「確かに遅いな。まあ仕方ないだろう……どうする?合言葉は何にする?」
「むしろ何も決めないでおこう」
「分かった」
そう小声で会話した時、船上の電気が突如として消え、男性の笑い声が船の中に響きわたる。そして船の天井の隅から煙が湧きあがり、そこから白いタキシードとマントを着けたかの怪盗が現れた。それを見て修斗は一度蘭を見た後、今度は呆れたように怪盗キッドを見た。
「ふふっ、合言葉なんて無駄ですよ」
「なに?」
怪盗キッドの言葉に中森がそう呟くと、怪盗キッドは不敵に笑いながら続ける。
「既にブラック・スターは私の手の中に」
彼がその星を軽く投げ、その手に盗み出した事を見せつける。それにコナン達が釘付けになっていると、そこで朋子が「悪戯坊主にはお仕置きしなくちゃ」と言いながらトートバックから拳銃を取り出し、怪盗キッドに向けて撃つ。そんな彼女に全員の視線が向き、電気が点けばそこには怪盗キッドの死体が。その場が叫び声に塗れる中、中森が焦り声で朋子を責める。
「あんた、なんて事を……!」
「心配ご無用ですわ、刑事さん。だってまだ……生きてますもの」
その言葉が合図となり、怪盗キッドは確かに起き上がる。実はこの一連は全て施し物。偽怪盗キッドは撃たれたフリをし、彼女のガードマンがテーブルクラスで受け止めた為、痛みもない。拳銃もまたモデルガン。全てが全て余興だった。そしてその余興のために呼ばれた偽怪盗キッドの正体は天才マジシャン『真田 一三』だった。
「皆様!怪盗キッドの哀れな末路を演じてくれた彼に盛大な拍手を!」
その言葉を受け、修斗も咲も拍手を送るが、内心は二人して呆れていた。まさかこんな事の為に呼ばれたのかと、正直彼の優しさに涙さえ浮かびかけた。
「ふむ、なるほど。怪盗キッドはマジックの名手。まさに適役ってわけか」
「ふっ、確かに彼も私も人の目を欺く芸術家ですが、私は根っからのマジシャン。泥棒が本職の彼には負けませんよ」
一三はそう言いながら素早く正装に着替え、ステージへと向かう。そこでマジックを見せる為に。しかしコナンはそれを気にしていられない。彼はかの怪盗キッドと初めて会ったあの屋上での時、その彼から言われた言葉を思い出していた。
ー怪盗は鮮やかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが……、探偵はその跡を見て難癖つけるただの批評家に過ぎねえんだぜ?ー
その時、コナンは怪盗キッドの気配を感じ、辺りをキョロキョロと見渡しだす。その間にもマジックが始まる。最初はカードマジックからだったが、拓也がその時点で疑い、彼がカードを切り始める。
(どいつだ?どいつが怪盗キッドなんだ?くっそ!どいつもこいつも怪しく見えてきやがる!……せめて奥さんが言ってたあの言葉の意味が分かれば……)
この時点でコナンは修斗の事も疑っていた。だからこそ、彼は修斗に疑問をぶつけない。そして修斗もそれを理解しているからこそ、コナンには話しかけない。疑うなら疑問が解けるまで、疑い続ければいいと、そう思っているからだ。
そんな時、カードをシャッフルしていた園子の姉の婚約者『富沢 雄三』がトランプを落としてしまった。
「す、すみません!」
「大丈夫ですよ。カードを落としたぐらいじゃ私の月は落ちませんから」
その言葉はコナンに問いの答えへの引っ掛かりを与えた。そしてその答えへの道を探る為、小五郎から参加者リストを読み始めた。その時、ある事に気付きそれを返すと、今度は修斗達に近付いた。
「ねえ、修斗お兄さん」
「ん?なんだ?」
「僕さっき小五郎のおじさんに頼んで参加者のリストを見たんだけど、咲ちゃんの名前が載ってなくて、載ってたのが『瑠璃』さんの名前だったんだけど、どういうこと?」
それに修斗はそう言えばそうだったと思います。
