サン=サーラ...   作:ドラケン

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お久しぶりです、ドラケンです。懲りもせずに、またもや、完結済みの作品の更新をさせて頂きます。

一応、小編予定です。勿論、予定なので悪のりして中編になってしまう可能性も無きにしもあらず、ですがf(^_^;)
なお、番外編は、所謂『希美エンド』の世界状態です。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

最後に……あのニュートラル、本当に便利ですよね(笑)


星の煌めき 大樹の燈 Ⅰ

 星が、軋んでいる。まるで、歯車が廻るように。漆黒の闇の深奥、星々の満ち溢れた銀河。煙るような、綺羅星の虹色である。

 又は、歯車。星を飾り付けた、人智の及ばぬ材による装置。無量大数もの数で天球を為す、渾天儀の天蓋である。

 

「さあ、紳士淑女各々方(レディース・アンド・ジェントルメン)――――今宵も星が巡ります。夜天を昇り、地平に沈む迄の、ほんの僅かな夢宴の始まりの時です」

 

 心央には、少女。白く、白い、無垢そのもの。悠揚と、渾天の中に浮かぶ白化個体(アルビノイド)

 簡素な純白の衣に、足首までを編み上げるミュール。抱えるほどに大きな、禍々しい彫刻の施された白い竪琴を爪弾く樹術師(ドルイド)、盲目の吟遊詩人(バード)

 

「千夜一夜の物語の全ては星辰の巡り、揺れ動く歯車の震え。その星の数だけ、歯車の数だけ、物語には枝葉末節……未知なる道があるのです。確かなものはただ一つ、我らが輝ける【輪廻】の轍(サン=サーラ...)。日輪すら撃ち砕く我らが烈風の覇皇と、月影に揺蕩(たゆた)う珊瑚の后のみ」

 

 祈るように、夢見るように。詩人(バード)は歌う。見る事の出来ない己の白く濁る目の代わりに世界を観測する、星座盤(アストロラーベ)天運器(トルクエタム)の軋みに、渾天儀(アーミラリ)星光機(プラネタリウム)の回転に。

 かつて、無自覚の悪意により『殻の樹(クリフォト)』が聳えた場所。今は、彼女の遊び場である、この『星降の間』が深遠に神苑に佇むのみ。

 

「ええ、成る程、そうでしょう。未来とは現在からのみ続くもの。しかし、だからこそ、貴方の隣には選ばれなかった分岐が……数え切れない未来の骸が、数え切れないだけあるのです。要するに、つまり、成る程、そんな事は無い事もあります」

 

 数多の星が、時が。虹色に煌めき、無色に融けていく様を夢想しながら。さながら鉤十字(ハーケンクロイツ)のように捩れた、震わすだけで精一杯、飛ぶ事などは夢のまた夢の、二対四枚の白の翼。

 天使の如き鳥の翼と悪魔の如き爬虫類の(つばさ)、僅かに震わせて。

 

「さぁ、語りましょう。騙りましょう。今宵の物語は、あるエターナルの物語。そこより溢れ落ちたるもの、有り得たかもしれない物語――――」

 

 飛べない鳥は、唄う、詠う。白い髪を揺らめかせて。ぎしりと軋んだ世界の中心部(はて)で、謳い続ける。

 

「いざや、いざや。現在と未来を歪めて、廻れ、廻れ。今に、今に。【星辰(せいしん)】よ、巡れ、巡れ――――」

 

 夜に啼く鳥(ナハティガル)は、“可能性”の窓辺に囀ずりながら――――…………

 

 

………………

…………

……

 

 

 ふとした違和感に、彼は戦意を漲らせた琥珀色の龍瞳を周囲に巡らせた。しかし、辺りはただ、清澄な気配のみ。

 朝の、涼やかな空気。天木神社の境内は、神聖なる気配のまま。

 

