入れ替り探偵、夜神月が、その謎を解く・・・・・・なんちゃって・・・・
この話で起こる怪事件は、全てデスノートによるものです。
平和な糸守に、デスノートの魔の手が・・・・・
今日の4時限目は体育だった。
運動自体は好きなんだけど、体育の授業は嫌い。それは、体育教師が最悪だから。
“大田原権三”名前からして古臭いが、中身も時代錯誤の、今時何処を探しても居ないようなハラスメント教師だ。やたら根性論を振り回し、医学的・生態的根拠をまるで持たない。“傷なんてツバつけときゃ直る!”とか、本気で言っている信じられない男だ。
“体の調子が悪くて見学したい”等と言おうものなら、“そんなもん気力で直さんか!この根性無しが!”と本気で言って来て取り合わない。女の子には、どうしても避けられないダメな日があるのに、それも理解しようとしない。自分は全く女性に縁が無い(こんな性格だから当然だが)ので、そういう点に全く気付かない。
しかし、月くんは“女子更衣室には流石に入れないので”という事で、体育はいつも見学していると言っていた。いったいどうやって、この世も末教師を言いくるめてるんだろうか?最も、月くんに理論攻撃されたら、こんな男は数秒で頭がオーバーヒートするだろうけど・・・・
今日は、マラソンだった。といっても、学校の外を走るのでは無い。ひたすら、校庭を何周も回るだけ。その理由も、“危険だから”という事だが、何が危険なのか?こんな、車も殆ど走っていない、人通りも少ない田舎に危険等無い。そもそも、生徒の怪我にツバつけときゃ直るなんて言ってる男が、危険論を言うこと自体ナンセンスだ。どうせ理由は、さぼっている者がいないかどうか、しっかりと監視したいというだけだろう。
授業開始からずっと走りっぱなしで、流石に息があがってきた。30分経ったところで、女子は休憩を許された。しかし、男子は未だに走らされ続けていた。
私達は、疲れて尻餅をついた体勢で、その光景を見ていた。テッシーも、相当辛そうだ。
すると、ひとりだけ、列から大幅に遅れる者が出た。だんだん速度が落ちて行き、数秒で、殆ど歩くのと変わらない速度になってしまった。腹の横に手を当てている。横原が痛くなって、もう走れないのだろう。それは、いつも私に嫌味を言って来る、松本だった。
「こら!何とろとろ歩いとんのや!ちゃんと走れ!」
早速、大田原から激が飛ぶ。しかし、調子が悪いんだから、仕方無いだろうに・・・・
「しっかりしねえか!この根性無しが!」
終いには、持っていた竹刀で松本のお尻を叩き出した。
「はは、いい気味やね。いつも三葉やテッシーに嫌味言ってるから、天罰や。」
サヤちんが、そう言う。でも私は、そんな気分にはなれなかった。あれは、いくら何でも可哀想すぎる。松本は、涙まで流していた。
昼休み、昼食を食べながらも、さっきの体育の話題になっていた。
「ほんと、辛かったわ・・・脚が痛くて、歩くのも辛いで。」
「ほんまやね、男子は特に、私らの倍は走らされたで。」
「ほんで、自分は走らんで怒鳴ってるだけや、割が合わんで。」
「ほんと、誰か、何とかしてくれへんかな?あのハラスメント教師!」
その時、突然救急車のサイレンが鳴り響いてきた。
「な・・・なんや?」
サイレンの音は、どんどん大きくなって行く。
「え?もしかして、こっちに向かっとんの?」
すると、校内に救急車が入って来た。
「だ・・誰か、倒れたん?」
「ま・・・まさか、松本か?」
さっきの体育の時の、辛そうな松本の顔が頭に浮かぶ。本当に、体の調子が悪かったのだろうか?
