俺ガイル短編 彼らの日常は進み続ける   作:ふじ成

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やはり、一色いろはは唐突に現れる。(前編)

 

祝日で学校が休みになった月曜日

 

俺は映画を見に行くことにした。

 

話題のアニメーション映画である。

 

公開前は長文タイトルで爆死臭しかしなかったのだが蓋を開けてみればとんでもなく素晴らしい作品だったらしい。

 

映画三本分の価値があるとかなんとか。

聞くところによると公開一週間で興行収入百億を超えたとかリアリティが物凄いとか聞けば聞くほど期待値は上がる。

 

 

期待に胸を膨らませながら、俺は千葉駅にあるデパートに向かう。

 

 

そこは六階より上が劇場になっていて、劇場もかなり広い。

 

しかも、本屋やゲーセンなど色々な店が入っており暇つぶしに事欠かない。

他にもオシャレなカフェからラーメン屋までかなりの店舗が揃っており、余裕で一日楽しめるレベルだ。

 

まぁ、結局一人だと行動は決まってしまうので回ることはほとんどないが。

 

とりあえず携帯で映画の時間まで調べると二時間以上あった。

 

 

ふむ、少し腹が空いているがわざわざがっつりいく程でもない。そこの本屋で文庫本一冊買ってミスドでドーナツでも食いながら待つかな……。ぱないの!いや、ここらドンドンドーナツ、どーんと行こう!って感じか?

 

 

ぼっちは決断が早い。なぜなら選択肢が少ない上、結局脳内で初めから決まっていたりするからだ。映画→結構待ち時間ある→本買ってどっか店入るか→あ、ミスドある。という調子でこの間十秒もかかっていない。ぼっちは最適化されているのだ。つまりぼっちは常にアップデートされた新人類だということか……。

ここにぼっち新人類説を打ち立てる。

そうと決まると、一人うきうきしながらエスカレーターを登り、二階に行く。

右手を進むとそこには三省堂書店がある。

 

結構広い。

 

俺は、面白そうな小説を探す。

ハードカバーだと高いから文庫本だな。

 

シリーズ物って気分じゃないから一巻で終わる文庫本がいいんだけどなー。

 

あたりをうろうろしていると、面白そうな小説を見つける。

 

これにしよう。

 

俺は決めて、手に取りレジに並ぶ。

 

レジはそれなりに並んでいて時間が少々かかりそうだった。

 

俺は大人しく列に加わる。

 

 

 

「せーんぱいっ!」

 

 

 

いきなり後ろから声をかけられびくっと身構えてしまう。

 

 

その声は甘く、聞き覚えがあった。

 

 

まじびびった……!というか、一人でいる時いきなり声かけられるのまじで心臓に悪いからやめて……。

 

 

小さくため息を吐き、俺は振り返る。

 

 

後ろを振り返ると、そこには亜麻色の髪にくりっとした瞳。白のダウンベストとスカート。

上からカーキ色のブルゾンを羽織っていて暖かさそうなのに、軽やかでどこか軽装のようにも見えた。

 

 

声の主は、やはり僕らのあざとさマスター。

 

 

一色いろはが立っていた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

「よう、一色か」

 

 

答えながら振り返ると、一色は不満げにむーっと頬を膨らませて俺を軽く睨む。

 

 

「リアクション薄すぎませんかね……」

 

「だって、お前のそれ、あざといんだもん……」

 

それに、この下りも何回やったかわからんし……。

 

やだなー素に決まってるじゃないですかーと言うのを軽くあしらっていると、前の人の会計が終わり、俺の番になる。そうだ俺は列に並んでいたのだった。

 

 

「あ、後ろ並んでいますし、先輩会計一緒にしちゃいましょうよ。私ぴったり持ってますから」

 

 

断る理由もないので、ああそうだなと返すと、一色が本当に小銭と雑誌を渡してくる。

 

これ、なんか小町も読んでたな……。

リビングに置きっぱなしだったからペラっとめくってみたけど異常にキャピキャピキラキラしてたから、拒絶反応おきて秒で閉じたんだった。

 

手を触れないよう気をつけつつ、俺は受け取る。だって触れたりしたら、なんかやばいし、緊張してくるんだもん……。考えられなくなってやばいって言ってる時点で緊張してる。やばい。

 

 

会計が終わり、一色に本を渡し店を出る。

 

 

ふぅ、ここで会ったのは予定外だったが、特にやることは変わらんのでミスド行くか。

 

街中で出くわすこともあるんだなーと思いつつ、早速ミスドの方向に足を向けると、いきなり肩を押さえつけられた。

 

見ると、一色が後ろにつったっている。え?なんでまだいんの?

