人魚を釣り上げたので世話する事にした   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

こんな訳のわからない小説を開く物好きな読者の方々なので既に作者より遥かに隅々まで知っていると思われますが、一応知らない方々の為に折角なのでSCP財団について説明しまょうか。

SCP財団とは、海外のホラー好きの方々が考えた架空の財団です。 財団の管理する施設には古今東西の様々な怪異がSCP-番号という呼び名で保管されている、という設定です。 その怪異についてはそれぞれ、ファイリングされた報告書という形式で記述されています。
要は皆で作る都市伝説と言ったところです。成り立ちとその様は現代版クトゥルフ神話とも言えるかも知れませんね。

そして、SCPは主にSafe、Euclid、Keterの3つのオブジェクトクラスに分類され、それぞれの(収容に際しての)危険度を示します。ただ、ここ重要な事は安全ならセーフで危険ならケテルというわけでは無いことです。

興味を持った方がいたら日本語翻訳されているのでSCP等と検索してみるか、ニコニコやYouTubeで動画を見てみると良いですよ。



今回のあらすじ
お前がママになるんだよ!





人魚さんはおかあさん

 

 

 

 人魚さんが来てから1ヶ月程経ったある週末。既に週末の習慣となっている場所に来ていた。

 

 

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaa――――!!?』

 

 

 

 そして、いつものようにポカリスエット色の芋ジャージを着た人魚さんのチビッ子に包囲された叫び声が公園に響き渡る。

 

 眩しいばかりの子供の笑顔に囲まれる人魚さんは端から見れば中々絵になる。それから、ああ見えて人魚さんはそんなに嫌がっていないので大丈夫。大丈夫ったら大丈夫だ。

 

 

 

 

「おかあさん?」

 

「ん…?」

 

 人魚さんが子供と戯れている間、暫く俺は木陰のベンチで読書に勤しんでいると幼げな声が目の前から聞こえてきたため、本から顔を上げた。

 

 日本では非常に珍しい短めの銀髪のちみっこが俺に話し掛けてきた。何故かボロ布を纏っており、アイスブルーの瞳がこちらを覗き込んでいる。

 

「君のお母さんならどこかに――」

 どうやら俺を母親と勘違いしているらしい。可愛らしい限りだが、母親と間違われるように俺が見えると思うと泣けてくる。まだ、ピチピチだぞ俺は…。

 

 恨み言を子供に言っても仕方がないので飲み込み。とりあえず、迷子かもしれないのでこの子の母親を公園を見渡して探そうとした。

 

 だが、俺は気付いてしまった。それと同時に気付かなければよかったと多少後悔もしたが、見てしまったものを見なかった事にするのも寝覚めが悪い。そんなことが出来る性格だったのなら人魚さんを拾ってはいないからな。

 

「…君のお母さんはここにはいないな。いや、きっと何処にもいないだろう」

 

「え…?」

 

「なぁ、"君たち"さ」

 

 俺はこの子たちに向けて手を差し伸べ、もう少し手を伸ばせばこの子に触れる位置で一旦止める。

 

 そして、小さく溜め息を吐いてから更に口を開いた。

 

「もう、いいんじゃないか? 成仏しても」

 

「………………イヤ……」

 

 この子たちは少し間を開けてから顔を伏せてそう呟いた。

 

 それを聞いた俺は手の伸ばしてこの子たちの頭に手を置く。置いた時はこの子たちの身体が小さく跳ねて強張らせていたが、優しく撫でる事を繰り返していると次第にこの子たちの警戒は和らいでいった。

 

「そっか、嫌なら仕方ないな」

 

「うん……おかあさん…みつけるの」

 

 俺はその言葉に返す言葉を持ち合わせていなかったので、撫でている反対の手で懐からからソレを取り出し、この子たちの目の前に出した。

 

「アメちゃんいる?」

 

「あ……いる!」

 

 この子たちはそれを花が咲くような笑顔で受け取り、包装を解くとコロコロと頬の中で転がし始めた。その可愛らしい様子に思わず俺の顔も綻ぶ。

 

