彰達が米花シティビルへと辿り着けば、其処には既に多くの野次馬がおり、ビルの近くでは重症患者を救急車に急いで乗せ、軽症者はその場で治療する姿が見えた。
周りの野次馬を見渡しながら小五郎の娘である蘭と、先に来たはずのコナンを探す。しかし、二人の姿は何処にも見つからなかった。
「らーん!どこだ!らーん!!蘭……くっそ!」
「待て!」
彰が声を掛け、小五郎の隣で燃えているビルを見上げる。既に消防車は消化活動を開始しているが、その火が収まる気配は一向にない。そんなビルを見ていると、隣の小五郎は目暮の胸ぐらを掴んだ。
「警部!救助隊はなにをしているのですか!?」
「落ち着け!毛利くん!落ち着くんだ!」
「そうだ、落ち着いてくれ!頼むから!!」
彰も目暮とともに小五郎を落ち着かようとするその姿の後ろでは、白鳥が森谷をパトカーに乗せて現場まで来ていた。その森谷はというと、パトカーから降りて燃えるビルを見上げると、嬉しそうに笑う。
***
その頃のコナンはといえば、既に崩壊寸前のビルの中へと入っており、蘭の元へと急いでいた。そして走れる道を見つけて走り、道を塞ぐように落ちている瓦礫とかした柱さえ飛び越えるようにして進み、階段を登る。その途中でまたも柱が崩れ、それが運悪くコナンが通った時だったのだが、怪我もなく通り抜けた。そして映画館の非常口前まで来ると其処で変声機を使って工藤の声を出し、映画館の電話へとコールを掛ける。そしてそれは4コールほどして取られた。取った主は蘭だった。
『もしもし?』
「蘭か?」
『新一?』
「良かった。そっちの電話は切れてねぇようだな!」
『何してたのよ?いつも肝心な時にいないんだから……いつも……いつも……』
その声が涙声だったのを聞き、コナンは目を伏せる。
『分かってるの?私がどんな目に遭ってるのか……』
そこでもう一度前に顔を向ける。
「ああ、知ってるさ。瓦礫に塞がれた非常口のすぐ前まで来てるからな」
その声に、映画館の中にいる蘭は非常口の方に顔を向ける。そう、蘭が会いたくて仕方なかった『彼』は、今非常口前にいるのだ。子供の姿になってしまっているが、それを蘭は知らない。
「此処までくるのに、瓦礫の隙間を抜けて来られたけど……爆発のショックで、ドアが変形したらしい。どうしても開けることができねえんだ」
コナンは此処まで来るまで全力だったのもあり、そして其処までの命の危機もあってか、息を切らしながらも電話越しの蘭にそう伝える。そして、特に一番大事な話を伝えだした。
「ところでよ、アタッシュケースとかトランクとか、変なものないか?」
その言葉に蘭は左右を見て探すと、近くの椅子の後ろに置かれた紙袋を見つける。そこで電話を切らずに置き、目に浮かんだ涙を拭いながらそれに近づき、中を見る。その中にはデジタル画面でタイマーが刻まれた鉄の塊だった。其処には約42分と映されている。
それを蘭は電話口の近くまで運び、それを一度置くと電話口を取る。
『何なのこれ?すごく重くて大きいよ?デジタルの時計みたいなの付いてる』
「気を付けろ!其奴は爆弾だ!」
その言葉を蘭はつい大きめな声で復唱してしまい、中の人を怖がらせてしまった。しかしそんな中の状況などコナンは気付かない。
(くそっ、教授め……やっぱり一番デカイ奴を此処に……)
其処で蘭に時間を聞けば、蘭は『42分7秒』と答えられた。
(爆発まであと42分か……爆発は00:03分か)
そのまで考えてフッと教授の言葉が浮かぶ。
ーお前の為に3分間つくってやった。ジックリ味わえー
その言葉の意味が一体何なのか、コナンは分からなかった。
***
修斗はこの騒ぎを邸にてテレビ越しに見ていた。それも他の兄妹である雪男と共に。雪男の双子の妹、雪菜はそんな雪男の膝を枕にすやすやと寝ている。
「……これ、修斗兄さんは森谷教授がやったって言ってたよね?」
「ああ……。雪男からして、森谷教授の心理はどう思う?」
その言葉に雪男は目を瞑って考え出す。
「そうだね……やっぱり森谷さんはどうしてもビルを壊したかったのもそうだけど、それと共に工藤新一も抹殺したかった。だから餌としてその彼女である蘭さんという人が来る事を知っていたこの日に爆弾を仕掛けた……ってとこかな?まあ、僕はその森谷さんを直に見たわけではないし、修斗兄さんから聞いた話から推測した考えだけどね。そこまでの相当な憎悪が見えるようだよ」
