憑依してしまった以上、救いたいと思った   作:まどろみ

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何も考えてないけど、なんとかなるさ!(白目)



気だるき異世界を生かせ生きるだけ②

 

赤松・最原のオブジェ捜索に付き合い、中庭に超高校級のロボットの研究教室を解放させたり、校舎の5階を解放させた。

もう、あの2人は何でアタシをオブジェ捜索に誘ったんだろうね?

あれか?サボリの常習犯だからか?

 

解放されたばかりの5階をブラブラ歩きながら、超高校級のコスプレイヤーの研究教室の扉をコッソリ開けて中を覗いてみると、テンションが上がって「尊いよぉ!」と叫んでいる白銀の姿があった。

 

見なかった事にしてあげよう。

 

気づかれない内にバタンと扉を閉めて、今度は超高校級の探偵の研究教室に行く。

すでに教室の中を調べていた赤松と最原は、本棚のファイルを調べたり、毒薬と解毒薬を見比べたりしていてアタシが来た事には気づいていないようだった。

 

今ならサボって、作りかけの発明品の仕上げとかできそうじゃない?

うん、できる。

絶対にやれるわ。

 

「おっ、入間じゃねーか。終一と赤松も一緒か」

 

後ろから突然聞こえた百田の声に、アタシは思わずビクリと肩を跳ね上げた。

 

「あっ、百田君。王馬君はどうだった?」

 

「それがよ、星といくら探しても見つからねーんだよ。まっ、代わりにこいつを見つけたけどな」

 

そう言って百田がアタシ達の目の前に出したのは、今ではお馴染みとなった思い出しライトだった。

出たな、記憶植え付けライト…。

 

「つーわけでだ、食堂に来てくれ。他のメンバーには星の方が声をかけてるはずだからな」

 

「うん。わかったよ」

 

そして、赤松と最原が研究教室の出入り口の方に行くのを眺めながら、アタシは百田をジロジロと眺めていた。

百田が抱えてしまった病気…。

そうなるようにしたのがモノクマ達だとすると、治療する為には…

 

「入間さん?」

 

動こうとしないアタシの肩を、赤松が叩いてくる。

それを振り払うように身じろぎしながら、アタシは「モノクマ、ちょっと来やがれ!」と大声で叫んだ。

すぐ側で、3人が驚いたように「えっ?」と声を出す。

それを無視してモノクマが来るのを待っていたけれど、出てきたのはモノクマじゃなくてモノクマーズだった。

 

「呼ンダ?」

 

「悪いけど…お父ちゃんは今、無気力なのよ」

 

「だから、用件はオイラ達が聞くよー!」

 

「で、何の用や?」

 

「とっとと吐きやがれッ!」

 

なにこの見事な連携プレー。

いや…それよりも、まずはやるべき事を済ましておかないと。

 

 

「オレ様の用件は、ただ一つ…百田の病気の治療をしろ」

 

 

そう言った瞬間、百田が「だから…」と言い訳をしようと口を開けたのを見計らって「黙って聞け!」と遮りながら、塩キャラメルを口に入れてやった。

後ろから時々聞こえてくる「うわっ、甘っ!って…しょっぱ!」って叫びに笑いそうになるのを堪えて、「で、どーなんだよ?」とアタシはモノクマーズに問いかけた。

 

「ど、どうって言われても…」

 

「せ、せや。ワイらはそんなん知らへんし…」

 

「そそそ、そうだぜ!」

 

「………」

 

「オ、オイラも、ウイルスを入れたとか知らないよー!」

 

こいつら、嘘つくの下手くそすぎるだろ。

知らないって、みんなの前でそう言ったのお前らだし。

 

「ふーん、ウイルスを入れた…ねぇ」

 

オウム返しのように呟くと、「な、なんでそれを知ってるの!?」とモノタロウが頭を抱えながら叫んだ。

 

「ちょっとモノタロウ!そんな事言ったら、お父ちゃんの命令でアタイ達がウイルスを挿入した事が…」

 

「それ以上はアカンて」

 

「ミー達がやった事がバレちまうだろっ!」

 

「モウ、バレテルヨ…」

 

モノダムがガタガタ震えながら、アタシ達の顔色を見て「ドウシヨウ…」と呟く。

とりあえず…自白おつ。

 

「なっ…やっぱ、テメーらのせいだったのか!」

 

ズカズカと百田がモノクマーズの側まで歩み寄り、1体ずつ見下ろす。

 

「キャー!どうするの、モノタロウのせいよ!」

 

「えっ、オイラのせい?」

 

「ミンナノセイ、ダヨ」

 

「お父ちゃんに怒られちまう…」

 

「に、逃げるが勝ちや!」

 

そう言って逃げ出そうとするモノクマーズに「逃がすか!」と、アタシはポケットに忍ばせていたピンク色の銃を構えて発砲する。

 

「えっ、ちょっと…なに、その……銃?」

 

突然発砲したアタシを、最原はギョッとしたように顔を青くして詰め寄って来たが、これがアタシの発明品だと気づくと苦笑いを浮かべていた。

まぁ、銃口からは弾丸ではなくネットが飛び出してきて…それがモノクマーズを見事に捕まえているのを見たら、流石にそうなるか。

 

ネットから抜け出そうともがくモノクマーズを、ネットごと抱え込んでアタシは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「お前らが大好きなモノクマの為にも、薬とかは出すべきだぜ?」

 

モノクマーズにだけ聞こえるようにアタシが小声で囁くと、「ドウイウコト?」って返事が返ってきた。

 

