君のノート   作:JALBAS

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突如、糸守で起こった、心臓麻痺による住民急死事件。
その不自然さに、三葉と月は、糸守にデスノートが落とされた可能性を疑う。
そして、月は三葉に、急死者の対人関係を探らせる。
そんな中、三葉のクラスメイト松本から、三葉に怪しい一言が発せられた・・・・・




《 第六話 》

 

次に、月くんと入れ替わったのは2日後だった。

その間に、もうひとり心臓麻痺で無くなった。

今度は、町の外れにひとりで住む、殆ど浮浪者と変わらないような生活をしている人だった。人付き合いも全然無く、仕事もしないでふらふらしていた。絡まれて被害に合う人もいたので、町役場の職員が何度も注意に行っていた。

これはこれで、前の2人との関連性が無い。こんな生活をしていれば、体にもあちこち異常があっただろう。心臓麻痺で死んでも、不思議では無い。

しかし、私はそれより、松本の一言が気になっていた。大田原先生以外の人と彼の接点は無いが、何か怪しい。その事を、スマホのメモに残しておいた。

後は、月くんに任せるしかない。

「なあ、本当に、糸守にデスノートがあるのか?」

リュークが聞いて来る。

「分からへんよ。深入りはするなって、言われとったし。」

「そうか・・・・」

「でも、月くん優しいな。」

「ん?」

「“犯人を突き止めようとしたりするな!”、“名前を書かれたら終わりだ!”って、私の事心配してくれてるんやね。」

「それは違うと思うぜ。」

「何でよ?」

浮かれていたところに水を差されて、私は不機嫌そうな顔をリュークに向けた。

「お前が死んだら、入れ替わりも無くなって、糸守住民の避難も出来なくなるだろ?そうなったらリセットだ。また、何年か後に、一からやり直しになるかもしれねえ。それは面倒だから、今回で全部終わらせたいだけじゃねえのか?」

「そ・・それは・・・・」

た・・・確かに、そうかもしれないけど・・・月くんなら、そんな事考えそうだけど・・・・な・・何も、今それ言わなくてもいいんじゃないの?人が、せっかくいい気分になってたのに、わざわざ、それを突き崩すなんて・・・・・本当に、空気読めないわね!この死神はっ!

私は、リュークを思いっきり睨みつけた。でもリュークは、訳が分からずに首を傾げるだけだった・・・・・・

 

 

 

スマホの三葉のメモを見て、僕は考える。

確かに、松本が怪しい。あの時、ひとりだけ笑っていたのも気に掛かる。だが、大田原はともかく、田崎に関しては接点が無い。人気者だから妬んで・・・・・なんてのは、安直すぎる。

 

学校に行くと、テッシーが暗い顔をしていた。そういえば、田崎とは仲が良かったと書いてあった。そのせいだろう。

「おはよう、テッシー・・・・」

「ああ・・・・」

本当に元気が無い。少し、話を聞いてみると・・・・・

「ほんまに、ええ人やった。俺を、弟のように可愛がってくれて・・・・」

とりあえず、かける言葉が見つからない。

「俺やお前に嫌味を言う松本を、叱ってくれた事だって・・・・・」

何?

「て・・テッシー、田崎さん、松本に説教してたの?」

「ん・・・ああ、あいつ、うちの会社の前で、俺に嫌味言ってた事があって、そん時側に居た田崎さんが・・・・・」

これで繋がった・・・・後は浮浪者だが、それは多分・・・・・・

 

僕は学校を早退して、3人目の被害者、浮浪者のような生活をしていた男が発見された廃屋に来ていた。

特に事件性が無いので、もう誰もここには居ない。身寄りの無い男だったから、花を添えに来る者も無い。

その男が殺された理由は、恐らく、見られたからだろう。デスノートを持っているところを。もしくは、家ではまずいので、ここに隠しているのかもしれない。それを見つけられそうになったか・・・・・

 

しばらく待つと、やはり現れた。松本だ。

松本は、廃屋の中に入って行く。僕は気付かれないように、後に付いて行く。

奥の部屋(といっても、窓は無くなって壁もところどころ崩れている。更には、床も無くなって完全に地面なので、外とあまり変わらないが)に入って、屈んで何かをしている。恐らく、地面を掘っているのだろう。

