と、大分期間が空いてからのひっそり投稿。
剛力無双の握り拳がはたての頭上を通過する。はたては風で衝撃をいなして距離を取りつつ泣き叫ぶ。
「ヒィィィッ!?私生きてる!?」
「五体満足だ馬鹿野郎」
魔理沙が帽子の中から小瓶を取り出して襲い来る萃香へと投擲する。それは萃香に接触すると同時に乾いた破裂音を立てて弾けた。
燦然と煌く星のような爆発の中からサラサラと霧が漏れ落ちる。予想通りとはいえ、あまりの出鱈目さ加減に舌打ちする。
物理的な干渉が相手の気分次第で一切不可能。空中に漂う粉をいくら殴りつけても無駄なように、魔力弾で撃っても通じない、面での攻撃もスルリと躱していく。
はっきり言って打つ手なし。インチキにも程がある。
「ちっ、コイツの破壊力には自信があったんだが…」
「だからさぁ…無駄だって言ってんだろ?魔法使いだか何だか知らないけどさ、賢い種族って聞いたきがするんだけど?」
「あぁ、間違いないぜ。」
「ならお前は魔法使いじゃないんだな。力量の差が理解出来ない阿保が。お前がいくら弾幕を私に浴びせようと、私は止まらないよ。紫の手前派手にやるつもりはないけど、弾幕ごっこのルールに守られてない人間を潰すなんざ赤子の手を捻るようなもんだ!」
地面を抉り取って魔理沙へ石飛礫を飛ばす。加えて、四方を囲む小鬼が妖力弾を発射し退路を塞ぐ。慌てて空へ逃げるも箒からぶら下がる足に石飛礫が被弾し大きな裂傷を与える。
「ぃつぅっ…」
――ちっ、しょうもねぇ攻撃食らっちまった…。足が痛い。盛大に啖呵切った手前負けてやるつもりは毛頭ないが、攻撃が通用しないとなると勝ち目もない。どうする…。
「魔理沙!」
悩む魔理沙の耳にはたての声が届く。
「大丈夫だ…!お前は天魔を探しに行け!コイツは私が抑えるからさ」
「で、でも…」
「いざとなったら頃合い見てトンズラするからさ。私は大丈夫さ。ま、そんな事にはならない自信があるけどな!私は負けてやるつもりは一切ない」
「分かったわ…魔理沙、気をつけてね…!」
少し此方を気にしながらもはたては飛んで行く。それを見届けた後、正面に浮かぶ鬼と負傷した自分を見比べる。勝ち目はゼロ、恐らく逃亡も許されない。無様に命乞いでもすれば半殺しで済むかどうか。完全に詰みだ。負け確定のイベントみたいなものだ。
そう、完全に詰んでいる。自分の置かれている状況を嫌というほど理解しているにもかかわらず、霧雨魔理沙は内心ほくそ笑んだ。表情には出さず、しめしめと笑った。
策はたった今思いついた、策というよりかは賭けと言っても過言じゃない博打だが。恐らく、この賭けは私に分がある。盛大にコイツが暴れてくれた
そして散々挑発したおかげで奴ははたてを追わなかった。奴にとっては分の悪い賭けに乗らされた訳だ。
「さて、引き続き私が相手だ。嬉しいだろ?」
「私はお前より、あの天狗の方が気になるんだよ。お前はついでに潰すってだけだ。」
はっ、ついでときたか。ならそのついでにかまけてるお前はなんだ?この鬼は、嘘が嫌いだ。だからと言って素直かといえば、そうではない。有り体に言ってしまえば捻くれている。
私に用はないと言っておきながら無視できない。早々に事を済ませようと思っていても後手に回って相手を観察したがる。はっきりいって何がしたいのか最早分からない捻くれ加減である。
しかし、この手の輩は扱いが楽だ。ま、相手が話しに応じるかどうかだが。萃香は相手の出方を見る奴だ、話は一応聞いてから動く。だからそこを上手く利用させてもらうとしよう。
「眼中に無いってか?ま、せいぜい軽く見ておくといいさ。眼中の釘になるどころか厄介極まりない状況に持っていってやるぜ」
「お前は鬼の障害には力不足だ。」
