東方白天狗   作:汎用うさぎ

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大天狗「え?この量を1日で…だと!?」

雪「いつからそれが1日分だと錯覚していた…。それは1日の1/3の量だし、そのくらいは半日で終わらせとったわ!」

大天狗「なん…だと…!?」

評価、感想、誤字修正感謝です。とても嬉しいです。
それと誤字修正を見てて意外と誤字に気づいてないんだなーと改めて反省しておりまする。


12.鬼

 執務室の窓に腰をかけて月を眺めているとコンコンと律儀に4回もノックする音が聞こえた。短く「入れ」と言うと扉を開いて大天狗が入ってきた。

 

「天魔様、此処に居られましたか」

 

――ん、風さんか。にしてもなぁ…前天魔派を抑えてからというものの風さんがやけに余所余所しいというか…。他人行儀というか、上司と部下の関係が逆転したかのように振舞ってくるのが妙に心が痛む。

 

「風さん、貴方にそう呼ばれるのはむず痒い。」

 

「公私は分けなくては、天魔は務まりませぬ」

 

 公私を分けろ、か。風さんがよく小さい頃の私に言い聞かせてたなぁ…。それが私と風さんの間に適用されるなんて思ってもみなかった。

 

「そうか、少し寂しいものだ…」

 

 はぁ、溜息が出ちゃうよ。家族っていう関係は、もう終わっちゃうんだ。悲しいなぁ。

 

「……雪、儂がお前をこう呼ぶのは、これが最後だ。儂とて我が子の成長を喜ばしいと思いつつも、寂しくある。しかし、これがお前の選んだ道。儂はそれを支えると決めた以上未練はない」

 

 そんな私の心の機微を読み取ったのか、風さんは私の名を呼んでくれた。胸がじんわりと暖かくなる。風さんも風さんで苦悩の末に思い至ったのだ。私ばかりが悲しい訳ではない。

 

 私も、大人になる日が来たのだ。妖怪として、いつまでも子供でいることは出来ないんだ。私は、なんか知らないけど天魔という役職に就いちゃったから。それは風さんの望んでた事らしい。なら、私は我儘は言わずに風さんの望みを叶えてあげるのが、1番なんだ。

 

「私の我儘も、今日限り…か」

 

「困ったら儂を頼れ、儂はいつでもお前の味方だ」

 

「あぁ、頼りにしてるさ」

 

 頼る頼る!!めっちゃ頼るよ!風さんマジで素敵なおじ様!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天魔様、危険な妖怪共が身を隠し謀反を企んでいるようです。」

 

「天魔様、白狼天狗による警邏の報告書が届いております」

 

「天魔様、河童より技術向上のための研究許可を求める署名が集まっております。」

 

「天魔様、――!――!」

 

「天魔様、――、――?」

 

「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」「天魔様!」

 

 う、うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?

 

 か、風さんヘルプ!!た、助けて…!!ってあれ?風さんいねぇ!!風さんどこ行った!?風さ――ひっ!?書類追加!?

 

……もう訳がわからないヨ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、死ぬかと思った。いやぁ、人間死ぬ気になればなんとかなるもんだなー。ほら見てこの大量積み重なった書類。うふふふふ。

 

 まだ半分も処理が終わってないの。

 

……そうだよ、まだ終わってねぇんだよ!!

 

 現実逃避でもしてないとやってらんねーよ!!アホか!!山のように積み重なった山を見て書類を積み上げるの遠慮しろよ!!なんで空飛んでまで書類積み重なるんだよ!!悪意しかねーだろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うふ、うふふふふふふ…大丈夫。私は大丈夫。おーるらいと。ノープロブレム。うふっ…ふふふふ、ふひっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………積み重なった書類に捺印を押していくだけの簡単なお仕事です。さながらベルトコンベアーで流れてくる食品に花っぽいアレをただただ乗せていく作業ゲー。SAN値直葬。

 

 私の精神は崩壊寸前。誰かテケスタ。風さんはマジでどこ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…終わった。寝よう。」

 

 山を処理した頃には朝焼けが見えていたが、余りにも疲れ切っていた私は椅子に座って顎をついたまま寝落ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――天魔様、鬼が面会を求めております」

 

 渋い声が微睡みから私を引き上げる。パチっと目を開くと大天狗が深刻そうな顔で何かを言っていた。

 

――はっ…!え?何?ごめん起き抜けで聞いてなかったけど誰かが面会求めるって?取り敢えず書類を処理するよりかはマシかな…。

 

「儂が出向く」

 

というか風さん!!!何処行ってたんだよ!!…もういいや、問い詰めるのも疲れる。取り敢えず今は面会に対応しなきゃ…。でも眠ぃ…。

 

半目で眠気と戦いながら執務室を這い出た私を待っていたのは――

 

「――お前が新しい天魔か?えらい上玉だな…俺の物になれば…」

 

 下卑た笑みで私に手を伸ばすお前は…変態セクハラ親父!?まだ私を諦めてなかったのか!?しかも分身してる!?卑劣だ…あまりにも卑劣だ…!そんな輩には私の鉄拳をくれてやるわぁ!

