〜前回のあらすじ〜
勇儀「お前殺すわ」
はたて「」
雪「ヤメルォォッ!?」
勇儀「待ってたぜぇ!!この時をよォッ!!」
雪「」
くそ…霊夢のやつ少しも手を緩めない…。雪はどうなった?もうあの鴉天狗が何処かへ連れて行ったはず。こんな事してる間に雪は目を覚まして本格的に逃げの体制に入ってしまってるかもしれない。
あぁ、なんでいつもいつも私の時だけ邪魔ばかり入るんだよ!!なんで――
「考え事とは、存外にも呑気なのものなのね鬼って」
相対していた霊夢の姿を見失った。直後に背後で声が響き、悪寒が背筋を凍らせる。
咄嗟に妖力を込めた鎖を振り向きざまに薙ぎ払う。
「っ!!」
しかし、鎖は大した防御の効力を発揮せず、陰陽玉に触れた途端に弾け飛んだ。
霊夢が何気なしに扱う陰陽玉、これは妖力やそれに準ずる物を浄化するようでその威力は鬼の最上位ともいえる萃香を持ってしても身の危険を感じる代物である。
そして今、防御を失った萃香に陰陽玉が迫り――
「ちっ、厄介だなソレ」
萃香は蝿を払うが如く陰陽玉を弾き返した。しかし萃香の表情は優れない、陰陽玉を触れた箇所が灼け爛れ軽くはない傷を負ってしまったからである。未だに皮膚が焼ける生々しい音が耳にこびりついている。
「普通は妖怪が触れたら例外なくあの世行きのはずなんだけど」
霊夢はおかしいわね、と呑気に傍に浮かぶ陰陽玉をツンツンとつつきながら呟いた。
「私をそこらの妖怪と一緒くたにするな。この傷も直ぐに治る」
萃香の言う通り腕の傷は一瞬で再生した。しかし重要になるのは有効打を与えられてしまったという事実そのものだ。
「でも、かなり効いてるみたいだけど。強がり?」
「ほざけ人間」
霊夢が純粋に考察しているだけだと分かってはいるが萃香は苛立ちを隠しきれなくなってくる。
「ふーん。ま、どっちでもいいけど。そろそろ終わりにしましょう。」
そして霊夢も長いこの戦いに見切りをつけたのかそう呟くと目を閉じた。
――まずいっ!!あれを使われたら…!!
「『夢想天――」
「やらせるかっ!!!」
自分を含め、周りの小鬼達を全速力で霊夢へと殺到させ、技の発動を止めようとするがあと一歩届かない、そんな確信が萃香の中に生まれた瞬間、霊夢に向かって金色の物体が飛来し霊夢を巻き込んで地面へと落下した。
「――は?」
萃香は呆然と霊夢が落下した場所を見つめて短く声を漏らした。
技の発動は未然に阻止されたものの、それは自分以外の誰かによる所業。一体誰がと霊夢を探せばここに居るはずのない知り合いがいた
「…勇儀?」
「よ、よ゛ぉ゛萃香。久しぶりだな…」
随分と久しぶりに会うが、以前見た時とは変わって傷だらけで頬は殴られた痕がくっきりと残っており、極めつけは喉だ。喉は何か抉り取られたかの如く穴が開いておりなぜ喋れるのか不思議な状態だった。
これを見るだけでも勇儀が尋常じゃない強者と戦っていたのが伺える。地上でこれほどの力を持つ妖怪と言えば…
「その傷は…まさか!!」
「悪いな萃香、今回はお前に譲ろうとは思っていたんだがな…このザマだ」
我慢出来なかった、すまんと言葉少なに謝罪する勇儀。萃香の予感は的中していた。恐らく逃げた先に勇儀がいて戦闘になったのだろう。とすればまだ近くに雪がいるはずだ。
「雪はどこに…!?」
萃香が慌てて勇儀に近寄り問い正そうとすると、勇儀の下からくぐもった声が聞こえた。チラリと一瞥すると、紅白の座布団が勇儀のお尻の下に敷いてあった。
「――ちょっと、重いんだけど?いつまで私の上に乗っかってるつもりよ」