「ああ、元はここに来るのは俺と咲じゃなくて、俺と瑠璃だったんだ。もっと言うなら瑠璃でもなくて梨華だったんだがな?彼奴は予定合わなくて。で、瑠璃も直前になって別件で呼ばれて、急遽咲になったんだ。それを主催者に説明してなくて、船に乗ってようやく説明したんだ。乗客名簿が変わってないのはそれが理由なのと、あの奥さんからの言葉が原因だな」
「なんて言われたの?」
「確か、『妹さんが刑事なら仕方ない。名前はそのままで空いた席には彼女を入れましょう』って」
「そっか!ありがとう!」
その時、カードマジックは終盤に差し掛かっており、一三が白鳩を手から出し、ダジャレで『ハートのA』を引くと予想した。そして園子が右のカードがいいと言い、それをそのまま蘭が引いた。勿論、誰もが最高と疑わない中だったが、しかし異常事態が発生した。
その引いたカードに怪盗キッドからのメッセージが書かれていたのだから。
「え?」
そのメッセージには『クレオパトラに魅了されたシーザーのごとく、私はもう貴方のそばに 怪盗キッド』とあった。その言葉は全員に知れ渡り、相方との合言葉の確認が始まる。修斗と咲はそもそも設定してなかったので確認は必要としなかった。むしろこれで確認してきたら怪盗キッドである。
そこから少し経てども場は収まらない。しかし今この船は洋上の上。しかも怪盗キッドの脱出としてよく使われるハンググライダーを使おうものなら、ヘリコプターが素早く察知し逃げられない。既に監獄と変わらない状態なのだ。そんな状態だからこそ、朋子は余裕を崩さない。そしてあと30分で東京港に入港する事になる。そんな時、蘭の黒真珠がなくなっていた。それが転がっていくのに気付き、拾うように声をかけた。それに気付いた男性客がそれを素手で拾おうとした時、真珠が爆発した。それに修斗達も気付き、辺りを見渡せば自分達の周りにも既にばら撒かれていた。
「……さて、こっからはお手並み拝見とするか」
「なら、何もしなくていいんだな?」
「ああ」
それに咲が頷きを返すと、今度は怖がる素ぶりを見せて修斗の足に懐く。
「お、お兄ちゃん……」
「安心しろ。その真珠は爆発しないから」
修斗はそれが爆発しないと理解しているし、咲もそれを理解している。しかし周りは違う。既に周りはパニックに陥っていた。そんな時、朋子が客の一人に当たり、尻餅をついてしまう。それを蘭が助け起こした。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう蘭ちゃん」
と、そこで園子がある事に気づいた。
「あれ、ママのも無くなってるわよ?黒真珠」
「え?」
それが聞こえ、コナンはニヤリと笑う。そして同時に朋子が叫ぶ。
「きゃー!キッドよ!キッドにブラック・スターを盗まれましたわ!」
「なにっ!?じゃあ奥さんが着けていたのが本物のブラック・スター……」
その間も客達が扉に押し寄せ、遂に刑事達では抑えきれなくなり、客のほとんどが扉から出てしまった。そしてその客の後を追い刑事達が出て行ったのを見て、コナンが蘭の手を引き出ようとする。勿論、それを蘭は止めるが、コナンが怪盗キッドの正体が分かったといえば、その後に着いて行き、辿り着いたのは機械室。そこでコナンがサッカーボールでリフティングを始めながら推理を話し出す。
「ねえ蘭姉ちゃん?宝石言葉って知ってる?」
「宝石言葉?」
「真珠の宝石言葉は『月』と『女性』。船に乗ってるお客さんの中で『月』の名前の女性は鈴木朋子さんだけ。つまり、本物はあの人本人が持ってたってわけさ!」
「へー。あ、でも、船で会ったあの咲ちゃん……だったかしら。あの子の苗字にも『月』が入ってるわよ?」