「となり座るか?」

 

「うん!」

 

 俺の横の部分を軽く叩きながら言うとこの子たちはひょいと隣に座った。その姿は可愛らしく無邪気な幼子以外の何者でもない。

 

 全く……この子たちは何も悪くないのにな。ただ、産まれたかっただけだというのに。

 

 俺はこの子たちとの会話をすることに決め、本をバッグにしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 正午頃になり、昼食時でチビッ子達は親に連れられて帰った為、少し髪がほつれ物理的にくたびれた様子の人魚さんが、ふらふらとした足取りでこちらに戻ってくるとベンチの前で凍ったように停止した。

 

『Uuuuuuuuuuu……』

 

 何をしているのか疑問を浮かべていると人魚さんは、ベンチの中央に座る俺を中心に左右に同じ距離をゆらゆらと行ったり来たりし始めた。

 

 バッグが乗っている右側に行き、中央に戻り、この子たちが座っている左側に近付き、再び中央に戻る。この繰り返しである。

 

 人魚さんが五往復程した頃に俺は気づいた。

 

『r0;ue…』

 

 どうやら人魚さんは俺とバッグとこの子たちで埋まっているベンチに座れなくて困っているらしい。なんというか無理矢理退けるとか強く俺に訴えるとかしない辺り人魚さんらしいというか、小動物っぽいというか。

 

 兎も角、このまま眺めているのも大変可愛らしいが、そろそろ不憫なのでバッグを俺の膝に移し、バッグのあった場所を軽く叩いてみた。

 

『Aaaaaa――』

 

 人魚さんは嬉しそうに声を上げるとそこに座り込んだ。

 

 ちなみに話を聞いたところこの子たちの名前は"ジャック"というらしい。男性名称なのはやはり水子の集合体だからだろうな。外見も身体も子供だが、中身は見ない方がいい。今の俺のように多少グロッキーになるだろう。

 

 この子たち曰く、よく追いかけてくる悪い人達からはえすしーぴーと呼ばれているらしいが、それについてはイマイチよく分からないな。

 

 お弁当という名の重箱を取り出して人魚さんの膝に乗せ、お箸とお茶を注いだコップを渡すと人魚さんは黙々と食べ始めた。

 

『わぁ……おいしそう…』

 

 人魚さんを母親か何かのような微笑ましい気分で見ていると、俺の左側から幼げな声が響く。

 

 見ればきらきらとした純粋な瞳で人魚さんの重箱の中身を眺めるこの子たちがいた。長く見つめていたらこちらが謎の罪悪感で浄化されそうてある。

 

『&a↑'』

 

 全くそれに関心を示さない人魚さんはコップを突き出してきたので、再びお茶を注いでから、俺はバッグからもうひとつの小さめのお弁当を取り出した。

 

「………食うか?」

 

「え!? いいの!」

 

 大人なら食べさせない選択があるだろうか。人魚さんは人魚さんなのでノーカウントである。

 

「……おかあさんは食べないの?」

 

『&a↑'』

 

「俺は大丈夫だ。お弁当作る時に腹一杯食べたからな」

 

 三度人魚さんが突き出したコップにお茶を注ぎながらそう答える。

 

 戦時中の母親の気遣いのような言い訳である。実際のところ朝食はあまり取っていないし、お弁当も摘まんでいない。だが、そもそも俺の身体は栄養供給をする必要がないので趣向として以外では食べなくても全く問題ないのだ。

 

「それに子供が大人の事なんて気にするんじゃない。君は子供なんだからさ」

 

「ありがとう…おかあさん」

 

『&a↑'』

 

 人魚さんがまたもや突き出したコップにお茶を注ぎながらもう片方の手でこの子たちを撫でる。今は足りているが将来的に後、一本は腕が欲しいところだな。 背中辺りから生えてこないものか。

 

「おかあさん! すっごくおいしい!」

 

