萃香「逃がさんぞ」
雪「え?あの霧は…!うっ、頭が…!!アルハラ…パワハラ…セクハラ……ヤメロォ来るなァ!?」
いざ迷いの竹林へレッツゴーと飛び出そうとした私を謎の霧が邪魔をする。謎の霧じゃない、私はコレを知っている。今このタイミングでは分かりたくもなかった。お願いだから冗談だと言ってよバーニィ…
「…伊吹、萃香…!」
「よぉ〜久しぶりだな雪」
「…私に一体何のようだ?人里を包囲している霧も払ってくれると助かるのだが」
「うーん、嫌だ。雪に逃げられたくないってのもあるけど、私は雪には天魔に戻ってもらいたくないからね…戻そうとする奴らから守ってやるよ」
「…なに?」
「天魔だからとか、これまで職務を盾に私の誘いにも乗りやしない。でも天魔を辞めたんだろう?なら私を拒む理由はないよな?」
…いやちょっと何言ってるかわからないです。ん?これは、部下に捕まって天魔に戻されるor目の前の鬼に捕まって美味しく頂かれるってこと?どっちもお断りなんですけどォォォオオオオオオ!?
拒む理由しかねぇよ馬鹿!逆にどうしてイケると思ったんだ!?
「ある…!大いにある!」
「え?何が駄目なんだい?」
マジかよコイツ、真面目に私のどこが悪いの?って顔してやがる…!(戦慄)。
鬼のノリの悪いところなんか沢山思いつくけどな、取り敢えずこれだけはどうにかしろっていうのが3つある。
「酒癖、女癖、三度の飯より喧嘩好き、これらを直せ」
これさえどうにかしてくれれば最低限友好な関係が築けると思うの…
「無理だね」
ドヤ顔でキッパリと言い切りやがったよ…。やっぱり鬼は鬼だったよ…
「即答なのか…」
「どれも私から切ることの出来ない物さね。はぁ…そうかそうか、駄目か〜」
「そうだ、諦め――」
「洒落くせぇ、鬼らしく力づくで攫うとするかッ!」
やっぱりこうなるのか!!もうコイツが目の前に現れた時からそんな気はしてたよ!!
というか容赦なく腹パンしてきたけど能力の防御貫通して普通に痛いんだが…!?それにここ人里だよ!?
「ぐっ…人里で暴れるとは正気か!?」
「あまり被害は出ないようにしてるさ。さぁ、久しぶりに力比べといこう!!」
ちょ、待てよ!!弾幕ごっこは!?マジで!マジで私そういうの無理だから!!力押しは好きだけど鬼と殴り合うなんてマゾしかやらねぇから!いやマゾですら躊躇うっていうか絶対にやらねぇから!!
▽
「流石萃香ね、釘をさしたのに完全に無視するなんて」
紫は人里の一角から萃香と雪の死闘(一方的に雪が逃げ回る)を見下ろして大きく溜息を吐いた。
何故彼女がここにいるかというと、人里の人間を避難させるためである。能力を使って避難させる片手間で死闘を見下ろしているのだ。
「萃香も本気じゃないようだけれど、衝撃の余波で人里が破壊されかねないわね…それに――」
八雲紫は表情には出さないものの少しヒヤリとしていた。
萃香の事だ、あの性格上、本気を解放するのは時間の問題であると。
「決闘の場を人里以外にしてくれればまだ良いのだけれど…」
まるでボクシングのリングのように人里を霧で包囲しているのだ。あの霧は只の霧にあらず、アレは伊吹萃香という鬼の体の一部。破るのには相当な力が必要だ。
「せめて壁破壊に集中出来れば突破出来るのでしょうけど…萃香がさせるわけがない」
鬼と渡り合える様子から察するに天魔の能力は非常に強力だ、おそらく壁の突破自体は問題がない。ただ、萃香の相手をしながらとなると易々と実行に移せないようだ。
「…最終手段を使おうかしら」
最終手段は何も特別な事ではない。2人とも、もしくはどちらか片方を人里から移動させる。ただこれは確実に雪が逃げるため萃香の反感を買うのは間違いない。機嫌を悪くした彼女が暴れるなんてことはしないとは思うが、何らかの拍子に爆発する可能性もある。
「…あぁ、そうだ。彼女がいたわね。」
最終手段の前に彼女に頑張ってもらうとしよう。
▽
「何なのよコレ!!あの鬼何考えてんの!?」
人里の外、霧に阻まれた人里の入り口の前に、はたての悲鳴じみた声が響く。
「このタイミング、萃香殿の狙いは天魔様で間違いないでしょう」
「それは知ってる!!先が薄っすら見えるのに通れないってどういうこと!?岩叩いてるみたいなんだけど!?」
「鬼の四天王は伊達ではないですね。」
「何冷静に讃えてんのよ!」
パニックの陥るはたてとは対照的に椛は冷静に霧の壁をコンコンと叩きつつ萃香の力を好評する。
「まずは落ち着くのが最善かと、焦っても良策は生まれません。それに現状私達では打つ手はありません。」
「…悔しいけどそうね…。でも私達以外に増援は望めないし…」
悲しきかな同族は天魔失脚阻止派しかおらず、SOSは出せない。そもそも交友関係が狭――ごほん!助けを呼べそうな知り合いはあまりいない。いや、いるよ?ただ今は天魔失脚阻止派に組してるから呼べないだけでいっぱいいるし。本当だし。
「はたて様…?」
「な、何でもないわ。それよりもどうすれば…」
自分の人脈のなさが恨めしい、ということを考えてる自分の惨めさも悔しいが、今はそれよりも雪の助けになりたいのに、本当に打つ手がない。
「――お?なんだこりゃ、いつから人里は魔境になったんだぜ?」
「あんたは…!」
上空にフワフワと箒で浮かぶ白黒の人間を見つける。文の新聞でも見た事がある、あいつが霧雨魔理沙…!巫女でもない只の人間なのに異変解決してるっていう…。それなら腕っ節は確かでしょうし、選り好みは出来ない!彼女に協力を――
「お?なんだなんだ?天狗が2匹?早速退治してやるぜ!」
「ちょっ、ちょっと待って話を――」
「退治してから聞くぜ」
「くっ…勝ったら話を聞いてもらうからね!」
「私が勝ったらって事か?」
「私が、に決まってんでしょ!!」
待ってて雪!今すぐに助けに行くから!!
