東方白天狗   作:汎用うさぎ

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雪「目が覚めたら腕折れてた上に巫女に襲われた。何言ってるか分からない?私も分からない」

霊夢「無視するとは良い度胸ね…!」

雪(したつもりはないのに…)


19.矜持

 幻想郷の素敵な巫女、博麗霊夢と妖怪の山の頭領、天魔こと山神雪の戦いは異質であった。戦っている本人は尚のこと、観戦している者達にもはっきりと分かる。

 

 “天魔は霊夢と戦う気はない”と。

 

 実際に戦闘に入ってからここに至るまで一貫して天魔は攻撃していない。霊夢の弾幕を嘲笑うが如く摺り抜けて距離を取る、これの繰り返しである。

 

 天魔が何を考えているのか分からない、先程までは鬼と死力を尽くして戦っていたというのに、今は見る影すらなかった。相対せずとも周りに重くのしかかるようなプレッシャー、覇気がない。

 

――相手が霊夢だから?霊夢とあの鬼では何が違う。強さ?…いやそれはない、霊夢の実力は折り紙付きだ。萃香に劣ることのない実力だ。

 

 なら、種族?霊夢が人間だから本気を出さないのか?

 

 普段は魔法の研究以外にあまり使わない思考をフル稼働させ推測するもまるで分からない。それもそうだ、霧雨魔理沙という人間は山神雪という妖怪をまるで知らない。もはや他人の域だ。

 

 それに山神雪は寡黙でなかなか言葉を発さない。加えて表情は仮面と疑うレベルで変わらない。掴み所がない。思考も読めない。

 

――完全にどん詰まりだぜ…

 

「あ、あの…魔理沙さん。」

 

 頭が沸騰しそうな中、思案顔の早苗に呼びかけられたため、クールダウンも兼ねて思考を一旦中断する。

 

「なんだ?」

 

「この戦い、意味があるんでしょうか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「…いえ、雪さんは戦闘を避けたがっているようですので、それにこの異変は雪さんが妖怪の山に戻れば丸く収まる異変です。霊夢さんが争う理由は特にないんじゃないでしょうか」

 

「争う理由か…」

 

 空を見上げる。魔理沙の目には激昂して殺意バリバリの霊夢が映る。

 

…一体何を言ったらあそこまで霊夢を怒らせられるんだ?ここからじゃ2人の会話は聞き取れなかったが天魔が挑発めいた事でも言ってるのか?いや、それだと戦闘の意思がないことと矛盾する。

 

「あの、それで……すっっっごい怖いんですけど…2人霊夢さん止めませんか?」

 

「それはお前と心中しろって言ってるのか?私は御免だぜ。」

 

「そ、そんなぁ…」

 

「それに霊夢がアイツをしばいて山の連中に引き渡せば異変も終わるだろうが」

 

「いや、そうですけど…霊夢さん、天魔様の事…殺しませんよね?」

 

「…」

 

「ま、魔理沙さん?おーい…」

 

 あの必死な天狗の事もある、力を貸してやりたいのも山々だが…私と早苗だと火に油を注ぐだけというか、最悪ガソリンぶちまけてエクスプロージョン。なんてこともあり得る。

 

 アイツ(はたて)は何をやってるんだ…早く来ないと手遅れになるぜ…

 

「おーい…魔理沙さーん………無視ですかそうですか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まただ、今のは明らかに反撃出来る余裕があった。だというのにコイツは距離を取って体勢を整えるだけで何もして来なかった。これで何度目か。

 

 もし仮に目の前の妖怪がコテンパンにやられていればいつも通りだし抵抗も許さず退治する流れであるが、コイツは違う。

 

 手を抜かれている、霊夢はそう確信しイラついていた。そして手を抜かれている相手に攻撃が当てられないことに、自分の実力不足を突きつけられているようで憤りを通り越して殺意さえ湧いてきていた。

 

「アンタ、なんで本気出さないのよ」

 

 一度攻撃の手を緩めて天魔に問い詰める。自分でも驚くくらい冷めた声が出た。しかしそれも今はどうでもいい。

 

「…私は手など抜いてはいない」

 

――は?

 

「逃げ回ってるだけじゃない、それで本気?」

 

「確か…人間は弾幕ごっことやらで妖怪を退治するのであろう。それならば大きな怪我をせずに解決出来ると聞く。それをやればいい」

 

「何それ、人間だから手を出すまでもないって事?」

 

「…そうだ」

 

 少し言い淀んだもののヤツは即答した。

 

――そう、人間だから手は出さないし、私もそこらの人間と変わりないって事?

 

「…それを舐めてるって言うのよ!!!」

 

 決めた、コイツは容赦なく退治する(殺す)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巫女ハンパネェ、攻撃躱すので精一杯でござる。能力でいなせるだろ、なんて考えていた数分前の私を助走をつけてぶん殴りたい。甘い考え過ぎたよね〜。

 

 博麗の巫女は妖怪退治のエキスパートと聞くし、甘い考えに至ってしまった私が馬鹿だった。

 

 博麗の巫女の周りを回ってるアレ、そう陰陽玉。アレいなそうと思ったら能力普通に破られてジュッとやられてしまった。皮一枚だったけど掠った部分がヒリヒリする。

 

 まともに当たれば痛いで済まないのは確定的に明らか。故に回避に徹していた。避けては一定の距離を置いて束の間の休憩、させてくれない。休む暇なく避ける避ける。

 

 も、もういっ息が……過呼吸になりそう…!!

