回答が沢山きてくれたら嬉しいなー(チラッ)
コロシアイが起こらない。
それは致命的な事だ。
まず、番組として成り立たないのだから。
超高校級達によるコロシアイと、学級裁判。
それがメインなんだから、視聴者からのクレームの嵐は酷い。
起こりそうで、結局は起こらないコロシアイ。
こんなの、誰が見たいと思うんだろう。
もし次に確認した時に視聴者が減っていたら、彼女のせいだ。
かごのこの時、何も知らないまま被害者として死んでくれなかったから。
プログラム世界でコロシアイを起こそうと準備していたのに、実行してくれなかったから。
どうして、プログラム世界で行動してくれなかったんだろう?
番組を進行させる為の、動機の押しが足りなかった?
それとも、今持ってきた発明品を使えば、この学園から出られるなんて考えてしまったから?
×××××
台車を押しながら裏庭のボイラー室に来てみれば、どうやらみんな(王馬除く)は既に集まっていたようで「遅い!」って言葉が飛んできた。
遅れたのは、本当に悪いと思ってる。
アタシも遅れるなんて思わなかったんだから。
「後で土下座でもなんでもするからぁ…許してよぉ」
「誰も、そこまでしろとは言っておらんわい…」
引きつった顔をする夢野を見て、内心で「デスヨネー」と同意しながら、アタシは台車に乗せていたエレクトハンマーの1つを手に取った。
「それが、あの地下道を攻略する発明品なのか?」
エレクトハンマーをジロジロ見ている百田に「そうに決まってんだろ」と吐き捨てると、アタシはみんなに1つずつ渡していった。
「こいつはエレクトハンマーっていってな、あらゆる電子機器を停止させる事ができるんだよ。だから、間違ってもキーボには当てんなよ?」
「入間さんまでロボット差別するんですか!?」
ガーンと音が鳴るくらいに落ち込むキーボに「そ、そんなつもりじゃ…」と、必死になって言葉を探してみるけれど、何も浮かばずアタシの手が落ち着きなくキーボの前でウロウロする。
誰か、アタシの代わりにキーボにフォローを!
「ロボット差別といえば…王馬さんはやっぱり来てないですね。まぁ、男死は居なくてもいいんですけど」
「誰か、王馬君を見かけなかったかしら?」
ロボット差別という言葉で王馬を思い出す茶柱はどうかと思うけれど、話題を変えるキッカケにはなった。
あぁ…王馬な。
あいつは重役出勤だからなぁ。
適当に、それっぽい言い訳でもしておくか。
「ここに来る前にオレ様が声をかけてやったら、『オレはやる事あるから、みんなで勝手にやってなよー』って言われたぜ?」
「それ、放っておいて大丈夫なの?地味に怪しくない?」
「神様が見てるから大丈夫だよー」
「ここ最近、ずっと隠れてたんだし…王馬君は王馬君なりに考えているんだと思うよ」
えーっと…色々言ってるみたいだけど、とりあえず王馬の話し終わっていい?
エレクトハンマーの方に話しを戻したいんだけど。
ほら、説明とかしないといけないし。
「どこまで話したっけ…あぁ、そうそう。こいつはバッテリーで動いてるから、調子に乗って使いすぎるなよ。でねーと、まだ地下道の罠が残っているのにバッテリー切れなんて事になるからな」
朝の内に、春川に地下道の罠は電子機器だと聞かされているから、みんな黙って頷いてくれた。
みんな、エレクトハンマーを持ってやる気充分といった所か。
「おーっし、んじゃ行くか!」
「うん。これだけ超高校級が揃っているんだし、今度こそ外に出られるよ!」
百田と赤松を筆頭に、みんながエレクトハンマーを片手に持ってマンホールの中に入っていく。
アタシもそれに続くように、最後にマンホールを降りていく。
マンホールの中は、最初に来た時と変わっていなかった。
ただ違うのは、今のアタシ達にはエレクトハンマーという絶望のデスロードを攻略する武器があるという事だ。
出口と書かれた看板の先にあるトンネルに、みんなで一歩ずつ入っていく。
さぁ、みんなで嘘の真実を見に行こう。
たとえその嘘が
みんなにとっての絶望だとしても。
×××××
「ここが、出口?」
「そうみてーだな。あれを見てみろよ」
絶望のデスロードにある罠の数々をエレクトハンマーを使って停止させていく内に、アタシ達はトンネルの奥にまで辿り着けたらしい。
目の前に、電気バリアで覆われた巨大な扉があった。
「じゃあ…あの向こうが」
「きっと、外の世界だよ!」
ここまで来れたのがよほど嬉しかったのか、みんなの表情は嬉々としていた。
それにつられて、自然とアタシまで笑顔になってしまう。
「それじゃあ、扉を開けましょう。安心するのは、外に出てからでもできるわ」
「そうだよね…。でも、ゴン太嬉しくて…」
嬉し涙を流すゴン太の肩を、百田が「ゴン太はよく頑張ってたもんな!」と言いながら、優しく叩いていた。
「ところで…あの電気バリアはどうやって解除するんだ?」
「あの操作パネルを叩いたらいいんじゃないっすか?」
みんなの視線が、自然と扉の近くにある操作パネルの方に集まる。
これをエレクトハンマーで叩けば、そこは外だ。
「これで、転子達はいつもの日常に戻れるんですね」
「そうじゃな…」
「それじゃあ…行こうか。それで、みんなで友達になろう!」
