憑依してしまった以上、救いたいと思った   作:まどろみ

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昨日投稿しようと思ったら、寝落ちしてた…。
後、なんか長くなりそうだったんで途中で強制終了。



限りなく地獄に近い天国⑥

 

新しい朝が来たー希望の朝だー…なんて明るい気持ちになるように言ってみるも、アタシの気持ちは明るくなるどころか、暗くなる一方だった。

背負っているナップサックに入っているミニキーボを、操作する気も起きない。

 

みんなで集まる食堂での朝食会をボイコットして、カジノに入り浸ってコイン稼ぎをしてるのにさ、アタシの脳内では全く別の事考えてて集中できないというか?

この後どーするよ…って考えると憂鬱でしかないってやつで…。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ…どうしようどうしよう」

 

だってさ、よく考えたら第2のコロシアイが起こるのって今日の夜時間だ。

考えても考えてもいい方法なんて思いつかなくて…もう、話し合うしかないかなって感じでして。

そもそも、どのタイミングで話し合いしようか…って問題で、でもきっとできない。

 

 

 

 

 

昆虫でなごもう会

 

 

 

王馬と…彼に騙されたゴン太によって起こされる虫地獄。

あれのせいで、迂闊に外をウロウロできない。

出歩いてゴン太と遭遇した瞬間、それは地獄への片道切符。

虫が大量にいる部屋とか入りたくない。

だってアタシ虫嫌いだし。

もう、隠れてやり過ごすしかない…って、どこに隠れる?

あっ…トイレに長時間いるとか暇だし論外する。

 

 

もう夜時間しかあの2人と話す暇ないかも……よっしゃ、モノリスの難しいでA判定ゲット!

さぁーて、次はスロットでも…って、そうじゃなくて。

 

「真面目に考えねーとな…」

 

いや、別に今までがふざけてたわけじゃないけど。

…実際この問題とどう立ち向かう?

 

「あっ、入間さんもカジノに来てたんだ?」

 

スロットに座ってコインを入れていたアタシに気づいたのか、たった今カジノにやって来た最原が「おはよう」なんて挨拶をしながら、隣のスロット台の椅子に腰掛けた。

…よくよく考えると、探偵がカジノにいるってどうなんだろう?

 

「よー、最原。今日は彼女と一緒じゃねーのかよ?」

 

「あああ赤松さんとは、そんなんじゃ…!」

 

「誰も赤松なんて言ってねーし…」

 

墓穴を掘って顔を赤くして黙り込んだ最原に、ちょっと意地悪しすぎたかな?と軽く反省しつつスロットを回す。

…くっそ、揃わなかったか。

仕方ない…もう一度だ。

アタシがコインを投入している間に少しは冷静になったのか、最原が「そういえば…」と話題を出してきた。

 

「入間さんは朝食会に出てなかったよね。明日の朝、体育館で夢野さんが…」

 

「マジカルショーやるんだろ?」

 

遮るようにアタシが答えると、「知ってたんだ…」って小さな声で返事が返ってきた。

そこから話題がなくなったように、パッタリと会話が止む。

更に言うと、スロットの盤面が揃わない。

…うん、もういいや。

そろそろ隠れる場所探そう。

 

椅子から立ち上がり、隣でスロットを回す最原を見る。

…うん。とりあえず言うだけ言ってやるか。

 

「じゃ、オレ様は行くけど…。最原、頑張れよ」

 

「えっ?入間さん、それどういう意味!?」

 

どうもこうも、この後に起きる事に対して言っただけだ。

「ちょっと待ってよ!」と引き止める最原に、「じゃーなー」と手を振りながらアタシはカジノを出て行った。

さぁ…どこに隠れようかなー。

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「………………………」

 

「あの…入間さん?凄く顔色が悪いですけど…大丈夫なんですか?」

 

「………大丈夫ジャナイ」

 

心配してくれた茶柱の背中に思わずしがみつく。

だって、周りはどこを見ても虫、虫、虫、虫だし。

虫かごに入っているだけまだ耐えられるけど、精神的にガリガリ削られる。

 

…はい、ここまで言えば分かるよな?

