東方白天狗   作:汎用うさぎ

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前回投稿から1年……だと…!?
スランプも確かにあった、しかし一番の問題はモチベの維持という。
もはや忘れ去られているであろう作品を今頃更新。待っていてくれた人には謝罪と感謝を…。感想で更新待ってますの一言でモチベが再燃出来ました!本当にありがとうございます。
それでは本編、どうぞ


20.暴走

「夢符『二重結界』」

 

 膨大な霊力が霊夢を中心に膨れ上がり、二重の結界(囲い)を形成し、薄紫の透明な結界が天魔を取り囲む。

 

「これは…」

 

 妖怪が触れれば明らかに害になるどころではない結界をゆったりと見回し観察する。その表情は相変わらず冷めており危機的状況においても崩れる事はなく、どこかぼーっとしているようにも霊夢には見えた。

 

 それは重症を負っていても現れる強者の余裕か、取るに足らない些事であるとむざむざ見せつけられているようで…

 

 もはやその身を焦がすような憤怒を言葉にするのも億劫で、霊夢はギリ…と歯軋りしながら天魔を睨みつけ、高密度の弾幕を結界内に展開した。

 

 激流のような弾幕が狭い結界内を埋め尽くし、傍目から見ればもはや隙間など見当たらない程の弾幕で結界内が満たされているように見える。

 

 いや、実際に結界内は9割方殺意高めの弾幕がその猛威を振るっており、天魔はおろか霊夢の姿は確認出来ないほどだ。

 

 並みの妖怪では、抵抗すら許されずに消滅するであろう死の弾幕の渦中に天魔が閉じ込められる。

 

 それでもなお――

 

「私は見ての通り疲弊している。攻撃をやめてくれ」

 

 天魔は健在だった。

 

 天魔はその場から微動だにせず巫女の弾幕を避けていた。そして霊夢から見たら弾幕が天魔を避けていくように見えた。

 

(弾幕がギリギリでいなされてる…。簡単そうにやってくれるわね…)

 

 この弾幕は二重に張り巡らせた結界に相手を閉じ込め、狭い結界内を縦横無尽に逃げ回る事を強要する技だ。

 

 その大前提を天魔は不動で弾幕をいなすことで覆している。

 

 それに加えて弾幕を捌きながら悠々と口を開いて霊夢を挑発する余裕すらある。

 

(コイツ…言動全てが癪に触る…)

 

 異変を引き起こしといて被害者っぶってるコイツが気にくわない。萃香を圧倒した力を出さずに手を抜いてる事がイライラに拍車をかける。

 

「私に交戦の意思はーー」

 

「黙れ妖怪、アンタを退治()して異変は終わらせるわ」

 

「物騒な事を言う。少し頭を冷やしたらどうだ?」

 

「あぁ…ダメダメ、アンタを退治()してからじゃないと冷めないわ」

 

「恐ろしい巫女だ…」

 

 そういう天魔の言葉に『おぉ、怖い怖い』と煽る新聞記者の姿を幻視する。

 

 天狗とは人を煽らないと呼吸が出来ないゴミみたいな性格という誤った認識が霊夢の脳内に焼き付いていく。一部の天狗に関しては間違った認識ではないが、雪には当てはまらない勘違いが霊夢の怒りを助長する。

 

 

天魔の怒涛の煽り()で怒りのボルテージが青天井と化した霊夢は再び天魔を滅殺するべく殺意マシマシの弾幕を展開して襲い掛かる。

 

 

 

 

 

この時の霊夢の形相は鬼より怖かったと後に魔理沙が真顔で語っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢符『二重結界』」

 

「これは…」

 

 wow!結界で逃げ場なし、周囲を取り囲む妖怪殺す波動がビンビンな弾幕の嵐。

 

 Death or Die 雪さん大ピンチの巻。とか言ってる場合じゃぬぇ!!

 

 綺麗な弾幕で見惚れそう、でもその弾幕に込められらた殺意と妖怪滅殺ぱぅわーがヒシヒシと伝わってきてそんな余裕ないんですわ。

 

 なんでこの巫女さん私を絶対ぶっ殺すマンになってるの?馬鹿なの?アホなの?死ぬの?(私が)

 

 など言ってる間に弾幕(殺意の嵐)が私へ殺到する。バーゲンセールのおばちゃんの波に呑まれるが如く、私の姿は弾幕の海へと消える。

 

 くっ…能力で何とか捌けーーーいや無理無理無理無理無理ィッ!?アツゥイッ!ジュッていってる!!私の体から焦げるような音が聞こえちゃってルゥゥゥゥゥ!!