雪男が息を一つ吐き出し寝ている雪菜の頭を撫でれば、修斗はそれに頷く。
「まあ、そんな所だろうな……実際、アレを抹殺する『だけ』なら、なにもこんな日を狙わなくともいつでも出来たわけだしな。それも、火薬を盗み出し、爆弾を作ったその日でも良かったわけなんだから」
修斗が紅茶を飲みながら言えば雪男は頷く。
「……ところで、こんな事が起きたんだからやっぱり兄さん達は?」
「まあ、帰って来れないだろうな。確実に」
その言葉に、雪男はテレビの向こうにいる兄か姉、もしくは両方に向けて可哀想なものを見る目を向けた。そんな目を向けられているとは知らない彰はと言えば、救助隊の隊員から報告を受けていた。
「どうだ?」
「ダメです。どの階段も瓦礫で埋まっていて、人が閉じ込められている5階のロビーにはもう少し時間が掛かるかと……」
その言葉に彰は表面上は冷静さを保っているが、内心は焦るばかり。
「 (くっそ!このままだと死者が出てしまう!けど、俺は救助隊じゃない。今出来ることは祈るばかり……)
そう思えば自然と森谷に視線が向いた。
(それもこれも、この人が……!)
その視線に気づいた森谷は彰を馬鹿にする様に笑ってみせた。
***
(あと18分……もう時間がねえ)
コナンが腕時計で爆発までの時間を見ると、もう余裕はなかった。そこで彼は覚悟を決める。その覚悟を持って蘭に動いてもらう為に声を掛けた。
「おい蘭!お前、ハサミとか持ってないか?」
新一での声でそう聞けば、蘭からはソーイングセットのハサミならあると言われた。
『でも、そんなの使ってどうするのよ?』
「……オメーが解体するんだよ。爆弾をな」
その言葉に蘭は驚きを露わにした。しかし誰でもそうだろう。一般人であるにも関わらず、爆弾を解体するなんて体験をするなんて人生でそうない体験だ。むしろ爆弾解体処理班といった警察関係者でない限り、一度も体験することなんてないだろう。それをこの蘭は今から、しかも一歩間違えれば死んでしまうこの状況で、しろと言われているのだ。
「いいか?俺のいう通りに……」
コナンが紙を取り出しながら指示を出そうとするが、蘭がそれを止める。それは無理だという言葉を返すのかと思えばそうではない。彼女は新一を信じている。だからこそ、爆弾を解体する事を決めたのだ。
『待って。電話をしながらじゃ上手く切れないよ。今そっち行く』
それに今度はコナンが待ったを掛け、一度紙を詳しく見ると、振動を感知して爆発する様な仕掛けはない事を確認すると、そっと持ってくる様に指示し、それに是を返す蘭。そして電話を切り、爆弾を非常口の扉前まで持って行き、声を掛ける。
「聞こえる?新一!」
「ああ、よく聞こえるぜ!」
「袋、破るよ?」
「気を付けろよ」
その言葉を聞いたあと、袋を破れば時間は16分20秒となっていた。蘭はそれを見て少しの恐怖を感じたのか小さく息を吐き出す。しかし新一が声をかければ、蘭は平気だと返した。そう、今の彼女は一人ではないのだ。隣にはいないが、扉の一枚越しに、彼女の背中に、最も頼りになる彼ーーー工藤新一がいるのだから。
彼女はソーイングセットからハサミを取り出し、準備が終わった事を知らせる。それを聞き、コナンは爆弾解体を始めた。
「よし。先ずは外側のカバーを外そう。上に持ち上げれば外れる。そっとだぞ?」
蘭はそれに頷き、カバーを外す。そして何も起きない事を知り、彼女に微かな笑みが浮かんだ。
「外したよ、新一」
「よし、良いぞ。これから中の配線を切っていくからな。……順番を一つでも間違えたらお陀仏だぞ」
その新一からの緊張を持った声に蘭は目を見開き、そして責任の重大さにもう一度気付き、気合いを入れる。
「最初は、下の方にある黄色いコードだ」
蘭はその指示を受け、切ろうとする。しかし、直ぐには切れなかった。一歩間違えれば死ぬ境界線だ。切ることを確認すると、新一からのOKが出る。それを聞き、今度は迷いなく切れば、それがどうやら別の場所の爆発スイッチになっていた様で、エスカレーター付近が爆発。さらに救助隊の突入が困難になった。