 

 

「先輩、なんで勝手にどっか行っちゃうんですかー」

 

 

「いや、どこ行くもなにも俺、お前と行動してないんだけど……」

 

 

してなかった筈だ。うん。だよね?

 

言うと、どはぁーっと大きくため息を吐かれた。なんか、あーあ、だめだコイツ。なにもわかっちゃいねぇって感じの表情してるし……。

 

 

 

「そういうところが駄目なんですよ!先輩は!わ、ざ、と、やってるんですか?」

 

 

 

目が本気だった。ぎろっと睨みつけられる。いろはす怖い。いや、ちょっとは思ったことは思ったんだよ?でも、ぼくだって予定あるし……。

 

 

「いや、このあと俺予定あるし、…映画見るから……」

 

 

しどろもどろになりながら、言い訳をする。

すると、一色はハッと驚きながら言ってくる。

 

 

「先輩もですか!?ちょうど私も見に行こうと思ってたんですー!」

 

 

「いや、でも同じのかわからんだろ」

 

 

「タイトルなんですか?」

 

 

「この世界の片隅にいた君の名は慎吾。」

 

 

なんか長文タイトルってタイトル口に出して言うの恥ずかしくならない?人に紹介とかしづらいからやめて欲しい。まぁ、紹介する人なんていないんですけどね、ええ。

 

 

「あ、やっぱり同じです!先輩、これ恋愛モノらしいですよ?こういうの見るんですか?」

 

 

「悪いかよ。というか、俺は怪獣映画と聞いたんだが……」

 

 

「あれ?そうなんですか?どうも情報が入り乱れてるみたいですね……」

 

 

俺と一色は首を傾げる。

 

本当に一体どんな映画なんだろうか?

宇宙意思を感じるというか、怖くなってきたまである。

 

 

 

「そんなことより!まだそしたら二時間以上ありますしっ!ここだいたいなんでも揃ってますから時間まで一緒に回りましょう!」

 

 

 

 

快活にほがらかに、俺の意見を全く聞かず、一色は笑ってそう言った。

 

 

×××

 

 

 

 

「それはそうとどこ行くんだ?」

 

 

俺は一色に問いかける。

 

 

「うーん、先輩は時間までどうしようとしてたんです?」

 

どうやら考え中らしく、一色は俺に質問を返す。質問を質問で返すなと言おうと思わないこともなかったが、素直に答える。

 

 

「そこで、本買ってミスド入って読んでようと思ってな」

 

 

「ふんふん、なるほど」

 

「お前は?」

 

「私は特になんも考えてなかったので、適当にぶらぶらしてようかと思ってー」

 

 

「ふーん、そういえば誰か誘ってこなかったのか?」

 

一色には誘う友達ならいくらでもいるだろう。

不思議になって俺は聞く。

 

 

 

「あー、書記ちゃん誘おうと思ってたんですけど……書記ちゃんと副会長があれであれでしたし…。」

 

「あぁ、そう…」

 

 

こいつもこいつで大変なんだな……。だいぶ端折っての説明だったが充分伝わった。

友達が彼氏持ちとか、そういう奴ね。色々気を遣わなくちゃいけなそうで、きちー……。

 

一色は続ける。

 

 

 

「それに、いつも何人もと遊ぶと、楽しいんですけど、自己中と思われたくなくて行きたいところ結局行けなかったりして、これは一人で行ったほうが楽しめるのでは?実はいつのまにかいつも妥協アンド妥協してる気がするし………とふと、急に気づく瞬間が出てくるんですよね……」

 

 

げんなりとした調子で一色がいう。

 

 

「あぁ……そう……」

 

 

 

俺の声はいくらか震えていたと思う。

 

闇が!闇が深すぎるよぅ……。てかなんで、それ俺に言っちゃうの?友達とからいらなくなっちゃうじゃん……。鬱にさせてさらに引きこもり体質を悪化させたいの?