「僕、修斗にいちゃんから直に聞いたんだ。お客さんの名簿の中に、咲ちゃんの名前がないのはなんでって。そしたら、本当は修斗にいちゃんの妹の瑠璃さんが来るはずだったのが、直前になって別件の事件で出られなくなっちゃって、急遽咲ちゃんが来たんだって。その事を朋子さんに伝えたのは船に乗船した後。しかも朋子さんからは名前は変えずに、空いたところに咲ちゃんを入れるよう伝えられたから、彼女は今は『北星瑠璃』として乗ってることになる。つまり、彼女は条件に当てはまらないんだ」
「へー。でも、それでなんでキッドの正体が分かっちゃうの?」
「カードだよ。ほら、蘭姉ちゃんが引いたカードにキッドのメッセージが貼ってあったでしょ?」
「う、うん」
「アレは右手で出した鳩に客の目を引きつけてる隙に目当てのカードにすり替える初歩的なトリックなんだ。だからカードを彼に渡す前に、誰がどうカードを切っても引くカードは決まってるって訳なんだ」
「じゃあそのカードにメッセージが貼ってあったって事は、まさか怪盗キッドの正体はあの真田ってマジシャン!?」
それにコナンは否定を返す。違う理由は朋子さんに近付いていないから。しかもコナンがずっと見ていたのだ。他は兎も角、コナンの目は誤魔化せない。
「じゃあ誰なのよ?」
蘭は急かすように聞くと、コナンはもう一人カードをすり替えられた人がいると言う。そう、それはカードをワザと落とし、カードを拾うフリをしてメッセージを貼り付け、それを掌に忍ばせ、あたかもカードの束から引いたように見せかけれた人物。
「だよね?蘭姉ちゃん?……いや、怪盗キッドさんよ」
それに蘭はあり得ないという顔をする。誰でもそうだろう。自分が犯罪者だと言われているのだから。
「そう、お前が蘭とすり替わったのは蘭が俺を探してパーティー会場を出た時だ。見事だぜ、全く気付かなかったよ」
コナンはそう『彼』を褒める。それに否定を返さずに聞き続ける蘭。
『まんまと蘭とすり替わったお前は、例のメッセージで客を動揺させた上に黒真珠をばら撒いてパニックに陥れた。そして混乱に乗じて本物のブラックスターを奪い取ったんだ。奥さんの体を支えるフリをしてな」
コナンは鋭い視線を『彼』に向け続け、言葉を続ける。
「あんな花火を用意してたって事は知ってたんだろ?奥さんが模造真珠を沢山作らせてた事を」
そこで蘭は笑顔を浮かべて否定する。
「やーねー!冗談はやめてよコナンくん!私、どれが本物かなんて知らなかったよ?キッドなんて聞いてなかったし」
「ふっ、ヒントなしでもお前にはアレが本物だって分かってたはずだ。奥さんが手袋をして小箱から黒真珠を取り出した時点でな」
真珠の主成分には炭酸カルシウム、酸に侵されやすいのだ。そう、もしそのまま指で触ろうものならその油で酸化され、表面の光沢が失われてしまう。
「まあ、中には知ってた人もいたみたいだが?」
その言葉で思い出すのは拓也が胸ポケットからハンカチを取り出し、偽物の黒真珠を掴んだ時のこと。勿論、修斗自身もそれは知っていることだが、本人は偽物だと理解していた為に敢えて素手で触っていた。怪盗キッドもそれは分かっていると理解した上での行動だったのだ。
「そんなデリケートな宝石を、他人に預けるわけがないってことさ」
「でもそれだけじゃ……」
それでも『彼』は足掻くが、コナンは止まらない。
「確かにそれだけじゃ不十分だが、奥さんが着けていた冴えない真珠のことを重ね合わせれば、推測は確信になる。ーーーそう、有名博物館に展示してある昔の真珠が、いずれも色褪せてしまっているように、真珠の光沢寿命は精々数十年。60年前に購入されたブラック・スターが今もなお美しい姿であるわけがない。そんな色褪せた真珠を手袋をして大事そうに扱う奥さんの姿を見れば、一目瞭然ってわけだ」
確かに朋子はずっと手袋をし、ブラックスターを取り出したあの時でさえ、大事そうに扱っていた。雑に扱った修斗とは真反対の扱いだ。