それを外で見ていた彰は悔しそうに見ているそばで、小五郎が目暮に詰め寄る。
「警部!まさか蘭は……」
「落ち着け毛利くん!あそこは蘭くんがいるところとは違う場所だ!」
それを聞いても小五郎は安心出来ない。当たり前だ。次はもしかしたら彼の娘がいるところが爆発してしまうかもしれないのだから。
そんな毛利の様子を楽しげに笑い見る森谷。
「安心しろ。あんたの娘が吹っ飛ぶまであと15分もある」
その言葉に、ついに小五郎はキレた。
「貴様ァ!言え!どうやったらその爆弾は止まるんだ!」
その鬼の形相な小五郎に、森谷は余裕淡々と返す。
「アレは特殊な爆弾でな。例え彼が解体出来ても、最後の一本が運命を分ける。……最後の一本がな」
その言葉に小五郎は目を見張る。それはつまり、最後の一本に問題があるということで……。
「あんた、本当に血も涙もないのか!!」
彰も此処で遂にキレ、今度は彰が彼の胸ぐらを掴む。一発ぐらいぶん殴りたいのか拳を力強く握っているが、最後の理性の一本が彼のそんな行動を止めていた。
「ふんっ。慈悲は与えてやっているだろ。工藤新一の最期の誕生日を3分だけ味あわせてやるんだからな」
「……はっ?」
彰にはこの森谷の言っていることが分からなかった。この上から目線が常の男の言葉の意味を、彼は正確に受け取ることが出来なかったのだ。
「……あんた、何言ってるんだ?」
「工藤の誕生日なのだろう?5月4日は。彼奴のガールフレンドが言っていたぞ?そんな奴が死ぬその瞬間に誕生日が来ては可哀想だからな。私からの慈悲だよ」
「……あんた、一片、慈悲の言葉を学び直してこい……クソ犯罪者が!」
「彰くん!君も落ち着きたまえ!!」
彰が危なく殴り掛かろうとすれば、それを目暮が森谷と引き離し、拘束することによって止めた。
「離してください警部!」
「いいや、離す訳にはいかん!此処は我慢だ彰くん!!」
目暮の言葉は彰の中に残ったほんの少しの理性に届いた様で、殴り掛かろうとしたその拳を解き、力が入っていた体からも余分な力が抜けたことを理解し、目暮は彼の拘束を解いた。
***
一方その頃、随分と爆弾の解体が進み、丁度緑のコードを切ったところで蘭は詰めていた息を吐き出した。
「……切ったよ」
それを聞き、指示をしていたコナンもまた、息を吐き出した。あと少しで終わり、生還することが出来るからだ。
「よし、なんとか間に合いそうだ。あとは残りの黒いコードを切ればタイマーは止まる」
それを聞き、蘭は黒いコードを戸惑いなく切った。こうして爆弾テロは解決した。
ーーーそうなる筈だった。
コードを切って少し経つが、タイマーが止まる様子はない。それに疑問を持つ蘭は新一に問い掛ける。
「新一?黒いコード切ったけど、止まんないよ?タイマー。……それにコードはまだ二本残ってるよ?赤いのと青いの」
それにコナンは目を見開き、扉の向こうへと目を向ける。
「なんだって!?」
コナンがこんな反応になるのも仕方がない。彼が持つ爆弾の設計図にはそんなもの、何処にも描かれていないのだから。
***
その頃、救助隊からの連絡を受けていた目暮は、爆発までの時間を確認し、焦りだす。そんな目暮の隣にいた小五郎はフラフラと燃え盛り、壊れていくビルの方へと歩きだす。その見た目からは魂が抜かれている様で、既に正気ではない。急いで白鳥と彰が止めに入る。
「毛利さん!!」
「待て!危ないから下がれ毛利さん!!」
「蘭!蘭、今行くぞ……!」
「毛利さん!何処に行くんです毛利さん!!」
「離せ!離してくれ!!蘭を……蘭を助けるんだ!」
「馬鹿野郎!!今俺達に出来ることはない!!悔しいだろうがあんたまで危ない目に合わせる訳にはいかないんだ!!堪えろ!!レスキュー隊の奴らが助けてくれると信じろ!!!」
「蘭!!ラァァァァン!!!!!」
小五郎のその悲痛な叫びが辺りに木霊する。それを後ろから見ていた森谷は滑稽そうに見ているだけ。
「哀れな父親の娘への愛か。建築にも愛は必要だよ。……人生にもな」
***
コナンは設計図を見ているが、やはり残り二本のコードなど何処にも書き記されていない。
(まさか教授、俺をはめる為にワザと設計図に二本のコードを書かなかったんじゃ……!)
