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ーーー千葉県・比企谷家ーーー
比企谷家。今や誰もが知っている苗字である。だがこの家にはマスコミやテレビ関係者が集まってはいなかった。長男・比企谷八幡の《三冠制覇》という偉業を考えてみれば明らかに不自然だが、それにはちゃんとした理由があった。
それは彼が入学した時の入学届にある戸籍表には、母の名が汪小苑になっていたからであった。その理由もあってかこの家にはそういった関係者が集まる事はないのだ。
さて、そんな比企谷家に1つの電話が入ってきた。
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比企谷母side
prrrrr……prrrrr……カチャッ
比企谷母「はい、比企谷です。」
八幡『母ちゃんか?俺だ、八幡だ。』
比企谷母「……八幡?久しぶりね、元気?」
八幡『あぁ、元気だ。』
比企谷母「そう………あっ、そうだわ。確か……《三冠制覇》だったかしら?達成おめでとう。母親として鼻が高いわ。」
八幡『母ちゃんまでそんな事言うのか……まぁいいけどよ。ありがとう。』
比企谷母「それで、どうしたのよ?あんたから電話してくるなんて珍しいわね。」
八幡『あぁそうだった。母ちゃん、小町から何か聞いてるか?』
比企谷母「小町から?何も聞いてないわよ?何かあったの?」
また面倒を見て欲しいってお願いかしら?
八幡『いや、そういうわけじゃない。一応半年くらい前に小町から話を持ちかけられてな。まぁ持ちかけられてっていうより、ちょっとした罠っぽい所もあったが、そこはまぁどうでもいい。』
八幡『簡単に言えば、今までごめんなさい的なヤツで謝罪して来たってだけだ。』
比企谷母「ふぅん………それで?あんたはどうしたの?許したの?許してないの?」
八幡『完全には許してないから、兄妹の縁は切ったままにして他人としての縁を取り持った。あいつもそれでいいって言ったから。』
比企谷母「そうなの……それってこの前来た近況報告みたいなアレかしら?」
八幡『まぁそんな感じだ。そっちはどんな感じだ?退屈はしてないか?』
比企谷母「退屈よ。子供2人が揃って六花に行ってるんだもの。世間話も出来ないし、お父さんとも話すタイミングないから仕事以外は暇みたいなもんよ。」
ホンットに暇よ。会社の中でも《王竜星武祭》やあんたらの話でいっぱいなのよ。息子の恋愛話をされてる私の身にもなりなさいっての。会社には私の息子だって言ってないからいいけど。
八幡『そうなのか?じゃあちょっと相談なんだが、春休みになったら、ちょっとそっちで厄介になりたいんだが、春休みは大丈夫か?』
比企谷母「此処はあんたのもう1つの家なんだからいつでも帰って来なさい。私だってあんたの顔を偶には見たいんだから………野暮な事聞くけど、シルヴィアちゃんも?」
八幡『当たり前だろ。何で俺だけで帰らなきゃいけないんだよ。』
比企谷母「そうよね。分かったわ、待ってるわね。お父さんには気が向いたら教えておくわ。」
八幡『教えておけよ。この前のアレも傑作だったが、流石に2回目は嫌だからな?』
比企谷母「ふふ、分かったわ。」
しょうがないから教えてあげる事にしましょう。
八幡『ん?……あぁ、話すか?……分かった。母ちゃん、シルヴィも話したいって言ってるから変わるぞ。』
比企谷母「え?えぇ。」
シルヴィアちゃんも?
シルヴィア『もしもし!お久しぶりです!お義母様!!お元気でしたか?』
比企谷母「えぇ、元気よ。そっちは聞くまでもないようね。」
シルヴィア『はい!それと、春休みにお邪魔することになってしまいますが、その時にも改めて挨拶しますので、よろしくお願いします。』
比企谷母「気にしなくてもいいのよ。八幡にも言ったけど、いつでも来てくれていいから。何か予定があって来るの?」
シルヴィア『いえ、特には。ただ、八幡くんが「偶には顔を合わせてやらないと親不孝だから。」って言ってました。』
あの子……何気に可愛いところもあるのね。
比企谷母「そう、分かったわ。」
シルヴィア『春休み、よろしくお願いします。』
比企谷母「そうそう、八幡に伝言をお願い。『親孝行ありがとう。』って。それから、早く私たちにも孫を見せてね。楽しみにしてるんだから。」
シルヴィア『えっ!?ま、孫!?』
比企谷母「それじゃ、お願いね。」
そして私は電話を切った。
あの子たちがまた来てくれるなんてね………なんか嬉しいわ。いつ帰ってきてくれるのか分かってたら準備するのだけど、こればっかりは仕方ないわね。
そうだわ。春休みは全部有給取ろうかしら?そしたら八幡とシルヴィアちゃんと一緒に居られる時間が増えるものね。でも、2人の時間を潰すのもちょっと気が引けるわ。
……まぁいいわ。その時になったら考えましょう。