才囚学園は本日も晴天なり……ううん、晴れ所により雷が落ちるでしょうの間違いだ。
「どういう事か説明して…」
「そんなに怒らないでよぉ…。オレ様が悪かったからぁ…」
寄宿舎の個室で、アタシは赤松から説教を受けていた。
その隣では、春川が「まぁまぁ…」と苦笑いで宥めている。
赤松と春川がやっている事、いつもと逆じゃね?…なんて思った奴。
それは正解だ。
決して、見間違いとかじゃないからな。
「これ、どうやったら戻るの?方法はあるんでしょ?」
恐ろしい目つきをして睨んでくる赤松に、アタシはガタガタ震える事しかできない。
普段怒らない人を怒らせたら、怖いってのは本当だったんだね!
…なんて言ってふざけてる場合じゃなかった。
「でもさ、春川さん。これはこれで少しの時間は楽しむ事ができるんじゃないかな?」
そう言ってピアノを弾くように指を動かしながら、春川が赤松に笑いかけた。
なんで春川が赤松に「春川さん」って呼んだのかとか、なんで赤松が春川みたいに睨むんだとか……他の人から見たら混乱してしまうような光景でしかないだろう。
どうしてこんな事になったのか……理由を言っちゃえば、アタシが造った発明品のせいだ。
『食べると中身が入れ替わるキャンディ』なんてものを開発し、赤松と春川に見せようと部屋にお菓子とかも準備して招いた。
今思えば、それが原因だったんだな。
発明品=機械だと思っていた赤松と春川は、お菓子と一緒に出していた例のキャンディを食べてしまい、中身が入れ替わったというわけだ。
発明品が機械から食べ物に進化したぜ!
なんて舞い上がっていたアタシはその事に気づく事なく、赤松となった春川に現在進行形でギャンギャンと説教を受けている…なんて事態になった。
「に、2時間後には自然と戻るから!」
「……わかった」
なんとか赤松(春川)の説教も終了して、アタシは一安心とばかりに一息つき…ある考えが頭に浮かんだ。
いや、考えなんて甘いものじゃない。
これはある意味…作戦だ。
「赤松!」
「えっ、何?」
突然名前を呼ばれてキョトンとした顔の春川(赤松)の腕を引いて、アタシは個室の扉の方へと歩いて行く。
「ちょっと外に行ってドッキリしてくる!春川、待ってる間暇ならオレ様が発明した『どんなソフトでも遊べるゲーム』をテレビに繋げて遊んでていいからな!」
「…なにそれ」
呆れ顔をしながらも、赤松(春川)はそれ以上何も言わずに、外に飛び出したアタシと春川(赤松)を見送った。
「入間さん、ドッキリって?」
寄宿舎を出るなり、春川(赤松)が首を傾げて聞いてきた。
さっきのキョトン顔といい、この仕草といい…普段の春川なら絶対やらない事を簡単にやりやがる。
「んなの、アイツがオメーの事をどう思っているのかを聞くんだよ。名付けて…他人だと思ってその人について喋ったら、実は本人でしたドッキリだ!」
「長いドッキリ名だね…」
春川(赤松)にネーミングセンスについて、笑われてしまった。
うーん…アタシ的には、良いと思ったんだけどなぁ?
標的1:最原 終一
「えっ?赤松さんをどう思っているのか?」
カジノエリアで見つけた最原に早速、赤松をどう思っているのか聞いてみた。
ていうか、最原。
お前カジノばっかり行ってるんじゃねーの?ってぐらいに、カジノでよく見るなぁ…。
「別に答えるのはいいんだけど…どうして入間さんと春川さんがそんな事を聞いてくるの?」
「別にいいじゃん、答えてよ!」
春川(赤松)がそう言うと、不思議そうに思いながらも最原は「う、うん…」と頷いた。
「えっと、僕にとって赤松さんは優しくて、一緒にいると心強くて安心する…そんな人だよ。彼女の行動力に、僕は何度も助けて貰っているし」
「こっちだって…最原君には助けて貰ってるよ」
春川(赤松)がポツリと呟いたのを、最原は聞いていたらしく「えっ…?」と声を上げると、考え込むかのように黙り込んだ。
あっ、これアカンやつだ。
気づかれる。
まだ聞きたい事あるけど、これで最後にしよう。
「おい、最原!テメー、赤松の事が好きなのか!?」
「「えっ?」」
ボンって音が鳴るぐらいに、最原と春川(赤松)の顔が同時に赤くなった。
あっ…ストレートに聞きすぎた?