 

 感覚で言うなら傷口にムヒを塗られているようなヒリヒリで済まない大激痛が雪を襲っていた。

 

 表情にはつゆほども出てないが、いなしきれなかった弾幕が雪の体を蝕んでいく。

 

 着実に雪の体は妖怪にとって天敵とも言える霊力によって滅殺の時が近づいていく。

 

「私は見ての通り疲弊している。攻撃をやめてくれ」

 

 このままじゃ死ぬゥッ!と堪らず命乞いする雪だったが、その瞬間巫女の殺意が更に膨れ上がり見ただけで人を殺せそうな目で私を睨む。

 

「私に交戦の意思は――」

 

「黙れ妖怪、アンタを退治()して異変は終わらせるわ」

 

 え、えーっと…今巫女さんから普通聞けるはずのないワードが聞こえたような…?こ、殺す?退治じゃなくて…Kill you?!Destroyなの!?私殺されちゃうの!?

 

「ぶ、物騒な事を言う…少し頭を冷やしたらどうだ?」

 

 れ、冷静に話し合おうじゃないか!多分コレは何かの間違いだ!腹を割って話せば分かり合える!争う必要なんて――

 

「あぁ…ダメダメ、アンタを退治()してからじゃないと冷めないわ」

 

 目が本気(マジ)なんですけど…あれは見たら誰でも分かる『殺るといったら絶対殺る凄み』を感じるッ!!

 

「恐ろしい巫女だ…」ガクブル

 

 Oh shit!こいつぁなんてクレイジー巫女だイかれてやがる。そしてアンハッピーな事に私の命運はバッドエンド直行らしいぜHAHAHA!

 

 いや笑えねーぞコレ。どうしよ。無理じゃね?ここからどうあがいてもDeath or Dieじゃね?詰んでね?

 

 なんで私ってこんなハードモードなライフを強要されるんだ…不幸すぎる…。

 

 くそ…こんな思考を巡らせてる場合じゃないし余裕もない。話し合いは平行線というか通じない、もはや惨めに逃走するか玉砕覚悟の突撃しかない。

 

 雪さんとしてはどんなに惨めで小物感出ても逃走一択でトンズラこきたい。

 

 でも見てよ奥さん、あの鬼巫女視線だけで人を殺せるわよ。Eye殺よ。怖くておしっこチビりそう。絶対に私殺すマッスィーンと化してるじゃないですかヤダー。

 

 そして山神雪は悟る!逃走は不可能であると。

 

 残された選択肢は…突貫か?…これも死ぬだろう。あの鬼巫女の周りでクルクル回ってる陰陽玉が直撃したら一瞬で『ジュッ…』って滅殺されるわ。もう虫の知らせというかなんというか、『あれに触れたら死ぬ』っていう嫌な感じがビンビンのビンなの。本能で危険を察知してるの。

 

…現実をみよう、私の運命は此処で潰えるのだ。まさしくDeath or Die、Must Dieである。

 

 これが私の、山神雪の結末なんだ…

 

 理由もなく追いかけ回されて、鬼に半殺しにされて、巫女に消滅させられて終わる。

 

 これが私の結末……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーそんな……ッ!そんな理不尽な話など有り得るわけがないだろッッ!!!

 

 

 これまでの苦労がこんな形で終わるのか?!こんな仕打ちが私の結末かッ!?

 

 ふざけるな…ッ!冗談じゃないぞ…私はただ平穏を望んだだけなのに…!何故あの巫女は私を殺そうとしているんだ!?

 

 明らかに不当な妖怪退治(滅却)に、雪は爆発的な激しい激情に駆られる。

 

 平常を装って戯けた思考をしていたが、これまでにない理不尽に雪の心はついに壊れ始める。

 

 重傷で悲鳴上げる身体、身に迫る脅威、どうしてと問わずにはいられない理不尽を前に腑が煮え繰り返り、癇癪を起こして暴れたい衝動に駆られる程に、雪の精神は崩れ始める。

 

 目の前に広がる死を前に、雪のガラス製の心はかつてない負荷(ストレス)に襲われ、亀裂が走る。

 

 正当防衛で戦いを挑んだ所で、目の前の苛烈な巫女の実力は本物であり、恐らく自分は負けるだろうという確信も雪の心を壊していく。

 

 

 ふざけるな……私はまだ死にたくない…!死にたくない…!

