一体、何が起きたんだろうね?
未だに信じられないよ…(ガタガタ)
今のアタシは機嫌がいい。
いきなりこんな事言ったら、説明しろって言われそうだけれど…とにかく機嫌がいい。
鼻歌をしながら、これから使うのに必要であろう物を手に取っていくアタシを、ベッドで横になっているキーボが不思議そうに見ていた。
…まぁ、ベッドって言ってもただのベッドじゃないけど。
「あの…入間さん?一体、何をするんですか?」
ベッドの真上にあるノコギリやドリルといった工具を恐ろしそうに眺めながらそう言ったキーボに、アタシは「聞いて驚け!」と満面の笑みで言ってやった。
「オレ様がメンテナンスしてやるついでに、カメラとライト機能をつけてやるよっ!」
「なるほど。それで無理矢理、入間さんの研究教室に連れて来られたんですか…」
やれやれと肩を竦めたキーボの言葉が、グサリとアタシに突き刺さった。
いや、だってね?
ゲームでやってた行動もしとかないとダメかなーって…。
まぁ、本音はキーボの機能を増やすのが楽しそうって理由なんだけれど。
「でも、いいんですか?最原クン達はあのアイテムの使い道であるオブジェを探しているのに、こんな事をしていて…」
キーボに機能を追加させる為のパーツをつけながら、「大丈夫だろ」とアタシは力強く告げた。
「どーしても、最原と赤松が『詰んだ』って思ったら、手助けしてやれって天海に言っておいたしな!」
ほら、だって生存者特典の校舎全体の地図があるし。
ついでに、あの2人は信頼できるから言っちまいやがれ!って大口叩いたし。
まぁ、もう一つ理由を上げるなら…。
「それに、オレ様がサボるの初めてじゃねーし」
前回に訳ありとはいえ、一度サボってたアタシだ。
今更、1回増えただけで痛くも痒くもない。
「いや、ダメじゃないですか!」
「ひいぃっ!?急に動くなよぉ…。大事なパーツに当たって損傷したらどーすんだ!」
機械ってのは繊細なんだよ?
しかも、アタシが作ったという代わりがないパーツなんだよ?
無駄になったら、どうするんだよ。
「すみません…」と言ったきり大人しくなったキーボに、アタシは工具を片手に持ちながら改造とメンテナンスを実行していく。
このコロシアイ生活を見ている視聴者の目でもあるキーボの視界を布で隠し、少し考える。
やっぱり、改造として一番いいのはキーボの見ている景色が、外にいる視聴者が見れない…って事だろうか。
それても、内なる声を受信するアンテナから?
どちらにせよ、それは今やるべきではない気がする。
「どこからやっていくかな…」
思考を切り替えるようにガチャガチャ…と散々弄った後、アタシは目隠しとして使っていた布を取って「どうだ?」とキーボに声をかけた。
追加された機能を試すように、キーボは目をピカピカと光らせたり、口から脳内でインプットしていた写真を出して具合を確かめていく。
「どこにも、不自然な所はありません。それに…さっきよりも体が軽く感じます」
「なら、大丈夫だな。何か追加して欲しい機能があればオレ様に言えよ?キーボの慕っている博士には及ばねーかもしれねーけどよ、ここにいる間はオレ様ができる限り機能を追加させてやるよ」
「ありがとうございます。入間さん」
キーボが頭を深々と下げてお礼を言っていると、ギギ…と音をたてながら研究教室の扉が開いた。
誰か来たのかと思っていると、扉の隙間から王馬がヒョッコリと顔を出した。
…何その微妙にあざとい覗き方。
「ねぇねぇ、何してたの?オレも混ぜて!」
「王馬クンには関係ありませんし、混ぜませんよ!」
アタシを空気ように無視してぎゃんぎゃん騒ぐ2人(1人と1体?)の声を聞きながら、出しっぱなしにしていた道具や発明品を片付けていく。
…ほら、見られたら面倒な事になりそうなものがあったら嫌だし。
ないと思うけれど、念の為に。
「えー…いいじゃん。仲間外れとか良くないって。入間ちゃんもそう思うよね?」
「いえ、入間さんならば、ボクと同じ考えのはずですよ!」
ね?っと、1人からは面白そうだから混ぜてと、もう1人からはよくない事があるからと目で訴えられる。
