「ん・・・んんっ・・・・・」
な・・・どこ?ここ・・・・・・
私は、見たこともない、部屋のベッドで目が覚める。もしかして・・・・これも夢?
体を起こして、部屋を見渡す・・・・姿見や、化粧台は無い。置かれている家具や、部屋の装飾を見ても・・・・何か、女の子の部屋っぽく無い・・・・・
体にも、違和感を感じる。喉が妙に重い、視線を下に落としてみると・・・・胸が・・・無い?・・・逆に下半身には・・・・何かある?ええ~~っ?
起きて戸惑う彼女を・・・いや、姿は男なので彼を、部屋の上方から見つめている影がひとつ・・・・彼には、見えていない。髑髏のような異形な顔、逆立った髪、黒い体に黒い翼を持つ、死神のリュークだ。
“何だ?・・・様子がおかしいな、月の奴・・・・ん?”
リュークは気付く。月の顔を見ても、彼の名前と寿命が見えない事に・・・・
“何だ?何で、月の名前も、寿命も見えない?こいつは、まだ生きてるのに?”
「おい!月!」
リュークは、月に声を掛ける。しかし、月は全く気付かない。それどころか、ベッドから起きて部屋を動き回って、リュークの方に顔を向けているのにも関わらず、リュークの存在に気付いていない。
“こいつ・・・・俺が見えてない・・・・月じゃねえのか?”
その時、ドアをノックする音がした。
『お兄ちゃん、ごはんだよ!』
え?・・・お兄ちゃん?・・・・ということは、やっぱり私、男の子になってるの?
壁に掛けてあった制服に着替えて、私は下に降りる。まず洗面所を探し、洗面台の鏡を覗き込む。
こ・・・これが、私?
そこには、ちょっとニヒルな感じの、イケメン男子の顔があった。
ほ・・・本当に、男の子になってる・・・・神様が、私の願い(来世は、東京のイケメン男子にして下さい)を適えてくれたの?でも、まだ、来世じゃ無いけど・・・・・
顔を洗って、リビングに行く。既に皆、食卓に付いて朝食を食べている。先程声を掛けてきた妹、母親の2人だ。父親は居ないのかな?それとも、もう会社に行ってしまったのかな?
「お・・・おはよう・・・・」
控えめな声で挨拶をして、食卓に付く。テーブルの横にテレビがあり、ニュースが流れている。
『昨夜、また刑務所内で、服役者が心臓麻痺により亡くなりました・・・・・』
「これって、またキラの仕業かな?」
キラ?・・・・何?それ?・・・・何で、心臓麻痺が誰かの仕業なの?
「お父さん、いつになったら帰って来るのかな?」
ああ、父親はいるんだ。どこかに、出張に行ってるの?お仕事は、何なんだろう?
「やっぱり、キラが捕まるまで、帰って来れないのかな?」
捕まる?・・・キラって人を捕まえるの?じゃあ、警察官?
「お兄ちゃん、今朝は、何も言わないんだね?いつもは、キラのニュースが流れると、色々言って来るのに。」
「う・・・うん・・・・」
何も、言える訳が無い。キラなんて知らないし、この家の事も、今の自分の事も分からないんだから・・・・・・
食事を終えた後、妹は学校に行ったが、私は一度部屋に戻った。この男の子の名前も分からないし、学校の場所も分からない。まず、それを調べないと・・・・・
スマホは、ロックが掛かっていて中を見れなかった。机の中や鞄を調べて、日記と学生証は見つけた。名前は、“夜神月”。月と書いて“ライト”と読むらしい、珍しい名前だ。学年は3年、私より年上だ。学校の住所は分かったが、それが、何処にあるのかは分からない。スマホはロックされているから、GPSは使えない・・・・・
まさか仮病を使って、ずっと部屋に居る訳にもいかないので、とりあえず家を出て最寄の駅に向かう・・・・と言っても、何処に駅があるのか分からないんだけど・・・・
リュークは、月の後ろに浮かんで、ずっと付いていた。
“何だ?こいつ、いつもと、全然違う方向に歩いていくぞ?”
