人魚を釣り上げたので世話する事にした   作:ちゅーに菌

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どうも、ちゅーに菌or病魔です。メルトとリップと解説役のJKを育てていたら遅れました。

この作品の主人公ことイブちゃんは、魔術版のギルえもんみたいなものです。

後、カテゴリー的には神というよりORTとかの仲間になります。まあ、クトゥルフ神話の邪神は実力はピンキリですけどだいたいそうなりますね。


主人公がやっと本格的に人理修復に乗り出す準備をし始めます。後、何と無くサーヴァント呼びます。何と無くサー(大事なry)




人魚さんと召喚

___あなた___

 

 

__いいえ___いえ___

 

 

___とてもやさしい___あなた___

 

 

___だれよりもあたたかい___

 

 

___あなた___

 

 

___ええ___ええ___

 

 

___わたしは___

 

 

___きっと___ずっと___

 

 

あなたの ものです

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

『……………(すー、すー)』

 

 突然だが、寝ている人魚さんの距離が近い。とてつもなく近い。

 

 何せ人魚さんが俺に覆い被さりながら寝ている。俺の胸に顔をうすめながら眠る人魚さんは、本当に安心した表情をしており、見ているだけで俺の黒一色の魂が洗われるようだ。

 

 何故こうなったかと言えば、最近、人魚さんが1日に2cm程布団を俺の方にずらし、50cm程の隙間を埋めようとしていたので、試しに布団を引っ張ってくっつけてみたら俺の布団に潜り込んで来てこうなったのである。側頭骨の乳様突起らへんから生えている大きな角を俺に当てないようにしながら、最大限密着した寝方がコレなのだろう。

 

 ぶっちゃけると俺としても人魚さんに好かれて悪い気はしない。何せ人魚さんも俺と同じように長く生きている生き物なのだろうからこの先も暫くはこうしていられるという事だ。同じような時間を生きるというだけでも十分過ぎる。

 

 その上、色は兎も角、人魚さんの魂は人間よりも遥かに純粋で見ていて中々飽きるものではない。まあ、釣り上げた頃の人魚さんの魂は、スレているというか、傷付いているようにも見えたが、今の人魚さんの魂はとても穏やかだ。

 

『Aa…a……』

 

 寝ている人魚さんの頭を撫でると、小さな寝言が溢れる。ああ、もう本当に人魚さんと接していると可愛くて堪らんなあ。

 

 そんなことを考えていると、視線を感じる事に気が付く。場所を探ると直ぐに部屋の襖が少しだけ開いており、少し目と耳を凝らすと、聞き慣れた声と、僅かな隙間から見えるシルエットから白っぽい女だという事がわかる。

 

「キ マ シ タ ワ ー」

 

 まあ、見も蓋もなく覗き見していたのはフランチェスカである。見た目はネグリジェ姿の美少女なのだが、(なかみ)で相手を見ている俺からすると殴り飛ばしたくなるような美少女詐欺である。

 

 俺は指で宙をなぞり、召喚魔術を発動させた。

 

「ぐぇぇッ!?」

 

 直後、フランチェスカの頭上に召喚した金たらいのぶつかる轟音と、潰れたカエルのような悲鳴を聞き、満足してから俺は眠りに付いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝食後、そろそろカルデアに行こうと思うので荷物をまとめ始めるのと、同時に家に張っている結界の調整を庭先でしていた。

 

「何してるのー?」

 

 するとフランチェスカが来た。どうやら庭中に出した魔方陣と、それらに囲まれながら作業をしている俺が気になったようだ。まあ、腐ってもフランチェスカは魔術師なのだがらその好奇心は当然と言えるだろう。

 

「家の侵入者避けの結界を張り替えて、家の敷地を"幻夢境(ドリームランド)"に変えてるんだ」

 

「は……?」

 

 幻夢境とは、"人間の潜在意識の集合体(アラヤ)の中に存在する"閉じた世界。俺達が今存在する世界と平行して存在する別次元世界である。

 