 

「失せろ」

 

「ひでぶ!!」

 

「あべし!!」

 

「うわらば!!」

 

 うーん、世紀末的悲鳴だ。いや爆裂四散☆したわけではないんだけどね。というかよく見たらコイツら全然変態セクハラ親父じゃねぇーじゃん。変態セクハラまではあってるけど。

 

「野郎…!こっちが下手に出てやったら舐めやがって…!」

 

 うわ、なんかいっぱいいるんですけど。なんで頭から角生やしてんの?そういうファッション?

 

 というか剣呑な雰囲気…。どうしよう、最初に殴っちゃったの私だし…いやよくよく考えたら先に手を出そうとしたのアイツらだし…

 

「死にたい奴からかかって来い…!」

 

「「「「野郎・オブ・クラッシャーー!!」」」

 

 天魔無双の時間だオラァァァァァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…つまらぬ物を倒してしまった…」

 

 そう呟く私の背後に積み重なる変態共の山。ザマァみろってんだ!ふははははは!デスクワークで溜まった鬱憤も大いに晴れたってもんよ!

 

「――へぇ…強いじゃないかあんた。名前は?」

 

 後ろを見ると、積み重なっていたはずの山が無くなっていた。いや、正確には雪の目の前に立つ存在が山を軽く腕を振っただけで吹き飛ばしてしまったのだ。

 

 えぇ……?明らかに強者のオーラが見えるんですけど…。さっきまでの変態とは格が違い過ぎやしません?と、取り敢えず、返事はしとこーかな。

 

「山神雪」

 

「私は鬼の四天王、力の勇儀。勇儀って呼んでくれよ」

 

 鬼の四天王。鬼の…四天王。ん!?ちょっと待て。よくよく考えたら頭に角生やしてる妖怪って鬼じゃん。鬼ってめちゃんこ腕っ節強くて恐ろしい妖怪だってばっちゃが言ってた!

 

 その鬼の四天王ってヤバない?

 

「私は伊吹萃香だ。さぁ、互いに名乗ったんだやることぁ一つだろ?」

 

 萃香という鬼も小柄ながらも感じ取れるオーラは勇儀となんら遜色はない。

 

 うん、絶対こいつらヤバい。

 

「あぁ、気持ちの良い喧嘩をしよう!!」

 

 というわけで!!

 

「断る」

 

 全力でお断りしますのポーズッ!!!

 

「そいつは無理な相談だなッ!」

 

「アタシらの昂りを発散させてくれよッ!」

 

 人の話を聞けや!!…うわ!?っぶね!?拳圧だけで吹き飛ばされそうになった…!?

 

「くっ…!」

 

 拳圧で生じる衝撃を能力で受け流して縦横無尽に逃げ回る。無様だと笑え、それでも私は命を大事にのコマンドで生きていきたいんだよ!!

 

「あぁ?なんだ?アンタ妙な技を使うな…。面白い…!!」

 

 全然ッ面白くねーよ!

 

「それに動きも早いったらありゃしないね!全然見えねぇや!」

 

 くっ、好き勝手攻撃してくれちゃって!!懐の深さがマリアナ海溝より深い雪さんでも許容出来ないから!暴力!ダメ絶対!

 

 暴力なんて野蛮な事はしちゃダメなんだぞ!!

 

「正当防衛だ、悪く思うな」

 

 だが、正当な理由があるので!私はッ!お前らが泣くまでッ!殴るのをやめないッ!高速移動&能力で強化した殴打と蹴りをお見舞いしてやるぜ!

 

「おっとと気づいたら殴られてやがる。」

 

「早いな…ぐっ…」

 

 萃香の方はどういう原理か体が霧になったり細かく分裂して大したダメージにはならなかったが、勇儀は生身である故か、時折良い当たりがあると苦悶の声を漏らしていた。

 

 これはチャンスか…!まずは此方を…畳み掛ける!!

 

 私は勇儀に狙いを定めて攻撃を仕掛ける。

 

「あぐ…!?こいつは、効くなぁ…ッ!お返しだオラァ!」

 

 早まった私を待っていたカウンター。完全に待っていましたと言わんばかりに私の腹に剛拳が捩じ込まれる。

 

「なっ…!?ごぶっ…うぅ…うぇぇ…!」

 

 能力による防御を貫通して甚大なダメージを被る。肋骨が何本か折れる嫌な音とそれに伴う激痛、吐血、吐き気が私を襲う。

 

 空に滞空してる事もままならず、私は地面に墜落する。立ち上がろうにも目眩が激しく、平衡感覚すら失われつつあった。

 

 一発貰っただけでこの被害である。鬼とはこうも理不尽な存在であったのだ、朦朧とした意識の中で再認識する。

 

 痛い…痛いよ…なんで私がこんな、目に……あぁ、瞼が重――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殴られたお腹を抱えて雪は地に伏した。それを見た萃香がつまらなそうに顔を顰める。