私達は、慌てて校舎に戻った。そして、人だかりがあるところに向かう。それは、私達の教室では無く、職員室だった。
「おい、何があったんや?」
最後尾の生徒に、テッシーが尋ねる。
「ああ・・・何か、大田原先生が、突然倒れたんやて・・・」
『ええ~っ?』
私達は、揃って声を上げた。何で、大田原先生が?苦しそうだったのは、松本なのに・・・・
すると、前の方で話している生徒達の声も、聞こえて来た。
「何でも、昼食中に、急に胸を抑えて苦しみだしたそうやで。」
「どうやら、心臓麻痺らしいで・・・・」
―――― 心臓麻痺 ――――
この言葉が、私の脳裏に突き刺さった。
大田原先生が心臓麻痺?さっきまで、あんなに元気で、どこも悪そうじゃ無かった先生が、突然・・・・・まさか、これって・・・・・・
家に帰って、部屋の中で私は考えていた。
あんな元気な人が、急に心臓麻痺になるだろうか?特に極端に太っていた訳でも無く、年だってそんなにいっていない。やはり、これはデスノートによるものなの?
あの先生には、月くんも酷い目にあってるんじゃ無いだろうか?周りの悪評も聞いている筈だ。まさか、月くんが?・・・・・・
今朝は、三葉の体で目が覚めた。制服に着替えて、髪を組紐で簡単に纏めたところで、四葉が襖を開ける。
「お姉ちゃん・・・・と、今朝は早いんやね?ごはんやよ。」
「うん・・・直ぐ行くから。」
四葉が下に降りて行ったところで、スマホを確認する。三葉から、一件メッセージが入っていたので開く。
『月くん。昨日、大田原先生が心臓麻痺で突然亡くなりました。まさか、月くんデスノートに、先生の名前書いて無いよね?』
はあ?何を言っているんだこいつ・・・・糸守の住民は、彗星災害で死ぬからノートに書いても無効なだけだ!もし、大田原がそれで生き残っていたとしても、死ぬのは3年後だ!今じゃない!・・・・・全く、心臓麻痺を何でもかんでも、デスノートに結び付けるんじゃ無い!
学校に行くと、その話題で校内も大騒ぎになっていた。
こんな人口の少ない町なら、人がひとり死んだだけでも大事件になるんだろうな?東京なんて、1日に何人死んでるか・・・・・
テッシーとサヤちんも、朝からその話ばかりしている。
「死因は、やっぱり心臓麻痺やて。」
「どっか、悪いとこあったんか?」
「それが、先月検診やったばっかで、何の異常も無い健康体だったそうやよ。」
「それが、何で突然?」
「分からへん・・・罰が当たったんやないの?」
「お狐様の祟りか?」
ふん、くだらない。祟りで人が殺せるなら、デスノートなんていらない・・・・
「お・・おい、大変や!」
その時、教室にひとりの生徒が駆け込んで来た。
「昨夜、スナックでもひとり、心臓麻痺で死んだそうやぞ!」
「なんやと?」
教室内が、騒然とする。
1日に、2人心臓麻痺・・・・・流石に、これは軽視できないかもしれん・・・・だが、まだ、単なる偶然という域を脱している訳では無い。そもそも、僕のデスノートでは、現在の糸守の住民は殺せない。
その時、教室の端の、例の嫌味野郎・・・・松本の顔が目に入った。
何だ?・・・教室の中、全員が驚いた顔をしているのに、あいつ今笑って無かったか?それに、妙に落ち着いている。動揺している様子が全く無い・・・・・
翌朝、自分の体で目覚めると、まずリュークに聞いてみた。
「リューク、お前、糸守に行ったことはあるか?」
「ああ?お前が、三葉と入れ替わってる所か?ねえよ、人間界で俺が行った事があるのは、まだ東京だけだ。」
「お前より前に・・・例えば、3年前に、デスノートを人間界に持ち込んだ死神は居るか?」