 人魚さんの動物的な可愛さではなく、非常に自然な子供らしい可愛さである。まあ、この子たちの中身は不自然以外の何物でもないが、今は考えるのは止めよう。

 

『&a↑'』

 

 暫く両手の可愛いものを構いながら平和な時間に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 お弁当を食べ終えて暫くした頃。陽も少し傾き始めたので家に帰ろうかと考え始めていると、面白いことが起こり始めたのでそれを眺める事にした。

 

『………………(じー)』

 

「………………(じー)」

 

 俺の目の前で両者が棒立ちで見つめあっている。違うのは人魚さんは見下ろしており、この子たちは見上げている事ぐらいだろう。

 

 そして、皮切りはあの子たちからであった。

 

「………おかあさん?」

 

『Aa……a…aa……a…』

 

 その言葉を人魚さんが耳にした瞬間から人魚さんは無表情にも関わらず、身体が奇妙に震え始める。旧式の洗濯機を見ているような気分である。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaa――!!!』

 

 暫くしてやたら機械的な震えが止まると、次に動いたのは人魚さんだった。

 

 それまで無表情だった顔をへにゃりと緩めながらあの子たちをしゃがんで抱き締める。更にあの子たちが"おかあさん"というワードを呟く度に人魚さんは感極まった様子を見せた。その目の端にはうっすらと涙が浮かんでいるようにすら見える。

 

 やはり人魚さんは子供好きだな、うんうん。俺の考えに間違いは割りとよくあるが、目に狂いはない。

 

 その光景を暫く見てから頭を抱え、小さく溜め息を吐いた。まあ、もう人魚が居るわけだし、水子の悪霊ぐらい増えても一緒なんじゃないかと前向きに考え始めていた時にそれは起こった。

 

「……お、おかあさん…?」

 

『$nu&dw#:@>』

 

 人魚さんが何か呟いた瞬間からあの子たちの魂が毛糸玉を解くように少しづつだが、急速な速度で人魚さんに吸われて行った。それは"魂喰らい"と呼ばれ、人を喰らう大妖怪が1度に多数の人間を同時に食うための碌でもない外法だった。

 

 それを見て俺は人魚や、セイレーン等が船乗り等を対象にした人喰いの類いの妖怪でもある事を思い出す。

 

「……やめ……て…こわいよ…」

 

 魂の消失に伴いあの子たちの姿は急速に霞んでいく。実際には消えているわけではなく、人魚さんの腹に収まっているのだが、どちらもそう変わらないだろう。

 

 人魚さんを止めようとベンチから立ち上がったが、魂だけの存在がその魂を喰われる事は肉体を喰われる事に等しい為、既に手遅れだという事を思い返し、足が止まる。

 

「あったかい…おかあさんの…なか……」

 

 それから直ぐにあの子たちは跡形もなく人魚さんに吸われ、残ったあの子たちのジャックという殻が最期に呟くと、眠るように跡形もなくその場から消滅した。

 

 しゃがんでいた人魚さんはゆっくりと立ち上がると、視線を下げてその先にあった"不自然に膨れたお腹"を擦って優しげな笑みを浮かべている。

 

 俺が人魚さんに近付き前に立つと、人魚さんは俺の方に視線を移し、見惚れるような笑みを浮かべると俺の手を取り、膨れたお腹に当てた。

 

 その感触はとても暖かく、何かがいるという感覚が伝わってくる。

 

「…………これから俺は子持ち人魚の世話するのか」

 

『Aaaaa……』

 

 そう言うと僅かに人魚さんは強張り、自身のお腹を守るように手で覆う。更に訴えかけるような儚げ瞳で俺を見据えた。その姿は母親以外の何者でもない。

 

 俺は深い溜め息を吐いてから人魚さんの頭とお腹に手を置いて撫でた。人魚さんは嬉しそうに目を細めている。

 

「冗談だ。もう、養うなら"1人も2人"も一緒だからな」

 

『――――――』

 

