恋姫無”双ル”   作:Par

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思いつきのクロスオーバーです。短い前後編の二つ予定。
まあダークソウル2やった人は、お察しでしょうが、モチーフは2の主人公です。しかし仮でも名前を与え、本来話さない主人公を喋らせるのでほぼオリ主と思うかもしれません。初代はあまり入れず、ダークソウル3の要素は入ると思います。

なお、この作品は、作者の多大なフロム脳が働き構成されています。

2017.2.2 誤字修正、文章追加
2017.2.7 文章を訂正


BONFIRE LIT
廃村の篝火


 己が仕える主を探すのは、誰しもが行う探求であるかもしれない。自身の能力を、上に立つのではなく、誰かの元で活かす事に喜び価値を見出す。人の上に立つ者が限られるなら、多くの者がそうであるだろう。そして荒野を歩く3人の少女、彼女達もまた主を探す者達である。

 

「もう日が暮れるな」

 

 三人の中で長身の女が、傾きだした日を薄めで見た。

 

「近くに村があるはずですが」

 

 次いでメガネをかけた女が、キョロキョロとあたりを見渡すが、彼女が言うような村はない。

 

「どこかで道を間違えましたかねぇ~」

 

 そして最後に飴をなめる女がのんびりと答えた。

 

「まいったな、人のいる所で休めると思ったが」

「道は間違えてないはずです。もう少し歩きましょう」

「などと言って、もう結構歩きましたよぉ~?」

「……大丈夫です」

「自信なさげだな」

 

 趙雲、戯志才、程立。それぞれ星、稟、風と言う真名を持つ。真名は、この世界で個人が持つ最も尊く真に心許した相手のみが呼ぶ事が許される名である。それをお互いに呼び合うと言う事は、つまりこの3人の固い信頼の証なのであろう。

 三人の旅人は、目的の村へと向かう。休息のために暖かき火に当たれ、風を凌げる場所を求めて荒野を歩く彼女達だが、当てもなく放浪してるのではない、彼女たちは探しているのだ。ただ仕えるに相応しい主を探しに。

 村を求め歩くがもう日は傾き、朱色に染まる。夜が来る。

 

「さすがにこれ以上は無理だろう、適当な場所で野宿だな」

「う、うぅむ」

 

 趙雲がそういうと、戯志才はばつが悪そうにうなった。もう少し歩こうと提案した手前、居心地が悪い。しかし闇夜の中を歩くのは危険だ。しかたないと、彼女も野宿を決めた時であった。

 

「……いえ、どうやら野宿は免れそうですよぉ」

「む?」

「あれを」

 

 程立が一方を指差した。趙雲が目を凝らすと、遠くにぼんやりと光る物が見えた。火の明かりだ。

 

「人がいるのか?」

「暗くなって気が付きませんでしたが、村かもしれませんねぇ~」

「……一先ず近くまで行くか、しかし用心しろ盗賊風情かもわからん」

 

 再び腰を上げ、その光を目指しあるく。ぼんやりとした光は、徐々に徐々に近づき、その光がある周りも、闇に目が慣れてきた事で見えてきた。

 

「村、だな」

「村ですねぇ……」

「ええ、しかし……これは……」

 

 たどり着いた村は、まるで人の気配がなかった。そして、まともな家もなく、暗がりでも分るほどに倒壊した家々が並んでいた。

 

「……自然に壊れた風ではない、それも最近のようだな」

「賊かなにかの仕業でしょうか……」

「かもですねぇ~」

「人の気配は無いが……では、あの火はなんであろうか」

「じゃ、見てみますかぁ」

「あ、待て風!」

 

 トコトコと程立が歩き出し、火の元へと向かう。実に不用心な奴だと静止を聞かず向かう彼女の事を戯志才は呆れながらも、趙雲とともに後を追った。

 荒廃した村は酷い様子で、家はもちろん生活の道具すべてが荒れ果て、その殆どが使い物にはならなかった。かろうじて家の壁が残り雨風が防げるようではあるが、しかし生活の場としての機能は残ってはいない。