地面から、平たい缶を掘り出し、それを開き、一冊の黒いノートを取り出した。

間違い無い。デスノートだ!僕は、物陰から出て松本に声を掛ける。

「おい!」

「な・・・み・・宮水・・・何で、お前がここに?」

「やっぱり、お前がデスノートの所有者だったんだな?」

「な・・・何で、お前が・・・で・・デスノートの事を知っとるんや?」

松本は、かなりうろたえている。

「・・・お前は、それを使って、何をするつもりだ?」

「そ・・・そんなん、お前には、関係あらへんやろ!」

「それが、大有りなんでな・・・・お前の目的を、はっきり聞きたい。」

「お・・・お前に、話す義務は無い!そ・・それ以上、近づくな!近づいたら・・・お・・お前の、名前を書くで!」

「書いてみろよ!」

僕は、ゆっくりと松本に近づく。

「く・・来るなああああっ!」

松本は、デスノートを開く。そして、慌てて何かを書いている。多分、三葉の名前を書いているのだろう。だが、僕は三葉じゃ無い。

僕が、松本の目の前まで行くのに、10秒程掛かったか?あと、30秒・・・・・・

「もう一度聞く。お前はそのノートを使って、何をするつもりだ?」

「そ・・・そんな事、聞いても無駄や!お・・・お前はもう・・・死ぬ!」

「それはどうかな?」

僕は、しばらくそのまま待った。残りの30秒が過ぎるのを・・・・そして、30秒が過ぎた・・・・・

「ど・・・どうして?・・・何で、死なへん?」

「さあ、どうしてかな?・・・答えろ。お前は、デスノートを使って何をする?」

「そ・・・そんなん、気にいらへん奴を・・・・始末するだけや!」

「・・・・失格だな・・・・お前には、新世界の神たる資格は無い!」

僕は、怯えきって震えている松本から、デスノートを奪い取った。

「か・・・返せええええっ!」

おもちゃを取り上げられた子供のように、松本はノートに飛び付いて来る。

「ふんっ!」

そこを、思い切り殴り飛ばす。

「ぐへっ!」

松本は頭から地面に倒れ、そのまま気を失ってしまう。

「?!」

デスノートを手にした事で、それまで見えなかった、死神の姿が見えた。リュークとは大分違う、白い、骨のような体をした死神が、そこに居た。

「お前・・・名前は?」

「私を見ても驚かない・・・・お前も、デスノートの所有者か?」

「さあな?お前に言う義理は無い。」

「私の名は、レム・・・・」

「レム・・・か・・・・」

さて、このノートをどうするか?

例え取り上げても、松本が所有権を放棄しなければ、こいつのノートである事は変わらない。何より、こいつの記憶も消えない。それでは、今後に支障をきたす。

三葉の名前を書かれたが、死が無効になったものだからこれは消える。だが、松本は三葉に、デスノートの存在を知られたと思っている。もしノートの切れ端等を持っていたら、明日以降にまた、三葉の名前をノートに書くやもしれん。まさか、ここで松本を殺す訳にもいかないし・・・・

しばらく考えた後、僕は、松本の体を探った・・・・あった!こんな奴なら、隠れて煙草でも吸ってるかと思ったが、ビンゴだった。僕は、松本の懐からライターを取り出した。

「まさか・・・・ノートを燃やすつもりか?」

「そうだ!そうしなければ、こいつの記憶は消えない!」

「止めろ!それは私のノートだ!勝手な事は許さん!」

「お前の許しを、もらうつもりは無い!」

「どうしてもやるというなら、お前の名前をこのノートに書くぞ!」

レムは、もう一冊のデスノートを取り出した。やはり、2冊持っていたか。

「この男は知らなかったようだが、私は、お前の本当の名前を知っている。」

「書きたければ、書け!」

僕は、構わずライターの火を点ける。レムは、自分のデスノートに、僕の名前を書き始める。僕は、そのままライターの火にノートに翳す。ノートは、瞬く間に燃え上がる。

「馬鹿め・・・・・」

吐き捨てるように、レムは呟く。僕は、完全に炎に包まれたノートを離す。地面に落ちたノートは完全に燃え尽き、灰になって消える。

「これで、もう松本は、デスノートの事を完全に忘れた・・・もう1冊のノートも、奴に渡すか?」

「いや・・・もういい・・・私は、死神界に帰る。お前の死を、見届けてからな。」

「ふふふ・・・・僕の死だと?」

そのまま、僕とレムは睨み合っていた。そして、レムがノートに僕の名前を書いてから、40秒が過ぎた。

「な・・・何故だ?何故死なない?私には、お前の名前が見えているんだぞ!」

ふん、名前が見えていても、この顔は僕の顔じゃ無い。僕の顔を知らないお前に、デスノートで僕を殺すことは出来ない!

「・・・・夜神月・・・面白い奴だ・・・・大して面白い事も無かったが、お前に会えただけでも、人間界に来た甲斐はあった・・・・いずれ、また会おう。」

そう言い残して、レムは、大空に飛び上がって消えていった・・・・

さてと・・・・・・

地面には、松本が伸びたままで転がっている。

このまま、帰る訳にもいかないか?ぶん殴ってしまったからな、三葉が恨まれる。

 

「ん・・・んんっ!」

ようやく、松本は目を覚ました・・・・・僕の膝枕の上で。

「ん?・・・うわあああっ!」

驚いて、松本は跳ね起きる。

「どうしたの?」

「な・・・何しとんのや?」

「膝枕。」

「な・・・何で、そんな事しとんのか聞いとんのや!」

「だって、あなたが気絶してて、全然気付かないから。」

「き・・・気絶って、お前が殴ったんやろ!」

「え?何で?」

「何でって・・・・ん?何でや?」

「変な夢でも、見たんじゃないの?私が来たら、もう気絶してたよ、あなた。」

「え?ほんまか?」

「うん、ほんま。」

嘘だけど・・・・・

「あれ?そやったか?・・・そもそも、何でここに来たんやっけ?」

「とにかく、早く帰って休んだ方がいいよ。それじゃあね。」

そう言って、僕は廃屋を後にした。松本は、訳が分からず、ずっと首を傾げていた。

 

次に入れ替わった時に、スマホに三葉からのメモがあった。

『ちょっと、月くん、松本にいったい何をしたの?何か、気が付くといつも私の事見ていて、目が合うと、真っ赤になって目を逸らすのよ!メチャクチャきもいんですけど!』

僕は、思わず吹き出してしまった。

 






月は、自分のデスノートでは3年前の糸守の住民を殺せません。その代わり、月も、3年前のデスノートでは殺されません。それを利用した、月のデスノート狩りでした。
最後のフォローの部分は、最初考えて無かったんですが、月が何の後始末もせずに現場を去る筈が無いので、ちょっとコミカルな展開しにしてみました。
いつも、松本と三葉は険悪な関係になっていたので、ここらで関係を改善してみました。
三葉のような可愛い娘(中身は月ですが)にちょっと優しくされたら、思春期の男子はイチコロですよね。

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