「ふっ、情けない話だぜ。お前の存在に気を取られていてすっかり忘れてたよ」
「でも、米花博物館のブラック・スターはキラキラ輝いていたような……」
そう、彼らが予告日前日に見に行った時、確かにブラック・スターは輝いていたのだ。
「だから取らなかったんだろ?偽物だと知ってたから。そして二度目の予告状で奥さんを挑発し、本物を持ってくるように仕向けたんだ」
そこで思い出されたのは2枚目の予告状。其処には『4月19日 横浜港から出航するQエリザベス号船上にて本物の漆黒の星をいただきに参上する 怪盗キッド』と書かれていた。そう、『本物の』と強調したのだ。『偽物』だと見抜いているぞ、と伝えたのだ。
そこで蘭が自分をそんなに疑うなら警察の人を機械室に呼ぼうとするが、そこでコナンが既にキック力を上昇させた状態でサッカーボールを蹴り、そのコントロールは抜群なまま内線電話を壊した。その威力に目を見開く蘭。そんな『彼』に不敵な笑顔を浮かべて見据えるコナンは投げかける。
「ふんっ、ビルの屋上で消えた時と同じ手は使わせねえよ!あの時、お前が警察を呼んだのは俺への当てつけじゃない。ハンググライダーで今にも飛ぶかのように見せかけて、閃光弾で素早く警官に扮し、彼らの中に紛れ、姿を隠す為だ。……それに、この場に人を呼ぶなんて野暮な真似はナシだぜ。こっちはこの警戒の中、たった一人で乗り込んできた犯罪芸術家に敬意を評してサシの勝負を仕掛けてやったんだからよ」
コナンはバチバチと電光を走らせた靴を履き、サッカーボールを足で踏んだまま、警戒を解かない。動けばその強大な威力を持つサッカーボールが飛んでくることは明白だ。
「優れた芸術家は死んだ後に名を馳せる。ーーーお前を巨匠にしてやるよ、怪盗キッド。監獄という墓場に入れてな」
そんなコナンを見据え続けた『彼』は蘭の顔のまま不敵な笑みを浮かべ、両掌を上げて降参を示す。その掌の中には黒真珠があった。
「ふっ、参ったよ。降参だ。この真珠は諦める」
そう蘭の姿のまま男性の声が出る。そう、彼は本当に降参したのだ。もう騙すことは出来ないと。
「奥さんに伝えといてくれ、パーティーを出しなしにして悪かったって」
そう言ってハンカチで黒真珠を包み、投げ渡す。それをコナンは不敵な笑みを浮かべたまま受け取った。
「今更何を……」
「ああ、そうそう。この服を借りて救命ボートに眠らせてる女の子。早く行ってやらねえと風邪引いちまうぜ?」
そう言って彼は赤いドレスの胸元を開き、其処から女性物の下着を取り出し、ウインクを飛ばす。
「俺は完璧主義者なんでね」
それを聞き、しかもその下着も一部だが見せられて、コナンが思い浮かべたのは産まれたままの姿の蘭。その創造の時点で顔を赤くした。そんなコナンを見てニヤッと笑うと黒いサングラスを掛け、閃光弾を使い、逃げ出した。その後を追おうとするコナンだったが、後ろに放り投げられた衣装に気付き、怪盗キッドに恨み言を投げかけながらその衣装を持ち運び、救命ボートまで急ぐ。そして救命ボートに着けば既に刑事3人が救命ボートの中を見ていた。
「ああっ!ちょっと待って!!」
コナンは頬を赤らめながら待ったをかけるがしかし動きは止まらない。そのまま蘭は姫抱っこで出された。しかも、ちゃんとドレス姿のまま。それにコナンは驚き、自身が持っているドレスを見る。そして蘭の胸辺りにつけられていたメッセージには『先日、お預けいただいたこの真紅のドレス。とてもよくお似合いですよ。 ある時はクリーニング屋の怪盗キッド』とあった。そう、つまり彼女に元から変装するつもりだったらしいキッドが、同じドレスを用意しただけ、なのだった。
「やろー……」
コナンが慌てた意味はなかった。勿論、彼女が風邪を引くこともない。
その後、怪盗キッドのハンググライダーは発見されたが、怪盗キッド本人は見つからなかったのだった。