サン=サーラ...   作:ドラケン

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惡の華 進むべき道 Ⅱ

 時刻は正午を回り、陽光にて形作られる影が一番小さくなった頃に。他の神剣士達が『聖なる神名(オリハルコン=ネーム)』の補助無しの戦闘に備えて特訓している頃に、奥の院の一角にて――

 

「ここの接続は……こうじゃのう」

「そうですね、流石ナーヤさん。空くん、機関部はどうですか?」

「完成してますよ、もう組み込めます」

 

 ガチャガチャバチバチキュイーンと音を立て、金属と機械の部品を組み立てるアキとナーヤとスバル……そして工具箱を持ってぽつねんと立ち尽くすアイオネアの姿が在った。

 

「お兄ちゃ~ん、一緒に特訓……えっと。何してるんですか、皆さん?」

「何って……見た通りの事だろう、ユーフィー?」

 

 と、空以外が居る為によそ行きの言葉遣いで一同へと喋りかけたユーフォリア。何をしているのかがよく解らず、彼女はしきりに首を捻っている。

 なかなか見ない組み合わせのこの三人の共通項は……科学という異教を窮めた神の転生体だった青年と、科学が進みすぎて魔法と区別が出来ない世界の科学者である猫耳大統領、科学の粋を集めたアンドロイドの少年である事から、科学を置いて他には有るまい。

 

「……よし、完成だ」

 

 その声と共に組み上げられたのは――空力特性を追究した流線型の洗練されたボディを持った……一台の漆黒の大型二輪車だった。

 

「アイちゃん、何これ?」

「えっとね……『ばいく』を改良したんだよ、ゆーちゃん」

「ふ〜む、中々良い出来じゃな。流石に機械知識持ちが三人揃っただけの事は有るのぅ」

「まあ、原形が有ったから楽だったんですけどね……」

 

 アキが持っていたバイクのオーバーホールをしていたところに、二人が現れた。そして整備を興味深そうに見ていたところに声を掛けた訳である。

 

「……しかし、『根源変換の櫃』と『嵐の干渉器』をエンジンに利用するとは……流石の発想じゃのう、あき。腐っても蕃神の転生体か」

「ノル=マーターの強化装甲技術の活用に加えて僕のディフェンスモード『バイオレントブロック』や『ナチュラルディフェンス』、『オーラバリア』も応用しているからフルスロットル状態の強度も問題無し。更に武装まで搭載してありますからね……もうほぼバイク型のマナゴーレムですよ、コレ。下手な永遠神剣より強力なんじゃないですか?」

「ハッハッハ、当たり前ですよ。出雲とは、永遠神剣からの脱却を目指す組織ですからね……」

「お主は出雲の所属ではなかろう、たわけめ」

 

 それが何だかよく解らない二人を余所に、盛り上がるメカオタ二人とアンドロイド。

 因みに、ついていけない蒼滄少女二人はただぽかーんとしていた。

 

「欲を言うのなら、合体と変形が欲しかったのぅ……」

「んな強度と剛性が下がるような機能は要りません」

「つまらぬな……荷電粒子砲とまでは言わぬから、せめて電磁投射砲(レールガン)垂直発射機構(VLS)に、ロケットランチャーと近接防御機関砲(CIWS)くらい装備せぬか?」

「そんなにゴテゴテと載せられる訳が無いでしょうが……運動性能が落ちるしバランス崩れますって」

「つまらぬなぁ……」

 

 最後までそう渋ったナーヤだが、持ち主が言うからには仕方ないと諦める。

 

「……そうじゃ、すばる。わらわにカスタマイズされてみぬかのう? 今ならおぬしを、物部学園の歩く戦闘艦にしてみせようて。空気等とはもう誰にも言わせぬ」

「あははは……」

 

 代わりに――近くでそのやり取りを微笑ましげに眺めていたスバルに笑いかけた。

それにスバルも朗らかに笑って。

 

「ははは――スパース、全速力で離脱だっ!」

「こら、逃げるでない! 待たぬか……行くぞクロウランス――――全兵器使用制限解除(オールウェポンズフリー)!」

 

