憑依してしまった以上、救いたいと思った   作:まどろみ

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マスターやったり、騎空士やったり、審神者やったり、プロデューサーやったりしてたら見事に忘れてた。
首を長くして待ってた人には申し訳ない!
ゲームの期間限定イベントという誘惑には勝てなかったんだ。


10日目①

いつと変わらない朝だった。

ただ違うのはモノクマーズが朝のアナウンスをする前に目覚めて、二度寝する気分でもなかったから身支度をしてから部屋を出た事ぐらいだ。

 

そして誰よりも早起きな東条と中庭でバッタリ会って朝の挨拶をして、学園内を散歩しながらアタシはここではこんな事をしただとか、ここで誰かがこんな事を話していたと思い出の一つ一つを紐解いていた。

なんだかんだで、この学園で過ごすのも終わりだ。

明日になれば、きっと皆してここから出て行く事になる。

明日に…なれば………。

 

「…………ひぐぅ」

 

そんな謎の呻き声を上げながら、アタシはズルズルと壁に凭れながらその場に崩れ落ちた。

恋愛バラエティーとかいう、ちょっと何を言っているのか分かりません案件のこの学園生活。

超高校級の才能を持つキャラクターになぜか憑依して、オタクでいう推し達と楽しく過ごしてきた日々。

その中での一番の楽しみといえば、超高校級の夫婦(仮)を眺めては、アタシなりにからかったり、背中を押してあげたりする事だった。

だった……つまり、過去形。

全て、プレイヤーだった頃の考えを地盤にしていたアタシだけがそう思っていただけの事。

現実だと何が起こるか分からないな!

 

つまり、何が言いたいかというと……だ。

 

「オレ様…殺されない?大丈夫???」

 

男女構わずフラグ立てまくり(本人無自覚)の最原の心を、物理的に知らない内にハートキャッチしていたらしいアタシは、今日を無事に乗り越えて過ごす事ができる自信が地味にないです。

 

もし誰かに知られたら?

アタシ闇討ちされる自信しかねーよ?

トイレットペーパーで首を締め上げられるとか嫌だよ?

 

「そもそも、昨日ちゃんと返答できてねーし……」

 

なんで昨日のアタシ返事しなかったんだろう。

あんな真剣な目で見つめられて、握られた手がアタシより大きくて……そんな事を考えた途端、顔に熱が集まって心臓が騒がしくなったりしなければ、ちゃんと返事できたはずなのに。

結局何も言えないまま寄宿舎まで一緒に戻って、自室のベッドの布団にくるまりながら『アタシは恋する乙女かよぉ!?』と叫んだまでが昨日の事。

すぐに力尽きて寝るとは思わなかったけれど。

 

「はぅ…1人でずっと勘違い起こしていたオレ様とか、ネタ案件じゃねーかよぉ」

 

「えっと…何がネタ案件なのか、地味に聞いてもいいかな?」

 

独り言聞かれてた…しかも白銀に。

やばい、砲丸で殴られる。

とりあえず立ち上がって、頭上の安全を確保しようと思い立ち上がり振り返る。

白銀だけかと思っていたけれど、ゴン太も一緒だったようで目が合うなり「おはよう、入間さん!」と笑顔を向けられた。

ゴン太は独り言を気にしてはいない……いや、聞いてなかったのか?

ならば、白銀をどうするかで誤魔化せる可能性あり?

 

「こ、こんな所で奇遇だな!って…もう朝食会の時間じゃねーか。オレ様とした事が時間を忘れてたなんてなー…」

 

「確かにそうだけど…ねぇ、それよりも」

 

「腹減ったし、さっさと食ってのんびりと過ごさせてもらうとするか!」

 

目で掘り返してくるなと訴えながら、白銀の言葉を遮りながらく空腹だと態度で伝わるようにお腹な手を当てる。

それで伝わったのか、叉は諦めたのか白銀はそれ以上は何も言わずに数歩離れた距離でゴン太と話しながら、後ろを付いて来る。

 

 

今日の朝食何かなー…なんて考えながら扉を開けると、食堂のテーブルに乗っている料理はいつもより種類豊富で軽いバイキングと化していた。

いつも使っているテーブルが料理で埋まっているからか、倉庫から持ってきたであろう折りたたみ式の簡易テーブルといつも使っている椅子が何組かに別れて設置されている。

料理はパン、スープ、パスタ、サラダといったものから、和食用にとご飯に味噌汁、デザートに一口サイズのケーキといったものまであり、ドリンクも多種多様置いてあって、まるで小さなバイキング店だ。

後から来た白銀とゴン太もこれには驚いたのか凄い凄いと目を輝かせると、お皿をそれぞれ手に取り料理を乗せていった。

 

それら全てを用意したであろう東条の方に視線をやると「もしかしたら、明日は朝食を食べる時間がないかもしれないでしょう?これが最後かもしれないと思っていたらこうなっていたわ」と真っ当な理由が返ってきた。