 基本的には産業革命以前の文明度で永遠に止まり、大気は神代とそう変わらない神秘を帯びており、魔術師からしたら楽園のような有り様は、根源に到達しようとして元の世界に帰らなかった者が多数幻夢境で暮らしている事が物語っている。今だから思うが、人類の無意識の集合体の中にあり、それに準じた生態系を持つ幻夢境にはこちらの世界で一般的な創作物に出るケンタウロスやら、ハーピーやら、スキュラやら、竜人等々も普通に暮らしており、妻に娶ったり出来なくもないので、それが理由で元の世界に帰らない人間もそこそこいるのかもしれない。

 

 幻夢境の構造は人、人格、その他の者のためにのみ存在しており、それらや、ノーデンスさん、母さん(ナイアルラトホテップ)さん、(イブ・ツトゥル)等の超高次元精神生命体が存在する事によって支えられている事が特徴だろうか。

 

「人間が根源に到達する前に抑止力が働くわけだが、逐一それを働かせるのも面倒だろう? こちらとしても地球を住居として間借りしているだけというのも偲びないし、何なら旧支配者や外なる神(こちらの方)で選別しようという話し合いが昔あってな。まあ、当時地球にいた母さんも参加したらしいが、今では数える程しか当時の邪神は残っていないらしい。俺も居なかったからな。しかし、約束は約束。悪魔だって守るのだから邪神はもっと守る。その名残でアラヤの中ので幻夢境は、根源到達を目指す人間の最終関門として今も存在しているんだ。ちなみにどんな方法で根源に行こうとしても夢の中の世界からは逃げれないぞ」

 

「へー…………あれ? 私今ひょっとしてものすごいこと聞いてない?」

 

 別にこれぐらいは常識である。幻夢境の入り口である焔の洞窟にいる二人の神官から、初めて幻夢境を訪れた人向けに配られる幻夢境の成り立ちと題した挿し絵で分かりやすくまとめたパンフレットにも載っている事だし。

 

「そうかな…そうかも…」

 

「まあ、お前がもし根源に用事があって幻夢境に来たのなら俺の肉体を頼るといい。それとイブ・ツトゥルの友人だと回りには言っておけば無下には扱われないと思うぞ。幻夢境じゃ俺に楯突く奴は誰もいないからな」

 

 幻夢境の維持のために幻夢境に置いてある本来の肉体は紛れもなく"全智者"の権能を持つ。

 

 目にしたモノを理解し、全てにおいて答えを持つというただそれだけの能力であるが、何よりも暴かれる事を嫌う大多数の神性達は俺の前に出ることさえもしたがらない。

 

 それ以下の奴等はイブ・ツトゥルの友人という肩書きの者が野垂れ死にでもしたら、何でも知っている全智者からどんな罰が下る考えるだけで舌を噛み切って死にたくなるだろうから率先的に協力してくれるだろう。

 

 うん、というかそんな事になったら俺が考つく限り最低最悪の方法と過程でもって関わったもの全てを例外なく殺す。うちの夜鬼は優秀だから生きたまま俺の前に全員連れて来てくれるだろうな、うんうん。

 

「…うわぁ……」

 

「なんだその目は?」

 

「いや、イブちゃんもやっぱりナイアさんと同類なんだなって思った」

 

「そりゃな。俺は"旧支配者や外なる神の中では比較的マシな部類"ってだけだ。人間なら薬の売人とジャンキーしか狙わない快楽殺人鬼みたいなもんさ」

 

 よって根底が狂っているのは最早どうしようもないという事だ。ちなみに俺が贔屓している対象は、主にこの星で生まれた或いは生きたモノ全てである。

 

 そんな話をしているうちに結界の張り替えは終了した。

 

「見た目からはわからないけど何か変わったの?」

 

「変わった変わった。幻夢境の壁によりこの世から隔離されることで、この家はこの世の理全てから断絶される。妖精郷や、神がこの時代でいる場所と原理は似たようなモノだな」

 

「つまり……?」

 

「地球の表面がローストされるどころか、この瞬間に太陽が爆発しようともこの家と結界内の敷地だけは無傷のまま結果的に残る。ああ、勿論、まだ外との出入りは普通に出来るからお前が気にすることは何もないぞ」

 

 ついでに空気も幻夢境と似たような性質になるので"普通の神"もこの空間内なら現代にも関わらずに存在出来るようになるが、家に普通の神は居ないので特にメリットは無いな。

 

「なにそのスーパー全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

「魔術のプロは結界のプロでもあるんだよフランさんや。なんなら教えてやろうか? お前なら筋が良いから800年も修行すればこれぐらい出来るようになるぞ」

 