ヤクザと言われても仕方がないほどドスの効いた声が霊夢の口から出る。
「お?お前さんはあん時の紅白巫女か。すまんすまん、今どくよ」
よっこらしょとジジくさい掛け声と共に勇儀が立ち上がると霊夢は自身の纏う衣装を見て悲鳴をあげる。
紅白の巫女ではなく、紅の巫女になっていた。正確に言えば、勇儀の血を吸って真っ赤に染まっていた。
「どうしてくれんのよ!?私の一張羅が血塗れよ!…というかまた鬼?地底との協定緩すぎるんじゃないかしら?」
「おう、私はソレさっき知った」
「…あんたら纏めて退治して地底に送り返すわ。特に私の一張羅を汚したあんたは念入りに退治してあげる。洗濯が大変なんだから!」
「はっ、やっぱり面白いなお前。だが今回の主役はお前じゃないよ」
「は?何を言って――」
疑問を浮かべる霊夢に対して勇儀はただ黙ってある一点を指差した。そこに居たのは、霊夢の見たことのない天狗らしき妖怪がフラフラと幽鬼のように歩いていた。
それも全身血だらけのである。その血は
霊夢の中で誰?と疑問が浮かんだところでもう一つの異変に気付く。萃香だ、萃香の様子がおかしい。体を震わせて口角を吊り上げていた。待望した瞬間の訪れ、そして盛大に歓喜し飛び跳ねた。
いや、飛び跳ねたは間違いで、この場に新たに現れた乱入者に嬉々として飛びかかった。
「会いたかったぞォ!!雪ィ!!」
戦略もへったくれもない突貫。しかしそれを行う者は鬼の中でも頂点に立つ内の一人、伊吹萃香である。当然威力は折り紙つき、生身の人間を全速力の自動車で轢き殺すようなものだ。いや、自動車どころではないのだろう。
「…」
それを、雪は指一つで止めた。いや、止めるに留まらず押し返した。萃香はそのまま尻餅をついて雪を見上げた。
「は、ははっ!!いいぞ!この時を待っていたんだ!!」
即座に体を霧化し雪の周りに靄となって包囲する。どう攻めるか、一瞬萃香が思案を巡らせた時、雪の手が萃香の首を捉える
「は?なん――」
そしてそのまま碌な受け身も取ることも許されず顔面から地面に叩きつけられる。ズドンッという轟音と共に地面が隆起しその壮絶な威力を物語る。
「なに、あいつ…」
「あれが今回の異変の首魁だよ」
胡座をかいて地べたに座る勇儀が得意げに言い放った。
「は?あいつが異変の主犯?…というかあんた何で喋れんのよ」
「あぁ、気管がぶち抜かれて多少は喋りづらいがねぇ゛…」
勇儀は少し掠れた声で笑い混じりに潰れた喉をさすっていた。未だに傷口は抉れたままで非常にグロテスクな状態であり、何故喋れるのか甚だ疑問である。
「なに笑ってんのよ、気持ち悪い」
「ははっ、そりゃあ嬉しかったからね。嬉しい時に笑っちゃ悪いかい?」
「あっそ、それよりあいつ誰よ」
元より妖怪の思考など理解もできないししたくもない。霊夢は興味の対象を雪へと移した。
初めて見る妖怪だが、非常に力を持つ妖怪だと勘が告げている。下手すればあのスキマ妖怪に匹敵する程の。いや、それ以上の――
「ん?お前さん知らないのか?今の妖怪の山の大将、山神雪だよ」
「知らないわね…」
聞いたことがない、いや見聞きしたとしても忘れているだけ?でも、こんな奴見たら忘れないと思うけど…
「まぁ、今に見てな。あいつは凄い奴だからさ。萃香もあの程度じゃくたばらないよ」
勇儀がそう言うや否や萃香が地面から頭を引き抜き雪へと再び襲いかかった。
周りの妨害の末雪との対決に辿り着いた萃香、感極まってフルフルニィ。
萃香「柱間ァ…」フルフルニィ
※違います