 

 

 何もしてないのにも関わらず、やめてくれと訴えかけても攻撃をやめない巫女、私の顔が苦しみに染まると愉悦で顔が歪む巫女。

 

 山神雪の心の器から憤怒や憎悪といった悪感情がナニカに掻き立てられるようにして膨れ上がり、限界を迎える。

 

 身の毛もよだつようなドロドロとした負の感情が溢れ始める。

 

 

――なんなんだよお前……ッ!なんで私が…こんな酷い目に……わたしはなにもしてないのに…!

 

 一度決壊すれば、もはや止まらなかった。理性は一緒に溢れ落ちていく。

 

…………全部お前の所為だ…わたしをがいするおまえが…

 

 わたしを、ころそうとしているおまえが…にくい…!おまえがしねばいい……いや…わたしをころそうとしている、おまえを………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――殺す』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しく脈動していた心臓がドクリと大きく脈を打つ。

錯乱状態であった雪の精神は霧が晴れたように静まり返り、雪という“人間”は意識を手放し、山神雪という名の器には、妖の本能のみが残された。

 

 その瞬間、妖怪の山統べる天魔という大妖怪の凍てつくような殺意の波動が相対する巫女のみに集約した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゾクリッ…

 

 

 

 

「――ぁ…っ…!?」

 

 博霊の巫女は山神雪の変貌に背筋を凍らせ、重力が何百倍にもなったかのような重圧(プレッシャー)が襲い掛かった。

 

(――息が…苦しい…っ!?)

 

 そして、その重圧(殺意)を真っ向からぶつけられている博霊の巫女は肺が痙攣したかのように浅い呼吸を繰り返し、過呼吸に陥っていた。

 

 このような事は数多の妖怪退治を熟してきた霊夢にとって一度も無い経験だった。

 

 幾度となく妖怪退治をしてきた。しかし所詮それも"弾幕ごっこの範疇"であり、生殺与奪の介在しない"遊び"なのだ。

 

 勿論、妖怪から殺意を向けられたことも、それに伴って本気で攻撃を仕掛けられたこともある。死ぬかもしれないと感じたこともある。

 

 だからと言って妖怪相手に身を竦ませて臆したりなど絶対にしなかった。

 

 なぜなら、私は博霊の巫女だから。幻想郷の調停者として果たさなければならない責務だから。

 

 そして、私が博霊霊夢だから…妖怪に臆することなど絶対に認められない。

 

 そんなことなど私の矜持が許さない。

 

 

 

 

 

 私の精神は完全に折れることは許さない。

 

 そう、心に決めている。だがそれでも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――怖い。

 

 産まれて初めて、恐怖で身体が竦んだ、心がどうしようもなく乱れている。目の前の妖が心底恐ろしいと感じている。

 

 利己心や生存本能が警鐘を轟かせている。

 

 逃げろと心が叫んでいる。

 

 山神雪という妖怪が心底恐ろしい。あれは、自身を害する…否、私を殺し得る存在なのだ。

 

 確実に、あの妖怪が動けば私は殺されるだろうという勘が身体を精神を竦み上がらせている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、博霊の巫女として矜持がある。博霊霊夢が妖怪に怯えることなど…あってはならないのだ。

 

「ッ…!!」

 

 そう、ここで逃げるなどあってはならないのだ。呼吸を止めて、微かに震える手を抑え込み、恐怖へと視線を合わせた。

 

 いや、合わせてしまった。

 

 そして、すぐにそれを後悔することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』ニタァ

 

 表情が抜け落ちた虚ろな貌、瞳孔の大きく開いた双眸は獲物を探して彷徨い、紅白の巫女を捉えると口元を不気味に釣り上がらせる。

 

「ひっ――」

 

 酷く身体を強張らせた巫女に天魔はゆっくりと手を伸ばし、その掌が巫女を捉えた瞬間ーー

 

 

 楽園の素敵な巫女の姿が搔き消え、一拍おいて戦場の遥か後方にて轟音が響いた。

 




完全に舐めプされて(いると思い込んでる)ブチギ霊夢さんVSオーバーキル並みの理不尽に遂にキレた雪さん。

積もり積もって行く勘違いの負債、雪さんはその全てを清算出来るのか…

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