みんな行った?食べた?
えっ、僕……?
あはっ、あははあははははは!
僕みたいな虚弱体質な田舎民が行くなんて、おこがましいじゃないか!
そう、僕はみんなの踏み台なんだよぉ!(泣)
…で、何の話しだっけ?
あ、友達を通して知り合っただけの人が、行ってきた~って嫌み全開で自慢してきたから、その人を僕がタコ殴りするっていう話しだったね。
あっ、嘘だよ。
タコ殴りするのは、僕じゃないからね
朝のアナウンスが鳴るまで、まだ少し時間がある頃。
訪問者を知らせるインターホンの音で、アタシは目を覚ました。
誰だろうなんて呑気に思いながら欠伸をかみ殺して個室のドアを開けるも、そこには誰もいなかった。
「…悪戯かよ」
ならばもう少しだけ寝ようと思ってドアを閉め、再びベッドに潜り込むとさっきまではなかった何かに触れた。
………えっ?何か触った??
一瞬で眠気が吹き飛び、アタシは正体を確かめる為に布団を勢いよく捲った。
「やだなー、入間さん。ボクを抱き枕にしたいなんて、人気者は照れちゃうねー」
正体はモノクマだった。
おい、いつからいたんだよ。
…あっ、もしかしてさっきドアを開けた時に侵入したんじゃ!?
アタシは どうする?
▷たたかう おはなしする
ねる にげる
頭の中でそんなゲームのような選択肢が浮かぶ。
しかし、アタシはどれでもない本を読んで無視をするという選択肢を作り、実行。
椅子に座って図書室から持ってきた本を読み出す。
「ショボーン…無視されたよ。まぁ、ボクはこれぐらいで傷つかないけどね……」
視界の隅で、モノクマが頭に茸を生やしてしょんぼりする。
いやいや、思いっきり傷ついてるじゃん…。
本に栞を挟んで閉じると、アタシはモノクマに目をやった。
「で?何の用だよ。つまらねー事だったら、許さねーぞ!」
アタシの睡眠時間を削ったんだ。
くだらない事だったら、怒るから。
「あっ、聞くの?聞いちゃうの?そんなに知りたい?」
「さっさと言えっ!」
うぷぷ…と笑いだすモノクマに思わず怒鳴ると「しょうがないなー」と言われた。
本当、早く言って。
そしてアタシの部屋から出ていけ。
「やっと準備が終わったから、ボクがわざわざ教えに来たんだよ」
「はっ?準備??」
「そ。入間さんの為に作られた中庭にある『超高校級の発明家の研究教室』の準備ができたんだよ」
研究教室!
やっと使えるんだ。
「さぁ、その才能を生かして殺戮兵器でも発明して……ちょっと!?どこ行くのさ!?」
アタシがモノクマを抱き上げて部屋を出ると、まだ説明の途中だとばかりにモノクマが手足をジタバタ動かす。
てか、その先は絶対余計な事を言うだけだろ。
寄宿舎の出入り口で、パッとモノクマを掴んでいた手を離すと、モノクマは「やっと解放されたよ…」と疲れたような声を出した。
むしろ、こっちが解放されたい。
「もう、いくらボクが愛らしいマスコットだから抱きたくなる気持ちは分かるけど、もう少し優しく……って、聞いてないし」
寄宿舎から出て行くアタシを見るモノクマの文句も聞かずに、今日1日は研究教室に籠もる事になりそうだなと考える。
となれば、軽食を漁りに食堂に………あっ、まだ開いてない時間じゃん。
何して時間を潰そう。
モニターから朝8時を知らせるアナウンスが鳴るとアタシは食堂に入り、その奥にある厨房で片手で食べられるような物を探す。
……普通に、サンドイッチかパンでいいかな。
足りなかったら、ガチャで出たものを食べればいいし。
それらを手に食堂の方へ戻ると、狙ったようなタイミングで最原を連れた赤松が「おはよう」と食堂にやって来た。
本日も仲が良いようで……。
「お前ら、今日も一緒かよ。見せつけてくれるじゃねーか」
冗談でからかってみるも、赤松に「そ、そんな事より!」とスルーされた。
まさか…昨日散々話した時にからかったせいで、アタシの扱いに慣れたのか?