「あぁ、私がどう足掻いたところでお前には傷一つ負わせられないだろう。だが、打ち倒すだけが勝利じゃないんだぜ。」
「ほざけ人間、私に、鬼に勝つだと?」
「私は負けない、だが勝てもしない。私が勝てないんなら、他の誰かに勝って貰えばいい。私はそれまで時間稼ぎするだけでよかったんだよ」
「なに?」
「私は結界とかそういうのは不得意だからな、その手のプロに来てもらうまでだ」
「まさか…ッ!?」
そのまさかもまさか、私も戦闘に入る前に来てくれるとは思ってなかったから僥倖だぜ。予定よりも大分早くて助かった。
「――見つけたわよ…魔・理・沙ァ…!!」
青筋浮かべたおっかねぇ
「よぉ〜霊夢。グッドタイミングだ。後は頼ん――ぐへっ!?何すんだよ霊夢!!」
霊夢の拳骨が脳天に直撃し悶絶する。滅茶苦茶痛い、どのくらい痛いかと言うとタンスの角に小石を思いっきり蹴る要領で小指をぶつけた並みに痛い。
「ふん、当然の報いよ。魔理沙は後で境内の掃除ね、その為の箒でしょ」
「違うな、私の箒は散らかす為にあるんだぜ」
「うっさい、しのごの言わずに掃除よ。
――あと、そうね…萃香、貴方には掃除に加えて、それが終わったら四、五十年程封印してあげるわ。」
うへぇと魔理沙は声を漏らす。霊夢が四、五十年後に封印のことなんか覚えてる訳がない。一回封印されたら封印が自然に解けるか誰かに解いてもらうまで永遠に封印されっぱなしだろうな。
「霊夢…残念だけど、私はどちらも御免だね。私にはやるべき事があるから」
「あら、きつーいお灸を据える必要があるみたいね」
「…時間が惜しい、霊夢も悪くはないが、先約があるんだ」
「私の知った事ではないし時間をかけるつもりはないけど、さっさと異変解決して寝たいのよ」
「なら私なんか放っておけばいいじゃないか」
「大分人里で好き勝手してくれたみたいじゃない。それを見逃すと思う?」
「思わないな」
「ならさっさとやりましょう。時は金なりってね」
霊夢は弾幕ごっこ用とは確実に違う、霊力を込めた札を裾から出して投擲する。妖怪特攻とも言える霊力を込めた札や針、陰陽玉、封魔効果の武器を体の至る所に仕込んでいるようで札などは延々と湧いて出てくる。そしてその一枚一枚が妖怪の命を脅かす威力を持っている。
「…ちっ」
本能的に当たる事を忌避した萃香は霧化するものの、霧となった体の一部に被弾してしまう。ジュッと焦げるような音が聞こえ、ヒリヒリとした痛みが襲う。
「あまり効いてないみたいだけど、これはどうかしら」
霊夢が次に取り出したのは封魔針だった。それを札に交えて鋭く投擲する。萃香は身代わりで小鬼を生み出し回避する。
身代わりとなった小鬼は金縛りにあったように動かず完全に自由を剥奪されていた。
「はぁ、面倒な…」
それを厄介そうに眺めて頭を掻く萃香。見るからに余裕な態度に霊夢は眉を顰める。
「余裕ね」
「鬼の百鬼夜行だ、我らが行進をその程度で妨げられると思うな」
「ご大層な軍勢大いに結構、まとめて退治してやるわ」
「調子に乗るなよ霊夢!!私の能力が小鬼を出すってだけじゃない事知ってるよなぁ!!」
「鬼だか何だか知らないけどお高くとまってるんじゃないわよ!!」
弾幕ごっことは名ばかりの真剣勝負が始まる。
▽
「――きて!――ねぇ!起きて!!雪!!」
「…ふぁ?」
聞き覚えのある声で意識が深層から浮上する。どうやら眠ってしまっていたようだ。眠る前の記憶がないや。あれ?なんでだっけ……ぅっ!頭が痛い…
「雪…やっと目を覚ましてくれた…!!」
記憶の糸を探っていたため忘れていたが誰かが私を膝枕していたのだ。とても柔らかくこの女性的な包容力は素晴らしい…じゃなくて、この素晴らしい太腿の持ち主は誰ですか?
