憑依してしまった以上、救いたいと思った   作:まどろみ

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ラストまでもう少し……されど、道は長いんね。


9日目①

目が覚めて真っ先に感じたのは、違和感だった。

いつもと何かが違う。

だけど、部屋に変わった様子はない。

だとしたら、何に違和感を感じてしまったのか。

その疑問の正体が何なのか確かめる為に、アタシはベッドから出てからもう一度だけ室内の隅から隅を確認した。

 

クローゼットの中を開け、ベッドの下を覗き、トイレも一応確認して、机の引き出しも確かめる。

どれも何時も通り、おかしな所なんてどこにもない。

だとしたら、何だ?

 

そんな疑問をモヤモヤと抱きながら身支度を整えて、ドアノブに手をかけた所で「……ん?」とアタシは動きを止めた。

ドアの向こうから、どことなく重い空気が伝わってくる気がする。

気のせいと思いながらも、少しだけドアを開けて様子を窺って見ると、寄宿舎で何人かがどんよりとした空気を漂わせていた。

 

えっ、何事??

 

あのスーパーメイドの東条とか、ちょっとした事では動じなさそうな星とか、幼女並みに元気ハツラツ無邪気なゴン太も、いつも笑ってるイメージのあるアンジーとか、人間観察が趣味みたいな真宮寺とか、馬鹿っぽいけど頼りになる兄貴分な百田とか、いつもオタク魂全開な白銀といったメンツの纏う空気だけがいつもと違って重かった。

お前ら、マジでどうした。

何があってそんな暗い表情を隠そうともせずに、その場で溜め息吐いてるんだ。

誰か説明プリーズ。

 

「あの…入間さん、出て来ないんですか?」

 

「ちょうどいい所に居たな。なぁキーボ、こいつら何があったんだよ?つーか、お前もなんか様子がおかしいけど、どうしたんだよ?」

 

ドアを開ける時に邪魔にならないような位置に体育座りで座り込んでいたキーボに声をかけられて、心の中で『いたのかよ!?吃驚させんな』と叫びながら、頭のアンテナをへにょんとさせて落ち込んだ様子のキーボに説明を求めると、なぜか余計にキーボの纏う空気が重くなった。

おい待てどうした。

朝から一体何が起きた。

 

「えぇ……実は僕達、もうすぐ期日になってしまうので最原君に一緒に卒業して欲しいと思いを伝えたんです。ですが……」

 

「分かった、それ以上言うんじゃねー。傷を抉るような真似して悪かったな」

 

つまり……なんだ。

最原に『あなたが好きなので、一緒に卒業してください』と言ったものの、断られてしまった人達の集まり会みたいになってると。

……頼むから、誰かの部屋でやってくれ。

寄宿舎のエントランスでそんな集会されたら、気になって仕方ないから。

 

「すみません…気を使わせてしまって。…ボクが最原君の『どうしても振り向かせたい人』にはなれなかったのはショックです。最原君にそこまで思われている人が羨ましいけれど、それでも最原君が選んだ人ならボクは最原君がその人と卒業する事を応援してあげたい……。こんな事を聞いてくれてありがとうございます。入間さんに話していたら少しだけスッキリしました」

 

「別にオレ様は何もしてねーけどな」

 

「それでも、ボクに気持ちの整理がついたのは確かです。それに、最原君言ってました。『キーボ君達のお陰で、僕も今日伝える決心ができた。これからも大切な友達として僕を支えて欲しい。僕もキーボ君達が困ったら支えてみせるから』って…。ロボットのボクも友達で仲間なんだと言葉にしてもらえただけでも……」

 

そのまま口を閉ざしたキーボの頭をグリグリと撫でてから、アタシは扉をパタリと閉じた。

こんな空気で、しかも原因を知ってしまった以上は外に出回る気分にも慣れず、アタシは部屋で「うーわー…」と座り込んだ。

なんだろ…こっちまで泣きたくなってきた。

 

とりあえず、お昼までは部屋で大人しくしてよう。

 

「にしても、最原が『どうしても振り向かせたい人』……なぁ」

 

確実にあの場にいなかった誰かだろう。

となると…だ。

ある程度予想する事は簡単にできる。

 

あの場に姿がなかったのは赤松、春川、茶柱、夢野、王馬、天海だけれど………アタシの中で一番可能性があるのって赤松なんだよな。

でもキーボのくれた貴重な情報の事もある。

もしかしたら、百田に思いを寄せている春川か……夢野のセコムみたいになってる茶柱っていう可能性も捨てきれない。

それとも…………その…あれだ………一部のお姉さま方が大歓声を上げそうな王馬と天海という可能性が????

どこからか黄色い歓声が聞こえた気がして、慌てて首を振る。

電波の受信はキーボだけで十分。

えっと次、夢野はどうだろう…昨日一緒に居たし、その可能性もありえる。

その場合は茶柱というラスボスが出現するけど。

 

「……あれ、だとしたら予想できなくねーか?」

 

意味ないじゃんと心の中で情報の少なさに絶望する。

胸の前で腕を組みながら、何か見落としがないか情報の整理をしてみるが、うむ分からん!

 

超高校級の探偵の力を借りたいな……って、元凶の元はその探偵だけど。

探偵の思い人知る為にその探偵の協力仰ぐとか、それ本人に直接聞いてるに等しい。

そんな直球ストレート…アタシにできるわけない。

確実に変化球、または何かいらん事言ってデッドボールになる。

 

……まぁ、明日になれば嫌でも分かるだろうし、今から午後をどうするか考えておこう。


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