それはちょっと…楽しみが減ったみたいでツマラナイ。
「あのね…入間さんにお願いがあるんだ。ね、最原君?」
「う、うん…実は、入間さんに作って貰いたいものがあるんだ。倉庫でカメラと防犯センサーを見つけたんだけど…その2つを改造して組み合わせて『自動で撮影してくれるカメラ』を作ってもらえない?モーションセンサーで人の動きを感知して、自動でシャッターを切ってくれるカメラだよ」
あぁ……そういえば、それも作らないといけないんだっけ。
綺麗に忘れてた。
それ+アタシが個人的に作りたいモノを考えると…あっ、今日は徹夜じゃん。
まぁ、徹夜には慣れてるからいいけど。
「ねぇ、入間さん…お願い。みんなでここから出る為にも入間さんの力を貸して」
黙り込んだアタシを見て何を思ったのか、赤松が頭を下げた。
それを真似するかのように、最原まで「お願いだよ…入間さん」とアタシに頭を下げる。
「や、やるに決まってんだろ!だから…そのぉ…頭下げるの止めろよぉ……」
「ホント!?ありがとう入間さん!」
バッと顔を上げた赤松が嬉しさのあまりか、アタシに抱きついてくる。
あの…苦しいんだけど。
最原も安心して一息つかないで、助けてくれないかな?
赤松の力が意外と強くて、アタシ一人じゃ無理。
「で…今からそのカメラとセンサーを取りに行けばいいのか?」
ギブアップとばかりに赤松の背中をペシペシ叩きながら最原に聞くと、苦笑いで「僕が取ってくるよ」と言われた。
…その苦笑いの意味を、聞いてもいい?
「あっ、待って最原君。私も行くよ。リュックに荷物入れられるし。入間さんは研究教室で待ってて!」
やっとアタシから離れた赤松がバタバタと慌ただしく、倉庫に向かった最原の後を追う。
…あいつら、仲良しだなー。
「んじゃ、準備するか…」
軽く伸びをしてながら、アタシは食堂を出ると一度寄宿舎に寄り、それから研究教室の方に向かった。
×××××
研究教室は様々な道具や部品、機械で一杯だった。
正直、初めて見るものとかもあるのに、才能のお陰なのか使い方が分かるんだから不思議だ。
一通り確認した所で、「コンコン…」と扉からノックの音がした。
あの2人が来たんだろうと思いながら扉を開けると、予想通り赤松と最原だった。
「はい、コレ」
赤松がリュックから3台の使い捨てカメラを取り出してアタシに手渡し、最原も持っていた防犯センサーを渡してくる。
「で、これを組み合わせて自動で撮影するカメラを作るんだな?」
最終確認としてアタシが聞くと、赤松は頷いたが、最原が「あのさ…」と前置きをして話す。
「1台だけ防犯センサーの機能を残したまま、それと連動して撮影するカメラを作れないかな?つまり、センサーが動くと受信機のブザーが鳴って、同時にカメラで撮影される……そういう仕掛けが欲しいんだ」
あの動く本棚に設置する分の事だろう…。
アタシが「なるほどな…」と頷くと、「細かい注文はここに全部書いておいたから」と最原が小さな紙を手渡してきた。
それに書かれている事をザッと目を通していく。
「で、いつ取りにくるんだ?」
「明日の朝までに…できるかな?」
無理言ったかなと顔に出している最原に、アタシはニヤリと笑った。
「それぐらい、余裕だぜ!じゃ、明日の朝に取りに来いよ」
一方的に告げると、アタシは扉を閉めて研究教室の中に戻った。
台の上に、赤松と最原から預かったカメラと防犯センサーを置き、少し離れた場所にはアタシが個人的に作りたい物の材料を並べる。
「それじゃ、作戦開始…なんてな」
そうしてアタシは、手を止めることなく作業に集中することにした。
空腹や睡眠なんて、これの前では無意味に等しい。
『超高校級の発明家』入間美兎の才能とアタシの発想、思う存分に見せてあげようじゃないか。