 そんな廃村で光る火。炎に魅入られた羽虫のように、彼女達はその明かりへと近づいた。

 

「……無人?」

「ではあるまいよ」

 

 三人がたどり着いたその火は、篝火であった。村で最も状態がいい家の中で、その火は小さくも暖かく燃え、まるで彼女達を迎えるように燃えていた。しかし、火は燃えているにかかわらず、その家は無人であった。薪が組まれ、明らかに人の手によって燃えたそれは、まだ近くに誰か居る事を意味した。

 

「さて、無人の廃村に篝火か……」

「消し忘れと言う風じゃぁありませんねぇ~」

「どうします?ただの旅人ではないかもしれません。星が遅れをとるとは思いませんが、不要な争いは望みません」

「判断しかねるが、これはただの人ではないやもしれんなぁ……」

 

 趙雲が二人を手で庇いながら、不意に己の得物へ手を伸ばした。

 

「星?」

「……黙って入った非礼は詫びてもよいが、しかし貴方の住居と言うわけでもあるまい」

 

 三人の背後に、一人の影が現る。

 

「篝火に寄せられたか……」

 

 のそりと、男が一人。篝火に照らされ見えた姿。細い隙間の開いた鉄兜、上に毛皮を羽織ったような鎧。その手には、無骨な大剣が握られていた。

 

「こんな近くまで気配を感じぬとは、相当な手練れと見える」

「そういう貴様こそ、よい殺気だ……」

「ふむどうだろう、こちらには戦う意思は無い、良ければその物騒な物は使わないでいただきたいな」

「生憎そう言った言葉は信用しないようにしている」

 

 男は三人をジロリと見た。その大剣はまだ握られ、そのまま男は、趙雲達にとって未知の構えを取った。両手で大剣を持ち、顔の高さまで上げ切っ先を趙雲達へと向けている。腰は落とし、片足は前に出ている。踏み込めば即座に趙雲へとその刃は襲い掛かるだろう。趙雲もまた、己の得物である槍を構えた。武器のリーチでは彼女の槍が勝る。しかし男の持つ大剣もそれなり以上の刀身、加えてその実力が未知数の相手に迂闊に飛び込むは下策である。

 戯志才等二人は、戦いは不得手である。彼女達は頭脳が武器でありこのような直接の戦いは、到底向いていない。今この場においてすべて趙雲に任せるほか無く、戯志才は冷や汗を流し、しかし程立は飴を口にくわえたままであった。

 兜の隙間からは、瞳は見えないが鋭い殺気を趙雲は感じていた。すわ戦いが始まるかと思われた空気は、ふいに男から殺気が四散し構えを解いた事で終えた。

 

「……よろしいのですかな?」

「かまわぬ、どうも貴様と戦うのは骨が折れそうだ」

「ふむ、同感ですな」

 

 そうして趙雲もまた槍を収めた。

 

「村の者が戻ったのかと思ったが、どうやらこの村の者では無いようだな」

「では、やはり貴方も」

「……つまらん旅の男だ。立ち寄った時には、既にこの有様でな、暖を取らせてもらっていた」

 

 男はのそりとそのまま得物の大剣を鞘にしまい、それを抱く様にして篝火に近寄り腰を落とした。

 

「貴様等も座るがいい」

 

 火を見つめたまま誘う男の言葉、戯志才は不気味な男の言葉にどうするか悩んでいたが、さっと彼女の両脇の二人が篝火の近くに座った。

 

「ちょっ二人ともっ」

「けれど一応は家ですし、野宿よりはいいでしょうからぁ~」

「なぁに稟、この男はそう悪い男ではないよ」

「何を根拠にそんな」

「……殺そうと思えば殺せたのだよ」

「へっ?」

 

 趙雲が声の調子はそのままに、しかし若干の冷や汗を流しそう言った。

 

「負ける気はしないが二人は護れなかったろう。そう言う戦いになるであろう事は確かだった」

 

 趙雲は戯志才が知る中で最も強く武を極めた女だった。その武を武器に、不埒な輩を打倒した事は少なくない。中には到底一人では倒せぬ数の賊共を蹴散らした事すらある。その趙雲が「二人を護れぬ」と言った。ならばそうなのだ、彼女が知る中で最も強い者が言うのだから。