「いや、何の話しだよ。そもそも、王馬は何しに来たんだ?」
話しを聞いてないのに、答えを迫られても困る。
だから、気になっていた事を聞いてみると「ゴメンゴメン。忘れてた」なんて笑いながら言われた。
「さっき、最原ちゃんが思い出しライトを見つけたからさ、みんなを食堂に集めてたんだよねー。えーっと、他に声をかけてないのは…百田ちゃんか。って事で、先に食堂に集まってよね!」
「じゃ、また後でねー」と言いながら駆けて行った王馬を軽く見送りながら、アタシは動かずにいるキーボに「どうした?」っと声をかけた。
「いえ、ちょっと考えていたんです。さっき、王馬クンが言った事はいつもの嘘なのか、本当なのか…って」
「あー……」
呆れるくらい王馬をフォローする言葉が1つも浮かばずに、アタシはキーボの言った事に納得するかのように口ごもるしかできなかった。
×××××
「さっそくどうするか話し合いたい所だけど、まだ百田君が来てないね…」
「魔姫もまだだよー!」
食堂に集まった人をグルリと確認した白銀とアンジーに、「あぁ、春川ちゃんは来ないよ」と頭の後ろで手を組ながら王馬が言った。
「ん?なんでだ?」
「だって呼んでないもん」
星の問いに、王馬はあっさりと答えた。
…いや、呼んであげようよ?
「そんな事よりさ、入間ちゃんとキー坊は4階のコンピュータールームを見た?」
「はっ?コンピュータールーム?」
急に話題が変わった事に戸惑うアタシに、「変わったコンピューターがあったんだよ。後で調べてもらってもいいかな?」と最原が続ける。
「そっか。キーボ君か入間さんなら、あのコンピューターの事が分かるかもしれないもんね!」
両手を握り合わせながらそう言った赤松に、「すみません、ボクはコンピューターには弱いんです」とキーボが謝った為、自然とみんなの視線がアタシに注がれる。
うん。デスヨネー。
「やるから、そんなに見るなよぉ…」
まぁ、調べなくてもどんなコンピューターなのかは知ってるけどさ。
「よぉ!待たせたな!」
食堂にそんな大声が響いたと思ったら、百田が春川を連れてやって来た。
春川の姿を見るや、なんでここにっ!?っと大勢が驚いたように目を丸くする。
「帰る…」
「まぁ、待てって」
それに気づいた春川が食堂から出て行こうとすると、百田がその腕を掴んで引き止めた。
すると、キーボが「前から聞きたかったのですが…」と前置きをして話し始める。
「春川さんは本当に超高校級の暗殺者なんですか?キミは…人を殺した事があるんですか?」
キーボの問いにすぐには答えずに春川は黙ったまま、ほんの一瞬だけ赤松とアタシを見た後「…あるよ」と短く答えた。
「どうして…それを隠してたの?」
「…こうなるのが嫌だったからだよ」
小さな声だったが、ハッキリと春川は答えてアタシ達全員を見た。
「私の才能を知ったら、みんな今みたいに私を恐れる…自分が殺される前に私を殺そうとする人が必ず出てくる」
「そ、そんな事…」
赤松が否定するように声を出したが、「絶対…そうに決まってる」と春川は切り捨てた。
「私の正体を知った人は、いつもそうだったから」
諦めたようにそう言った春川に、アタシは「それは今までの事だろ」と言ってみると睨まれてしまった。
それでも、負けじとアタシも春川をジッ…と見ていると、「やっぱり、あんたって変な奴だよ」って大きなため息を吐かれた。
「でも、これだけは言っとく。私は誰かを殺すつもりなんてない。ただし…誰も私を殺そうとしなければだけとね。って言っても…どうせ信じてもらえないんだろうけどさ。だったら…せめて私には関わらないで。私もあんた達とはできるだけ関わらないようにするから」
それまで淡々と話し続けていた春川だったが、百田に掴まれたままの腕を離してもらうとアタシ達に背中を向けて「お願いだから…私の事は無視して」と寂しそうな声でそれだけ言うと、食堂から出て行った。
「……っ」
その後に続くように、アタシはみんなの制止の声も聞かずに食堂を飛び出して春川の後を追った。
思い出しライト?
今回はとりあえず、パスで。