勢いで書いてたら、ある程度考えてても当初の予定から外れたりするハプニングが起きるというか…えっと…その………
すみません、ただの言い訳です。
全部僕が悪いんだ。
アタシが2人に頼んだ事は至ってシンプル。
昆虫でなごもう会に参加していない残りのメンバーを見つけて、詳しい詳細は言わずに超高校級の昆虫博士の研究教室に連れて行く事だ。
その際に各担当を決めて赤松には春川を、天海には百田と星を探す事を頼んだ。
そして…東条はアタシが探す事に。
今の時間だと、東条と王馬は鉢合わせしている可能性が高いから2人が王馬に文句を言われないように…という理由からだ。
巻き込んでしまった時点で迷惑をかけているのに、これ以上は…と思うと気が引ける。
「さて…と……」
階段に腰掛け、背負っていたナップサックからミニキーボを取り出す。
昨日のテスト運転から、再び改良して機能を足したものだ。
離れていてもラジコンに付け足したマイクから、こちらの声が相手に届く…という微妙な機能だけれど、それでも今はこれぐらいが調度いい。
パチンッと、電源を入れてラジコンのモニターを見つめる。
改良したおかげでモニターに映るミニキーボの視界は昨日よりも広い。
「右よし、左よし、前方よし…」
周りを念の為確認して、行くべき場所までのルートを確認する。
まずは…玄関ホールから。
いなかったら外に出るだけだ。
移動キーを押すとミニキーボの足元から、小さなタイヤが出てきた。
一度その場でキュルキュル…とタイヤの音をたてると、エンジンがかかった暴走車のようにミニキーボは凄い勢いで走って……
あっ…普通の前進の筈が、Bダッシュになってた。
ボタン押し間違えたわ。
移動キー2つも作るんじゃなかった。
かといって、今更勢いを落とす気はない。
アタシはレースゲームのように、モニターに映る映像を元にミニキーボを操作していく。
気分はそう…赤い帽子被った髭のおじさん。
階段から玄関ホールまでそんなに距離が離れていなかった事もあり、目当てである東条はすぐ見つかった。
あと、ついでに王馬も。
これ、王馬に何か言われてでもアタシが直に行った方が早かったな…なんて思っていると、2人が突然外に走り出した。
慌ててミニキーボで追いかけさせるも、2人との距離は離れていくだけだった。
えっ、待って。
王馬の逃げ足速すぎない?
それ追いかける東条も足速すぎぃ…
ミニキーボでも追いつけないとか、アタシだったら絶対無理じゃん…
「と、いうことも想定しといてよかったな…」
2人の足の速さにドン引きしながらも、アタシは冷静にラジコンについていた赤いボタンを、ポチッと押した。
すると、2人との距離がだいぶあったミニキーボだったが、どんどん2人との距離が縮ませていき、遂には東条の足元付近まで行く。
なんでって?
実は背中にジェット機を内蔵させてただけなんで。
それ使っただけです、はい。
『これは…キーボ君かしら?』
ヘッドホンから、ミニキーボに気づいたらしい東条の声がした。
ヒョイッとモニターの視界が上にいき、画面一杯に不思議がっている東条の顔が映される。
ジェット機内蔵のミニキーボを簡単に捕まえるなんて…いや、それよりも本来の目的に戻ろう。
「東条ぉ…助けてえぇ…」
マイクに向かって泣きそうな声でそう言うと、声でアタシだと分かったのだろう。
『入間さん?』と目を丸くした東条と画面越しとはいえ、目があった。
『あれ?それって入間ちゃんの玩具じゃない?』
東条の異変に気づいたのか、王馬までもがミニキーボを覗き込んだ。
…それで王馬が東条に捕まった事については、何も言わない。
『それで…助けてってどういう事かしら?』
「む…虫が……」
画面の向こうで、東条と王馬が『虫?』と首を傾げた。
「部屋中に大量の虫が…」
何の事なのか、東条にはまだ分からないようだったが、元凶ともいえる王馬にはどういう事なのか分かったのだろう。
嫌そうな顔をして『うわぁ…』なんて呟いていた。
「ゴン太の研究教室まで来てくれ!みんな大変なんだっ!」
『…それは、私への依頼なのね?』
「…うん」
その場から立ち上がり、アタシは階段をゆっくり上りながら東条の返事を待つ。
しばらくの間、東条は何か考え込むかのように何も言わなかったが、王馬を捕まえていた手を離すと『わかったわ』と頷いた。
『獄原君の研究教室ね?今行くわ』
その言葉を最後に東条の姿が画面から消えて、モニターには王馬だけが映される。
もしかしてミニキーボは今…王馬が持ってるの?