「はあ?そんなの知らねえよ。俺以外の死神が、何やってたかなんてよ・・・・ただ、人間界にデスノートを持ち込んだのは、俺が初めてじゃねえ。以前にも、やった奴は居るぜ!」
そうか、それならば、3年前の糸守にデスノートがあっても不思議では無い。まだ、デスノートかどうかは分からないが・・・・・
「おい、何かあったのか?」
「もしかしたらだがな、3年前の糸守に、デスノートが持ち込まれているかもしれん。」
「何だと?本当か?」
「だから、もしかしたらだ!まだ、そうと決まった訳じゃ無い。」
とにかく、もしそうなら、次に入れ替わった時に必ず所有者を突き止める。そして・・・・
朝、自分の体で目を覚ますと、真っ先にスマホを確認した。月くんからの返信が無いか・・・・あった!それを開く。
『三葉、大きな勘違いをしているようだが、僕のデスノートでは糸守の住民を殺す事はできない。もし名前を書いても、その人物が死ぬのは僕の時間、3年後だ。過去の歴史を改変する事は、デスノートでもできない・・・・・』
ああ、そうか・・・そうだよねえ・・・・
『だが、君の時間に別のデスノートがある可能性は、ゼロでは無い。』
ええ~っ?
『但し、仮にそうでも、ノートの所有者を突き止めよう等とは考えるな!名前を書かれたら終わりだ、下手な行動は慎んだ方がいい。』
それは・・・そうか。でも・・・・
『この件は、僕に任せてくれ。その代り、君にやっておいて欲しい事がある。』
うん、何でも言って!
『心臓麻痺で死んだ人間、もしかしたら、今日も誰かそうなるかもしれないが、その人達の、対人関係を調べておいて欲しい。誰かに、酷い仕打ちをしていなかったか?』
うん、うん。
『ただ、調べる時は慎重に、できるだけ目立たないように、こっそりとやるんだ。誰が、デスノートを持っているか分からない。嗅ぎまわっているという事を、知られる事も危険だ。』
うん、分かったわ!
私は、早速月くんの指示に従って、心臓麻痺で死んだ2人の対人関係を調べた。
大田原先生は、私達も良く知っているから容易だった。ひとり暮らしで、先生達以外にはそれ程親しい人は居ない。ご両親は、既に亡くなられている。生徒には、もちろん酷く嫌われている。直近の被害者は、松本だろう。先生達にはというと、それ程酷く嫌われている訳では無い。付きあい難いタイプとは、見られているみたいだが・・・・・
スナックで無くなった人は、“田崎守”勅使河原建設の従業員だったらしい。今日、お通夜があるので、テッシーは学校を休んだ。テッシーも仲が良かったらしく、いろいろと手伝いに行ったらしい。まだ30代で、ご両親も健在。人当たりが良く、皆に好かれていた。また正義感も強く、かなり熱血漢だったようだ。もちろん健康体で、持病等の話は全く無かったそうだ。
ん~っ・・・・・何か、正反対だな。大田原先生は恨みを買ってそうだけど、田崎さんの方は、誰にも恨みなんか買いそうに無い・・・・やっぱり、唯の偶然だったのかな?
学校の帰り道、たまたま、松本とすれ違った。
月くんが入れ替わっている時に、徹底的に彼の嫌味行動を無視、もしくは冷笑しているため、最近は、私に絡んで来る事も無くなっていた。だけど、今日は感じが違った。
私と目が合った時、嫌味を言う時のような笑みを見せながら、こう言った。
「おい、宮水。あんまり調子に乗んなや・・・・俺を、怒らせん方がええで。」
そうして、そのまま去って行った。
な・・・何なの?今のは?・・・・・・・
突然、糸守で起こった、心臓麻痺による住民の急死・・・・・
果たして、この死はデスノートによるものなのか?だとしたら、誰がデスノートを持っているのか?・・・・・・
そして、松本が三葉に言った言葉の、意味するものは・・・・・・