そう言うや、赤松はエレクトハンマーを大きく振り上げ、操作パネル目掛けて一気に振り下ろした。
『ロックガ……解除…サレマシタ』
そんな機械的な音声が流れると、少しずつ扉を開けていく。
「やっと…出られるんだね!」
そう言ったのは、誰だったか。
ゆっくり開いた扉から見える景色が段々と鮮明になっていくと、さっきまで希望で満ちていたみんなの顔が、一瞬で絶望に染まった。
「これが………外の世界?」
「な…なんだ…これ?」
一面に広がる真っ赤な空。
崩れた瓦礫の建物。
抉れた地面。
そして……何より、息ができない。
「うっ…!?」
思わず、アタシは口元に手をやった。
上手く息ができず、苦しくなる。
ガスマスクを持って来れば良かったなんて思いながら、遠のく意識の中で『扉ガ…ロック……サレマシタ』という音声を聞いた。
「おはよう、みんな!気分はどう?もちろん最悪だよねー!」
息苦しさがなくなり、ゆっくりと身体を起こして周りを見渡してみると、さっきまでいなかった王馬の姿があった。
一瞬だけ目が合うと「にしし」と笑われた。
どうせ『今から嘘の首謀者になるよー』とか思って笑ってるんだろ。
「あれが…外の世界の真実?」
「今のを見て分かったろ?オマエラが望む外の世界なんて、どこにもないんだよ」
顔を真っ青にした赤松に、モノクマみたいな喋り方をしながら王馬はなんでもない事のように告げる。
「…どういう意味っすか?」
「だったら教えてあげる。でも、オレも嘘つくのに飽きたから、ここからは本当の事しか言わないよ?」
既に嘘をついてるじゃねーか…なんて目を春川としながら、黙って話しを聞く。
そんなアタシと春川の無言の訴えに気づかないフリをしているのか、王馬は「すべての発端は、空から降ってきたあの絶望なんだ」と話し始めた。
地球に降り注ぐ隕石群。
それらから、地球の滅亡は避けられないと知った各国政府が、人類の滅亡を防ぐ為にゴフェル計画の実施を決定した。
それは、選ばれた優秀な人間を宇宙船に乗せ、滅びゆく地球からの脱出と人類が生存可能な星を見つけて、人類の種の保存を行う計画である事。
そのゴフェル計画に選ばれたのは、16人の若くて才能溢れる高校生…超高校級と呼ばれる16人が、新世界のアダムとイヴとして選ばれた。
しかし、16人は辞退して計画から逃げる事にして、自分の記憶を消す事で超高校級の才能を捨てて、普通の高校生になろうとしていた。
その頃から、終末思想を掲げる過激なカルト集団がゴフェル計画の阻止を企み、超高校級狩りが始まった。
逃げた16人は次第に追い詰められてしまい、ゴフェル計画を実施する組織は「超高校級の16人は全員死亡した」との嘘の情報を流し、隠れていた16人は保護され、ゴフェル計画は実行に移された。
ゴフェル号の打ち上げは成功し、地球に隕石が降り注ぐ中、16人の超高校級は人類最後の生き残りとして宇宙に旅立ち……
「そのゴフェル号こそが…この才囚学園の正体なんだよ!」
思い出しライトと、この前の動機だったカードキーでよくここまで考えれたな…と思う。
王馬の頭が良すぎてヤバイ。
さすが総統。
……アタシの語弊力、大丈夫かなぁ。
「こ、この学園が丸ごと…大きな宇宙船?」
「そ、そんな事って…」
信じられないとばかりに顔を青くしていくみんなを無視するように、「で、話しには続きがあるんだけど…」と王馬は喋り続ける。
「不思議だと思わない?人類の希望を背負ったゴフェル号で、どうしてコロシアイを強いられるような生活をするようになったんだろうね?」
「何が言いたいのかナ?」
真宮寺のその言葉を待ってましたとばかりに、王馬は悪意のこもった笑みを浮かべた。
「実はね…ゴフェル計画を実施した組織は大変な見落としをしていたんだ。16人の中にとんでもないヤツが紛れ込んでいた事をね」
冷や汗を垂らしながら、何かに気づいた星が「おい、そいつはまさか…」と、今にも消えそうな声で呟いた。
「そう、ゴフェル計画を潰そうとしたカルト集団のリーダーだよ。16人の中に紛れ込んだそいつは、高性能なロボットを宇宙船に仕込んでおいたんだ。それが、モノクマだよ。本来、16人はコールドスリープ状態にされて…宇宙船が相応しい星を見つけた所で解除される予定だったんだけど、モノクマが滅びた後の地球に戻してしまったんだ。で、別の惑星で目覚めるはずだった16人をコールドスリープから目覚めさせてしまって…今に至るって訳だね」
あー…確か、ゲームでもそんな事を言ってた。
よく噛みもせずに、一気に話せるな…。
「ち、地球に戻したって事は…」
「さっきキミらが見た光景…あれが今の地球なんだよ。キミらがコールドスリープしている間に、数百年が経過した後の地球…すっかり滅んで酸素もなくなって、生物もいない地球…キミらが知る街も、知る人も、どこにも存在していない地球…。それが…外の世界の真実なんだよ。つまり、オマエラには帰る場所なんてもうないんだ。だから外に出ても無意味なんだよ。だって、外の世界なんて、もう存在してないんだもーん!」
これ、首謀者も吃驚な設定のネタばらしだろうなー。
さぁ王馬、今こそあの首謀者乗っ取り作戦(ゲームでは王馬が1人でやってたけど)の一番の見せ所だ!