超高校級の昆虫博士の研究教室nowだ。

 

くそぅ…なんでだ。

隠れる場所探すためにカジノエリアを出た瞬間、ゴン太とエンカウントするとか運がなさすぎて辛い。

たまたま近くにいた茶柱と一緒に、抵抗虚しく…そのまま強制連行されてしまった。

いろんな意味で泣きたい。

 

既に捕まっていた赤松、白銀、キーボ、真宮寺が王馬と何か話しているけれど、全く耳に入らない。

 

もうやだ、帰りたい。

 

茶柱にしがみついたままガタガタ震えていると、天海と気絶したままの最原がゴン太に連れてこられた。

うーん…やっぱり最原は気絶して連れて来られたか。

王馬に急かされ、次なるターゲットを探しに行ったゴン太が「最原君に悪いことしちゃったな…」と落ち込んでいたけれど、まぁ…仕方がなかったって事で。

 

 

 

「おーい、最原ちゃーん。死んじゃダメだよー」

 

「うぅっ…?」

 

王馬が最原の顔を覗き込んだと思ったら、そんな事を言って笑っていた。

……なんて起こし方をするんだ。

それで意識を取り戻す最原もどうかと思うけど。

しばらくぼーっとして顔で王馬を見ていた最原だったが、何かに気づいたのかハッと息を呑んだ。

 

「まさか…王馬君が、ゴン太君に僕達を拉致させたの?」

 

「にしし…あいつってホント単純だよねー。虫が大嫌いな連中が、ここの虫を処分しようとしてるって教えたら…泣きながら『昆虫の良さをわかってもらう!』とか言っちゃってさ。で、こうして全員強制参加の『昆虫でなごもう会』が開かれる事になったんだ」

 

大正解だとばかりに笑ってみせた王馬に、「…キミの目的はなんですか?」とキーボが問いかけた。

すると、王馬の口元がニヤリと歪んだ。

 

「あぁ、ちょっと上映会をしようと思ってさ。キミらが持っている例の映像を集めて」

 

例の映像と聞いて、みんな動機ビデオの事だと分かったのだろう。

赤松が焦ったように「そんな事したら…!」と顔を青ざめた。

それで自分が見た映像を思い出したのか、天海がそれを振り払うように何度も首を振る。

 

「前にも言ったよね…オレはみんなの為に、みんなの協力を本気でぶっ壊すつもりだって。やるからには、積極的に楽しまないとね」

 

悪意の欠片を感じさせない無邪気な笑顔を浮かべる王馬に、誰も何も言えなくなっていた。

そんな時、教室の扉が開くと同時に夢野とアンジーを連れてきたゴン太が「お待たせ!」と帰ってきた。

 

「ねぇ、ゴン太…体育館で捕まえたのはこの2人だけ?」

 

「ゴメン…東条さんは無理だったよ。体の強さとかを超越した迫力って言うか…」

 

口ごもりながら言うゴン太に納得したかのように、「他の連中は隠れたまま?」と王馬が言うと、「だけど!」とゴン太がハッキリと叫んだ。

 

「これだけ集まったら十分じゃない!?もう立派な昆虫なごもう会になるよね!?」

 

「それもそうかもね」

 

仕方がないとばかりに肩をすくめて王馬が、準備を始めるゴン太を眺める。

 

「ま、待てゴン太!止めろ、こいつの嘘にのるな!」

 

「そうだよ!その人はゴン太君を利用しているだけなんだって!」

 

アタシと白銀が慌てて止めると、「えっ!?そうなの!?」とゴン太が王馬を見た。

 

「ううん。昆虫でなごもう会の為だよ。オレはゴン太以上に、昆虫が大好きだからね」

 

「どうやら…何を言っても無駄なようだネ」

 

真宮寺が諦めたように呟く。

それなら、別の手段で行くまでだ。

虫と戯れるのはゴメンだ。

でも、その為には……

 

「さてと…じゃあゴン太には、こいつらに虫さんの素晴らしさを教えてあげてよ。オレはちょっと用事があって外出しちゃうけど、絶対に途中退出させちゃダメだからね」

 

「外出って、もしかして王馬君は…」

 

「もちろん、キミらの部屋に忍び込んで荷物を持ってくるんだよ。ピッキングぐらいは楽勝なんだよねー」

 

針金を見せつけながら、王馬が最原に笑ってみせる。

部屋…うん、発明品は部屋に置いてないし入られても平気だけど…でも、やっぱり抵抗あるなぁ。

 

「こうなったら、ボクの能力で止めるしか…」

 

キーボのそんな呟きに、「ロボットボイスなんて聞いてる暇ないよ」と王馬が無理矢理遮った。

 

「えーっと…今はちょうど9時か。じゃあ、夜時間までには戻って来れるかな。ま、それまでは虫さんと仲良く遊んでよー」

 

そうアタシ達に死刑宣告とも言える言葉を言い残して、王馬は教室を出て行った。

そして「じゃあ、そろそろ始めようか!」とゴン太が虫かごに手をやった。

 

…今しかない!