 鷲頭獅子(グリフィン)の姿を持つ第六位の永遠神剣【蒼穹】の守護神獣『スパース』を召喚して大空へ逃げ出したスバルを追いかけて、第六位永遠神剣【無垢】の守護神獣『クロウランス』を召喚したナーヤが対空砲を撃ちながら追い掛けて行った。

 騒々しさが去り、静かになった境内で。

 

「……さて、それじゃあ俺はコイツの試運転といくかな」

 

 アキが虚空に波紋を刻みながら、取り出したのはバイクを起動する鍵銃(ショットガン・スターター)

 前と同じくエンジン部分に横向きに空いた鍵穴のような部位へデリンジャー【烏有】を差し込んで回し、引鉄(トリガー)を引いた。

 

「きゃうっ?!」

「はうぅ〜……!?」

 

 途端に空白だった炉に火が入り、鉄の駿馬が生命を宿して嘶いた。青みがかったヘッドライトと赤みがかったテールライトを各々明滅させて、各種メーターを一度振り切ってから……地を揺るがすようなアイドリング音を響かせる。

 それにユーフォリアとアイオネアは、驚いて身を竦ませた。

 

「……実は気付いたんだよ、俺は」

「ふえぇ……何に気付いたの?」

 

 両方の耳を押さえながら聞き返すユーフォリアに、バイクに跨がりながら……。

 

「俺って『龍騎兵(ドラグーン)』を名乗ってたんだけど……騎乗した事があるのって、剣の世界の馬を除いたら【悠久】だけなんだよ。それじゃあ、偽り有りだろ?」

 

 着古した甚平から、戦装束のアオザイ風武術服と零元の聖外套を具現化して身に纏い、二人へと手を差し延べた。

 

「……だから……鉄と油臭い馬ですが、龍騎兵(ドラグーン)として――誠心誠意、エスコート致します…御手を拝借、『俺の姫様方(マイフェアレディ)』?」

「「あぅ……は……はい……」」

 

 左足で大地を踏み締めて、右足で(クラッチ)を器用に操り暴れ馬をいなし宥めて好きにはさせず。右手でユーフォリアと繋がって、左手でアイオネアと繋がる。

 その姿は正しく、卓越した騎兵という以外に著しようは無かった。

 

「えへへ……やっぱり、お兄ちゃんって……本気を出したらとってもかっこいいね」

「うん……当たり前だよ。だって、私達の旦那様だもん」

 

 少し嬉しそうにはにかんだ二人の少女、ユーフォリアを座席後部に乗せてアイオネアはライフル剣銃【真如】としての姿で、左側面に備え付けてある専用ホルスターに納めた。

 少女達は、自分の選んだ……自分らを選んだ男の意気を感じながら、その身と生命を預ける。

 

「っと、ほらヘルメット。危ないから付けとけ」

「うん……て、え? 『危ない』?」

 

 と、言われるままにヘルメットを被ったユーフォリアは不安そうに聞き返した。

 それにアキはこれ以上無いくらい、爽やかな笑顔でもって。

 

「だって俺、無免許。でもまぁ、ロボットに跨がるのに免許なんて要らないよな」

 

 等と、その罪を罪とも思わない……"法の埒外の悪漢(アウト・ロー)"の本懐のような台詞。

 それを受けて――

 

「……下りる……下ろして〜〜っ!」

【に、兄さま……せめて練習をしてから】

 

 すぐ下りようとしたユーフォリアと説得を試みたアイオネアだったのだが……時既に遅し。

 もうハンドルに手を掛けていた彼は『威霊の錬成具』製ヘルメットを身に付けており、聞く耳などは持っていなかった。

 

「ギアー最速! 最初っからクライマックスで逝くぜェェェェッ!!」

「【ふえぇ〜〜〜〜〜ん!?!?」】

 

 ウィリーして、大地を後輪で跳ね上げながら駆け抜けていく一陣の風。

 

「俺はこう思うんだ、ユーフィー、アイ! 速さとは即ち思考、空間や時間すらも越える奇蹟! 地図を見ながら旅行するとか未来を空想するなんて趣味があるが、それはまさに時間と空間の超越そのもの! しかもそれは誰にも侵せない聖域に他ならない! だからこそ価値がある、だからこそ俺は貫く! そこに速さが、理想があるから――分かるかァァァァァァい!」

