…12月って、なんでこんなに忙しいの?
もう現実逃避として仕事の後に、先月の終わり頃に始めたFGOをやっては「どうして上司が賢王じゃないんだろう?」って呟くのが癖になってきました。
いや本当、上司達は賢王を見習うべきだよマジで
走る。
どこに向かってなんて決めていないけれど、走らずにはいられない。
ドクドクと高鳴る鼓動は走っているせいだ。
頬に流れる汗は走っているせいだ。
そう、走っているせいだ。
全部そうに決まっている……そうでなくちゃいけない。
「誰だよ!?あんな変な事を(赤松に)吹き込んだやつはー!!!」
中庭にアタシの叫びが響く。
まぁ、誰もいないから答えてくれる人なんていなかったけれど。
…いても困る気もするけど。
「ふぅ……よしっ、忘れよう。何もなかった事にして造った発明品の効果を実際に使って確かめよう。そうしよう」
いつまでも引きずる訳にもいかないし、忘れよう。
明日に答えを求められても「何かあったか?」と惚けよう。
いや、いっそのこと一部だけ記憶を失う発明品を造って、あの謎の提案そのものを赤松の記憶から消すべきか…。
あっ、それいいじゃん。さすがアタシ天才か。
「となれば、さっそくやってやるか!腕が鳴るぜー!」
握り拳を胸の前で作り、ピョンピョンと跳ねるようなスキップで研究教室に向かった。
すれ違った最原と王馬が凄く不思議そうな顔をしていたけれど、まぁアタシは関係ないだろうから無視しておいた。
×××××
「ひゃーっ、ひゃっひゃっひゃっ!さっすがオレ様!!思い通りにいきすぎて恐ろしくすらなるな!!」
まだ完成にはいかないけれど、半分ほどできてきた発明品に満足げになりながら目を覆っていたゴーグルをポイッと放り投げて思わず高笑いを上げていると、落下したゴーグルの落ちた先から「痛っ!?」って声が聞こえてきた為、アタシの高笑いはピタリと止まった。
「ひいぃぃ!?なんなのぉ…誰かいんのかよぉ」
まさかお化け!?と内心でビクビクしながら、攻撃性のある発明品(名称、レオナルドパーンチ)を構えながら声のあった方にゆっくり近づく。
ゴーグルが落ちた場所の近くには、人をダメにする椅子がある。
幽霊じゃなかったら、そこの影に隠れている確立が高い。
ていうか、リアルで幽霊とか見たくないから知っている人間であってほしい。
そろーっと発明品を構えながら確認してみると、そこには頭を抱えながらしゃがみ込んで苦痛の表情を浮かべた最原と、その最原の口を手で塞いでいる王馬の姿があった。
……なんでアタシの研究教室にいるんだよ。
いつ入ってきたんだ?いや、それよりも………
「…あー、うん、オレ様は何も見てないから。どうぞごゆっくり」
「ちょっと待ってよ。それは誤解だって気づいてるんでしょ!?」
「入間ちゃん、分かってて言ってるよね?」
ちょっとふざけただけで、2人からダメ出しされた。
くそぅ…アタシの嘘は下手って事かよ。
で、だ……肝心のなんで最原と王馬がここにいるのかだけど、結論から言うとアタシの様子がおかしかったから少し気になったとの事だった。
最原曰わく『王馬君と話していたら、食堂から涙目で全力疾走してる入間さんの姿が見えたからどうしたんだろうと思ったら、大声でよく分からない事を叫びだすし…。その後、急にご機嫌になるから王馬君が「これって、絶対何かあるよねー」って面白がってそれに付き合わされたんだよ』だった。
うわー…もう最初から見られてる。
王馬に見つかった時点でアウトだった。
それに付き合わされた最原は…ゴーグルが頭に落下してきた事も含めて災難だったな。
しかし…だ。
「それで…何があったの?僕で力になることがあれば手助けしたいんだけれど…話してくれないかな?」
「オレとしては、さっき造ってたやつも気になるなー」
この2人からはどうやって逃れようか。
馬鹿正直に食堂での赤松の事を話せば最原なんて失神しそうだし、王馬なんて大爆笑しそうだ。
かといって、作り話だとどこかでボロを出す。
「……わ、笑わないで聞いてくれる?」
「うん」
「まっ、話しの内容によるよねー」
……よし、それっぽく、オブラートに言おう。
でないと笑いそうな奴が1人いる。
「さっきまで、赤松と食堂で話してたんだけど…」
慎重に言葉を選びながら、もごもごと切り出す。
これは嘘じゃない。
話していたのは本当だ。ただ、デートチケットを使ったデートとは言っていないけれど。
「それで…な、赤松のやつと此処を一緒に卒業するのは誰にする?って話しになって……」
さぁ……問題はここからだ。
アレをどう言い換えるべきだ?
「えーっと…………………………赤松は一緒に卒業したいやつがいるみたいだけど、オレ様はいないから焦って取り乱して発明品造りという現実逃避を…だな、その………うん」
話している内に自分が情けなくなって、思わず顔に熱が集まる。
途中から思わず目線を逸らして話していたけれど、上手く誤魔化せたか不安になり、そっと反応を伺うと最原も王馬も目を丸くしてアタシを見ていた。
「えっ……入間さん、一緒に卒業したいって人いないの?」
信じられないみたいな顔をしてアタシを見る最原の視線がグサグサと刺さる。
そうだよー、だって決めてねーもん。
「最原ちゃん…これ、事件だよ。大事件になるよ」
分かってるよ…残り日数が半分なのに、卒業したい人間すら決められてないやつなんてアタシだけなんだろうし。
てか、大事件なんて大袈裟……いや、妥当なのか?
「……話してくれてありがとう。後は僕たちに任せて」
「…は?」
「いやー、やっぱり面白い事になったねー」
「……は?」
もう用はないとばかりに早足で去って行った2人を見て、アタシは「なんだありゃ?」と首を傾げる事しかできなかった。
うん。本当に意味が分からないんだけど。