そんな事ないよね?
だって、友達としての好きって考える人だっているんだし。
質問の仕方に間違いはないと1人で確認していると、春川(赤松)がアタシの背中を押して無理矢理歩かせ始めた。
ちょっと、今からが面白い所なのにどこに行くつもりだ。
「あっ、ほら!もうすぐ約束の時間だし!入間さん、寄宿舎に戻ろ!」
「えっ?約束?そんなのあった…?」
戸惑うアタシを連れて、春川(赤松)は「それじゃ!」と最原に一方的に別れを告げた。
「春川さん…なんかいつもと様子が違ってたな。どうしたんだろ?」
「ただいま~」
「やっと戻ってきた…」
寄宿舎の個室に戻ってくると、赤松(春川)がゾンビの討伐ゲームをしていた。
「んじゃ、次は春川行くぞ!あっ、赤松はゲームして待ってろよ」
「はぁ?何の話し?」
顔をしかめる赤松(春川)を引き連れて、アタシはもう一度外に飛び出して行った。
標的2:百田 解斗
「ハルマキをどう思っているか?んなの、困っている時には助けるべき助手だ!」
「ハルマキって呼ぶなって、何度も言ってるのに…」
赤松(春川)の言った事は百田には聞こえなかったようで、「そんな事聞いてどーかしたのか?」なんてアタシ達に聞いてきた。
「それは…ほら……あれだ!よく一緒にいるのを見るから気になっただけだ!」
「あぁ、ハルマキは助手だからボスとして放っておけなくてな!」
チラリと赤松(春川)の方を見ると、「だと思った…」と少し不機嫌そうだった。
「じゃ…じゃあ、春川の事を可愛いって思った事は!?」
そう言った瞬間、アタシの足に痛みが走ったと思うと「殺されたいの?」って百田に聞こえないように、赤松(春川)がアタシの耳元で物騒な事を囁いてきた。
変な事を言ったのは後で謝るから、足どけて。
「ん?ハルマキは可愛いだろ?」
そんな中で百田から落とされた爆弾に、赤松(春川)が目を丸くして固まった。
そして、クルリと百田に背を向けたと思うと、物凄い勢いでその場から逃走した。
「えっ、ちょ!?はる…じゃなくて、赤松待てって!オレ様を置いて行くなよ!」
慌ててアタシはその後を追いかけるも、追いついたのは寄宿舎を入ってすぐだった。
「百田が…可愛いって…」
思い出して恥ずかしくなったのか、赤松(春川)はその場でボールみたいに丸くなった。
「あっ、帰ってきた!」
個室に戻ると、春川(赤松)が音ゲーをして遊んでいた。
なんか、もう…やってるゲームで個性が出すぎというか、やっぱりそのゲームしてたか…ってなるな。
ふっと何気なく時計に目をやると、効果が切れるまであと少し…といった時間だった。
2時間って、意外とあっという間に過ぎるな。
今度はもう少し、見た目とか効力を変えてやってみようかと考えていると「「戻った!」」という2人の声が聞こえ、視線をやるといつも通りの赤松と春川にちゃんと戻っていた。
「ちょっと楽しかったけど、戻れて良かったぁ…」
「私は、もう嫌だけどね」
あの後に3人で軽い女子会をしてから解散し、アタシは1人で中庭をブラブラと歩いていた。
「人の入れ替わりの食べ物…は、今回みたいになりそうだから見た目を変えねーとな。あとは…時間がもう少しあれば面白そうだな!」
改善点を口にしながら歩いていたせいか、「そういう事なら、俺にも参加させてほしいっす」と天海が突然目の前に現れた。
…いきなり出てくるとか聞いてない。
「な、なんだよぉ…オレ様は別に何も考えてねーぞ!?」
「入れ替わりって、面白そうじゃないっすか。ちょっと中身を入れ替えて欲しい人がいるんで、俺も協力するっすよ」
話し聞いて。
あと、アタシの独り言は今すぐ忘れろ。
「いや…だからぁ…」
「食べ物も機械もダメなら、日用品でできないっすかね?枕とかどうっすか?」
「オレ様の意志は!?」
ちょっと待って、なんか怖い!
こいつ、どんだけ必死なんだよぉ…。