まぁ、いいや。
東条は来るって言ったんだし、絶対来る。
一応依頼として頼んだんだからな。
アタシも急いでゴン太の研究教室の前まで行こう。
赤松と天海の方も無事に達成できたのか、確認しないと…。
『ねぇ、入間ちゃん』
付けたままのヘッドホンから、王馬の声がした。
それには返事をしないで、アタシはモニターから視線を外した。
『あれ?もしかしてもう電源切っちゃった?まぁ、いいや。ちょっと独り言を言わせてもらうね?』
アタシが無視してるのに気づいてない事を祈りながら歩いていると、少ししてゴン太の研究教室が見えてきた。
教室前には赤松達が集まって、何か話し込んでいるのが見える。
よかった…ちゃんと集まったみたいで。
となれば東条が来たら、第一段階はクリアだ。
近くの壁にもたれかかって、アタシは東条が来るのを待つ。
その間も、王馬はずっと1人で話していた。
『オレの考え過ぎかもしれないけどさぁ…入間ちゃんは何か知ってるんじゃないの?例えば…誰かが自分の動機ビデオを持っていて、コロシアイを起こそうとしてる、とか?』
「…………っ」
バッ、とラジコンのモニター画面を見ると、『にしし』と笑う王馬の姿があった。
えっ、ちょっと待って……えっ?
『驚いた?まぁ、嘘なんだけどね。…って、聞いてるかどうかも分からないのに言うだけムダか』
無視してるって気づいてるの?
それとも、気づいてないの?
ねぇ、どっち?どっちがホントの事?
そんな反応されたら、分からないから困るんだけど!?
『とにかくさ、オレのやろうとしている事に協力するつもりで東条ちゃんにあんな事言ったのか、邪魔するつもりで言ったのかは知らないけどさ…入間ちゃんって性格悪いよね!』
「お前にだけは言われたくねーわ…」
マイクで音を拾われないように電源を落としてから、呟く。
ていうか、アタシ別に性格悪くないし…たぶん。
ナップサックにラジコンを入れて、少し考える。
…よし、今の王馬の話しは聞かなかった事にしよう。
そう決め込んだ所で、コツコツ…と足音が聞こえてきた。
それがどんどん近くなって東条の姿を確認すると、アタシは安堵の息を吐いた。
「待たせてしまったみたいね」
「いや、十分だ」
両手で東条の手を引きながら、ゴン太の研究教室の前まで急かす。
すると、アタシ達に気づいた赤松と天海が軽く手を振ってきてくれた。
アタシも同じように、2人に手を振り返す。
「おいおい…いきなりなんだ。ゴン太のアレはもう止まったのか?」
「ねぇ、そろそろ説明してくれない?」
「そうだぞッ!今のゴン太に捕まったら最後、どうなるかわかりゃしねーんだ!」
星、春川、百田がアタシと東条を見るなり、説明しろと赤松と天海に詰め寄る。
「まぁまぁ…これから話すんでとりあえず中に入ってほしいっす」
笑って誤魔化しながら天海が扉を開けると、みんなして顔を引きつらせていたが、そんな中で東条だけが「なるほど、これが依頼の正体ね」と冷静に状況を見ていた。
「なんじゃこりゃ…」
百田が思った事をそのまま言葉にして、固まった。
うん。アタシもそう思う。
虫……出しすぎ。
「あっ、お帰り!他の人達も来てくれたの!?それじゃあ、みんなで王馬君が戻るまでなごもうよ!」
「獄原君、その前一度だけでいいから虫を片付けましょう。誰かが虫で生き埋めになっているわ」
虫を捕まえては虫かごに戻す作業をする東条が、ゴン太にそう言って空の虫かごを押し付ける。
そんな東条に逆らえないと思ったのか、ゴン太が大人しく虫を片付けていくのを見ながら「どういう事か説明して」と春川がアタシを睨みつけた。
「え…っと、そのぉ……それは、だな…」
思わず口ごもりながら、視線をさ迷わせる。
いや、だって…ね?