もう此処までくればその答えに辿り着く。此処まですべて、教授の思惑通りだったのだと。
「どうする?二本とも切っちゃう?」
蘭のその心配そのものをしていない、新一を信じ切った声にコナンはすぐに反応する。
「馬鹿野郎!!片方はブービートラップだ!切った瞬間に吹っ飛んじまうぞ!!」
「そ、そんな……」
そう、蘭は信じ切っていたのだ。タイマーは止まらずとも、このまで新一の指示通りにしてきた。もう爆発はしないだろうと。そう思おうとしていたのだ。しかし、現実はそこまで甘くない。彼女もコナンも困り果てる。そんな間にも時間は無情にも過ぎて行く。
(くそっ!どっちだ?……赤か、青か。一体どっちを切れば!!)
そこでビルの近くに建てられていた時計塔の鐘が鳴り響く。それは日付が変わった合図だ。それを聞き、時計塔を見上げながら余裕そうに笑う森谷。しかしそんな彼の姿を中にいるコナンは知らない。想像もしていない。そんな余裕は彼の中からもう既に無くなっていた。
「0時。あと3分か……。くそ!どっちだ!どっちなんだ!!」
コナンは既に自分の声が蘭に聞かれている可能性さえ頭になかった。この時、蘭もそんな事を気にしている余裕がないから良かったものの、普段の彼女なら気になった事だろう。そんな余裕がないままながら、蘭は「新一」と彼の名を呼ぶ。それにコナンはすぐに変声機を使って応答すると、こんな時にも関わらず、蘭は場違いな言葉を投げかける。
「ハッピーバースデー、新一」
それにコナンはまた反応するが、蘭はそれに気付かず、続ける。想い残しがない様に。
「だって、もう……もう、言えないかもしれないから」
(蘭……)
そこでまたビルが揺れる。しかし、そんな事を扉を隔てたまま会話していた二人は気にしない。コナンはこの時、覚悟を決めた。
「……切れよ」
ーーー死ぬ覚悟を。
「好きな色を、切れよ」
新一の声のまま蘭にそう伝えれば、蘭は戸惑いの声のまま聞き返す。
「で、でも、もし外れてたら……」
「ふっ、構いやしねぇよ……。どうせ時間がきたらお陀仏だ。だったら、オメーの好きな色を」
「で、でも……」
ここまで会話をしている間に、残り2分を切っていた。
「心配すんな。オメーが切り終わるまで、ずーっとここにいてやっからよ」
その言葉に、蘭は安心した様に笑う。心細かった思いも、全て彼の言葉のおかげで拭い去った。しかし、そんな二人を邪魔する様に崩壊が進み、蘭とコナンの頭上も崩れ、二人とも扉から離れなければいけなくなった。その時、コナンの携帯も壊れてしまった。つまり、これで本当に連絡手段が閉ざされてしまったのだ。あとは蘭の意思次第、選択次第となった。
蘭は爆弾を床に置き、新一に赤と青、どちらの色が好きかと問いかけた時の事を思い出す。そう、それはあのガーデンパーティーが行われる日よりももっと前、彼女が工藤新一宛に来ていた森谷邸のガーデンパーティーの招待を代わりに行ってくれないかと、本人から頼まれたその時に聞いた質問。その時、彼は少し戸惑いながらも赤と答えた。それは蘭が好きな色で、その色を彼も好いている知りとても嬉しくなり、上機嫌となった事を覚えている。そう、こんなことになるとも考えていなかった時の話だ。そしてそのまま次に思い出すのは、蘭と新一、二人のラッキーカラーが赤色だと毛利家でコナンと小五郎に嬉しそうに話した時の記憶。そう、二人のラッキーカラーは赤色。彼と蘭が好きな色。そんな彼のためにと買った誕生日プレゼントのポロシャツも赤色で、そんな彼とのデートの為にお洒落に決めてきた上の服も赤色ーーー。