歩けど歩けど、駅に着かない。何なの?この町・・・・家が有り過ぎて、全然先が見えない・・・・こ・・・これが、東京?何か、抱いていたイメージと、違う・・・・・・
散々迷って、やっと駅に着いた。しかし・・・・・・
だ・・・駄目だ、どの駅で降りればいいのか分からない・・・・・
結局、私は引き返す事にした。家に帰って、地図帳でも何でも引っ張り出して、まず学校への行き方を確認しなくっちゃ!だけど・・・・・・
どうやってここまできたのか、覚えて無い・・・・どう帰ればいいの?
私は、また散々迷った挙句、見つけた公園のベンチに座っていた。
ど・・・どうすればいいの?帰り方が分からない・・・・私、このまま・・・・
目から、涙が溢れてきた。
その様子を、ずっと見ていたリュークだが、とうとう痺れを切らし、一旦その場を離れて夜神家に帰る。月の部屋に入り、月が隠していたデスノートの切れ端を持ち、再び月の居る公園に戻る。そしてその切れ端を、今の月の目の前に落とす。
あら?・・・何?これ?
月は、その切れ端を拾う・・・・・・そして・・・・・
「きゃあああああああっ!」
突然、目の前に現れた死神を見て、悲鳴を上げる。幸い、公園には人が居なかったため、何事かと人が集まる事は無かった。
「あ・・・ああ・・・・・・」
あまりの驚きで、月(三葉)は、それ以上声が出なかった。
「心配すんな、俺は、お前には何もしねえよ。ただ、悪い事は言わねえから、これ以上大きな声は出すな。そうしないと、大変な事になるぜ!」
「は・・・・はい・・・・・」
月は、とりあえず、言われるままに従った。
「さて、質問だ。お前、いったい誰だ?月じゃねえよな?」
「み・・・みつは・・・宮水・・・三葉です・・・・あ・・・あなたは?」
「俺か?俺は、死神だよ。死神、リュークだ!」
「ひっ・・・・し・・・死神?」
「だから・・・そんなに怯えんなって、何もしねえって、言ってんだろ!」
そんな事を言われても、中身は普通の女の子なのだから、怯えるなというのは無理な話である。
「で・・・何でお前、月と入れ替わってんだ?」
「え?・・・い・・入れ替わってる?」
そうか、私は、この男の子と入れ替わっていたんだ・・・・でも、よりによって、死神に憑りつかれた男の子と入れ替わるなんて!
「な・・・何でって言われても・・・・こ・・こっちが、聞きたいです・・・・」
「そうか・・・・訳は、知らねえのか?」
「あ・・・あなたこそ・・・な・・何で、この男の子に憑りついているんですか?」
「はあ?・・・そいつが、俺のデスノートの所有者だからさ。」
「で・・・デスノート?・・・な・・何ですか?それ・・・・」
朝、目が覚めて、直ぐに体の異変に気付く・・・・何か、体が軽い・・・・それと、胸のあたりが何か重い・・・・・・
目を開け、起き上がると・・・・何だ?この部屋は・・・・畳敷きに布団を敷いて・・・壁に、学校の制服が掛かっているが、女子の制服だ。何より・・・何だ?この女物のパジャマは?僕は、こんな物を着て寝た覚えは・・・・
「どうしたん?お姉ちゃん?」
気が付くと、右手の襖が開いていて、そこに一人の幼女が立っていた。
「お・・・お姉ちゃん?」
僕は、自分を指さして問う。
「他に誰がおんねん!ご・は・ん!」
そう叫んで、幼女は乱暴に襖を閉めて、下に降りて行った。
僕が、お姉ちゃん?・・・・さっきの体の違和感を思い出し、そっと下を見ると・・・・胸に見慣れない盛り上がりと、谷間が・・・・
「何だ?これは?!」
思わず、立ち上がってしまう。よく部屋を見渡すと、目の前に大きな姿見がある。僕は、そこまで歩み寄って、自分の姿をじっくりと見る。
こ・・・これが、僕の顔?ど・・・どう見ても女だ!
