サン=サーラ...   作:ドラケン

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第十章 時間樹《エト=カ=リファ》
神の目覚め 永遠者達 Ⅰ


 見上げれば満天の星の煌めき。見下ろせば底知れぬ奈落の闇底。かつて、神世の争乱の舞台となったその場所の名は『根源回廊』。

 その最深奥、燐光を発する巨大な時間樹の『種子』が安置された、原初の『座』に座している灰色の髪の女は――古き誓約のままに瞼を開く。

 

 己が目を覚ました理由は明白だ。彼女は再び、瞼を閉じて……その眉をひそめた。

 

「……そうか。此処まで取り返しがつかない状態にまで陥ったか」

 

 何かを『視た』らしい、女にしては低く凛と通る怜悧な声。その声に喚ばれたかのように二ツの巨影が、通路を振動させながら現れて――……(かしず)く。

 絶対的服従の姿勢。目の前の存在が己らを遥かに凌駕するものだと、二ツの影は本能で知っている。

 

 この時間樹には彼女の持つ神剣を上回る存在は有り得ない。

 何故ならば、彼女の持つ神剣こそこの時間樹を創世したモノ。この神剣以上の存在率は、決して有り得ないのだ。それが、この時間樹の最低限の絶対条件だ。

 

ただ……或る壱振りの第一位神剣を除いて。

 

「もはや修復は不可能か……愚かな神共が、造物主の意志に逆らって好き勝手にしたものよ。何より……『ナル』を持ち出すなど……!」

 

 その影達が、女の孕む怒気により気圧される。その女が腰に佩す、斬馬刀の発する圧倒的なマナに。

 

「そもそも、神などを生んだのが間違いだった。我と貴様らだけで何も問題は無かったのだ……」

 

 刹那に発された、虹色に輝く三重の魔法陣(オーラ)。その煌めきはまるで、夜空を埋める星々の輝きを凝集したよう。

 天に瞬く星も、地を染める闇も、何もかもを精霊光が打ち払う。

 

「……此処は牢獄だ、ナルカナだけを永遠に封ずる為に在れば良い。他の役目も存在も……不要(いら)ぬ!」

 

 光により浮かび上がるは、金色の球体を背後に浮かべた……古き代の女帝のような装束に身を包んだ、神々しき創世の女神。

 

 傅くは天使と悪魔の翼を右に、紫の(たてがみ)を左側に靡かせた、強靭な躯と鳥類の脚を持つ白い体駆の巨大な大猩々(ゴリラ)

 更に右腕と一体となった氷か水晶の如き刃を持ち、斬り落とした己の首を掴んだ巨人の女剣士。

 

 その、二体の原初存在たる永遠者(エターナル)を従えて。そして、精霊光から生み出された創造主の軍勢『永遠者の分身(エターナルアバター)』達が、原初の舞台に犇めきながら整然と列ぶ。

 

「――創造神の名に於いて命ず。滅び逝く樹を零へと還し……新たな牢獄(せかい)を創世する!」

 

 戦前の鼓舞のように、高く斬馬刀を掲げる至高神。応えて、彼女の配下達が各々の得物を構える。

 この時間樹の全てを終わらせて、始まりへと戻す為に。

 

 こうして、物語は終極に向けて加速していく――……


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