「【降りる~~~~~~~~~!」】

 

 それは悲鳴をも置き去りにして、一気呵成に突き抜けて行った……

 

 

………………

…………

……

 

 

 そんな後ろ姿を見送った、一つの影。影は、社殿の後ろから三人の言動をつぶさに理解しており、その関係に気付いたらしい。

 

「側室をお持ちに……では、私にも……チャンスは……うぅ〜」

 

 最後に、仔犬の唸り声にも似た声を上げたのだった。

 

 

………………

…………

……

 

 

 静かな出雲の境内に似つかわしくない爆音を轟かせながら、奥の院に帰還したバイク。朝方に三十分を掛けて走ったのと同じ道程を、今度は五分とかからずに駆け抜け終えた。

 手綱(ブレーキ)を引いて緩やかに心臓(エンジン)の回転する速度を落としていきつつ、挿入したままにしていた【烏有】に手を掛けて第二の銃弾を放てば――心臓を撃ち抜かれた鋼鐵の駿馬から架空の生命が消え、鉄塊に戻る。

 

 因みに奥の院と湖の岸を繋ぐ橋を爆走した時に倉橋環と擦れ違ったが……にっこりと笑っているのに凄まじい威圧感を放っていて彼の心臓も止まりそうになったのは内緒だ。

 

「……整地[(オンロード)でも不整地(オフロード)でも、何の問題なく走破可能(ブレイクスルー)とは……恐れ入ったぜ。流石は、俺の愛機『フォトンブリッツ号』だ……また世界を縮めちまったなフィジカル・バッドスピぃだぁッ!」

 

 横に廻して【烏有】を引き抜き、"真世界"内に戻しながら口にした瞬間に――ガツーンと。

 

「お兄ちゃんのばかーっ!」

【兄さまのばかーっ!】

 

 後頭部に炸裂したのは、【真如】を使うユーフォリアの振り下ろし『パーフェクトハーモニック』。ダメージはさほど無かったのだが、体勢が悪かったのでちょっと頚が嫌な音を立てた。

 

――……もしもヘルメットを被ってなかったら頭がパックリとイっていたかもしれないな。やっぱり、ヘルメットは大事ですよ。

 

「あ痛ぁ……何すんだよ、ちょっと清水の社と緑の守の道をショートカットしたくらいで……」

「岸から岸まで、橋を使わないで跳び移るのはショートカットじゃなくてスタントっ! 何すんだよはあたし達台詞だよ……はうぅ、お尻がひりひりするよぉ……」

「あぅぅ……胸がドキドキします」

 

 遮光バイザーを上げて目に入る、実に可愛らしいお尻をすりすりと撫でながらぷーっとこちらを睨むユーフォリアと、実に可愛らしいささやかな胸を押さえてぐるぐると目を廻しながら息を整えているアイオネアの姿。

 これからじっくりと時間を掛けて愛でたく……もとい、育てたくなる部位を触る二人を纏めて可愛がりたくなった衝動を抑え込んで。

 

「よしよし……機嫌を直してくれよ、何でも好きな晩飯(もの)作ってやるから」

「「うー……」」

 

 頭を撫でられて、可愛らしく唸りながら無理に怒った顔を維持する二人。たまに羽根や龍角に触れる度に少女達は、何とも可愛らしくピクンと身を跳ねさせた。

 そうして、怖ず怖ずと。先ず口を開いたのはユーフォリア。

 

「それじゃあ……ナポリタンがいい。パパが作ってくれたんだけど、ケチャップがたっぷりでとっても美味しいんだよ」

「……何て言うか、随分安上がりだなぁ……よし、だったらパパさんのナポリタンを忘れちまうようなのを作ってやるよ」

 

 と、彼女の唇から紡がれた他の男性を賞賛する言葉に少し嫉妬の焔が燃え上がったので少し強めにかいぐり、そんな事を口にした。

 

「あの……私は……『ルータの指輪』がいいです……」

 