「キハハ……遠慮するよ」

 

「なーに、旧支配者とか外なる神とか(俺の知り合い)に比べれば、俺なんて優しいもんだ。アイツらは魔術ひとつ教授するにも張り切り過ぎて加減をしないから人間なんて直ぐに壊しちまうからな」

 

 俺がじりじりとにじり寄ると、その分だけ下がるフランチェスカ。なんだか面白いので暫く繰り返していると、背後の気配に気付いた。

 

 

『Aaaaa――』

 

 

 振り向けばそこに居たのは我らが人魚さんである。

 

『b@fy?』

 

「アッハイ」

 

 どうやら人魚さんからそろそろお昼ご飯を作れやというお達しらしい。時間を確認するとそろそろ良い時間である。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

『Aaaaa――n』

 

 あーんって言いながら食べている俺の隣の人魚さんが大変可愛らしい昼食風景。

 

 ふと、気になった事があったので向かいに座って食事を取っているフランチェスカに話題を振ることにした。

 

 ちなみにシャイガイはフランチェスカの隣で食事を取っている。いや、コイツがあんまりにもやせ形なので取らせている。

 

「ところでさ」

 

「んー、なにー?」

 

「"キャスターのジル"とか昨日言ってたけどあの目覚まし時計にモデルとかあんの?」

 

「……………………は…?」

 

 フランチェスカの持つフォークに突き刺されていたサラダのプチトマトが滑り落ちた。更にコイツは一体何を言っているんだ言わんばかりの視線を俺に向けている。

 

 こら、人魚さん。俺の皿から食べ掛けのソーセージを持っていこうとするんじゃありません。食卓の真ん中のフライパンにいっぱいあるでしょうが。メッ、ダメったらダメっ。

 

「…サーヴァントって言葉わかる?」

 

「奴隷のことか?」

 

「……じゃあ、英霊は?」

 

「戦死者の霊だな」

 

「…………ダメだこりゃ…抑止力のことはよく知ってるのになんで…」

 

 フランチェスカは深い溜め息を吐いてから机に落ちたプチトマトを指で摘まんで口に放り込むと、重い口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

《うっうー♪うっうー♪( イェー) うっうー♪うっうー♪( イェー) うっうー♪うっうー♪( イェー)__》

 

『UuuUuu――♪』

 

 フランチェスカの説明の間、暇そうな人魚さんには教育にまあまあ良さそうな俺のお気に入りのアニメを見せておいた。当時としてはOVAのような神作画が特徴である。人魚さんは歌っているつもりなのかOPでうっうー言っている姿が大変可愛い。というか何故かうっうーのところだけはしっかり聞き取れる不思議。

 

 話を戻してフランチェスカによると、サーヴァントとは魔術よりも上にある最高ランクの使い魔で、英霊や神話や伝説の中で為した功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者の一種だそうな。

 

 要は人間が無意識に作る精霊を使い魔にしましたと言ったところだろうか。

 

「寧ろ、私としてはイブちゃんが知らない方が不思議なんだけど? というかそもそも全智者だったんだよね? なんで知らないの?」

 

「力を置いてきただけでいまでも全智者だわい」

 

 というか、全智者はフランチェスカが思っている程便利な能力ではない。

 

 全智者は全てを知ってる能力ではなく、全てを知れる能力なのだ。要は超ハイスペックな辞書を常に持ち歩いているようなものである。調べた事はなんでもわかるが、そもそも調べなければ知るよしもないのだ。

 

「それに正直、全智者の能力は面白くないのであんまり使いたくないしな」

 

「面白くないの?」

 

「例えばだ…」

 

 デモンズソウルを初見プレイするとしよう。すると初見殺しの罠や、敵の配置、アイテムの場所、敵が次にするモーションまでなんでも無意識に意識しただけでわかってしまうのである。全智者の前にはフロムの悪意も形無しなのだ。

 

「なんでそんな例…」

 

「まあ、全智者を捨てて一番良かった事は気付かなくなった事だな」

 

「気付かなくなった?」

 

 正確には気付かなければそのまま過ぎ去る事に気付かなくなった事だ。

 

 誰かにとって大切な事であれ、由無し事であれ、それを知ってしまえば時が解決するまで何処か心の隅に引っ掛かるモノだ。気付かなくて良いことを気付くというのはとても歯痒い。

 

「だからイブちゃんは世話焼きなんだねぇ…」

 

 なんだその妹を見守る姉のような絶妙な顔は?

