「いや、なんでここにいんの?」って思うけど、まあご都合主義です。(気がついたら)来ちゃった、程度の感じで。
歩きついた先
世に最初の火が起こり、それを発端とした差異の始まり。古竜を倒し始まる火の時代。太陽の王グウィン、その一族。だが火は陰り、世は呪いに飲まれる。
以来グウィンが行った火継ぎ、それに続き行う者「薪の王」達。だが王となった本人以外、誰一人とてその意味も、苦しみも、犠牲の大きさも知らず、王は火の炉で燃え続ける。
肉体が燃え尽き、火が陰れば、また誰かが―――。
そして永久の時が過ぎ、数多の国が生まれ、また消えた。その時の流れの中で呪いが消える事は無かった。火と呪いとは……その火が増すほどに、呪いもまた。
続く火継ぎで燃えていく火、溢れる呪い。
誰かが思い望むに違いない、その終焉を。
王のソウルを最初の火から見出した王達のように、火から闇のソウルを見出した小人と同じ、光無くとも訪れる闇の時代の到来を望む者が。
果して、それが成された後か、それとも火継ぎの後か。闇と光の差異と関係は無しに、絶えず巡るソウルの流れ。それが巡りつくのが、どこであるのかは、誰一人とてわからぬのである。
■
男が外で陽気な天気に誘われて、外に出て日に当たって日向ぼっこをする。別段不思議な光景ではない、例え男女誰であっても日に当たりのんびりと日を過ごす事など、珍しくも無い事だ―――体の大きなその男が重厚な鎧に身を包み、その体がさらに巨大な狼に埋れていなければだが。
どちらとも、静かに寝息を立てていた。男の得物であろう巨大な大剣と盾は、横に置きこの静かな時間を睡眠をもって満喫していた。鎧姿の男の周りには、小鳥や猫など小動物が集まっていた。みな一様に眠り静かである。
だがふと、狼がその顔を上げた。それに続いてほかの動物達も目を覚まし、ばたばたと散っていった。その音で鎧の男もまた目を覚ました。
「アルトリウスどのぉーーー!!」
遠くから声を上げて一人の女性が駆け寄ってきた。長いポニーテールを揺らし、手には既に得物を携え。その様子から、男はすぐに何か戦いが起きたと知る。
「関羽何があった?」
関羽、と呼ばれた女性は息を整え続ける。
「はい、近くに賊が現れたと」
やはりか、と男はうなづいた。
「数は」
「20人程と聞いております」
「……劉備と張飛はどうした」
「桃香様は女子供の避難を、鈴々は村の男衆を集めております」
村の男衆を集め賊と戦える者を探すのだろうが、しかしここはただの村、武に秀でた者は勿論出兵経験のある者もいない。そして男は、その事を先刻承知であった。
「男達は村から出してはいけない、万が一入り込んだ賊から女達を守らせろ」
「では」
「ただの賊であれば、私と君達で十分だろう」
男は立ち上がり、置いてあった大剣と大盾を持った。また同じく、あの巨体の狼も体を起こし立ち上がる。四肢で立ち上がるその姿は、眠る姿よりもより大きく見える。
「それに、シフもいる」
男が狼――シフの名を呼びながらその顔を撫でた。シフは彼に撫でられ満足そうにしている。
二人は移動し、途中小柄な少女と合流する。
「張飛、賊は」
「土煙もうもうと突っ込んできてるのだ!」
少女、張飛がある方向を指さす。その先には、確かに土煙をあげる集団が見えた。耳を澄ませば、馬の走る音に野蛮な男達の声も響く。
「……シフ」
男がそういうとシフがまず駆けだした。巨体に似合わず、その走りはまさに狼のそれであった。その姿に賊たちが驚いたのは、言うまでもない。自分たちが蹂躙しようと定めた村から、なにか大きな物体が近づいて来たのが見え、まさか巨大な狼とは思わぬので何であろうかと、目を凝らす。
するとどうだろう、それは正しく巨大な狼であった。化け物が現れたぞと誰かが叫び、勢いよく走っていた馬を急きょ止める。だが彼らは所詮賊であり、馬術の心得は無くそれを用いる戦いを知らぬ者ばかり、急に足を止めた馬は、その勢いを殺せず、まして後続は急に止まることが出来ずに、先頭集団にそのまま突っ込んでいった。
落馬し馬に踏まれギャアと悲鳴を上げ、中には骨折し既に動けなくなる者まで現れる。そんな賊たちの前に、もう既に距離を縮めていたシフが現れた。自分達の何倍もあろうと言うその巨体に、誰もが怯え後ずさった。
「殺せ!!」と誰かが叫ぶと、何人かが剣を取り震える足のままでシフに向かい剣を振り上げた。しかしシフが唸りをあげて前足を払うと、賊数名が悲鳴を上げて吹き飛んだ。シフにすればじゃれるのと変わらぬ力、しかしその前足で払われれば、たとえシフにとって遊びでも大人の男一人容易く抛られる。
さて、それを見てこれは敵わぬと、賊達は怯え引き返すが、しかし振り向いた先には、いつの間にか少女二名と見慣れぬ鎧を着た大男がいた。
「罪なき民を襲うのだ、ここで逃げたとてまた襲うのだろう」
「ならば逃がすわけにはいかぬな」
「観念するのだ!!」
巨大な狼に比べれば、確かにこの三人は人の姿だ。しかし賊は三人を見てシフを見た時以上に体が震えた。特に、あの鎧の男を見て。
「外道とて殺しを良しとしない者がいるのでな。殺しはしない、加減はしてやろう……だが、自分達の行いを大いに悔いるがいい」
大剣が自分達に向けられ、賊は皆自分達の敗北を悟った。自分達は選択を誤ったのだと後悔した。そして運が悪かったのだ。賊に身をやつした事、そして知らぬとは言えこの男「深淵歩き」アルトリウスがいる村を襲ったことを。
靖王伝家
蜀の王、劉備の持つ宝剣
劉備は武には優れず、終いにこの剣を
使いこなす事はなかった
だからこそ、彼女の仁徳は武を超えたのだ。