何とかこの入れ替りを、トラブル無く、確実に終わらせるために策を練ります。
一方三葉は、自分が入れ替った相手が、自分とは全く次元の違う人間であった事を知り、自己嫌悪に・・・・・
翌日は、自分の体で目覚めた。
起きると直ぐに、リュークが話し掛けて来る。
「おい、月、あの三葉って女、生きてたぞ。」
「ああ、あの女の時間と、僕の時間は3年ずれている・・・・」
「何だと?」
僕は、机の引き出しの仕掛けを操作し、隠してあったデスノートを取り出す。そして、三葉の名前を書いた頁を開く。
「?!」
それ以降に書いた名前は残っていたが、三葉の名前を書いた箇所だけ、文字が消えて空白になっていた。
「あれ?名前が消えてるな・・・・」
「そういう事か・・・・」
「ん?どういう事だ?」
「さっき、3年ずれていると言ったろ。三葉は、そのひと月後に死ぬんだ。彗星の破片が落下して、町諸共な・・・・・既に死んでいる人間だから、デスノートでは殺せない。名前を書いても、無効だからこのように消える・・・・死人を見てるのと同じだから、死神の目でも、名前も寿命も見えない。」
「なるほど、そういう事か・・・・ん?何で、3年前の人間と、お前は入れ替わってるんだ?」
「そんな事、僕が知るか!」
何故、こんな入れ替わりが起こるのか・・・・これは重要だ!昨日は、ひと月我慢すればと思ったが、それで本当に終わるのか?元から、過去と入れ替わっている。という事は、何度でも同じ事は起こるかもしれない。それが、1年後か、何年後かは分からないが・・・・
考えなければいけない事は山程あるが、まずは学校に行った。昨日も三葉は、散々迷って学校には行けなかったようだ。無断欠席の、後始末が先だ。
最も、3年の秋ともなれば、受験勉強の方が主で授業などそれ程重要では無い。僕の学校は、東京でもトップクラスの進学校なので尚更だ。今後の事も考え、以後は欠席も多くなる事を事前に仄めかしておいた。これで後は、三葉に入れ替わっている時は学校に行かないで、塾にでも行って時間を潰してもらえば良いだろう。
最も、三葉が素直に言う事を聞くかどうかは疑問だが・・・・その事は、また、後で考えよう。
学校から帰ったら、ネットで糸守に関して調べまくった。
3年前の彗星落下を含め、徹底的に・・・・そして、ひとつ気になる記事を見つけた。糸守湖が、実は隕石の落下でできた湖ではないかという仮説の記事だ。隕石の落下は、千年以上前と推定されている。もしこれが本当なら、その千年後にまた隕石(彗星の破片)の落下があったという事か?確率的には、まず有り得ない話だが・・・・・
彗星の破片の落下と、入れ替わりに、何か因果関係があるのか?・・・・まてよ、落下のひと月前に入れ替わったという事は、これが目的か?わざわざ、未来の人間と入れ替わるのは・・・・彗星の破片の落下を知らせて、住民を避難させるためか?
そうか、そういう事なら、糸守の住民を助ければ、この入れ替わりは終わる・・・・だが、どうやる?“未来に行って見てきました”なんて言っても、誰も信じない。数人を信じさせる事ができても、住民全員とはいかない。それこそ、信仰宗教でも信じさせれば可能かもしれないが、とてもひと月では無理だ・・・・
まあいい、これも後で考えよう。いざとなれば、嘘の災害でも起こして避難させればいい。逆に、これを理由に、三葉に言う事を聞かせる事ができるかもしれない。
目が覚めると・・・・月くんの部屋だ。また、入れ替わったみたい。目の前に、死神のリュークも居る。流石に今日は、悲鳴は上げなかった。
「お前、三葉か?」
「う・・うん・・・」
「月から、伝言があるぜ。スマホを見な。」
「え?だってこれ、使えない・・・・」
そう言って操作すると・・・・使える!ロックが外れてるんだ!これでもう、道に迷っても何とかなる・・・・と、浮かれてる場合じゃ無かった。伝言があるのよね・・・・
“三葉へ”というメモがあったので、それを開く。
『三葉、初めましてと言っておこうか。僕は、夜神月。まあ、名前は既に知っているだろうけど。これから説明する事は、君にとっては信じられない事ばかりだと思うが、取り乱さずに読んで欲しい・・・・・』
信じられない事?・・・・何なの?そもそも、この入れ替わりや、死神の存在が信じられないんですけど・・・・
『まず、僕と君の間には、3年の時差がある。君の居る時間は、僕の時間の3年前だ。』
「ええ~っ!」
思わず大声を上げてしまい、慌てて口を抑えた。また、粧裕ちゃんが飛んで来たら大変だ。
『更に、君の時間で今からひと月後、ティアマト彗星の破片が落下して、糸守は壊滅的な被害を受ける。』
ええ~っ!
今度は、心の中で大声を上げた。
『リンクを貼っておくから、その目で確かめて欲しい。3年前の、10月5日の記事だ。』
私は、そのリンクを開き、その記事を見て愕然とする。
そ・・・そんな・・・・・・
そこには、無残に瓦礫の山と化した、糸守の写真が載っていた。私の家や、宮水神社は跡形も無く、元の糸守湖と同じ様な、丸い湖が残っているだけだ。2つの円が合わさって、糸守湖は瓢箪のような形に変わってしまっている。記事には、住民の1/3が犠牲になったと書かれている。
わ・・・私も、死ぬの?四葉や、お婆ちゃん・・・サヤちんや、テッシーも・・・・
目から涙が溢れ、スマホの上に雫が落ちる。
「おい、そこで固まんなよ!まだ、続きがあるんだからよ!」
リュークが、茶々を入れて来る。
うるさいわね!人が悲しみに沈んでんのに、余計な茶々入れないでよ!空気読みなさいよ!この死神がっ!