▽
「相変わらず速いね!この私が見失うなんてまず無いんだけど、なっ!」
ヒィィィッ!?今髪の毛が吹き飛んだ!?あ、当たったら死ぬ!!い、いや、能力で凄い痛いくらいで済むはずだけど当たったら死ぬ!!
「目で追えてないなら拳を私に当てるな。というか何故当たる…!」
「んー、長年の勘」
「出鱈目な…!」
「いい加減さぁ…大人しく捕まってくれよぉ〜。早くしないと霊夢にどやされるからさぁ〜」
「そんなこと私の知ったことか!?」
「それもそうか。にしても、人里じゃ勝手が違うなぁ…こりゃ失敗だったか」
そう、この鬼はまだ能力を一切使っておらず肉弾戦のみで私を逃がさんとばかりに人里に押し留めている。巨大化して面での攻撃をされたりとかは今の所ない。
「ならば人里はやめて、外で戦うべきではないか?」
「断る、少しでも隙を見せたら逃げるだろう?」
「分かっているじゃないか」
「でもまぁ、巨大化は出来ずとも戦い方は色々あるんだよ?」
そう言った直後、萃香は霧化し大気に溶け込んだ。
「…き、消え――」
い、一体どこにッ!?と、取り敢えずこの場に留まるのは絶対マズイ!離れなきゃ…ってあれ?何だこの鎖?いつの間にというか何処に繋がって…
「“酔夢『施餓鬼縛りの術』”。やっと捕まえた…」
超絶いい笑顔で鎖をジャラジャラ鳴らす鬼畜生の手に繋がってる。あれ?これヤバない?
「こ、れは…」
「ま、簡単に言えば霊力散らして弱らせる鎖だよ。ご自慢の能力も速さも不自由だろう?」
や、やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!マジで能力使いづらい…!?というか鎖の締めが強くなって来てる…!い、痛!?
「…ぐぁ…ッ…!?」
「丁度いいや、そのまま気絶してくれ。その間に雪を匿ってやるからさ」
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!泡吹いて死にそう!内臓が飛び出る…!!
「…や…め…」
あ、もぅ無理、意識がががががが…
「――やめろぉ!何らお前は!雪が嫌がってんらろ!?」
素っ頓狂な声とジュッという音共に、ギリギリとした締め付けから解放される。と同時に地面に墜落する。
「おぐ…ッ!?げほっ…げほっ…っ!」
あれ?呼吸が出来る?あー、死ぬかと思った。白目剥いて泡吹いてる顔を晒さなくて良かった…。というか何が起こったんだ…?
「誰だよお前…人間?人間ごときが私の邪魔をしたのか?」
「ひっく…何でお前頭に角刺してんの?馬鹿なの?牛なの?慧音なの?」
妹紅!?何でここに…というかまだ酔っ払ってる!?何で来たの!?
「ごふっ…も、妹紅……逃げろ…ッ!」
「へ?なんれ?わらひにどーんと任せ――」
私に任せろと、胸を叩いた妹紅は鬼の膂力を持ってして地面に減り込み鮮血をブチまける。
「酔っ払いに水を差されるとはね、そういうのは酒の席だけにしろってんだ」
も、妹紅ォォォオオオオオオ!?か、体がグシャって!グシャってッ!!そ、そんな…ッ!?妹紅が、死んだ…!?
「やっぱり人間は脆いな…すぐに死ぬ。」
「き、さま…!!」
「おー、ようやくヤる気を出してくれたか。それでこそ――」
「――おい、何勝手に話進めてんだ?角女」
妹紅が減り込んだ穴から豪炎が噴出する。その炎は意思を持つかのようにうねり、萃香に直撃する。
「うわっちちちち!あっつ!?」
萃香に纏わり付くように炎は燃え上がり振り払っても振り払っても炎は消えない。
そして減り込んだ穴から妹紅が無傷で現れる。その表情は固く、酔いは完全に醒めているようだ。
「妹紅…!生きてたのか!」
「何だ雪、お前もう忘れたのか?私は不死身なんだ。体が粉々にされただけで死ぬなら不老不死なんざ謳ってないよ」
かっ、かっけぇ…!イケメン過ぎない?惚れそう。
「…服がこげた。一張羅だってーのに。おい、お前名前は?」
いつの間にか鎮火してた萃香。服だけ焦げてて本体にまるでダメージなし。マジかよ。
というか完全に狙いが私から妹紅に流れつつある。このままいけば逃げられる…
「藤原妹紅、そこで倒れてるやつの友人だ」
「藤原か…昔そんな名の武士を沢山嬲り殺したねぇ。さて、お前はどうかなッ!」
「だからなんだ?私は友人を守るために戦うだけだ!」
妹紅さん…惚れてまうやろォォォォォォッ!あ、今惚れた。
雪「鬼畜生め、末代まで呪ってやる。それ比べて妹紅さんまじイケメン。結婚しよ。」