何で、僕が女になっている?いったい、ここは何処だ?・・・・・だが、考えても答えが出る訳は無い。とりあえず、僕は部屋の中を調べた。
所持品で確認する限り、今の僕は“宮水三葉”という女子高生になっているようだ。学年は2年、僕よりひとつ下か?ここは、岐阜県の糸守町というところらしい。窓の外を見た感じでは、かなり山の中のド田舎だ。
何故?僕がこの女になっているのかは、分からない。デスノートの後遺症か?そんな後遺症があるとは聞いていないが、リュークが言わなかっただけか?
考え込んでいても答えは出そうにないので、僕は、壁に掛けてある制服を着て下に降りた。
「お姉ちゃん!はよせんと、学校に遅れるよ!」
先程の妹が、囃し立てて来る。その向かいに、婆さんが座っている。家族はこの2人だけか?父親と母親は居ないのか?
食卓に着いて、食べようとしたその時、
『皆様、おはようございます。』
突然、鴨居に設置されたスピーカーから声が出る。な・・・何だ?有線か?
『糸守町から、朝のお知らせです。来月20日に行われる、糸守町町長選挙について・・・』
と、そこで声が途切れた。婆さんが、スピーカーのコンセントを抜いたのだ。婆さんは、そのままテレビの電源を入れる。
「いい加減に、仲直りしないよ。」
妹が、そう言う。仲直り?・・・誰と?
そう考えていた時に、テレビのニユースが耳に入る。
『1200年に一度という彗星の来訪が、いよいよ一月後に迫っています・・・・』
彗星?一月後?そんな話、聞いた事が無い。どういうことだ?
朝食を終え、家を出て学校に向かう。妹と途中で別れ、1人で通学路を歩く。
学校は、糸守高校。自分の部屋からも、湖を挟んで対岸の丘の上に見えた。周りにも、同じ高校の生徒が何人も歩いているので、迷う事も無い。
歩きながら考える。
これは夢なのか?だが、意識ははっきりしている。夢とは思えない・・・・最も、夢の中で自分で“これは夢だ”と認識する事も、殆ど無いと思うが・・・・・
「三葉~!」
その時、後ろから声をかけられ、振り返る。
自転車に2人乗りした男女が、こちらに寄って来る。この女の交友関係は、部屋にあった生徒名簿と日記から、おおよそ理解している。このガタイの良い坊主頭は“勅使河原克彦”、この女は“テッシー”と呼んでいる。女の方は“名取早耶香”、この女は“サヤちん”と呼んでいる。特に親しい友人は、この2人だけだ。
今のこの状況が、夢なのか、デスノートの試練なのか、まだ分からない。一応は、順応しておいた方が無難だろう。
「お・・おはよう・・・サヤちん・・テッシー・・・」
とりあえず、普通に挨拶を返した。
「あれ?三葉、何なん?その頭?」
「え?・・・・」
「無造作に纏めてるだけで・・・・いつものように、結ってないけど・・・・」
「ほんまや!それじゃ、まるで侍やな!」
髪が長く、部屋には纏めるためか組紐があった。それで後ろで纏めたのだが、普段は、髪を結って纏めているのか?
