カジノのコインが余っていたからという理由でコインと交換したモノダミンV3を飲みながら、アタシが個室の扉を開けると今まさにインターホンを押そうとしている百田が目の前にいた。
…驚いてモノダミンを吹き出しそうになったのは、秘密だ。
「おっ、出て来たな。何も言わずにちょっと付き合え」
「な、なんだよぉ…」
デートチケット渡されたけど、トレーニングとかだったらサボるからな。
ていうか、アタシがあのタイミングで部屋を出なかったらピンポンラッシュされてた…?
モノダミンを一気に飲み干し、アタシは寄宿舎から出ようとする百田を急いで追いかけた。
×××××
百田を追いかけて辿り着いたのは、やっぱり中庭だった。
嘘……だよな?
トレーニングなんて、やらないよな?
「おーっし!そんじゃ、まずは腹筋100回だっ!」
「はぁっ!?」
えっ、ちょっと…嘘だと言ってくれ。
なかなか始めようとしないアタシに、百田は「いいから、身体を動かしてみろ」なんて言って、ゆっくりと腹筋をやり始めた。
いやいや……身体動かすの苦手なんで、遠慮したいんだけど。
「ったく…いいか。何を悩んでいるのかは知らねーが、身体を動かせば悩みなんて、どーでもよくなっちまうんだよ」
「別にオレ様に悩みなんて…」
腹筋はしないけれど、座り込みながら言ったアタシの言葉は「隠す必要はないぜ!俺にドーンと任せろ!」なんて言った百田の言葉でかき消された。
人の話しを聞けよぉ…。
「テメーの事だ。どうせ、誰と卒業するかで悩んでんだろ?」
「…………へ?」
ちょっと待て。
なんで、バレてるんだ…。
いや、悩みって言うほどじゃないけれど…確かにそれについて考えているのはそうなんだけれど。
「いいか、入間。宇宙の広さに比べたら、テメーの悩みなんてちっぽけなもんだ」
うん、だろうね。
それでも悩んでしまうのが、人間なんだ。
「ったく…深く考えすぎなんだよ。テメーも終一も。いいか、自分が一緒にいたいと思ったやつを信じろ。そう思った自分の気持ちのままに動けばいいんだ」
「……それができれば、苦労しねーよ」
簡単に言いやがって……。
正論なのがムカつく。
バカのくせに…バカのくせに!
「まっ、どーしても無理だと思ったら俺がなんとかしてやるよ!」
ニカッと笑う百田に、アタシは「不安しかねーよ」と笑った。
口ではそう言いながらも、心のどこかではどうしても決められなかったら本当に何とかしてくれるんじゃないか…なんて思ってしまう辺り、アタシもバカだと思う。
アタシ自身が、自分で決めるのが最善策なんだけどな…。
だけど、せっかくならみんな揃って卒業したいし……みんなの優しさや好意に頼ってしまうのもいいかもしれない。
まぁ…日数はまだあるし、みんなの動向から考えるのもありかも?
「おっ、少しは吹っ切れたか?んじゃ、腹筋500回やるか!」
「回数をこっそり増やしてんじゃねー!」
でも……まぁ、アタシの中で考えが少しだけ楽になったのは事実だし、少しだけならトレーニングに付き合ってやろうと、ゆっくりと腹筋を始めていく。
そういえばさ、春川に百田とトレーニングしてるこの状況を見られたら、アタシ殺されたりしない?
大丈夫??