「どうかした、お兄ちゃん?」

「ん――――あぁ、いや。何でもない、気のせいだ、ユーフィー」

「ふぅん……変なの」

 

 くすんだ金髪に浅黒い肌の風斬り羽の龍撃皇(キーンエッジ・ドラグーン)『天つ空風(かぜ)の“アキ”』は傍らの、低い位置から問い掛けてきた蒼穹の少女(ファム・ファタール)『悠久の“ユーフォリア”』の上目遣いに仏頂面を返す。

 少し前、『育ての親との別れ』の時の。まるで、意趣返しのように。

 

【兄さま……何でしょうか、一瞬だけ…………不思議な気配を感じました】

(お前もか、アイ……まさか、理想幹神どもの介入か?)

【いえ……この時間樹(エト・カ・リファ)のログ領域というよりも、もっと大きな……まるで、神剣宇宙の『概念情報(イシリアル・イデア)』そのものが揺らいだような。そんな感じでした】

 

 時は、理想幹攻略戦の前。写しの世界より、元々の世界に帰ろうという段で。不安に、焦燥に駆られたように、劫初海の輪廻龍媛(プリンセス・オブ・ドラゴネレイド)『アイオネア』――――長剣にして長銃たる永遠神銃(ヴァジュラ)【是我】を抱く、エーテルの鞘にして柄たる【真如】の化身(アヴァター)の念話に、アキは呟き返した。

 理解はできたが、実感はない。何が変わったか、それすらも変わったこの世界では――――

 

「巽様、ユーフォリア様、アイオネア様。後はお三方だけですよ。急がないと、“門”が閉じてしまいます」

「おっと、悪いな、綺羅」

「わっとと……ゴメンね、綺羅ちゃん」

「はう、御免なさい、キラさん……」

 

 と、前の狗耳の巫女の苦言に三人が正気を取り戻す。アキとユーフォリアとアイオネアは、誘われるように“門”を潜る。

 既に、エヴォリアとベルバルザード、鹿島信三はその彼方。

 

――気のせい、なら良いんだが。妙な感じだった、俺が――――俺そのものが、揺らいだような。吐き気を催すようなその感覚だけは、今も忘れがたい。

 

 果て無き星の輪舞を望みながら、見遣る“門”の彼方を見詰める。両手に握った、温かさを感じながら。

 次なる、『元々の世界』へと、足を踏み入れて――――

 

「いや――――悪いんだが」

「「「「――――ッっっっ!?」」」」

 

 その、僅かな残りの距離に。

 

「少し、我々の遊戯に付き合って貰おうか。若きエターナル達?」

「誰だ、アンタ――――」

「――――驚きました。まさか、『中立の永遠者(ニュートラル・エターナル)』までもが介入してくるなんて」

 

 刹那、【是我】を構えて龍翅のウィングハイロゥを展開したアキと小太刀を構えた綺羅の前に立ちはだかる、一人の青年の影。

 

「『夢の傍観者“ヤーファス”』――――! 」

 

 綺羅の鋭い声にも、魔法使いのようなフード付きのローブを身に纏う、逆光に眩んで窺い知れない表情の『捩れた螺旋状の飾りの付いた短めの杖』を持つ青年は。

 

「さぁ、【願い】よ――――」

 

 目映い光を放つ、短杖型の永遠神剣【願い】を担う、その男は何一つ構う事無く――――

 

 

………………

…………

……

 

 

 気付いたのは、森の息吹。だがそれは、清々しいようなものではなく、密林の不快な湿度と草いきれ。

 

「なっ――――何!?」

 

 驚き、立ち上がる。天すら覆う樹冠に、光は遮られて薄暗い。様々な虫や鳥、獣が蠢くジャングルを見渡せば、辺りに倒れているユーフォリアとアイオネア、綺羅の姿。

 

――嘘だろ、この俺が……何かの能力に呑み込まれた?!