 

「しかし剣を収めてくれた。剣は交えなかったが、多少の人となりはわかったよ」

「さてな、貴様程であれば俺が負けても可笑しくはあるまい」

「どうでしょうなぁ……実際にやらぬと分かりませんが、しかしやらずに済んでホッとしたのが正直な感想でしょう……失礼、名乗り遅れましたな。私、趙子龍と申す」

「程仲徳と申しますぅ~」

「戯志才です」

 

 それぞれが名乗る順に、男は彼女達の名前と顔を一致させていった。そして一つの疑問を口にする。

 

「……お前達は先ほど違う名で呼び合っていたな、あの名は……確か真名と言うやつか?」

 

 男は趙雲達が、今名乗ったものとは違う名で呼び合うのを聞いていた。それは正しく真名であるが、しかし趙雲達にとってそれは極めて不思議な質問であった。

 

「いかにもそうですが……間違っても呼ばぬ事です。たとえ人となりがわかったといいましても、そこまで貴方を信頼はしておりませぬ」

「案ずるな、呼びはせんよ。ただこの地を巡り知った習慣でな、俺の国に真名など無い」

「ふむ?それは珍しいですな」

「俺から見れば、貴様等のほうがよほど珍しいのさ」

「ふむふむ……ところでぇ~お兄さんのお名前はなんと言うのでしょうかぁ~?」

「……俺は」

 

 男は趙雲達に答え名乗ろうとしたようだった。しかしすぐに言葉に詰まる。

 

「いかがされた?」

「いや、ちがうのだ……俺は、俺は……」

 

 男は少し体が震えていた。掌を広げその内をじっと見た。様子が可笑しい事は明らかであった。

 

「……すまなかった。俺は、スカラーと名乗っている」

「すからぁですか?真名を知らず、その鎧と大剣を見て思いましたが、やはり異国の方でしたか」

「異国……そうだな、異国であろうな」

「お国はどちらですかぁ~?」

「……」

 

 また男は言葉に詰まった。顔を伏せ、男は思案すると思い出したように顔を上げた。

 

「……ドラングレイグと言うところだ」

「おお、以下にも異国と言った名ですなぁ」

「……ところで、兜は取らないのですか?」

 

 スカラーは、座りだしてからもその装備を身につけたまま、まるで戦中の兵のようだった。戯志才が一向に取らぬ装備、とくにフルフェイスの兜を脱がぬ事に疑問を感じた。

 

「これか、すまんが人に見せれるような顔ではなくてな」

「何か怪我でも?」

「……そのようなものだ、無礼は承知だがしかし許してほしい」

「まあ稟、良いではないか。何かわけがあるのだろう」

 

 趙雲はそう言うが、男の様子がいよいよ可笑しいのは明らかだった。名も恐らく偽名である。偽名であることは、別に後ろめたい理由だけが全てではない、だが自身の故郷の名まで直ぐに出てこず顔も見せようとしない男の様子に戯志才は一層警戒した。本当にこの男が趙雲の言うように安全だと限らないからだ。

 その会話から暫し間が開く。パチパチと焼ける篝火の音だけが、奇妙な四人の耳に聞こえた。その音を聞いて、場合によっては殺されたかもしれないと言う戯志才は、居心地の悪さを感じた。

 

「貴様らは……」

 

 再び口を開いたのは、意外にも男、スカラーであった。

 

「女三人で旅とは、どの様な理由が?」

 

 興味があったのか、それとも無言に堪えれなかったのかはわからないが、しかし聞かれた以上なにか答えるべきである。

 

「我々は仕えるに相応しい主を探しているのです」

「仕える主を?」

 

 スカラーは、趙雲の答えに興味がわいた風な反応を見せた。

 

「私も腕には覚えがありますからな。折角であればこの武、捧げ振るうに相応しい主を探しているのです」

「私達もいっしょですねぇ~」

「星のような武はありませんが、我々には智があります」

「この知識を授けるに相応しい方……いやぁ~むしろ自ら捧げたくなる様な方を探しているのですよぉ~」

 

