ほんへを見てからの方が楽しめると思います。
番外編.1 天魔賭博録〜丁半編〜
「よぉ〜し、それじゃあ行きやす」
陽気な掛け声と共に壺に賽子が投げ込まれ、台の上に叩きつけられる。
「さぁ、張った張った!!」
壺を押さえてる鬼の宣言と共に周囲の野次馬達がざわめき始める。
「んー、そうさねぇ…丁だ!!」
「……半」
「へへっ、それじゃあ勝負ですぜ…」
この中心にいたのは、壺をゆっくりと開ける鬼と、星熊勇儀と山神雪。
雪が肉弾戦は嫌だと言い出したことから始まってしまった、危険極まりない丁半の一部始終をお見せしよう。
事の発端。
「雪ー!勝負しよーぜ!」
「嫌だ」
「なら賭け事しようぜ!」
「まぁそれなら…」
「ただし賭けるのはお前の体だ!!」
「ファッ!?」
以上!
▽
「よし、ルールも大体分かったろ?おい、お前が壺振りやれ」
勇儀から丁半のルールを説明され、大体理解出来たところで勇儀が周囲を取り囲む鬼の一人に壺と賽子を渡した。
やるならシンプルに決着をつけるとの事で、ルールは丁(偶数)か半(奇数)か当てるだけ、らしい。そして予想が被った場合は無効として振り直しすることとし、先に5勝すれば勝ちというシンプルな物だ。
「へい、姉御。もう始めても?」
「いいだろ雪?」
「あ、あぁ…」
良くねぇよ!!と叫びたい。賭け事はやめろとは言わないし嫌いでもないが、自分の体を担保にして賭けるという重要な情報をついでみたいなノリで付け加えるな!!後出しはいくないヨ…
やっぱなし!!と言っても『ん?今賭け事するって言ったよな?』とゴリ押しされて今に至る。
周囲はこのアホみたいな賭けを見逃さんとばかりにわらわらと集まった鬼と妖怪の山の妖怪達。
もう詰みです。逃げ場なし。
ふ、ふふっ…ふはははははは!!私のLUCK値の高さを舐めるなよ!!!謎に悪運だけは強いのよこちとら!!
で、でもまぁ…仮に負けてもなんとかなるでしょう。多分…
〜数分後〜
「シニの丁でさぁ」
「お?また私の勝ちだ。」
「……」チーン
これで1勝4敗。私が1勝、勇儀が4勝である。
後がない!勇儀もうリーチじゃん!!(先に5勝したらその場で決着)
「ピンチだってのに顔色変えないのは流石だねぇ。勝つ自信でもあるのかい?」
顔色変わらないのは開始から今に至るまで顔が真っ青だからだと思います。勝つ自信なら開始当初はありました。(今は)ないです。
「じゃあ次行きますぜ…」
壺が割れるんじゃないかと思うほど強く卓上に叩きつけられる。最初は煩くてビビってたけど最早慣れた。それより今は出目を予想せねば…半か丁か…
いや、これは考えても仕方がない。壺に入れてからは賽子は見えないのだから完全に運だ。直感に頼るしかない。
「「半」」
「コマが揃いやしたね…勝負!」
私と勇儀が同時に半を宣言し壺振りがそっと壺を開ける。二つの賽子の出目は…3と4、ということは…
「…サンシの半。」
くそ…、被ってなければ勝ち数拾えたのに…ぐぬぬぬ。
「中々良い勝負になってきたねぇ…。自慢するわけじゃないが、私は中々に運が太いらしくてねぇ…このルールで負けたことがない。私に敵わないと日和った輩が賭け事で勝負を持ち掛けて来たが、悉く返り討ちさ。」
「…敗者はどうなった?」
まぁ、体を賭けるって言ったってこんな単純な賭け事だし酷いことにはならないでしょ…
「さぁ…戯れに生爪むしったり手足を引き千切ったりしてきたが…大半は食っちまったよ」
な、ななななななななんだとォォォォォォォオッ!?
え、何?これ負けたら私体の一部を欠損するか食べられるの?!
楽観的に構えていたがそんな余裕も風に吹かれた塵の如く消え去る。体を賭けるっていうのも冗談だろう、なんて考えていた雪。
相手が鬼だということを忘れてはいけなかった。こいつらはヤると言ったらヤる。
「――やはりやめ」
「さぁ、次だ次!壺を振れ!」
ぴ、ぴぃぃぃぃ!?話を聞いてぇぇぇぇぇえ!!!
「分かりやした!」
私の悲痛な叫び(心の声)も虚しく壺は振り下ろされる。
「さぁ、張った張った!」
ど、どっちだ…!丁か…いや半か…!いやでも………
「ん〜丁だ」
迷っている間に勇儀に先手を取られる。
お前は良いよなぁッ!適当に出目を予想出来て!!こちとら命がかかってるってのに!!