そこで蘭は切る色を決め、覚悟を決めた。
そんなこと知る由もないコナンの方は、蘭へと新一の声で呼び掛けるが返事はない。そこで彼女が離れてしまい聞こえない事を悟ると悔しそうに表情を歪める。そこでまた携帯電話で彼女との連絡を試みようとしたが、しかしその携帯電話は無念にも彼が避けた時に落とし、降ってきた瓦礫に潰されてしまっていた。と、そこで漸く救助隊が到着。一番前にいたレスキューの人が後方へとコナンの事を知らせれば、安心させる様に声を掛けてくる。
「もう安心だぞ、坊や。さあ、行こう」
そこで彼を抱き上げたレスキュー隊員の男性。しかし、コナンは其処で待ったをかけ、中にまだ人が閉じ込められている事を説明する。それに男性は驚き、一度コナンを下ろすと直ぐに助けるために扉へと体をぶつける。しかし、開く様子はない。なぜなら扉は爆発の影響で変形してしまっているのだ。そこで直ぐに鑿岩機の用意を伝えれば、男性は少しの不満を零す。
「今日は結婚記念日だってのに、これはゆっくり味わえそうにないな……」
その言葉でコナンは気付く。森谷の言葉の意味はコナンに自身の誕生日を三分間味わえという意味だと。そしてそれと同時にガーデンパーティーの時の事を思い出す。そう、彼女は犯人である森谷に話してしまっていたのだ。今日この日のことを。そして、彼と彼女のラッキーカラーの事をーーー。
そこまでいけば、コナンは気付いた。『赤』は罠であり、森谷は彼女が赤を切ることを予想していた事を。
そこでまた崩落が始まり、男性はコナンを抱えて脱出をしようとした。しかしコナンはその腕の中で暴れ、強引に脱出すると扉の前まで急ぎ、叫ぶ。
「蘭!赤は罠だ!赤を切っちゃいけねぇ!」
しかし彼女は返事をしない。彼は気付かない。彼女が扉の前に行けない事を。向こうの扉は既に瓦礫で塞がれてしまっている事を。だから彼女は返事も出来なければ近づくこともできない事を。
「蘭、どうした!返事をしろ!!」
そんな声を掛けられている蘭は爆弾を目の前にし、時間を見つめる。既に時間は残り30秒となっていた。それを確認し、鋏を近付ける。
コナンはレスキューの男性に抱えられながらも何度も彼女の名を叫ぶ。そうして彼女を残してしまう事になりながらも、叫び続ける。高校生の時ならまだ抵抗出来ただろうが、今の彼は小学生。子供がいくら抵抗しようと、大人の力と体格には勝てない。その叫びは無情にも崩壊していく瓦礫に消されてしまう。
外では小五郎と彰達が絶望し始めた、森谷が嬉しそうに笑う。もう直ぐ爆発し、彼の憎き相手である工藤が蘭を置いて逃げるわけがない。彼女共々死ににいくと確信しているのだから仕方ない。まさか誰も、その彼が小学生の姿になっているなど、予想していないのだ。
時間は残り10秒を切る。そこで蘭は最期の言葉を頭の中で、新一に向ける。
(ーーーさようなら、新一)
そして彼女はコードを切る。そう、誰もがこの時、予想した。蘭とコナン、森谷は間違ったコードを切って爆発してしまうと。刑事と小五郎は時間がきて爆発すると。
ーーーしかし、誰もがしたその予想は、全員ハズレとなった。
爆発する様子が全くない。誰もが信じられない様子だったが、これは現実だ。生き残れたのだ。
爆発まで残り2秒を残し、蘭は青のコードを切って生還出来たのだ。これに森谷はあり得ないという表情を浮かべる。彼は彼女が自身のラッキーカラーを切ると、そう信じ切っていたのだから。
(ば、馬鹿な……!)