 

「それにしても知識が偏ってるよねイブちゃん?」

 

「それは…その…」

 

「ほうほう、それは?」

 

「この身体に魂を移す前の俺は……その……なんというか…」

 

「なんというか?」

 

「ボッチだったからな…」

 

 本当に今思い返すと酷いものだ。何せ俺の昔の趣味が、神等の秘密やら恥ずかしい事やらを全智者で勝手に暴いてひたすら煽るというモノであった。無論、そんなことする輩に近付きたがる者などいるわけもない。よって交流がほぼないので知識がとことん偏ってるのだ。神々が俺の神殿に最初で最後に直接来たのが、セファールがやって来た時なのだから何れ程俺が嫌われていたのかはよく分かる。

 

 まあ、俺自身地球で神と分類される輩はあんまり好きではなかったがな。基本人類をろくな目に合わせないし。

 

 今、思い返すと場合によっては母さん以上のクソ外道だった可能性すらある。プライバシーは大事。イブ、おぼえた。

 

「大丈夫よ! イブちゃん!」

 

 フランチェスカはしたり顔でムフーと鼻を鳴らすと、親指で自分自身を指差しながら口を開いた。

 

「私がいるじゃない!」

 

「チェンジで」

 

「即答!?」

 

 正直、コイツの魂が常人ぐらい清潔であったのなら結婚していた可能性もなきにしもあらずであったが、それはそれである。誰だって魂が汚物な相手は嫌であろう。俺は嫌である。

 

 それはそれとしてサーヴァント。それには俺としても大変興味かある。

 

「へえ? 興味津々なの? 意外だなぁ。イブちゃんは魔術とかについてはいつも達観してるし」

 

「俺にだって知らないことぐらいある。この身体()じゃそっちの方が多いぐらいだ」

 

 それよりもサーヴァント。現在、過去、未来、異世界、平行世界の英霊を使い魔として喚べるのならば俺の数少ない友達だと俺は思っていた連中とまた会えるかも知れないじゃないか。流石に死霊として俺の神殿に留めるのは腰が引けたからやっていなかったが、世界を救う為のサーヴァントという大義名分があるのなら話は変わるのである。

 

「だからわた」

 

「チェンジ」

 

「最後まで言わせてよ!?」

 

 俺はフランチェスカを無視してグラスに注がれたお茶を飲み干すと口を開いた。

 

「じゃ、試しに召喚してみるか」

 

「へ…?」

 

 

 

 

 

 3分後

 

 

 

 

 

 リビングの床に暗黒のもの(俺の血)で描かれた正円形の召喚術式が出来上がっていた。

 

「……サ、サーヴァントのことすらしらなかったんじゃ…」

 

「お前なあ、邪神(俺ら)がどうやって人間から呼び出されるかわかってるのか?」

 

「ああ……なるほど」

 

 サーヴァントとは次元の違う召喚される側のプロフェッショナルという事は、召喚する側としてもプロフェッショナルだという事である。

 

 神降ろしの術式より簡単な術式なんて、幾つもの銀河と銀河を跨ぎ、果ては異宇宙からの召喚にすら対応している俺らにすれば欠伸の合間に出来てしまうようなモノだ。どこから? どこへ? なにを? 最低限その3つだけ知れれば召喚は可能。故にサーヴァントというモノと、それを何処から喚ぶか知った俺には簡単な作業である。

 

 それに召喚や契約自体を行うのはそこの聖杯が全てやってくれるというので楽チンだ。

 

 と、言うわけで。

 

「人魚さん、人魚さん」

 

『Aaaaa?』

 

「聖杯吐いて?」

 

『………………(ガブガブ)』

 

「人魚さん痛い痛い、手を噛まないの」

 

 仕方ない、相変わらず人魚さんは聖杯を出してくれそうに無いので人魚ごと召喚に使うとするか…。食べ物持たせて陣の真ん中にでも置いておけばいいだろう。

 

 

 

 40秒後

 

 

 

『Aaaaa――♪(もふもふ)』

 

