八幡side
ーーー八天門場ーーー
式典の最中にイザコザがあって今に至る。界龍全生徒が青龍の間から俺の道場へと移った。中央には俺と新入生、その周りに在名祭祀書、後は周りの階層ごとに生徒が並んで座り、一角の2階には冒頭の十二人が居る。新入生は在名祭祀書の所にいる。目の前で見させた方が勉強になると思ったからだ。
新入生「随分広いですね。」
八幡「界龍にある道場の中では一番広い。俺はこんなの欲しくなかったんだかな。」
新入生「代表さんのだったんスか?」
八幡「なぁ、その代表さんってのやめてくれないか?俺の名前は知ってるんだろ?」
新入生「比企谷八幡先輩っスよね?どっちで呼べばいいです?」
八幡「好きに呼べ。」
新入生「じゃあ比企谷先輩で。それで、早く戦いましょうよ。」
八幡「分かってるよ、取り敢えず……誰か審判をしてくれる奴がいないか?」
新入生「審判なんて要らないっスよ。ズルなんてしませんし。」
八幡「はぁ……もう1つ教えておくぞ。『弱い犬ほど良く吠える。』弱い奴ほどうるさく喚き立て、威嚇するという意味だ。うるさいとは思っていたが、まさか審判すら待てないとはな……」
新入生「………審判は必要ないって言ってるだけです。」
八幡「つまりうるさいのは認めるんだな?」
新入生「っ!……まぁいい。」
静かになりやがった……図星かよ。
審判は虎峰がやる事になり、ようやく始められる。
虎峰「それでは、界龍第七学院大学部1年の比企谷八幡対界龍第七学院高等部1年の
八幡「無い。」
忠「俺もありません。」
虎峰「では、所定位置について下さい。」
忠(体術勝負……ふっ、俺に分があるな。ましてやあいつが武術をしているところなんて殆ど見た事がない。剣術の腕は相当だが、拳法は三流に違いない。)
虎峰「準備はよろしいですね?では……」
虎峰が手を挙げたのと同時に新入生が構えた。
虎峰「始めっ!」
開始の合図と共に新入生が地を蹴り、俺に向かって飛び蹴りを放ってきた。
忠「ふっ!はぁっ!やっ!」
八幡「………」
動きはかなりアクロバットなものだった。加えて拳よりも足技が多く、地面を転がっての戦法も豊富。成る程、この武術なら防御も難しい上に攻めて側としても、隙を与えずに済むな。
まぁ、俺には通じないけどな。
忠「ふぅ……さっきから何です?防いでばっかじゃないっスか。拍子抜けっスね。てかその構え……比企谷先輩が使ってるのって詠春拳ですか?センスないっスね〜まさか女が作った武術使ってるなんて!」
八幡「よく喋るなお前。俺もお返しするな。お前が使ってるのは
忠「へぇ……知ってるんですか?」
八幡「そりゃな。お前よりも動きの遥かに良い奴に少し教えてもらったからな。」
うん、コイツよりも普通に動けてる。
忠「俺よりも動けるんですか?」
八幡「あぁ、よりアクロバットで綺麗な動きしてるぞ。」
忠「へぇ……そりゃ手合わせしてみたいもんですね!」
はぁ……この程度か。
ドゴッ!
忠「ごはっ!!」
俺は新入生の鳩尾を蹴りで狙って見事命中!いや、そんな狙わなくても当てられるけどな。まぁあいつも這い蹲るのは嫌なのか、体制を起こして片膝をついている。立たねぇのかよ……
忠「ど、どうやって動いてる身体の、しかも鳩尾なんかに蹴りなんか……」
八幡「いや、そんなの普通に当てられんだろ。」
忠「そんな訳ない!俺の動きを見切るなんて、出来るわけがない!」
八幡「いい加減認めろよ……それとも何か?俺がお前よりも上って事実をそんなに認めたくないのか?」
忠「ぐぅ………」
八幡「はぁ……仕方ねぇな。
紅「は、はい!」
上から声がして飛び降りてきた少女は、
そう、序列外だ。
八幡「今からこいつがお前の相手をする。こいつに勝ってみろ。あれだけの啖呵を切ったんだ、簡単だろ?」
忠「……ふんっ、やってやりますよ!」
紅「尊師、よろしいのですか?」
八幡「あぁ、構わない。思い切りやれ。これ以上あいつの汚い足技なんて見たくないだろ?」
紅「……ではお言葉に甘えて。」
忠「直ぐに叩きのめしてやる……うおぉぉぉ!!」
結果から言うと……話にもならなかった。
忠「ガハッ!!」
紅「……ガッカリです。これが私と同門だと思うと恥ずかしく思います。本当に中国で1番なのですか?」
忠「何だと!?」
紅「貴方の攻撃を見てすぐに分かりました。あぁ、全力を出すほどでもないと。だからすぐに手加減しました。それでもこれとは……」
忠「このぉ……」
八幡「言っとくが、こいつは序列外でお前よりも2つ年下だ。」
忠「な、何だと!?これで序列外だと!?」
八幡「お前箱入り娘にも程があるだろ。紅が弱いとは言わないが、紅より強い奴まだまだいるぞ。」
八幡「まぁ紅がどっかの学園に入ったら、在名祭祀書なら確実に入れるだろうがな。」
これはお世辞では無い、本当の事だ。ウチの序列外は実力がないわけじゃない。普通なら在名祭祀書に入っていてもおかしくないレベルだ。その証拠が《鳳凰星武祭》だ。
八幡「これで分かったか?お前が世界に出て来たとしても所詮この程度だ。強くなりたいんだったら己の技術を磨き、経験を積む事だ。まぁ勝って当たり前のお前には、その経験が活かせるかどうかも怪しいがな。」
忠「………」
忠「比企谷先輩!!」
八幡「ん?」
忠「生意気な口を聞いてすみませんでした!!俺、これから気を付けます!そしてもっと強くなりたいです!都合良すぎますが、これからご指導、よろしくお願いできませんか?」
八幡「………」
忠「お願いします!」
八幡「………はぁ、じゃあさっきの挨拶の続きな。鍛錬を重ねると同時に動きがより洗練されて進化する。進化の過程はいつだって自分の中に眠ってる。それをどうやって引き出し、どうするかは己次第だ。名刀でも放っておけば錆びるのと同じだ。磨けば輝くが、放っておけばただの鈍だ。常に自分の技と動きに磨きをかけるように心掛けろ。でないと、さっき調子に乗ってたアイツ見たくなるからな?」
八幡「だがこいつは今、この戦いの中で進歩した。世界を知る、それだけでも進化の過程、進歩に充分値する。新入生諸君、いち早く進歩したコイツに負けるなよ?最後に入学おめでとう。生徒代表、比企谷八幡。」
………はぁ、やっぱこんな所でするもんじゃないな。さっさと青龍の間に戻るか。
八幡「ほれお前ら、まだ入学式の途中なんだから戻るぞ〜。」
すると生徒たちはそそくさと青龍の間へと急いだ。
八幡「それと新入生。」
忠「は、はい!」
八幡「まずは紅に教えを受けろ、それがお前の近道だ。武の道に近道はないが、人に教えてもらった方が強くなるには手っ取り早いだろ?」
忠「っ!………はい!!」
こうして、界龍の波乱な入学式は幕を閉じた。