その後、映画館の中にいた全員が救助された。中には恋人が閉じ込められていた人もいたようで、その二人が互いに安心したのか抱き合うその様子を、報道関係者が映し出す。そんな場面の裏で、小五郎が蘭の生還に心から喜び、泣きだす。それに目暮と彰も嬉し、蘭はそんな父を呆れたような目で見ていた。
「いやぁ!本当に蘭くんが無事で良かったなぁ!毛利くん!!」
「はい!ありがとうございます!」
「いや、俺らは何もしてない。頑張ったのは彼女だ」
そんな時、報道陣が小五郎を見つけ、彼にインタビューの為に雪崩れ込んできた。そのインタビューを受ける小五郎から離れ、蘭は急いで新一を探し出す。しかし、彼は何処にもいない。と、そこで蘭はコナンを見つけ、駆け寄る。
「コナンくん!心配して来てくれたんだ!」
「うん、まあね」
そこで蘭がコナンの頭に巻かれた包帯に気付き聞けば、コナンは子供らしく『転んだ』と言い訳する。そしてそれを信じた蘭は気をつけるように注意する。そして蘭はコナンに問い掛ける。
「ねえコナンくん!新一見なかった?」
それにコナンは辺りを見渡すそぶりを見せながら「さっきまでいたのに」と言い訳をすれば、蘭は困った様子を見せた。
「もうっ。折角プレゼント買ってきたのに」
そこでコナンは一番の疑問をぶつけた。
「そういえば、新一兄ちゃんが不思議がってたよ?『蘭なら絶対に赤いコードを選ぶと思ってたのに、なんで青いコードを切ったんだろ?』って」
それに蘭は困ったように笑いながら答える。
「だって、切りたくなかったんだもん。ーーー赤い糸は、新一と、繋がってるかもしれないでしょ?」
その言葉にコナンは思わずといった声を小さく出した。
***
「ーーーで?オメーはどこまで予想してたんだ?今回のこの事件」
あの爆弾テロから時間が経ち、修斗の休み時間に合わせて二人が公園で待ち合わせをし、顔を合わせ、修斗がコナンにコーヒーを奢れば、そう聞かれる。それに修斗は同じくコーヒーの缶を開け、一口飲むと答えた。
「どこまで、ねぇ?……日付までは予想してなかったが、あの4軒の屋敷と橋、ビルを壊そうとしてた事、森谷さんが犯人だって事、最後のビルに特殊な爆弾を使うこと。そしてお前、もしくは彼女が爆弾解体の時に赤いコードを切ったら爆発するだろう仕掛けをする事までは予想してた」
「お前、マジでその勘の良さはなんなんだよ……」
コナンが修斗の顔を見ながら少し引き気味に言えば、修斗は心外そうな顔を向ける。
「おい、心外だぞ。俺だってまさかお前の誕生日前日で、しかもあの人がお前に恨みを持ってるなんて途中まで知らなかったんだよ。……いや、知った当初から調べてたらそこまで断定してただろうけど」
「お前マジでその頭の良さ、どうなってんだ……」
コナンがジト目で修斗を見れば、修斗は顔を逸らす。
「というか、あの人が犯人だなんて、どうやって気づいたんだ?」
「言っただろ?あの人が『探偵』に恨みを持っていると思ってたって。アレは、俺があの人が小五郎さんに向けた見下す様な視線を向けてたのに気付いて、そう思ったんだ。当初はただ小五郎さんへの挑戦をするのかと思ったけど、蘭さんがあの話をした時に、工藤の話にも食いついたからそう解釈してたんだが……」
「その段階からかよ。早いな」
コナンがそう言えば、修斗は顔を歪める。
「……まあ、いらん能力だけどな」
「それって小さい頃からの力なのか?」
「まあ、そうと言えばそうだな。けど、小さい頃はここまでズバリと当てられてたわけじゃないぞ?確率としては50:50だな」
「それが今じゃ100%かよ」
「まあな。あとは俺がそれをどう解釈するかによりけり、だな」
そう言ってコーヒーを飲み干す。そろそろ彼の休憩時間が終わりかけていたのだ。
「さて、他に質問はないか?」
「ああ、なら最後に一つ」