 

 三人を順繰りに揺り起こして確認するも、最も危惧した敵の永遠者『ヤーファス』の姿は見当たらない。

 

「それにしても、ここ……どこなんだろ? あぅ、暑いよ~……」

「すごい密林ですね……参りました。この湿度と温度は……はぁ」

「そうだな……ほら、ユーフィー、綺羅。これを呑んどけば少しはマシになるぞ」

 

 留まっていても仕方ないので歩き出したが、ユーフォリアと、巫女装束という厚着の綺羅が耳と尻尾をだら~んと垂らして熱い息を吐いている。

 そんな彼女らに聖盃を渡す。一杯に清廉なるエーテルを湛えた盃を。

 

「そうですね、すごいです……植物も動物も、こんなに強く息づいて……素敵な世界です」

「そ、そうか……よかったな、アイ」

 

 唯一、アイオネアだけは周りの生命力の強さに慈愛に満ちた色違いの眼差しを向けるのみで、不快感などは感じていないらしいが。

 

「よし、先ずは脱出する方法を考えるか。一番手っ取り早いのは、精霊回廊を使うルートだよな?」

「そうですね、“門”は既に閉じたようです。あれは周期的に開くものでしたし……何より、ヤーファスの介入で捩れてしまったようですから」

「ヤーファス……か。何者なんだ、アイツは?」

 

 先頭で、下生えを【是我】の片刃で薙ぎながら歩く。その後ろの綺羅に問えば、同意と共にその渾名(なまえ)

 因みに、最後尾では薙がれた下生えにアイオネアが霊水を与えて蘇生させていたりする。

 

「『夢の傍観者“ヤーファス”』……第二位【願い】の担い手たる『中立の永遠(ニュートラル・エターナル)』です。無所属のエターナルでは、最も有名なエターナルでしょうね」

「へぇ……第二位【願い】か、道理で」

「はい、強力な永遠神剣です。『相手の願いを叶える』という能力の永遠神剣で、ヤーファスはその能力を使って、様々な人の『願い』を叶えては傍観しているとか」

「そりゃあ、有り難迷惑な話だな、こんな大事な時に」

 

 今から沖縄旅行というところで、台風に遭った気分である。永遠者の起こす騒動だ、そのくらいには抗いようがない。

 

「更に、願いを叶えるために本来とは別の世界を構築するそうです。そこは、時深様や『輪廻の観測者“ボー・ボー”』にすら関知できないとか……」

「うへぇ……」

 

 聞けば聞くほど、面倒な永遠神剣である。そして、傍迷惑な永遠者である。

 

「まぁ、兎に角は人里を探すのが先決だ。ちょっくら翔んでくる」

「あ、お兄ちゃん。あたしも行く~!」

 

 ハイロゥを展開して飛翔したアキ、その後を追って【悠久】を変形させたユーフォリアが緑の天蓋を突き破る。

 暗がりから飛び出したその一瞬、目映い陽光に眩惑される。だが、慣れてしまえば――――どこまでも続く樹の海と、まるで海面のように揺らめく空。

 

「あれ――――?」

 

 それに感じた、強い既視感(デジャ・ヴュ)。昔、こんな風景を見た事があるような気がして、アキは記憶を漁り。

 

「わぁ――――見て見て、お兄ちゃん! あそこ!」

「ああ……」

 

 いやに興奮した様子のユーフォリアの呼び声に、振り向いて。

 

「何だ、コリャ……」

 

 見覚えのある城、大樹に天空都市、砂漠、市街地、町並み――――されら全てを見渡して、口を開いた。

 

「『剣の世界(クランヴァディール)』に『精霊の世界(エルフィ・ティリア)』、『魔法の世界(ツヴァイ)』に『枯れた世界』、『未来の世界』に『写しの世界(ハイ・ぺリア)』か『元々の世界』――――全部、混じってやがるッて訳か」

 

 既に通り過ぎた筈の、その世界達の名を――――……


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