 召喚陣の真ん中で人魚さんはメロンパンをもふもふ食べていた。なんとこの可愛い海産物はメロンパンひとつで釣れた。くっそチョロい。

 

 パンにヒモ付けて人魚さんの前に吊るしたら釣れるんじゃないだろうかと真剣に考えるところだ。

 

「召喚するサーヴァントの当てはあるの?」

 

「無いな、とりあえず最初は適当に召喚しようと思う。もしも反抗して来たら物理的にお帰り願えば良いからな」

 

「イブちゃんの魔術神のクセに最後には物理に頼るとこ好き」

 

「褒めるなや」

 

 一応、暗黒のものでフランベルジュを作りながらフランチェスカとコントをしていると俺が声を上げる。

 

「ん…?」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、大したことじゃない」

 

 また掠れ切った全智者が少し暴発して頭の中に何か文字が浮かんだな。

 

 "ピックアップ"とは一体何の事やら……うーん、全くわからん。

 

「あ……令呪のこと伝え忘れた…」

 

「何か言ったか?」

 

「な、なん、なんでもないよ? ホントダヨ?」

 

 目を反らして汗をダラダラと流しているフランチェスカの様子は明らかに普通では無いが、まあ良いだろう。今回は俺が好きでやっている事だからな。

 

「さて、起動するぞ。はいこれ呪文書いたメモ」

 

「え? 私が読むの?」

 

「俺が読むとなんかおかしいからな。誰が唱えても俺が主人になるように術式は設定してあるから問題ない」

 

「仕方ないわね…えーと、げふんぐるい むぐるうんふ ぐへー=ゆ いぶ=つとぅ…ぶふぅ!?」

 

 何故かフランチェスカが吹き出しながら詠唱を止めた。

 

「どうした? 早く"第六サスラッタ"を唱えてくれ」

 

「ちょっと待ってこれイブちゃんの暗黒のもの(ザ・ブラック)を召喚するための呪文でしょ!? 自分を喚ぶ気!?」

 

 ははは、そんな面倒なことするわけがないじゃないか。

 

 単純に人間用の召喚術式を態々組むのが面倒だったので、俺用の召喚術式を"ちょっと"弄って代用しているだけである。よって呪文もそのままなのだ。

 

 まあ、俺用なので"神でも召喚出来てしまう"だろうが、どうでもいい事だろう。そんなことよりサーヴァントが見たい。

 

 呪文は心を込めて唱えるときっと良いことがあるぞ!

 

「良いことって…イブちゃん超運悪いでしょ…。海老で鯛を釣る……ならぬ鯛で海老を釣ろうとしてるのかイブちゃんは…いや、鯨で海老を釣るようなものだよねコレ…」

 

 そんな呟きをしてから観念したような様子でフランチェスカは再び呪文の詠唱に取り掛かった。

 

 

 げふんぐるい むぐるうんふ ぐへー=ゆ

 

 いぶ=つとぅる ふたぐん むぐるう いとれて

 

 んぐうが いぶ=つとぅる げふんぐるい むぐるうんふ

 

 あこぶぐしゃぐ いぶ=つとぅる たばいと!

 

 いぶ=つとぅる!

 

 いぶ=つとぅる!

 

 いぶ=つとぅる!

 

 

 目の前で自分の呪文を唱えられているとちょっと恥ずかしいなとか考えていると、召喚術式から目映い光りと、淡いエーテルの輝きが入り乱れた。

 

 

 

『きゃあああああああ!!?』

 

 

 

 次の瞬間、庭の方で高めの女性の声と、木の枝が次々とへし折れる音が響き渡り、最後に一際大きい何か固くて重いものが金属板を突き破るよう音が聞こえた。

 

「………………」

 

「………………」

 

『Aaaaa?』

 

 無言で庭に目を向けると、背の高い一本の木に生える枝の片側半分が綺麗にへし折れ尽くしており、更にその木の下にあった小学校の用具倉庫ぐらいの大きさがある庭の道具倉庫の屋根に大きな穴が空いていた。

 

 フランチェスカでも何が起きたのかわかったようで俺に非難混じりの視線を向けている。俺はただ沈黙を噛み締めているとフランチェスカから声が掛かった。

 

「ねえ、イブちゃん? 召喚される位置は何処に設定したの?」

 

「人魚さんがいる場所だな」

 

