これも全部、暑さのせいだ(言い訳)
朝起きたら、昨日の事は全て夢落ちでした……なんて事はなく、アタシは未だに入間美兎として才囚学園にいる。
10日以内に結ばれたペアは卒業という条件の紅鮭団の2日目。
5日目までには、誰と卒業するのか決めておかないといけない気がする。
「まっ、ゆっくり決めればいいか…」
発明品を作ったり、みんなとの朝食を終え、個室でデートチケットをヒラヒラさせて遊びながら『今日は誰を誘うかな』とアタシは1人で悩む。
そんな時、誰かが来たのか『ピンポーン、ピンポーン』と呼び出しのインターホンが鳴った。
しかもその後に扉をドンドン叩くもんだから、思わず飛び上がってしまう。
ちょ、扉壊れるから止めろ。
「ドンドンうるせーぞ!」
「ご、ごめん!でも、ゴン太どうしても入間さんに頼みたい事があって…本当にごめん!」
怒鳴りながら扉を開けた事を、後悔した。
怒鳴ってごめん。
だから、そんなに落ち込まないで。
「わ、分かったから…もう謝るの止めろよぉ…。で、頼みたい事って?」
本題に踏み込むと、ゴン太は満面の笑みを浮かべて「ゴン太のお願いはね…」と切り出した。
「一緒に虫さんを探してほしいんだ!」
うん、だと思った。
なんとなくそんな気はしてた。
あと、虫を探すだけなのになんでデートチケットを出した?
ゴン太の中では、虫探し=デートなのか?
「まぁ…いいけどよぉ…」
ゴン太の研究教室以外で、虫と呼べるような虫いなくない?
飛んでるとしても、モノチッチだぞ?
肉眼じゃ見えないって…。
×××××
虫あみ装備のゴン太と一緒に中庭に行き、周りをキョロキョロ見渡す。
うーん……やっぱり、虫なんて見当たらない。
「おーい!虫さーん!出ておいでー!!」
「虫って、呼んだら出てくんのか…?」
虫を呼び続けるゴン太に苦笑いをしながら、虫眼鏡を使って茂みとかを探すけれど…何もいない。
分かってたけれどさ…。
「なぁ、なんで虫を探そうなんて思ったんだよ」
「小さい虫さんを見たんだ。だから、どこかにいるはずなんだよ!」
それ、虫じゃなくてモノチッチ。
モノクマーズだから。
「それにね、王馬君が昨日教えてくれたんだ!入間さんに頼めばなんでも解決してくれるって!!」
いやいや…頼んだら解決してくれるの東条だから。
アタシ違う。
発明品でできる範囲しか解決しないから。
「ゴン太…それ、王馬の嘘だから」
「えっ?嘘だったの!?じゃあ、虫さんは……」
ショックを受けたように固まったゴン太に、アタシは慌てて「あー…でも、全部が嘘ってわけじゃねーぞ?」と訂正した。
「えっ?どういう事??」
「だから、オレ様が虫を捕まえる発明品を作ったら、テメーが探してる小さい虫を捕獲できる可能性があるって言ってんだよ!」
ゲームの本編であった虫取り掃除機を作って使えば、ゴン太の言う虫を捕まえる事はできる。
…あれは、虫であって虫じゃないけど。
「じゃあ、その発明品ってのを使えば、ゴン太は虫さんを見つけられるんだね!?凄いよ!!それで…その発明品ってどこにあるの?」
「まだ作ってねーよ!?」
気が早いって!
どんだけ虫を捕まえたいんだよ。
「と、とにかくだ!作ったらすぐに教えてやるから、それまでは研究教室の虫を愛でておけばいいじゃねーか」
まぁ、アタシはゴン太の研究教室には…できれば行きたくないけどな。
虫は苦手なんだよ。無理。
「分かったよ。ゴン太、入間さんが作るのを待ってるね。そうだ、今から一緒に虫さんと和もうよ!!」
「あー…そういえば約束があるのを思い出した。悪いゴン太。虫と和むのはまた今度な」
行きたくないと思った瞬間に誘われるとかないわー。
ゴン太以外だと嘘だとバレるそうな棒読みでそう言うや、アタシは走って自分の研究教室に逃げた。
虫と戯れるデートとか、絶対に嫌だ。