 

「は、始める前に…ちょっとトイレ行かせろっ!」

 

「えっ?」

 

どうして?とばかりにゴン太がアタシを見つめる。

王馬が居ない今なら、なんとかできる筈だ。

 

「途中退出はできねーんだろ?だったら、始まる前の今に行くしかねーだろ!」

 

「うん、そうだね。でも、ちゃんと戻ってきてくれる?でないと、入間さんが王馬君に怒られちゃうから…」

 

ゴン太の純粋さに、思わず涙が出そうになる。

騙している事に対しての後ろめたさが、デカい。

ゴン太、ホント騙してゴメン!

でも…あともう一押しだ。

 

「オレ様が戻らないか心配なら、見張りを連れて行くから!」

 

そう言ってアタシは、赤松と天海の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。

 

「うん。それなら心配いらないね!」

 

「んじゃ、さっさと済ませてくるか」

 

なぜ自分達がと戸惑う赤松と天海の背を押して、アタシ達はゴン太の研究教室から廊下に出た。

扉を閉める間際、こっちを見ていた最原に『なんとかしてやる』と口パクで伝えると、『頼んだよ』と最原も口パクで返してくれた。

 

うん、任せろ(何をとは、あえて言わない)。

 

扉を完璧に閉めると、研究教室の中から微かに悲鳴が上がる。

…みんな、ゴメン。

 

「で…俺と赤松さんを付き添いにした事について、何か考えがあるんすよね?」

 

研究教室から聞こえる悲鳴に耳を傾けながら、天海が確信を持っているかのようにアタシに言ってきた。

なんで…天海に考えが微妙にバレてるんだ。

えっ、わかりやすかった?

顔に出てた?

 

「えっ…?入間さん、ホント?」

 

赤松の反応をみる限りだと、天海にだけバレてたみたいだ。

あっ、でも最原とかも気づいてそう…いや、ないと思いたい。

とりあえず…移動しながら本題を話そう。

 

「オレ様がお前らを選んだのは、簡単な理由だ。…お前達が自分宛ての動機ビデオを持っていると思ったからだ」

 

隣の2人が息を呑む気配がした。

気づいてないとでも、思ってたのか?

配られた日の反応で丸わかりなんだけどなぁ…。

まぁ、いいや。続けよう。

 

「その反応は認めたって事で仮定して、話しを続けんぞ?オレ様の考えでは…ゴン太に捕まらなかった連中の中に、自分宛ての動機ビデオを持っている人物がいるはずなんだ」

 

「えっ、それって…」

 

「百田君、東条さん、春川さん、星君……あっ、星君は食堂での様子を見る限りだと違うっすね」

 

話しがトントン進んでいく事に安心しながら、アタシはコクリと頷いた。

 

「王馬のやり方は滅茶苦茶だけどよ…オレ様は動機ビデオをみんなの前で見せ合ってもいい思う。そうすれば、少なくとも1人で悩む必要はないからな」

 

そうして話している内に、一階に続く階段まで来た。

一度2人の様子を窺って見ると、アタシの言った事に複雑な思いを抱いているのか、気難しい表情を浮かべていた。

 

協力して貰えなかった時は…その時は、1人でなんとかしないといけない。

だから、アタシは2人に頭を下げた。

 

「1人で悩んでいる誰かが、選択を間違えない内に……手伝って、ください」

 

ここからは、きっと1人じゃどうにもできない事が沢山できてしまう。

今だって、そうだ。

アタシには、彼女を止める確実な方法が思いつかないままでいる。

 

「入間さん、顔を上げて?」

 

あぁ、訳も話さずに頼むのはやっぱりダメだったのか…。

ゆっくりと顔を上げると、泣きそうな顔をしてアタシに笑いかける赤松と目があった。

 

「私は協力するよ。やっぱり…1人であんな事を抱え込むのって苦しいもん。だったら、私はみんなにあのビデオの悩みを打ち明けたいし、同じように悩んでる人に寄り添ってあげたいから」

 

「俺も協力するっすよ。裏切られてもいいから信じたいって、一度は決めたんすから」

 

「赤松…天海…」

 

出そうになった涙をグッと堪える。

そうだ、まだ泣く時じゃない。

全てが終わってからだ。

 

「ありがとな」

 

協力者がいるって、すごく心強いな…。

 

すぐに、次にやるべき事を2人に伝えるとアタシ達はそれぞれ動き出した。





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