 

「あれもこれもって、沢山取ってしまったすよ…」

 

「ククク…もしかしたら、食べきれないかもしれないネ?」

 

「そん時は俺が食べてやるから安心しろ!」

 

「まぁ、キー坊は食べられないけどねー」

 

既に食べている天海と真宮寺、百田と王馬の隣でキーボが「ぐっ…王馬君は絶対に訴えますからね」と悔しそうに拳を握り締めて…もはや恒例と化したやりとりをしているが、周りの食べる手は止まらない。

その隣で、赤松と春川はケーキを頬張りながら「次はあれを食べてみよう」というやりとりをしていた。

 

「見てる場合じゃねー…オレ様の分まで下手したら盗られる!」

 

早い者勝ちなバイキングで遅れをとるのは敗北に近しい。

アタシもお皿を片手に、整列された料理から気になるものを次々と取っていく。

その際に、同じように料理を皿に盛っていた星の足元に踏み台があった事にはそっと見ないフリをしてあげた。

 

「あれもこれも美味しいですね!さすが東条さんです!男死さえいなければ、もっと良かったのですが…」

 

「転子よ…ウチの把握している限りじゃと、お主さっきから甘いものばかり食べておらんか?」

 

ある程度確保して座る場所を探していると、お皿に料理を沢山盛り付けた茶柱と、その隣でジュースを飲む夢野からそんな話し声が聞こえてくる。

そんな2人の隣の椅子が空いていたので腰かけると「あー、そこアンジーの席なんだよー」と独特な料理の盛りつけ方をしたアンジーがアタシの目の前でぐいんぐいんと左右に身体を揺らしていた。

「へっ…そうなのか?」

 

「そうだよー。だからアンジーと椅子を半分こして使うー?」

 

「はっ!それなら夢野さん!ぜひ転子の膝に乗って食事を…」

 

「食いづらいから却下するに決まっておるじゃろ」

 

それはそれで見てみたいと思ったけれど、とにかくアンジーに迷惑かけるわけにもいかないから空いている椅子を探す。

皆が座っている所から少し離れるが、1つだけポツンと空いている席があるしそこにしよう。

 

「あー…座る場所取って悪かったな」

 

「アンジーは気にしてないからいいよー?」

 

それ下手したら神様の方は気にしているんじゃないかと思ったけれど、それよりもどうやって料理をタワーのように盛り付けたのかが凄く気になった。

 

 

1人でもっきゅもっきゅと食べていると「おはよう、入間さん」と最原に話しかけられた。

最原の持っている皿は他の男子達と比べると、料理の量が少ない。

なんせデザートが1つもない。

まさか食べ歩きしていたのかと思ったが、さっきまでは姿が見えなかったから寝坊してきたのだと勝手に推測した。

 

「お前、そんだけで足りんのかよ?」

 

「一応食べたいものもあったんだけど…」

 

言葉を濁しながら苦笑いを浮かべる最原の視線の先を辿ると、デザートの周りで陣取っている女子達の姿があった。

あの中に混ざるのは気が引けるという事か。

最原なら違和感なく溶け込めそうな気もするけれど、それでも茶柱がちょっとした小言を言いそうだもんなー。

やっぱり難しいかー。

ならば仕方がない。

 

「で、お目当てのものはあの中のどれなんだよ?」

 

「えっ?小さいティラミスのケーキだけど…」

 

「ふーん……あれか」

 

そうかそうかと頷きながら、アタシは椅子から立ち上がると最原に「他に座るとこねーなら、座れば?」と正面の空いている椅子を指差し、女性陣に混ざってデザートの追加をする。

 

「あっ、入間さん。この苺ケーキ、すっごく美味しいけど食べた?まだなら食べないと損だよ!」

 

「だったら、チーズケーキも食べたら?」

 

アタシが来た事に気づくと、真っ先に赤松と春川がアタシのお皿にそれぞれのオススメだというケーキを乗せていく。

アタシは子供か!?

 

「そういう流れならば、私からはガトーショコラをオススメするわ。もうすぐなくなりそうだもの。どうぞ」

 

更に東条にまで追加された。

だからあなたママって言われるんだよ。

口には出さないけれど。

 

「入間さんが末っ子キャラ扱い!?じゃあ、私も地味に便乗して…」

 

ノリノリな白銀からは抹茶ケーキを頂いた。

これは白銀なりの地味なチョイスなのか…?

じゃなくてだ。

 

「テメーらはオレ様の保護者かよ!?」

 

これ以上、勝手に乗せられてたまるかと皿を守るように頭上近くまで持ち上げたが、なぜかスライムタワーのように天井に向かって積み重なったモノクマーズに「お母ちゃんにあげるー」とフルーツヨーグルトを貰った。

……いつの間にいたんだ。

 

「……ったく、仕方ねーなー」

 

もう文句を言う気力もなくなり、もともと食べる予定だったものを追加しながらそれ以上は何も言わずに、関係ないはずの王馬からジュースまで手渡された。

東条が用意したドリンクにはない色をしてたし、絶対に混ぜているやつだ。

何と何を混ぜたのかは知らないけれど、ドリンクバーで小学生とかがやる遊びをここでやる?