眼力がヤバイというか…殺気が凄いというか……。
アタシがそうやって狼狽えていると、「あのね、みんなに見てほしいものがあるんだ」っと、赤松が変わりに話しだした。
「見てほしいもの…ですか?」
虫地獄から解放されたばかりのキーボが、ぐったりとした様子で言った。
赤松がそれに頷くと同時に、研究教室に王馬が大量のモノクマーズパッドとミニキーボを両手に抱えて戻ってきた。
「あっれ?なんかメンバーが増えてる。まぁ、そっちの方が都合いいし…別にいいや」
「まさか…赤松さんが見てほしいものって…」
最原が信じられないとばかりに目を見開いて、王馬の手にあるモノクマーズパッドを凝視する。
「…うん。私の動機ビデオだよ。私と天海君は配られた日に入間さんが言ってた通り、自分達の動機ビデオを持っていたんだ」
赤松が言った事が余程衝撃的だったのか、あちこちから驚きの声が上がりだした。
そんな中で、王馬だけが「なるほどねぇ…」と呟く。
「でもさ…赤松ちゃんは何でみんなに見てもらいたいって思ったの?そこがわからないんだよねー」
「共有するべきなんだって思ったからっすよ」
赤松の代わりに天海が答えた。
「百田君も前に言ってたっすよね?俺らが本当に勝ちに行くなら逃げるべきじゃないって…それは、この動機ビデオだって同じっす。1人で見る事で不安になって誰にも言えないまま動機になってしまうならば、みんなと見る事で不安を少しでもなくすべき…って、入間さんの言ってた事なんすけど」
そこでアタシの名前は出さないで欲しかったかなぁ!?
ほらー、『本当にそんな事、こいつが言ったの?』って大勢が目で言ってるんだけど。
部屋に引きこもるぞ?
「ふーん…じゃあ、お望み通り赤松ちゃん達の分から上映会を始めようか」
そう言って、王馬はモノクマーズパッドの画面を明るくした。
×××××
みんなの動機ビデオが次から次へと流されていく。
自分の映像を見ては、お互いに勇気づける事を何度か繰り返し…半分ほど映像を見た後、アタシが待っていたその時がきた。
『超高校級のメイド、東条斬美さん…』
モノクマーズパッドから東条の名前が出された瞬間、突然動き出した東条を赤松と一緒に押さえつけた。
きっと、これでみんなが東条が自分の映像を持っていたと知ったと思う。
「離して…っ、それだけはっ…!」
珍しく慌てたように暴れる東条を嘲笑うかのように、モノクマーズパッドは東条が国の総理大臣から真の総理大臣として任命された事と、全ての国民が東条の仕える主人だという事を明らかにしていく。
「東条さんって、そんなに凄い人だったんですね…転子、知りませんでした。それで…あの、東条さんだけでもここから出す事ってできないですかね?」
「そのために、東条が誰かを殺す事になるとしてもか?」
「そ…それは…」
冷や汗を垂らして目を逸らす茶柱から視線を外し、アタシは顔を青ざめている東条と目を合わせて更に続ける。
「東条の外に出たいって気持ちは強いかもしれない。国民を守らないといけないっていう使命感はあるかもしれない。でもな、お前が仕える国民の人達ってのはお前に守らなければ何もできない連中なのか?…違うだろっ!沢山の人達がいるんだ…お前がここにいる今も、自分達でなんとかしようとしているやつらだっているはずだろう!?そいつらの持つ可能性を、自分でなんとかしようとする頑張りをムダにはさせんな…」
「うっ……ううっ…」
アタシを見ているようで、どこか違う所を見ているような東条の姿にみんなが見守る。
話し合う事しか、今のアタシにはできない。
だから、東条の決意を…ここでなんとしても崩したい。
「みんなで…誰一人欠ける事なく、ここを出よう。それで…みんなと外の人達の手助けをしよう。これは…オレ様からお前への依頼だ」
ポロポロと涙を流し始めた東条にアタシは卑怯かなと思いながら…依頼を口にした。
「なら、俺も足掻いて生きてみるか。全員でここを出る為に…な」
ん?と思いながらそう言った星の方を見てみると、モノクマがぺこりと頭を下げた映像の映ったモノクマーズパッドを持っていた。
…星のやつ、いつの間に自分の分を見たんだ。
それだけでも驚いていたというのに、星はポケットからテニスボールを取り出すと、持っていたモノクマーズパッドをラケットのようにして…
他のモノクマーズパッドを何個か打ち抜いた。
…しかも、打ち抜いたやつの殆どはまだ見ていないものだったせいか、ちょっと王馬がうるさかったとだけ言っておく。