 そう言うと人魚さんは驚いた表情をした後、何故か嬉しそうに俺に抱き付いた。今の人魚さんは色々とぽよんぽよんしているのでとても抱き心地が良い。

 

『#lt@s$』

 

 その後、"2人"と言った発言が凄まじい失言だった事を理解するのは翌朝になってからの事になる。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

___ああ___

 

 

__ああ___あああ___

 

 

___とてもやさしい___ふしぎなひと___

 

 

___いいのですね___

 

 

___あなた___の___

 

 

___こを___うんでも___

 

 

ありがとう

 

 

 

 




ちなみに、この世界のジャックちゃんは本来ならひっそりと魔術師に消滅させられていたはずですが、SCP財団がいる為、消滅させられずに現代までずっと世界中をさ迷っていました。

以下2時間で作ったやっつけ財団資料



SCP-[編集済み] -切り裂きジャック

Item #: SCP-[編集済み]

Object Class: Keter

取扱方: SCP-[編集済み]はその性質から現在まで収容に至っていません。SCP-[削除済み]が姿を現した場合、速やかに機動部隊ミュー3〈ゴム靴底警官〉が送られます。
いかなる理由であれ、女性と子供はSCP-[編集済み]とどんな形であれ接触してはならず、発生したSCP-[編集済み]が存在する街に立ち入ることは禁止されています。


概要: SCP-[編集済み]は極めて高い身体能力と、あらゆる機器で捕捉不能な隠密性を持つ恐らくはヒト型生体です。その一切の身体的特徴はSCP-[編集済み]の能力により不明です。SCP-[編集済み]は19世紀のロンドンで起きた連続猟奇殺人。別名"切り裂きジャック"の正体です。
SCP-[編集済み]には行動が終了した瞬間に全ての目撃者及び対象者の記憶からSCP-[編集済み]の能力・名・外見特徴などの情報は、如何なる記憶媒体を通しても消失します。これは人体に対してはBクラス記憶処理とほぼ同等の効果を持ちますが、現在まで記憶処理された情報の復元には成功していません。度重なる現場検証と、収容に当たったDクラス職員とエージェントの身体損失からSCP-[編集済み]は極めて高い隠密を持つ事に加え、3つの能力を持つ事が確認されています。
SCP-[編集済み]はSCP-[編集済み]-2と呼ばれる硫酸の霧を発生させる事が可能です。この霧は過去にロンドンで発生した膨大な煤煙によって引き起こされた霧による災害と成分が非常に近いものですが、一般人やDクラス職員を数十秒から数分で死亡し、エージェントであっても収容行動に支障をきたす可能性があります。その範囲はSCP-[編集済み]が存在するひとつの街を完全に覆い尽くします。発生した場合は直ちにカバーストーリー〈風上の化学工場〉を実行してください。
SCP-[編集済み]は子供を操る能力を持ち、操られた子供はSCP-[編集済み]-3となります。SCP-[編集済み]-3は共通して腕が黒く変色します。SCP-[編集済み]-3はメスを振るって攻撃を行いますが、小さな子供のために脅威としての度合いは低いです。しかし、SCP-[編集済み]は大量の子供をSCP-[編集済み]-3にすることで兵力としてではなく、動く人質として活用しています。
SCP-[編集済み]は時間帯が夜・対象が女性(または雌)・霧が出ているの三つの条件を満たすと対象の解体します。この時、あらゆる防御・回避手段は意味をなしません。そのため、SCP-[編集済み]の収容部隊は男性のみで構成するのが望ましいと推測されます。また、SCP-[編集済み]は堕胎経験のある対象か、娼婦、或いは[削除済み]を持つ対象を率先的に対象に選ぶ傾向にあるようです。


補遺SCP-[編集済み]:
SCP-[編集済み]により、情報を抹消されたとある音声記録機器の復元を試みたところ性別及び年齢の不明瞭な音声が最後に残っている事が判明しました。以下はその音声記録です。



『このひともおかあさんじゃなかった』



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