あれか、嫌がらせか。

アタシがお前に何をした…拗ねるぞ。

 

ジュースは飲むべきか否かを自問自答しながらさっきまで座っていた席に戻ると、アタシが持っているジュースを見て「それは…?」と困惑した表情を浮かべた。

 

「知らねー。王馬のヤローに押し付けられた」

 

王馬の名前を出すと、最原の視線が哀れみと同情の籠もった複雑のものに変わった。

 

「それ……飲むの?」

 

「…………………………一口だけ飲んでみるか」

 

飲んだら何を混ぜたか分かるだろうし。

東条に報告するのはその後でも間に合うだろう。

王馬が東条に怒られるのは、アタシの中では確定事項だ。

 

「まっ、ジュースなんてどうだっていいんだよ。ほらよ」

 

最原の持っているお皿に取ってきたばかりのプチティラミスを運ぶと、最原から「えっ?」と間抜けな声が出た。

 

「わざわざ僕の為に取ってきてくれたの…?」

 

「オレ様が食べるデザートの追加だっつーの!どうせ行くなら、その方がいいと思ってだな……。なんなら赤松達から貰ったものもあるし、テメーがどーしてもって言うなら半分分けてやる」

 

自分でも不思議なくらいにモゴモゴと小さな声で言いながら、取ってきたデザートの殆どを最原の皿にのっけていく。

本当の本当についでだし、それ意外の考えなんて別にない。

 

「ありがとう、入間さん」

 

「お、オレ様にお礼を言う意味が分かんねーな。別にそんな事言われるような事してねーっての」

 

ふいっとそっぽ向きながら、プチケーキを口に入れていく。

…うん、オススメしてもらっただけあって美味しい。

いくらでも食べられそうだけれど、この後が怖いので食べすぎには注意しておかないと。

甘い食べ物は、時に女子の天敵になるからなぁ…。

それに比べて男子はそういうの気にしないのか、好きなだけ食べるよな。

 

お皿が空になってきた所で、難関かもしれない王馬の謎ジュースの入ったグラスを手に取る。

 

「それ、本当に飲むの?止めた方がいいと思うんだけど…」

 

「一口だけだし大丈夫だろ」

 

多分。

口直し用の水も用意しているし、準備はできている。

心配してくれている最原には悪いが、ちょっと挑戦したいという冒険心もある。

ワックワクのドッキドキには結局、アタシは抗う事ができないのだ。

グラスに口を付けて、少しだけ口に入れる。

 

「ゴフッ!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

少し飲んだだけなのに、結果は咽せた。

本当に何を入れたんだあのチビは……!

心の中で悪態の数々を呪詛のように飛ばしながら、水を一気に飲み込んだ。

なんっっだ、あの味!?

 

「上手く言えねーけど、口の中でオーバー・ザ・レインボー…いや、滅びのバースト・ストリーム??なんかそれぐらいヤバイ味がした」

 

あれは飲み物じゃない、ただのゲテモノだ。

物理的な飯テロだ。

これは酷い、酷すぎる。

水を飲んだのに、まだ変な感じがする。

正直、飲まなきゃ良かった…。

好奇心に負けたアタシが言っても意味はないんだけれども。

 

「ケーキ追加してくる」

 

「そんなに酷かったんだ…」

 

気になるのか謎ジュースを眺める最原に「好奇心に負けたら飲んでみれば?オレ様はオススメしねーけど」と言い残して、アタシはまた女子の輪に混ざりに行く。

そんなアタシと入れ違うように、百田がさっきまでアタシが座っていた席に座って最原と何やら話しだした。

アタシの座る場所取られたなーと思いつつ、百田がさっきまで座ってた場所で食べればいいかと切り替える。

 

またデザートを取りに来たアタシに「美味しいから、沢山食べちゃうよね」と赤松が真っ先に声をかけてきた。

アタシも「東条が作ったものは、なんでも美味しいからなー…」と肯定しつつ、残り僅かとなったデザートを皿に乗せていく。

 

「あっ、そうだ。入間さんに聞きたい事があったの。今まですっかり忘れちゃってたんだけどね」

 

「聞きたい事?」

 

なんのことやら想像もできず、首を傾げていると内緒話しでもするかのように、赤松が小さな声で「ほら、あれだよ!」と言ってくるけれど……どれの事やらアタシにはさっぱりだ。

 

「もう……だから、私と卒業するかどうか考えてくれた?返事を聞かせてほしいんだけど!」

 

そういえばそんな事あった………。

いや別に忘れてたとかじゃないけど、アタシなんでW主人公にモテてるの。

嬉しいけれど今は切実にどうするべきか困るというか、どことは言わないけれど別の時にモテ期きてほしかったわ。


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