私は太陽の眩しさに目をやられながらも目を開けてスバラな太腿の持ち主を瞳に入れる。
「…はたてお姉ちゃん?」
あ、やべ…つい昔の呼び方しちゃっ――
「雪ぃ…!」
うぉっ!?凄くいい匂い!!それとふにょんとしたこの感触は…立派なお胸…!?ぎゅうぎゅうと頭を抱きしめられて若干苦しい。いや、窒息死しそう。永遠にこの感触味わってたいけどそろそろ死ぬ。
「苦しい…」
「あっ!ごめんね!」
心地よい圧迫感から解放される。私は体を起こしてはたてに向き直った。
「…何があった?」
「えぇと、雪は何も覚えてないの?」
「…何か、とても嬉しい出来事と悪夢のような出来事があった、気がする。」
そう、思い出そうとすると幸福な感情と、恐怖やストレスといった感情が混ざり合って変な感じがする。
なんて考えてたらはたては涙を堪えて此方を見ていた。
えー!?な、なんで泣くの!?やめてよね!私が泣かせたみたいになってるじゃん!!
「…ごめんね、雪。私が悪いの…。私が皆んなを、あの鬼を抑えられなかったから…」
「――オニ?」
オニ…鬼?あの鬼?酒が進んでないぞとか言って酒樽の中に突っ込むあの鬼…?理由のない暴力に全力を注ぐあの鬼…?
ロクデナシで血も涙もない、あの鬼?
皆んな黙って見ているのは『コイツは何を言っているんだ?』であって『いいぞ、もっとやれ』じゃねぇんだよ!!
というか笑顔でパワハラ、アルハラ、セクハラ仕掛けてくるのマジでなんなん?そのおかげで私が一体どれ程の被害を――
「あ、あぁ…ぁぁぁ!?」
ブラック、鬼、天魔、逃走、閃光。五つのキーワードが脳裏に浮かび、私は全てを思い出す。
「ゆ、雪!?」
わたしは しょうきに もどった…!
そうだ、私は逃亡の途中だった!一刻も早く伊吹萃香から身を隠さなくては…!!
「はたて、私は――」
逃げるから、と口に出そうとした時、私の背後でカランコロンと下駄の音が鳴った。音は一定のリズムで此方へと近づいてくる。恐る恐る振り返ってみると。
威風堂々とした佇まい、自信に満ち溢れた凛とした表情、ふわりと風で棚引く金糸のような髪。紅い一本角に星の模様。
私はあまりの恐怖に戦慄する。私を死の一歩手前まで嬲った鬼の四天王その人が此方へ向かってきている。
「――お、いたいた。アタシの嗅覚も捨てたもんじゃないね。よう、雪。あの時の晩酌以来だな」
体操服とブルマ、みたいな装いの鬼。星熊勇儀が手錠をジャラリと鳴らして手を上げていた。
「勇儀…」
なんで、こうバットタイミングって時に鬼にエンカウントしてしまうんだ私はァ!!
「会いたかったよ」
なんだろう、穏やかに笑っているというのに、穏やかな笑みの向こうに獰猛な笑みを幻視してしまうのは。
そして私は会いたくなかったかなー?貴女もどうせ無理やり私を攫うつもりなんでしょ!?エロ同人みたいに!!エロ同人みたいに!!
どうせ逃げられはしない、覚悟は決めた!さぁ来い、鬼の四天王!私は絶対鬼なんかに屈しない!!
見事なフラグを立てる雪。
雪「鬼には屈しない!」
↓
雪「鬼には勝てなかったよ…」アヘェ…
となってしまうのか!?