そこでコナンは修斗に鋭い視線を向け、修斗はそれに真摯に向かう。彼の中では何を聞かれるか、もう既に予想している事だからだ。
「お前、そこまで分かっていながら、なんで止めなかったんだ?」
「……」
「そこまで分かってたなら、幾らでも止めることが出来ただろ!?」
そのコナンの言葉に、修斗は溜息を吐く。
「……あのガーデンパーティーの翌日、実はあの人の屋敷に行ってたんだよ、俺は」
「……へ?」
コナンがその言葉に目を見開く。しかしそれを知らぬふりをして修斗は続ける。
「そこで俺があの人の計画を気付いていたこと、復讐するにしても人命を失わせるようなことをしないでほしい事を伝えた。止めろとまで言わなかったのは……悪いが復讐に対して俺も理解があるんでね、止めるに止めれなかったのさ」
その言葉にコナンの目が鋭くなる。しかし修斗は続ける。
「けど、だからと言って関係ない人の命まで奪っていい理由にはならない。そこだけはやめてくれと言った。けど、あの人は惚けやがった。『何のことだからサッパリだ』ってな」
「……」
「あの人が行動に移す前の話だ。証拠なんてない。変装だってどんな姿するかなんて分からん。だから詐欺師のように騙すことも出来なかった。あるのは俺のこの言葉だけ。警察に言った所で最悪、妄想が激しいとか判断されて精神科送り。屋敷内歩き回って何か証拠を探そうとしたって、あの人の監視の中じゃ証拠がある所は探させてもらえない。兄貴に言えば手伝ってもらえたかもしれないが、あの人に無実の罪を着せられたと言われて裁判起こされたら俺の負けだ。なにせ、事件が起こってないからな」
「……だから、オメーじゃ止められなかった」
「ああ。……世の中、そんなもんだよ?工藤新一くん?」
修斗が諦めた様な笑顔を浮かべてコナンを見れば、コナンは鋭い視線のまま修斗を見る。
「……例えそうだろうと、俺は絶対に諦めない。……絶対にだ!!」
「……お前なら、そう言うと思ってたよ」
修斗はそこで背を向け、空のコーヒーを後ろにある少し離れたゴミ箱へと投げ入れる。それは円を描き、見事ストレートで入った。
「だから……今後も俺みたいに諦めを覚えず、頑張って足掻いてくれ。……期待してるよ」
修斗は最後にコナンの頭を一度撫でると、後ろ手に振りながら去っていく。そんな修斗の後ろ姿にコナンは声を掛ける。
「ああ。オメーが例え、事件前にそんな風に諦めちまっても、俺は絶対に諦めない!絶対にだ!」
その宣誓の言葉に、修斗は嬉しそうに小さく笑みを浮かべたのだった。
本編中の修斗くんの行動を簡単に書けば、こんな感じですね。
ガーデンパーティー当日、森谷さんの狂気見ちゃった☆
↓
翌日、説得へ!しかし証拠がなくて諦めた!ごめんコナン!!
↓
そこから数日、忘れるために仕事に打ち込むが忘れられなかった……
↓
事件当日、書類仕事中に気分転換にテレビつけたら事件始まってた。「あれ、予想より早いぞ?」
↓
昼を過ぎた頃、コナンから連絡が!まさかの小五郎さんじゃなくてお前か工藤!そこで断定、からの考えの修正。個人的恨みかよ!
↓
ヒントを渡したあと、心配になってテレビつけてたら少しして爆発事件の内容が……。「彼奴、無事だよな?頼むから俺の分まで解決してくれっ!」
↓
その後に今度はノンストップ事件。「ついに事件の本番か……」
↓
ノンストップ事件解決!その後、書類捌きも終えて夕食後、広間でテレビを見てたら爆弾事件のニュース。ビル爆破の危機!(ただし3分の猶予があるなど予想外)
↓
事件解決。そして少ししてコナンからの電話。そして最後へ。
彼は確かに『異常』と言われる程のハイスペックな能力を持ってますが、出来ないことだってあります。調べたりしなければ予想や考えが外れることだってあります。彼の中で残った人間らしい一面です。
それでは!さようなら〜!