「考えてみろよ…モノクマは、コロシアイをしてほしいんだろ?学級裁判を起こしたいんだろ?」

 

「せやな」

 

その返事を聞いて、アタシは更に笑みを深くした。

 

「もし、百田がウイルスに負けてこの3分後に死んだら?何のトリックもない学級裁判になるんだぜ?それに…モノクマが殺人に関与しないっていう校則はどうなるんだよ?」

 

「あわわわわ…」

 

慌てふためくモノクマーズと、小声で何か言いながら笑っているアタシを見ている3人は、何が起きているのか分からないって顔をしてどうなるのかを見守っている。

 

「オイラ、薬を取ってくるよ!このままじゃ、お父ちゃんが悪者になって更に落ち込んじゃう!」

 

「早ク、行コウ」

 

「なら、お前ら2体で取ってこい。残りは人質だ」

 

ネットからモノタロウとモノダムを解放して、残りのモノクマーズと以前に王馬に頼まれて作った試作品のエレクトボムを見せつける。

 

…やばい、今のアタシどこからどう見ても悪役じゃん。

ほら、赤松と最原と百田が引きつった顔でアタシを見てるし。

 

薬を取りに言った2体のモノクマーズを見送り、アタシはどん引きしている3人に「これで、なんとかなりそうだな!」ってわざと明るく言ってみた。

 

だからさ、いい加減にそんな目で見るの止めてくれない?

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

モノクマーズから無事に薬を貰うと、アタシ達は思い出しライトを使うために食堂に集まった。

 

「随分遅かったじゃん」

 

「あぁ…悪りーな。ちょっと色々あってよ」

 

春川に百田はぼかしなから答え、食堂に集まった全員に思い出しライトを見せつけた。

 

「んじゃ、早速使ってみるか」

 

「王馬君がまだ来てないみたいっすけど…」

 

天海の言った事を確認するように、アタシは食堂にいるメンバーを見渡してみる。

あっ、確かにいないけど…どうせすぐに来るだろ。

ゲームではそうだったし。

 

「オレならいるよー」

 

何処かから、そんな王馬の声が聞こえてきたと思うと、背中の方に軽い衝撃が走り「うっ…」とアタシは呻き声を上げた。

首を動かして正体を確認すると、「にしし」と笑いながら王馬がアタシの背中にしがみついていた。

 

…普通、やられるのアタシじゃなくてゴン太じゃない?

いや、そのゴン太が出入り口から離れた所にいるから、近くにいたアタシの方にきたのか。

ゴン太と今すぐ場所をチェンジしたい。

 

「王馬君…あのカードキーはどうしたの?」

 

「あぁ…アレ?どこで使えばいいか分からないから、使うのを諦めたんだよねー」

 

笑いながら王馬は最原にそう答えると、「みんなは集まって何してるのー?」と今度は逆に質問してきた。

だけど、百田の持っている思い出しライトに気づくと「なるほどねぇ」と納得したようだった。

 

「それじゃ、みんな集まったし押しちゃうよー。ポッチーン!」

 

アンジーがそう言ってスイッチを入れ、ライトから放たれた光から頭の中にグルグル映像が流れる。

 

 

ニュースで流れる隕石群……街を歩く暴徒達…。

 

そして…

 

 

 

 

 

誰かのすすり泣く声。

 

 

 

 

違う。これは思い出しライトのものじゃない。

 

 

 

 

 

 

これは……

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、アタシは真っ暗な闇の中にいた。

そんな闇の中には、アタシともう1人…誰かがいた。

ううん、誰かなんかじゃない。

 

彼女は……

 

 

 

『ひひっ…何が隕石群だ。何が人類は地獄に落ちるべしだ…』

 

 

アタシに背を向けて、彼女はそう言った。

それで、なんとなく分かってしまった事がある。

 

アタシが思い出しライトを浴びても平気だったのは、憑依スペックだとかそんな素敵なものじゃない。

全部…アタシという存在のせいで、意識の奥深くへと眠ってしまった本来の彼女がアタシの代わりに、その記憶を植え付けられていたお陰でしかなかった。

 

『超高校級狩りとかも、よくわからないし。どうなってるのぉ…?』

 

 

そして、彼女は涙で濡れた顔をアタシに向けた。

 

だけどそれは、一瞬の事でしかなく。

 

次の瞬間には、何かを思いついたとばかりに顔を輝かせた。

 

 

『なぁ、お前はオレ様で…オレ様はお前なんだよな?』

 

 

ゆっくりと、彼女はアタシに歩み寄る。

逃げたいのに…まるで、見えない鎖にでも捕らえられたかのように、アタシの足は動けなかった。

 

 

『つまり、オレ様達は2人で1人の考えなんだよな…』

 

 

人を誘惑するような甘い声で、彼女がアタシに囁く。

 

これ以上、聞いたらダメだ。

そう思ってアタシは両手で耳を塞いだ。

 

それでも、声は続く。

どれだけ否定しても、聞こえてくる。

 

やめて。

 

聞きたくない。

 

 

『だったら------------』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

声にならない叫び声を上げると、アタシは元の食堂にいた。

今のは、夢?

それとも……。

 

幻聴のように聞こえるあの言葉を振り払うかのように、アタシは「もう少しだから…」と自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「もう少しで、嘘も真実も全部繋がるから…」

 

 

そう…後少し。

もう、半分切ったんだ。

ここでアタシが…アタシが台無しにするわけにはいかない。

 

 

どれだけ自分に言い聞かせても、あの声が離れず思考は混乱したままで。

それを振り払うように、アタシは食堂を飛び出して自分の研究教室に走った。

 


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