 次に口を開いたのは、当然ながらアイオネア。彼女は祈りでも捧げるように胸の辺りで手を重ねて、そんな言葉を紡ぐ。

 

「……ルータの指輪って……えっと……食べるのか、アイ?」

「む〜っ、食べませんっ!」

 

 パーマネントウィルを欲しがったので、新スキルでも覚えたいのかと思って取り敢えず聞いたのだが……反って怒られてしまった。

 

「私だって妻として……兄さまからの贈り物が欲しいです……」

「ううーん……でもこれだけはなぁ……何せ店で買ったペアリングだし、根源力での複製じゃあ男としての沽券に関わるし……」

 

 彼女はアキとユーフォリアが左の薬指にお揃いで嵌めている簡素なエンゲージリングを羨ましそうに見る。

 

「よし、判った……何とかする」

「いいんですか……?」

「当たり前だろ、俺はお前の旦那何だからな……愛する女に掛ける金なら、その価値は紙屑と同じだ。幾らでもかまやしない」

 

 愛している、愛してくれている女にそんな顔をさせておいていい筈が無い。是が非でも同じものを手に入れる事を心に決めて。

 ふーむと腕を組んで、何か名案は無いかと頚を傾げる。その頭を、背後から壮絶な殺気と共に神速を以って、ガシッと掴んだアイアンクロー。

 

 『威霊の錬成具』にて形作られた筈のフルフェイスのヘルメットが粉砕されて、マナの霧に還る程の威力だった。

 

「――あら……私の友人の娘を毒牙に掛けたに飽き足らず、義妹まで囲うなんて……いずれ貴方が好きになる女の子が苦労させないよう、ヘタレにならないよう育ててきはしましたが……まさか堂々と二股を掛ける恥知らずに育っていたとは思いも寄りませんでした」

「全くですね……出雲神話でも一夫多妻はよく有る話ですが、それにしては近代的な神馬ですね。馬は馬でも『馬威駆(バイク)』ですか、お上手ですこと。御蔭様で参道が目茶苦茶になりましたよ」

 

 目の前の、愛する幼妻二人に集中し過ぎていて待ち受けていた事にまるで気が付かなかった、背後に立つ倉橋姉妹。

 より正確に著すならば……『周囲の空間が軋む程の怒気を纏った』、倉橋姉妹である。

 

「いや、違うんですお姉様がた。これにはイロイロと、込み入った事情が在りましてイダダダダッ、無理は止めて! モゲる、頭がモゲてしまいますっておかーさま!」

「黙らっしゃい! さぁ来なさい、今度こそしっかりとお灸を据えてあげます! 行きますよ、姉さん!」

「お二人とも、少しの間……巽様をお借りしますね。大丈夫、()()()()()()()()()

「「…………(ぶるぶるこくこく)」」

 

 これから絞められる鶏のように、無駄な抵抗をしながら時深に引きずられていくアキ。

 それを笑顔で見送り、やはり笑顔でユーフォリアとアイオネアへと声を掛けた環。その何処か般若を思わせる笑顔に互いを抱き締めたユーフォリアとアイオネアは、震えながら頷いたのだった。

 

 

………………

…………

……

 

 

「要するにですね……俺は俺の力で、二人を幸福にしたいというか」

「詭弁を使うんじゃありません……全く……世の中ではそれをヘタレと言うんですよ」

「……返す言葉も無いです」

 

 奥の院の拝殿で、正座させられて説教されうなだれるアキ。一方の時深も心痛な面持ちで呆れ返っていた。

 もう会わないと言葉を交わしながら、こんな形で再会してしまった事を心底羞じらいながら。

 

「まあ、それはともかく……此処に来て貰ったのは何も説教の為だけではありません」

 

 と、そんな内輪にしか見せない表情をきゅっと引き締めて彼女が口を開いた。それに呼応して、彼も暗殺者(アサシン)として――否、覇皇の顔で相対する。

 それとほぼ同じくして襖が開き、サレスとヤツィータにエヴォリアとベルバルザード、望と……彼等を呼びに行っていた環と綺羅の七人が現れた。

 

「……エト=カ=リファの奴の動向が掴めた、って事ですよね」

 