「という訳で、素直に告白するけど…さっき言ったカルト集団のリーダーってオレなんだよね。つまり、オマエラにコロシアイをさせようとした首謀者って……オレなのでしたー!」
思っていたよりも、軽い感じで言いやがった。
いや、ゲームでもこんな感じだったかも…?
駄目だ、ちゃんと思い出せない。
「王馬クンが…首謀者!?」
「神様もビックリだよー」
まぁ、信じている人はいるみたいだし…深く考えるだけ時間の無駄か。
「まっ、それが嘘って思われない為にも、証拠を見せてあげるよ。オレが首謀者って揺らがぬ証拠をさ」
まだ半信半疑な人を信じ込ませる為に、王馬はアタシが見覚えのあるリモコンを操作する。
すると、どこからともなく5体のエグイサルが姿を見せた。
…あれだけ渡さないと言ってたのに、気づいたら盗られてたんだよな。
あらゆる電子機器を操る装置こと、エグイサルのリモコン。
気づいた時は、本当に焦った。
「なんでエグイサルが…モノクマーズにしか操れないはずじゃ…」
「首謀者のオレは別なんだよ。この学園の全てはオレの意のままだからね。このリモコンを使えば、全てのエグイサルがオレの手足となって動くんだよ」
驚いて後ずさる最原に対して、王馬はラジコンを操作するようにエグイサルをリモコンを使って操る。
「オレらは…テメーに振り回されていただけだってのかよ!?」
エレクトハンマーを強く握りしめながら、百田が王馬を睨みつける。
それを面白そうに見ながら「あれ?怒った?で…怒ったらどうするの?」と王馬が煽っていく。
「うるせー!エグイサルを味方につけたくらいで勝った気になってんじゃねーぞ!こっちには、入間が造ったエレクトハンマーが…な、どうした?」
持っているエレクトハンマーが動かなくなった事に気づいたのか、アタシを見ながら焦ったように狼狽える。
「あー…バッテリー切れになったみてーだな。充電には24時間かかるぞ」
自分のもバッテリー切れになりましたとばかりに、アタシはエレクトハンマーを見せつけながら告げた。
勿論、他のメンバーが持っているのも仲良くバッテリー切れになってる。
「そうやって怖い顔で睨まないでよ。オレを殴った所で問題は解決しないよ?」
「そうだとしても、殴らなきゃ気が済まねーんだよっ!」
エレクトハンマーを投げ捨て、百田は拳を構えて王馬に向かって走り出す。
最原と赤松が制止の声をかけるも、百田は止まりそうにない。
「百田ちゃん、止まった方がいいよ。でないと…人質がどうなっても知らないよ?」
人質という言葉に反応したのか、百田が突然ピタリと動きを止めた。
えっ、人質がいるとか…アタシ聞いてないんだけど。
あれ?なんかアタシの知ってる展開と違う。
「に…逃げろ……!」
百田がアタシ達にそう叫んだ。
んー…でも、アタシがみんなの後ろから見た感じだと、誰かに危険が迫ってるようには見えないんだけど?
おかしいなと首を傾げた所で、みんながアタシを見て固まっているのに気づいた。
あの春川でさえ目を丸くして、口パクで何か訴えてきている。
えーっと…?う…い……お?
うしろ…あっ、後ろ??
クルリと後ろを振り返ると、目の前にエグイサルが1体。
その手が、ゆっくりとアタシに伸ばされる。
「入間さん!そこから離れて!!」
いや、そう言われても驚いて動けない。
こんなの聞いてないよ…。
そんな文句も言えないまま、アタシの意識は真っ暗な闇の中に消えた。