「あ・・ああ、ちょっと寝坊して・・・じ・・時間が無かったから・・・」
とりあえず、適当な事を言って誤魔化した。
その後、学校に行ってからも大変だった。
教室に入っても、まず自分の席が分からなかった。しばらくは、立って誤魔化し、始業直前に開いてる席に着いた。欠席者がいなくて助かった。
授業中、名前を呼ばれたが、自分の名前では無いので最初は気付かなかった。その場は、笑われるだけで済んだが・・・・
昼休み、学校の校庭の隅で、テッシーとサヤちんと昼食を食べた。この3人は、いつもこうしているらしい。
「三葉、何か今日変やない?」
「え?・・・そ・・そう?」
「自分から、あんま喋らへんし・・・・」
「どっか悪いんか?」
「ん・・んん・・・な・・何とも無いよ・・・」
この連中の、会話を聞いていれば分かる・・・・訛ってる。これでは、僕が喋ると、例え女言葉で喋っても、訛っていないので直ぐに怪しまれる。何も分からない今は、目立つのはまずい。できるだけ会話は最小限にして、乗り切るしかない。
何とか、学校ではボロを出さないよう気を付け、乗り切った。
家に帰っても、家族との接触は極力避け、部屋に篭っていた。風呂に入るように言われたが、適当に理由を付けて断った。慣れない女の体で、何かあってもまずいので。
寝床に入り、また色々と考えた。このまま、この体で生活を続けるの事になるのか?そうだとすると、今日のように、逃げ回ってばかりもいられない。
だが、そうなると、デスノートはここには無い。もう、キラの裁きを続ける事はできない。そもそも、僕の、自分の体はどうなっているんだ?誰か、他の人間が入っているのか?
ん?まさか、僕が入っているこの体の女が、僕の体に?・・・・・・
目が覚めると、自分の部屋だ・・・・体も、自分の体だ・・・・・どうやら、おかしな夢でも見ていたようだ・・・・
起き上がり、着替えようとしたところで、リュークに声を掛けられる。
「よう、今日は月だな?」
・・・今日は?
「どういう事だ?リューク?」
「昨日は、三葉とかいう女と、入れ替わってたからよ。」
「三葉?入れ替わっていただと?」
じゃあ、昨日のは、夢では無かったのか?僕は、田舎の三葉という女と、入れ替わっていたのか?・・・・まさか、変な行動をして、警察に目を付けられたりしてはいないだろうな?
「リューク、その女、おかしな行動はしなかったか?自分が三葉だと、他人に言いまわったりとか、異常に、目立つ行動をしたりとか?」
「ん~っ・・・・他人に言いまわるどころか、知人には会えなかったな。道に迷ってたから・・・・目立った行動というと・・・・まあ、俺の姿見て、悲鳴上げたくらいか・・・」
何?!
「待て、リューク!何で、その女にお前が見えるんだ?デスノートに触らなければ、お前の姿は、人間には見えない筈だぞ!」
「ああ、俺が、お前が隠してた切れ端を、そいつに触らせたんだよ。」
「な・・・何だと?」
「仕方ねえだろ!お前が、全くの別人になって、どこの誰かも分からねえんだ。本人に聞きたくても、こっちが見えねえんじゃ聞きようがねえ!おまけに、道に迷って泣いてるしよ・・・」
「そんなのもの聞かなくても、お前には死神の目があるだろう!」
「それが、死神の目で見ても、何にも見えなかったんだよ!」
「何?・・・どういう事だ?」
「俺にも、分かんねえよ!」
本人以外が体に入っていると、死神の目でも、名前と寿命は見えないのか?・・・・・いや、そんな事より、デスノートをあの女に触らせたという事は・・・・
「お前、デスノートの事も、そいつに話したのか?」
「ああ、そうしないと、俺の事も説明できねえからな。」
何という事だ、僕が、キラだという事を知られてしまったかも・・・・・
僕は、机の中からデスノートを取り出した。ページをめくり、空いているページに名前を書き込む。
“宮水三葉”
「何だ?あの女、殺しちまうのか?」
「お前のせいだぞ。お前が、余計な事を教えるから・・・・可哀想だが、キラの正体を知ってしまった可能性がある・・・・足が付く前に、死んでもらう。あんな田舎の突然死なら、ニュースにも取り上げられないだろう。」
何故、こんな入れ替わりが起こったのかは謎だが、それもこれでお終いだ。あの女が死ねば、入れ替わりももう起こらない・・・・・・
というわけで、とうとう書いてしまいました。
ですが、初回でいきなり、デスノートに三葉の名前が書かれてしまいました。
せっかく書いたんですが、この話は次回で終了に・・・・・なるわけないですよね。
それじゃ、書いた意味が無いので・・・・・・・