ぐぬぬぬぬ…予想を被せて一旦様子を見るなんて真似が許される雰囲気ではない。勝負するしか…ないッ!!
「…半」
私の宣言と共に壺が開く。出目は3と2…!!
「…サニの半」
よ、よし!!これで2勝…
「やるねぇ…さぁ次だ。」
勇儀は負けても余裕たっぷりで此方を見ている。例えるならご馳走を前にした子供みたいな目で。超怖ぃ。。。
賭博の神様…私を悪しき鬼から守り給え…!
「シロクの丁!」
壺振りが叫ぶとそれに呼応して周囲も騒然とする。
「あちゃー、ここまで来ちまったか」
「次で決着だな…」
はい、絶体絶命の窮地からなんとかデッドオアアライブにシフトする事に成功した雪さんです。え?助かってない?状況は悪いまま?知ってるわ!こんちくしょうめー!!
「振りやすぜ…」
壺振りがゴクリと喉を鳴らしながら、振りかぶった壺を叩きつける。
互いに4勝となり、運命のラストバトル。
周囲のガヤも静まり返り勝負の行方を見守る中、勇儀は壺から目を離し、私を見た。
「決めた。この勝負、私が勝ったら雪は私の物になれ。死ぬまで、永遠に、私の物だ。逆に私が負けたなら何でも差し出すよ。お前にならこの首もくれてやってもいい」
ちょっと何言ってるか分からないです。プロポーズ紛いの所有物化宣言怖すぎるんですけど。どれくらい怖いかっていうと言葉にできないほど怖い。
「その紅い瞳も、鈴のような声も、絹みたいな髪も、細い指も、肉つきの薄いその肢体すべて私の物だ。その肉はどんな味か、その骨をしゃぶればどんな旨味が滲み出るのか、その口はどんな風に喘ぐのか…なんてな」
何か勇儀が此方の返答を待っているようだけど恐怖で喉が痞える。
「…丁」
喉の震えを押さえて精一杯声を絞り出した。返答は精神的に辛いので何も言わない。しょんべんちびりそうなんで勘弁してください。
「相変わらずつれないねぇ…私は、半だ」
勇儀はそれもいいと言わんばかりに笑っていたが、やはりその目は餌を前にした肉食獣、捕食者の目であった。
その目をやめろ、マジで。
「…開きやすぜ…!」
壺振りがゆっくりと壺を開く。極限状態になるとスロモーションに見えるというが今が正しくその時だ。ゆっくりゆっくりと壺の中身が明らかになる。
一つ目の賽子は6…
二つ目の賽子は――
「――ロ、ロクゾロの丁!!ロクゾロの丁!!」
か、勝った…!!!!6が二つ!!偶数!!私の勝ちだ!!!賭博の神様ありがとう!!命恩人感謝永遠に!!
「負けたか…。いやー残念だ!いけると思ったんだがなぁ…」
頭をポリポリと掻き、落胆した様子の勇儀がポツリと呟いた。
「悪いが私はお前の物にはならん」
「あぁ、死ぬほど悔しい。あと一勝で雪を好きに出来たのか…惜しいねぇ…」
「何をするつもりだったのか聞かない」
むしろ聞きたくない。
「そうだ、雪。お前は私から何を欲する。鬼の宝か?この角か?それとも首か?」
勇儀は冗談で言っている様子はない本気と書いてマジである。負けたしいっかーみたいなノリで命を差し出そうとしている。
鬼にとって角は命みたいなものらしい。それよりも重いのが首。どっちにしろ重い。重量の問題ではなくただただ重い。そんな物騒な物はいらない。
「いらぬ、私が勇儀に欲するのは制約だ」
互いの体を賭けて勝負だったけど勇儀は何でもって言ってたしイイよね。
「制約?」
「私が良いと言ったら戦う。だから勇儀から戦闘を仕掛けるような事はするな。それが制約だ」
これって超スマート。私は死んでも戦ってもイイよなんて言わないし。実質お前とは二度と喧嘩しねーよ!!って事だから。勇儀の行動を制限出来るスマートな策よ!
「…あぁ、分かった。」
少し間をおいて勇儀は承諾した。少し悩んでいたようだけど、私からしたらアッサリと承諾されてなんか不安である。
抜け道…あるのか?いや、ないはず…。まっ、まぁ大丈夫でしょ!(特大フラグ)
とりあえず鬼との賭博対決はこれにて決着した。
しかしこれで終わりではない。雪の危険な賭博対決はこれからも続く…
その後特大フラグを見事に回収する雪さん(本編にて)
賭博録は他にも麻雀編(守矢組)、ポーカー編(レミリア)、ルーレット編(フラン)大富豪編(魔理沙)などを予定してます。(書くかどうかは不明)