 

「あ?なんだ、もうギブアップかい?つまんないなぁ!」

 

「いやいや、中々に雪の攻撃は響いたよ?そこらの雑魚とは違うよ。それに私の一撃を喰らって原型留めてんだから大したもんだよ」

 

 痛え痛えと呟いて体中に出来た痣を撫でながら勇儀がそう言うと萃香はハッとしたように手を叩いた。

 

「あー確かに、私も能力なかったら勇儀と殴り合いなんてしたら怪我じゃ済まないかも」

 

「はっ、本当はそんな事考えていないくせに」

 

「あぁ、なんなら今からやるか?雪が期待はずれだったもんでさ。妙な気持ちなんだよ。妙に武者震いが止まらなくてな」

 

「あ?萃香もか?私も――」

 

 ドクンッ…

 

 弾んでいた会話が途絶える。2人の鬼は即座に雪の方を振り返り距離を取る。何故そうしたのかは分からないが本能は警鐘を鳴らしてやまない。雪は変わらず倒れ伏しているのに、緊張が張り詰めていく。

 

「あぁ、武者震いが止まらないな…!」

 

「勇儀もか…」

 

 鬼である私が恐怖している?いやそんなはずはない。鬼を脅かす存在などいないのだから。なら、何故私の手は震えている。何故、地に伏した雪から目が離せない。

 

 ゴクリと乾いた喉を鳴らす。金縛りにあったように手足の自由はなく、ただひたすら雪を見る。

 

――そして、長い沈黙を打ち破り、雪が立ち上がった。鼻と口からは血を垂らしながら、幽鬼のようにフラフラと足取りで勇儀の方へ歩き出す

 

「……」

 

 ちょいと小突けば倒れる、それは間違いない。しかし、勇儀達はたたらを踏んだ。迂闊に手は出せない、そんな気迫が、幽鬼のように躙り寄る雪にはあった。

 

 しかし、しかしだ。アタシらは鬼、腰抜けとは違う。ビビって動けねぇなんて知られたら鬼の四天王を名乗れやしない。

 

「はっ!!案外タフじゃないか!!やりがいがあ……る?」

 

 呪縛のような金縛りを発破をかけて破り、雪に正拳突きの要領で殴りつける。そこに遊びは一切なく、単純だからこそ避けられない、そういう技だった。

 

 しかし、その技は煙のように消えた雪を捉える事はなく、空振りに終わる。そして、攻撃した私の懐に潜り込んでいた雪の手刀が深々と鳩尾に突き刺さり貫通する。

 

「ぐっ…ああ゛ぁぁぁぁぁッ!?」

 

「勇儀!?」

 

 萃香の悲鳴が聞こえる。痛ぇ、これほどの痛みを感じたのはいつぶりだろうか。久しぶりに死線を潜れそうじゃないか…!!

 

 こんな楽しい事はないぞ!なぁに、アタシはまだまだやれるさ!!

 

「…ぐぅ…ッ!こんにゃろ…!!」

 

 筋肉を締める。貫通した手刀を抜かせないためである、が。雪の能力で傷口を腕の一回り大きく広げられる。雪はすんなりと腕を引き抜き離れる。

 

 くそっ…ありゃ厄介な能力だな…!アタシじゃなけりゃ穴が広がり続けて変死体が出来ちまってたぞ…!?くそ、血も止まらねぇ…。久々にヤバいかもな…。

 

「勇儀!私がやる!勇儀は下がってな!」

 

――あ?今なんて言った?下がれ?何を言ってるんダ?コイツハ?

 

「ふざけるなッ!!今最高にいい気分なんだ!!邪魔すんな引っ込んでろ!!」

 

「…わかったわかった!早いもん勝ちだから仕方ねぇか。死んでも知らねえよぅ」

 

「…加減はなしだ、山が吹っ飛ぼうがもう関係ないね…!あぁ、山が大事なら守ってみなよ…!」

 

「“四天王奥義『三歩必殺』”!!」

 

 一歩で動きを封じ、二歩で逃げ場を無くし、三歩で一切合切全てを吹き飛ばす。それが怪力乱神と謳われる勇儀の奥義。

 

 奥義故に、必殺。躱した者はいない。喰らったやつはあの世にいる。

 

「…」

 

 そんな絶対の自信を持つ奥義の、一歩目と二歩目を難なく雪の能力でいなされる。しかし、ここまでは想定済み。残るは三歩目のみ。そして、この三歩は雪は絶対に避けられない。

 

 私が拳を振り抜く方向に山があるから、雪は絶対に避けられない。

 

 案の定雪は山の前に立ち塞がった。思わず口角がつり上がる。

 

――受け止めてくれよ!私の一撃を!!

 

 (わたし)は満身の力を込めて、三歩目を踏み抜いた。




勇儀の腹パン一発で悶絶して気絶しちゃう雪ちゃん可哀想。

からの雪さん覚醒。勇儀歓喜の三歩必殺。雪さんの明日はどっちだ!

後半は勇儀視点です。

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