 

「そこに人魚ちゃんがいるけどどうなるの?」

 

「召喚される寸前に人魚さんに当たって弾き出されるな」

 

 

「弾き出されたらどうなるの?」

 

「既に召喚されたという結果は確定しているので召喚術式の近くの何処かしらに召喚されるな」

 

 

「ねえ、イブちゃん?」

 

「なんだ?」

 

 

「イブちゃんって天然だよね」

 

「言わないで!?」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 俺は意を決して庭道具倉庫の前に立っていた。危ないかもしれないので人魚さんと、フランチェスカと、シャイガイにはリビングで待っていて貰っている。

 

『いたた……ここはどこですか?』

 

 女性の声と、ガシャガシャという妙な金属音が庭道具倉庫から時より響く。召喚術式が術式だけにひょっとしたらサーヴァントでもなんでもない何かを召喚してしまったのではないかと考えたが、一応サーヴァントと俺の間に魔力の供給路があるのでその心配は無いだろう。

 

 ………………ちょっと悪戯してみよう。

 

『ひゃぁっ!?』

 

 供給路へ俺の魔力をちょっと送ってみると倉庫の中から小さくて可愛らしい悲鳴が上がった。 どうやら随分可愛らしいサーヴァントなようだ。

 

『な、なんですかこれ!? こんなに魔力が雪崩れ込んで……このままじゃ…わ、わた、わたしの霊核が爆発しちゃう!』

 

 その言葉を聞いて魔力を流すのを一旦止めた。どうやら爆発しちゃうらしい。思ったよりだいぶ脆いなサーヴァント。

 

『あ、止まってくれた……よかった』

 

 言動から良い子の香りがしたので、意を決して庭道具倉庫の扉を開けた俺は目を見張った。

 

 何故ならそこにいたのはそう。

 

 

 

 

 

「ひゃ!? あ、あなたは…だ、誰ですか?」

 

 "愛する"こと、"憎む"こと。その異なるようで隣り合うふたつから作られている異様な魂にも関わらず、真っ直ぐで美しい輝きを放つ魂をした少女だったからだ。

 

 うっはなにこれすっげー成形イケ魂。

 

 

 

 

 




ねえ?

知ってる?

ちょびっツのちぃと、殺生院キアラは中の人が同じなんだよ?

毎日ひとつ~ 豆知識 ランランラン



~主人公マテリアル~
(絆3)
全智者 RankE-(EX)
イブ・ツトゥルは根源に近い性質を持つ外なる神である。全智者は根源に匹敵する知識を有している為、根源よりもあらゆる点で優れる。無形の落とし仔のような根源よりも、人間にはある程度のモラルをもって接するイブ・ツトゥルに教えを請う方がずっと沢山の啓蒙を獲得可能。
ただし、特別な場合や者を除き、イブ・ツトゥルは幻夢境全ての共通害悪と認識されている。故にただ会いたいというだけならば幻夢境の住民は殺してでも止めようとする為、拝謁するのは容易ではない。
文字通り本人がその気ならば全てを知ることが可能な故に、本来のランクであれば戦闘中にイブ・ツトゥルへ攻撃を当てることさえそれこそ()()()()()()避けようのない攻撃を除いて困難を極める。だが、全智者の権能を持つ肉体は幻夢境の維持のために自身の神殿に鎮座しており、こちらの世界にいるイブ・ツトゥルは、とある人間とナイアルラトホテップの間に出来た子に魂を移しているだけの存在の為、スキル自体がほぼ潰れている。
現在はその名残としてそれまで見た知識は有している事、たまにスキルが暴発して突発的に予知や幻視をする事、頑張れば戦闘中に10秒先の未来ぐらいまでは見通せる事がある。

クラススキル
全智者 E-
ターン開始時、自身に回避を1回付与する。





・後日談

「ん? どうしたんだ人魚さん。干してある洗濯物そんなにじっと見つめて」

『………………(ビシッ)』

「ん? 人魚さんの"ぱんつ"がどうかしたのか?」

『e"@k&tr@(イブのおかず)』

「………………言いたいことは何と無くわかったが、そんなところの知識だけアニメから吸収するんじゃありません。メッです」






次回予告

人魚さんと正体不明の○っぱいサーヴァントでエンゲル係数がヤバい







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