霊夢「誰?」
勇儀「今回の異変のヤベー奴」
雪「」絶賛気絶中
萃香「会いたかったぞッ雪ィッ!」フルフルニィ
「――そうですか、現世ではそのような事が…」
「鬼が地上に上がる時に一緒に怨霊達も湧いて出てきて大変だったんですよー」
「貴方が八雲の式と協力して封じ込めたと聞きましたが、彼女はなんと?」
「えーと、“ご期待に添えずすみません…”とかご主人様に詫び入れてどっか行っちゃいましたよ」
「そうですか…」
地獄の最高裁判長の肩書きを持つ閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥは思案する。この異変の中心人物、山神雪という存在を。
妖怪の山の頭領、彼女が天魔となってから妖怪の山は変わった。それも良い方向へと変わりつつある。妖怪の本分をも全うしつつも道は外れない。彼女に対する説教は他と比べれば短く終わるだろう、とさえ思うほど。だが――
「――四季様?」
思案に耽て小町の事を忘れていた。不思議そうに此方を見つめる小町に瞳を合わせる。
「なんでもありません。小町、貴方はいつも通りの職務に戻ってください」
「え?いいんですか?」
「はい、この異変あなたは“何も”しなくて構いません。
「い、いえっさー!」
スタコラサッサーと謎の掛け声を残して小町は飛び出して行った。
どうせ念押ししたのも忘れて何処かでサボるんだろうけど、まぁそれは戻ってきた時の報告を聞けば自ずと分かることだ。今はそれよりも――
「山神、雪」
一度彼女と対面した事がある。寡黙だが雄弁に妖怪として畏怖をばら撒く彼女に特に言う事はない。
しかし、一つ気になることがある。
それは彼女の魂が2色の色が混ざり合っている事だ。最初は一色だと思ったがそうではない。限りなく色が混ざり合っているのだ。
それが意味する事は、彼女は2つの魂を持っているという事だ。それらが相反する事なく結びつき、あの色を生み出している。
1つは天狗という妖怪の魂。そしてもう一つは――
――極々普通の何の変哲もないただの人間の魂だった。
一度の対面では測りきれなかったが、もし彼女が人間の倫理観を持ってして生きているとしたのなら。
「…度し難い存在ですね。こと幻想郷においてはどうしようもなく」
根拠はないただの憶測、しかしそれが真実ならば彼女の人生は酷く生き辛いものなのでしょう。
▽
暗い。深い。沈む、沈む沈む沈む沈んでいく。朧げな意識はそんな感覚に囚われていた。
沈む、際限なく沈んでいく。微かな力を頼りに手を伸ばす、誰もその手を取ってくれなどしない。私は沈んでいく。
この海の底はあるのだろうか、あったとしたらそれは何を意味するのか?確実に良い意味合いは持たないだろう。私は必死に手を伸ばす。
――この感覚は初めてではない。私が死にかけた時にいつも同じように沈んでいく。しかし、いつも最後は誰かが手を取ってくれる。
今回もそう願って手を伸ばす。私の手を、誰か…取ってくれ。頼むから…この感覚はとても嫌なんだ…誰か…
『目を覚ませ。』
靄がかったノイズのような声。そして誰かが私の手を掴む。
「貴方は…誰?」
『私は――』
掴まれた手がグイッと引っ張られて私の意識は急浮上する。
掴まれたその手の先を見る。
あれはーー私…?
「――う、ぐっ…今のは…?」
眼が覚めると、ひどい頭痛と体の痛みに襲われる。いやちょっと待って!?う、腕が折れてる……!?ま、まぁ痛みにはこの数年で慣れた物だ………
嘘です、滅茶苦茶痛いです。激痛で冷や汗というか脂汗が止まらん…!!
それにさっきの夢は一体…?私は誰かに助けてもらった?くっ頭が…痛い…
「…ぁぐ…くそっ…体が動かねぇ…」
足元から苦悶する声が聞こえたので下を見ればボロ雑巾みたくボロボロになった萃香がうつ伏せに倒れていた。
何があったし!?というか萃香だけじゃない!あたり一帯が隕石落ちてクレーターが出来たみたいになってるんだけど!?
な…何を言ってるかわからねーと思うが俺も(以下略
まさしくポルナレフ状態。誰か説明を、説明プリーズ!!
なんて脳内で騒いでいると萃香にドスッと杭のような針が刺さってピクリとも動かなくなった。し、死んだーーーー!?
「そこのアンタ、今回の異変の首魁だって聞いたけど?」
背後から声が響いて振り返ると血塗れの巫女服を着た少女がいた。も、もしかして妖怪退治を生業にしてる博麗の巫女なのか?
ん?ちょっと待って。仮に彼女が巫女だとして、こちらを敵対視する巫女、異変の犯人と勘違いされてる
アイエーーー!?巫女ナンデ!?ワタシ異変の首魁じゃないアルヨ!?
私が動揺してる間に巫女は無慈悲に大幣で襲いかかってきた。
▽
博麗霊夢は山神雪という妖怪が萃香を圧倒する一部始終を見ていた。そして雪の能力も大体の予測はつけた。
恐らくは向きや方向を操る能力、または力の流れなどを操る能力か。それを使って萃香の行動を完全に封じ込めていた。
萃香が体を疎めて霧になろうとすれば能力を用いてそれを阻害して掴み叩きつける。つまりは霧になる事で物理攻撃を無効化する、それを許さないのだ。また、巨大化、分身も封じられた萃香は己の肉体のみでの闘いを強いられた。
萃香は鬼だ。例え私との戦闘で消耗してようとも、能力が封じられようとも凶悪な膂力を持ってして敵を粉砕出来る。まともに殴り合えば死ぬ。一撃一撃が必殺の殴り合いだ。
しかし、山神雪という妖怪はその殴り合いに応じて萃香を地に伏せさせたのだ。萃香の攻撃が通じていないというわけではなかった。萃香の攻撃にあの妖怪は腕は折られ、変な方向へねじれ曲がっている。
だが、勝ったのは山神雪という妖怪だった。遊びや油断、手抜き、侮りのない本気の殺し合い。激しい殴打の応酬、その果て、立っていたのはあの妖怪だ。
強い、内心でそう思ってしまった。こんな事を思ったのはあのスキマ妖怪以来だった。
油断は、出来ないわね…。
満身創痍となった妖怪ではあるが、だからこそ恐ろしい。手負いの獣が最も危険なのだ。手を抜くつもりは毛頭ない。殺す気で行かなければ、喰われる。
「そこのアンタ、今回の異変の首魁だって聞いたけど」
苦しみもがく萃香を封魔針で封印しつつ歩み寄り、声をかける。雪はゆっくりと振り返り、無表情で此方を見つめるだけで何も言わない。特に此方に興味などない、無関心な目だった。
――そう、私は脅威ですらないってこと?妖怪のくせに良い度胸ね、最高にムカついたわ…!!
異変が始まってから溜まり続ける怒りはここに来て爆発する。他人の評価など気にもしない霊夢であるが。相手にもされないというのは彼女の矜持を傷つけるものだった。
こうして博麗霊夢の怒りは全て
状況把握しようとしてたら無視してると勘違いされて巫女がキレて襲いかかってきたの巻
そして唐突に明らかになる雪の秘密。ピンチになると“
はい、真面目に言うと、人間の雪が意識がなくなると妖怪の本能が表面化し、妖怪としての雪が能力を十全に扱えるようになる。ちなみに人間としての雪は4〜5割程しか使えない。気絶すると雪が強くなるのはそんな背景があったりするとかしないとか