リュークのせいで、ひとりで落ち込んでいるのが、ばかばかしくなってきた。私は、リンクを閉じて続きを読む。
『ショックだと思うが、悲観するのはまだ早い。これは、君の時間では、ひと月後の話だ。今から準備して、うまく住民を避難させる事ができれば、皆助かる。』
そ・・・そうか、私はまだ生きてるんだ。事前にこの事を知れたという事は、それに備える事ができる・・・・あ・・・ありがとう、月くん!
『だが、口で言うほど簡単でも無い。“未来に行って見てきました”なんて言っても、誰も信じない。証拠の記事を、3年前に持って行く事はできない。しかも、証人は君ひとりしかいないのだから・・・・・』
うん、うん。
『どうすれば良いか、一緒に考えよう。僕も手伝う。』
うん、ありがとう、月くん。
『その上で、君も僕に協力して欲しい。君が僕と入れ替わっている時の事だが・・・・』
ええ~っ?
その後の内容を読んで、私は心の中で不平の声を上げた。
『学校には、行かないでくれ。代わりに塾に行って、一日中自習をしていてくれ。僕の行く塾は、個人でパソコン相手に進めていくシステムだから、何をやっていても問題にはなら無い。人と会う心配も無い。君が行っている間は、カリキュラムが進まないが、その分は僕がカバーするから心配しなくていい。
だが、学校は不味い。友人に怪しまれるし、何より、君では僕の学校の授業についていけない。』
な・・・なんですってえ~っ!
『入れ替わって2日ほど、君の学校の授業に出たが、はっきり言ってレベルが低すぎる。こんなぬるま湯に浸かっていた君に、東京一の進学校の授業は理解できない。更に、君は学年がひとつ下だ。』
ば・・・馬鹿にして、な・・・何様のつもりよっ!
『こんな事を書くと君のことだ、“馬鹿にして、何様のつもりよ!”と思うかもしれない・・・』
あら・・・完全に読まれてる・・・・
『頭に来るかもしれないが、これが現実だ。だが、それだけでは納得いかないだろうから、君にもチャンスをあげよう。』
な・・・何よ、偉そうに・・・・
『とりあえず、今日だけは僕の言う事を聞いてくれ。机の引き出しの一番上に、僕が塾で使っている問題集がある。それを持って塾に行って、解いてみてくれ。もし、1問でも解けるようなら、もう何も言わない。好きに学校にも行っていい。だが、もし1問も解け無いようなら、僕の言う事に従って欲しい。』
机の引き出しを開けると、書いてある通りに問題集があった。試に開いてみると・・・・
目が、点になった・・・・な・・何なの?この問題・・・・こ・・こんなのとても・・・・い・・いや、1問でも解ければいいのよね?見てらっしゃい、絶対に解いて、月くんの鼻を明かしてやるんだから!
私は、意気込んで家を出た。月くんの分かり易い道案内と、スマホのGPSのおかげで、今日は迷わずに目的地に着けた。けど・・・・・
私は机に突っ伏して、全く動けなかった。心配してか、面白がってか、リュークが聞いて来る。
「おい、どうした?月の鼻を明かしてやるんだろ?問題解かなくていいのか?」
「うるさいな、黙ってて!」
駄目だ・・・・解くどころか、問題の意味すら、満足に理解できない・・・・・
完全な敗北感に打ちのめされ、私は家に帰った・・・・・
部屋の中で、落ち込みながらテレビのニュースを見ていた。
自室にテレビがあるなんて、随分いい生活しているな・・・・でも、エリートだもんね。お父さんは警察官で、それなりの地位にいるらしいし、月くんも、将来は警察官になるつもりなのかな?私みたいな田舎っぺとは、住む世界が違いすぎる・・・・・何か、どんどん卑屈になっていくような気がする・・・・・・
リュークも、もう茶々を入れて来なくなった。死神も引くほど、負のオーラが出てるのかな?そんな時、あるニュースが耳に入った。
『本日、またしても刑務所内で、服役者が心臓麻痺で無くなりました・・・・』
心臓麻痺?・・・前にも、刑務所内で心臓麻痺って・・・・?!
私は、突然ある事を思い出した。リュークと初めて会った時に聞いた、デスノートの事を。
「りゅ・・・リューク?」
「ああ・・・何だ?」
「デスノートって・・・・知っている人の名前を書くと、その人が死ぬって言ったよね?」
「ああ、そうだ。」
「月くんが、それを持ってるんよね?」
「そうだ、それがどうかしたか?」
今迄、入れ替わりのドタバタで考えなかったけど、月くん、デスノートを使って何をしてるの?・・・・最初に入れ替わった時、服役者の死亡のニュースを見た粧裕ちゃんが・・・
“これって、またキラの仕業かな?”
キラが、犯罪者を殺してる?じゃあ、キラが、デスノートを持っていて・・・・月くんはキラ?
とうとう、三葉が、月がキラである事に気付いてしまいました。
しかし、デスノトートでは三葉は殺せません。
どうする?月?・・・・・
しかし、月のキャラなら、“こんな事は、計算済みだ”とか言いそうかな?