 

 

「まぁ、なんでもいいけど、それだったら一人で回ったほうがいいんじゃねえの」

 

 

「いえ、先輩だと、どんなに連れ回してもなんの罪悪k…噛みました気心知れてますし!」

 

 

多分、ほぼ全部聞こえちゃってるから言い直す意味ゼロなんだけど……。まぁ、一色のストレスのはけ口に少しでもなるならいいとしよう。

 

 

「これです!見てください!」

 

「ん?」

 

見るといつのまにか一色は、館内の地図が書いてある看板を見ていた。

 

ビシッとと指を指された箇所を見る。

え?カラオケ?予想外の提案に驚いていると、にまっと笑って言う。

 

 

 

 

「リベンジですっ」

 

 

 

×××

 

 

カラオケ対決。

 

どうやら一色は、卓球の時のリベンジを図っているようだった。

 

勝負は一時間。交互にカラオケの採点の点数で対決。

総合得点ではなく、一回戦、二回戦と時間の許す限り歌い続ける。なんか若干不毛だ。

 

とりあえず、俺は多分音痴では無いから乗ることにした。カラオケは小町と何度か来てるし、よくわからない平塚先生同伴の打ち上げでも行ったことがある。あと一人でも来たことあるしな。それこそ不毛過ぎて二度と行かなくなったけど。

 

だが、相手は一色。おそらく行った回数では負けるだろう。つまり、これは経験の差を戦略で埋める必要がある。

 

 

俺は脳内で考えているとカラオケ場に着いた。

幸い、混んでいることもなくすぐに部屋に入ることができた。

 

ドリンクバーがついていたので、適当に飲み物を入れ、部屋に向かう。

 

 

部屋に入ると、俺は考えを悔い改めた。

 

 

えっと…深く考えてなかったけど、カラオケ部屋でふたりきりってなんかおかしくない?

ラブコメとかでこういうのあるじゃん!

いや、そういうんじゃないことは知ってるけど、意識しちゃうって!

やばい、意識すると一気に気持ち悪い汗をかいてきた気がする。助けてくれ…!ラブコメの神様……!

 

 

ちらと、一色の方を見る。

 

 

すると一色の瞳は仄かに燃えていた。

ささっと既に慣れた手つきで採点モードを選択しながら、マイクを充電置き場から抜き取っている。

 

あ、この子も誰かさんと同じく結構負けず嫌いさんなのね。

 

 

一気に意識をしちゃったことが馬鹿らしくなり安堵した。良かった。俺一人意識して地雷踏むとこだった。セーフ!

 

 

心の中で一色に感謝しつつ、渡してきたマイクを受け取る。

 

 

 

「先輩、負けたらご飯奢ってくれませんかー?」

 

 

 

やると思ったよ。

 

きゃぴっとした声を出したが、それにしては勢いがある。感覚としては宣戦布告に近い。

 

 

ならば、こちらも受け取ろう。

俺は性格の悪そうな顔をして言う。

 

 

 

「あぁ、負けた方が奢りな」

 

 

そして一色を見ると、一色は少し悔しそうに、にやっと笑った。

 

 

 

「今回は、()()()()が奢りなんですね……」

 

 

「あぁ」

 

 

 

そりゃ前回とは、ちと違う。フェアに行かせて貰おうじゃないの。

 

 

 

「わかりましたよ。もう」

 

 

 

俺達は互いに目を合わせる。

やっぱラブコメの神様なんていないって。

心は少年。いつだって燃えるのはバトル漫画だ。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます!

二回目の投稿です。
一回目の感想くれた方、本当にありがとうございました。
感想貰えると、本当にめっちゃ嬉しいです。
今回、文字の分量的にも、前後編に分かれてしまいました。すみませんm(_ _)m
後編は、なるべく早く投稿するので引き続き呼んで貰えると幸いです。

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