プールでの女子会も終わり、1人でひたすら考える。
ゲームをしている間は深く考えなかったが、こういう立場になったら実感せざるを得ない問題がある。
大きな問題……主人公とか関係なしに最原が人タラシであるということに。
前からなんとなく感じ取ってはいたけれど、やっぱりこれが一番の壁に他ならない。
なんせ、男女関係なく最原に矢印が向いているんだ。
幸いアタシはまだタラシ込まれてない(言い方が他に思いつかない)から、最原争奪戦(仮)には参加しないが………うん、これは酷い。
最原がデートチケットを使ったのか、夢野と一緒にいるのが遠くに見える。
そしてそんなアタシの隣には、音声も拾えるアタシ作の双眼鏡を持ってギリギリと恨めしそうにする茶柱を始めとしたその他数名。
なんだコレ。
修羅場か。
平和な世界軸でコロシアイが起こらない事を祈る。
といっても、あと何日かしたら終わりだし大丈夫だとは思うけどな!
寄宿舎の壁に凭れながら、ストーカーよろしく最原を見ていた集団が一斉に双眼鏡をポケットにしまい、解散とばかりに散っていくのを見る限りだと、最原は夢野とのランデブー(仮)を終了したらしい。
次は自分を誘って貰えるように、1人でいるアピールという事か。
せめて、双眼鏡を返却してからバラけて欲しかったかなぁー。
「あれ、入間さん1人?さっきまで集まって何かしてたように見えたけれど…」
どうやら、こっちからの様子は最原の方にもバッチリ見えていたらしい。
まぁ…何をしていたのかまで分からないようだが、知らない方が幸せってこともある。
「あー…まぁ、あれだ。それについてオレ様は黙秘を使うからな」
「要するに、聞かれたら困る事なんだね。だったら無理には聞かないよ…」
答えた所で困るのはアタシじゃなくて、最原だけどな。
そんな事を口に出せるわけなく、アタシは苦笑いを浮かべるしかなかった。
さて、この無駄に静寂だけが流れる状況をどうしようかと考えていると、どこからか『ピンポンパンポーン』と音楽が流れた。
それと同時に近くのモニターにモノ久マーズの姿が映しだされる。
いやいやいや、何事。
てか、今の死体発見アナウンスで流れる音楽じゃなかった?
『おはっくまー!迷子のお知らせだよー!』
いきなり変なことが始まってる。
意味が分からず疑問符を浮かべるアタシと同じように、最原も「えっ、迷子????」と困惑していた。
一体なんなんだ。
『えーっと…誰を呼び出せば良かったんだっけ?』
『んもー、忘れちゃったの?最原君よ!』
『王馬クン二、頼マレタカラ……』
『まっ、どこで待ってるかは聞いてへんけどな!』
『根気よく探してこいって事だぜ!』
最後にいつも通り『ばーいくま!』と締めくくり、モニターが真っ暗の画面になる。
まぁ、分かった事はあれだ。
「最原…テメー、その歳で迷子とかマジかよ」
「待って、誤解だよ!」
ドン引きとばかりに最原から軽く距離をとると、必死に迷子じゃないと弁明してくる。
…確かに、放送的に迷子なのは王馬の方になる………のか?
「つまり、最原は王馬の保護者だった……のか?」
「それも違うよ…!」
どうしてそうなったとばかりに、最原がガックリと肩を落として弱々しい声で「どうしたらいいんだ…」と唸る。
「まっ、王馬のヤローに目をつけられたのがテメーの運の尽きだな!人タラシも程ほどにしとけって事だ」
恐らく全員が聞いているであろうアナウンス効果か、あっちこっちから騒ぎ声が聞こえる。
最原は最原で「王馬君に目をつけられているのって、僕だけじゃないと思うんだけど…」とか言ってたけど、声小さすぎてそれ以降は何を言っているのか全然聞き取れないんだけど。
頼むから、もう少し聞き取りやすいように喋ってくれ。
「あと、僕は人タラシなんかじゃないよ。そんな事した覚えないから…」
無意識が一番怖かったりするよね。
そうやって、何人も落とすんだ。
アタシは絶対に落とされないからな。
「とにかく、僕はもう行くけど……入間さん、何か悩み事とかあったらすぐに言ってね」
「へ…?」
「ほら、もうすぐこの生活が終わったら…僕達はみんなそれぞれの生活に戻る。バラバラになっても、ここで過ごした時間は、絆はなくなったりしない。躓いたり、困った事とかあったら…僕に相談してほしいな。まだ見習いだけど僕は探偵だからね。赤松さん達には言いにくい事も僕は親身になって聞くし、だから…その、僕を頼ってほしい………って、入間さん!?」
寄宿舎の壁に思い切り頭を打ちつけたアタシに、最原が「何してるの!?」と必死で止めようとする。
ええい、止めるんじゃない!
危うくアタシも最原に落ちる所だった…危な。
「お前…本当に、そういう所だからな?マジで止めろよぉ……」
何人とフラグ立てたら気が済むんだ…。
いい加減にしろよな。
此方を気にしながらも立ち去る最原と入れ替わるように、赤松が「えっと…大丈夫?」と優しく背中をさすってくれる。
「赤松ぅぅ…テメーの旦那どうなってんの??」
「べ、別に最原君とはそんなんじゃないよ!?」
顔を赤くしながらも「それより、落ち着いた?」と、なぜか抱擁されながら頭を撫でられる。
……そうだ、赤松も最原同様じゃん。
危うく赤子に退化する所だった。
「……………もう、オレ様引きこもる」
もう部屋で大人しくしよう。