 この面子の会合だ、思い至るのは……作戦会議の一つだけしか無い。

 

「……そうだ、明日の根源回廊突入作戦に問題が起きた。出雲の計測した結果によれば、分枝世界間の流れが異常になっている……つまり、常に大規模な次元振動が起きている形だ」

「彼女は時間樹の幾つか太い枝を剪定していたようですから。我々が動き辛いよう、我々が最も自由な動きを出来る空間を封じたというところでしょう。由々しき事態ですね、このままでは根源に到達できるか怪しいです」

 

 一同のに立ち、説明を行うサレスと環。思案げに眼鏡の位置を直す彼に続いて、困った表情の彼女が口を開いた。

 

――……次元振動。それは通常は、時間樹のわななきの事だ。成長か、或いは枯死により生まれる枝葉の揺らぎの事なのだが……文字通り『切り落とされた』枝葉の圧倒的な質量から、純粋な暴力と化している。

 そこに漕ぎ出るなど、如何に神獣ものべーが高性能だとはいえ無謀にも程がある。

 

「……だったら悠長に事を構えてる余裕なんか無い! 今こうしてる間にも沢山の命が奪われてるんだ、一刻でも早くエト=カ=リファを斃して異変を止めさせないと!」

 

 ダンッ、と勢い良く床を踏み締め立ち上がった望。相も変わらず、危なっかしいくらいに真っすぐなままらしい。

 

――まあ、そうじゃなきゃ望じゃねぇんだけど。そういうとこ、女どもは放って置けないんだろう。ヒーロー属性ってのはお得だよな、当たり前の事を言ってやれば男も女もついて来るんだから。

 ヒール属性なんて、何でも出来る代わりに全部自分で考えて自分の責任でやらなきゃいけない。自由ってのは、裏を返せば自分のケツは自分で拭わなきゃいけないって事なんだ。好き勝手出来る訳じゃないんだな、コレが。

 

「――落ち着け阿呆。俺達数人はともかく他の連中は病み上がりだ。神名無しなんてハンデまであんのに、みすみす死なせる気かよ」

「っ……けど!」

 

 だからこそ、その反対意見を口にする。正義というモノの弱い部分と脆い部分を暴き立てる。

 反駁を試みるも、望に返す言葉はない。否、有ってはならぬのだ。

 

 他の誰も何も言わないという事も、それが心理であると悟ったからに他ならない。

 

「決行が明日って事は変わらない、いや……俺が変えさせねぇ。もし強行するってんなら、一日間昏睡させてやるけど……どうする?」

「空……!」

 

 歯噛みするも、彼は知っている。目の前の青年が一度やるといったからには――必ずやり遂げる男だという事を。自らの力は、今の彼には届かないという事も。

 『力が有れば』。そう声に出さずに慟哭して、望はうなだれた。

 

 結論から言えば。それが『彼』の運命を決めてしまったのだが。

 

「ただ……作戦の変更はしましょう。創造神討伐組と根源回廊制圧組の二班に分けて、同時進行で救世を進めるって形で」

「成る程ね……エト=カ=リファを斃したからって次元震動が止まるとは限らない。もし討伐組が負けても、根源回廊を制圧しておけば有利に迎え撃てるものね……」

「確かに悪くないな、その作戦で行くとしよう」

 

 エヴォリアの呟きに、頷くサレス達。彼等は大人なのだ、『皆の力を合わせれば』等と下らない理想は振りかざさない。

 

「では、組分けだ。単純に巽組と望組にわけるとしよう……」

「了解……つっても、誰がどっちにつくかなんて簡単に予想できるんですけどね。むさ苦しくなりそうだ、俺の班は」

 

 最終決戦に向けて、最後の打ち合わせが始まる。その前に聞いて置こうと、軽口を叩いた後でアキは真面目に口を開いた。

 

「ところで……エト=カ=リファの居場所については判ってるんですか?」

 

 問いを受けて、環は一度目を閉じ――……

 

「この時間樹の生まれた原点――『根源回廊・星天の座』です」

 

 まるで、謡うように。神に捧げる祝詞のように、そう言葉を紡いだのだった。


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