 

「アンタ、なんで本気出さないのよ」

 

 息が切れかけた時、巫女の嵐のような攻撃が止まる。この隙にと呼吸を整える。ひっひっふー、ひっひっひふー。

 

 ふざけている場合ではない。巫女の問いにすぐ答えないと今すぐに襲いかかってきそうな殺意を感じる。一体私が何をした…

 

「…私は手など抜いてはいない」

 

 何を持って私が手を抜いていると勘違いしたのか分からないけど、私は全身全霊頑張って攻撃を避けている。というか避ける以外に意識を割く余裕はない。

 

「逃げ回ってるだけじゃない、それで本気?」

 

 どうやら巫女はそれがご不満らしい。無茶言うなし…

 

 というかこんなガチの戦いじゃなくて何やら平和的な解決方法あったよね。人間と妖怪が決闘する時のバトルスタイルというか…

 

「確か…人間は弾幕ごっことやらで妖怪を退治するのであろう。それならば大きな怪我をせずに解決出来ると聞く。それをやればいい」

 

 非殺傷、なんて優しい響き。いや、そうでもないか。まぁ殺し合いよりかは何百倍も優しさに満ち溢れた言葉だ。

 

「何それ、人間だから手を出すまでもないって事?」

 

「(ん?なんだかよく分からないけど)…そうだ」

 

妖怪が人間と戦う時はこのルールに則れとのお達しですしおすし。取り敢えずそれでやりましょーー

 

「…それを舐めてるって言うのよ!!!」

 

――ふぁっ!?まさかのルール無視…っ!って危なっ!?

先程までの攻撃が可愛く見えるほどのお札と霊力弾が雪に殺到した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈍っていた五感が徐々に取り戻される。頰に触れる土の感触、花や草の匂いなど様々な外界の情報が入ってくる。

 

あれ?いつの間に寝てたんだっけ?というか地面…?

 

「――う、うぅん…」

 

ズキズキと痛む頭を抑えて立ち上がる。

 

――アレ?なんで私こんな場所で寝てたんだろ?こんな穴だらけで危ない場所でなんか……………あっ

 

「ぁぁああぁああああああああ!?ゆ、雪は!?」

 

 四方をぐるりと見渡すが見当たるのはクレーターと薙ぎ倒された木々や岩石ばかりで雪は見当たらない。

 

 お、思い出せ…思い出すのよ姫海棠はたて…!!最後に見たのは…確か……!!

 

 

 そう、私を庇って雪が一瞬で鬼に組み伏せられ、鬼は狂ったように笑いながら拳を振り下ろした。何度も何度も。

 

 防御は簡単にこじ開けられ肉が潰れるような音が断続的に響いて噴水みたいに血が吹き出していた。

 

 私はあまりに残虐な鬼の所業をただ眺めていた訳ではなく、当然止めるべく行動した。

 

『ちょっと!!やめなさ――』

 

『邪魔すんなよ、今良いところなんだからさ…!!』

 

 背後から雪を助け出そうと試みるも鬼は私に邪魔をさせてくれるはずもなく、適当に振るった拳の拳圧のみで吹き飛ばされる。

 

『あぐッ…!?」

 

 地面を無様に転がり大木にぶつかって漸く止まる。頭を強打したのか意識が混濁し立ち上がる事が出来ずに地面に倒れこむ。

 

 壊れたテレビのようにノイズがかった視覚が辛うじて雪と鬼を捉える。

 

『うぐっ…!!待っていたぜ本気を出すのをなァっ!!』

 

『…』

 

 いつの間にか雪は鬼の拘束から脱した後だった。普通なら喜べる事態だったがはたての胸中は穏やかではなかった。雪の様子がおかしい。底冷えするような雰囲気を放ち、鳥肌が立つ。

 

 あれは良くない…何かよくわからないけど止めなくちゃ…!!止め、なく…ちゃ……!!

 

 ブツリと電源が落ちるように視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識は現在へと戻り、はたては目眩に襲われながらも空へと飛び上がり辺りを見渡す。急いで雪を探さなくては…それにはまず――

 

「椛は…いた!!」

 

 ここから然程離れてないところに椛が木に凭れかかるように倒れているのを見つける。急いで側に降り立ちすぐさま容体を診て生存を確認し安堵する。

 

 しかし、ここで息をつく訳にもいかない。重症の体に鞭を打つようで酷く迷うが椛を起こすべく体を揺らす。

 

「…ぁ、はたて、様…?」

 

 口内の血を吐き出し噎せながらも椛は目を覚まして反応した。傷は塞がりつつあるが無理はさせられない。

 

 だが、今は椛の力が必要なのだ。四方八方探し回る時間はない。頼りは椛の千里眼しかないのだ

 

「ごめん…椛、とても辛いと思うけど、力を貸して欲しいの」

 

「はっ…ご下命とあらば…」

 

 目も開けるのさえ辛いであろう容態だ。そもそも目を覚ます事が異常な程だ。無理をさせている事実にはたての顔は悲痛に染まる。罪悪感に駆られる。せめてもの償いとして応急処置にもならない手当てをする。気休めでもやらないよりはマシだ。

 

 椛は手当てを受けながら能力を行使していたがピクリと少し揺れる。何かを見つけたようだ。

 

「…南に、半里程のところに…博麗の巫女と交戦中、のようです…」

 

 鬼の次は巫女!?なんでこう最悪の方向ばかりに…!!

 

「…!分かったわ!椛、簡単な手当てしか出来なくてごめん…しっかり休んでて!!」

 

 労わるように椛の体を地面に寝かせて飛び立つ。

 

「…天魔様を、頼みます…」

 

 その刹那聞こえた椛の声を刻みつけ、はたては雪の元へ向かった。

 

 




雪「弾幕ごっことかいう平和的解決方法があるらしい」

霊夢「ありません。ワタシ オマエ コロス」

雪「ふぁっ!?」

急げはたて!手遅れになる前に…

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