砂塵の果て 滅びの時 Ⅰ
砂塵の巻き上がる砂漠。黄昏に染まる天は血を流したように紅く、かつての青空を見る事は二度と無い。緑溢れた姿などもう遠い過去、幼き日に遊んだ山野は岩肌を剥き出す骸と化し、生まれ育った街は砂の海に呑まれ沈んだ。
水などはとうの昔に枯れ果てたというのに、未だ雲は有る。しかし、雨となったところで地まで届く事無く蒸発し、乾ききった大地は砂となり枯れた分枝世界と宿命を共にするだけ。
この『枯れた世界』でまだ形を保っているのは、遠くに突き出た一ツの『塔』のみ。
「…………」
耳を済ませば今でも鮮烈に蘇る、あの忌まわしい声。傲慢なる神の終末宣告と、絶望に狂った人々の怨嗟が響く……最期の日が。
「……まだか……まだ、来ないのか」
砂を孕む風に吹かれながら、砂丘の頂に立つ黒衣に身を包んだ銀髪青瞳の青年は呟く。その焼けつく風を斬り、腰の佩刀が哭いた。
彼の運命を決定づけた祝福と呪詛を共に齎した――神剣が。
何も動くモノの無い世界。
「俺の『滅び』は近い……この機会を逃せばもう復讐は叶わない……」
握り締めた拳、それを開けば砂が零れ落ちる。だが、拾い上げた訳ではない。
彼自身が砂になりつつ有るのだ、その"魂"に刻まれた『神名』に。逃げ場の無い滅びを宿命づけられたその身は、この世界と同じ。
ふと孤独感に包まれる。あの世界での、二度と戻れない日々。始めこそ利用する為だったが、何時しか――掛け替えが無いモノになっていたその関係に。そして、いつも傍に居てくれたその存在が居ない事に。
しかし彼はただ、苦笑するに止まった。己の決意の甘さに。
|判っているのだ、諦めてしまっては――神への復讐を託して逝ったこの世界の住人達に……この復讐劇に巻き込んでしまった"彼女"に、申し訳が立たない。
だから、その命が潰える刹那まで……成功したところで救いなど無く砂となり消え果てるとしても、彼は決して諦めはしない。
そしてその"復讐"の為に幾多の命を吸ってきた彼の刀に手が掛かり、低く腰を落とした抜刀の構えを取った。
踏み締めたその足場たる砂地には――鮮やか過ぎる手並みに死した事にすら気付かない哀れな犠牲者どもが、半ば埋もれた骸を曝す。
それこそが彼の在り方だ。復讐に生きて、復讐に死ぬ事こそが−−神世の古に『復讐の神』の二ツ名で畏れられた神性の『
「早く……早く来い、望……! 神弑の『浄戒』を持って、俺の元に!」
瞬間、世界に『光』が溢れる。開いた"門"を通って新たな犠牲者、ミニオン達が現れた――……