 それを聞きスカラーは、「なるほど」とだけ呟いた。思うほど薄い反応で戯志才はむむっと少しむくれたが、しかし直ぐにスカラーは言葉を続けた。

 

「俺は、この地に来て浅い故この国の情勢などは知らぬ……しかし、国であるならば誰かがその地を治めるのが道理」

「左様ですな」

「どうだ、この国の王達は」

「実際いくつかの君主に会いましたが、しかし暗愚とは言いませぬが多くは凡夫ですな」

「人徳を持つ方も、武にある程度秀でた方もいました」

「しかし、では私達の一生をかけ支えると思える方ではありませんでしたねぇ~」

 

 スカラーはまた「そうか」とだけ答え、顔を伏せた。何度目かの反応を見て、戯志才は「なるほど、これがこの男の思考の仕方か」と少し納得した。そして考えが纏まったのかまたスカラーは顔を上げる。

 

「王とはなんだ?」

 

 突然の投げかけであった。戯志才は目を丸くし、趙雲ははてなと首をかしげた。一人程立は目を細めスカラーを見つめた。

 

「人の上に立つのが王か、支配するのが王か」

 

 趙雲達3人に語るのか、あるいは燃える薪への独白なのか。スカラーは、黙々と語りだす。

 

「強き者が王か、優しき者が王か」

 

 それは、数多の王の形を見た者の語り。

 

「生来の器を持つ者が王か、運命付けられた者が王か」

 

  ――王とは、なんだ。

   ――ただ人の世を統べる者の名であるのなら

    ――それでも足りるのだろうが

 

 薪が、強く爆ぜた。

 

 その日、結局その呟きの真意を三人は聞かなかった。聞けなかったのかもしれない。何故かその問と言える呟きに、答えられないと思ったからであった。しかし心の内では、その王の問を反芻していた。

 王とは何であろうか、スカラーは己自身にも問う様に呟いた。その彼は今別の小屋に移った。女三人と気を使い、寝床を移したのだ。移る前に、問いの答えは何時でもよいとだけ残し、彼が燃やした薪はまだ燃えていた。その炎を3人はただ見つめる。

 

「……不思議と」

 

 程立が口を開いた。気持ち普段の緩い雰囲気はなりを潜めている。

 

「もちろん仕えるに相応しい主君を考えたことはありましたがぁ~……あのように、王そのものを考えた事はありませんでしたねぇ」

「……そうだな」

 

 程立はそう言うが、決して彼女や他の二人が王と言う存在のあり方を一切考えなかったわけではない。しかし、あのスカラーのように問いかけ続けたことがあっただろうか。3人は改めて思う、王とはなんだろうか。

 

「どう思うね、稟?」

 

 趙雲は戯志才へ問いかけた。

 

「私は……自分の智を奉げるに相応しい相手と思っていた。あるいは乱れた世を治す者か」

「そうだな……そうだ私もそう思うよ、私の武を役立ててくれる。私が役立てたいと思える者こそが……だがそれは、きっと我々にとっての王。スカラー殿の言う王その物の答えにはならないだろう」

「そもそも彼の求める答えとは何なのでしょう……」

「王ですかぁ……答えがすぐに出ないなら、風達はきっとその答えたる“王”に出会っていないのでしょうね」

 

 スカラーは言った。人の上に立つ者、支配する者、強き者、優しき者、王の器を持ちし者、王を運命付けられた者。果たして王とは何だろうか。どれもが正しく思え、そして違うようにも思えた。

 

「……逆に彼の言う王の資格のどれかを持つ者、それに私達は仕えるのかもしれません」

「かもしれんなぁ」

 

 考えても答えは出ないばかり、むしろ頭に残るスカラーの言葉が繰り返されるばかりだった。

 

「ただ人の世を統べる者の名であるのなら、それでも足りる……ですかぁ」

 

 程立のつぶやきは、篝火の中に消えその呟きも薪として燃えるようだった。そして、ただ燃えるだけの篝火が、全ての答えを知っているように思えた。

 

 




続きはそのうち

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