サン=サーラ...   作:ドラケン

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崩れ行く日常 終わりの夜明け Ⅱ

 飛行形態の【悠久】を元に戻し、ユーフォリアは望に向き直る。その望の肩に乗っているのはレーメとナナシ。

 

 ユーフォリアとタワーに一番乗りで辿り着いた望。入口には衛兵が数体いたが、【黎明】と【悠久】が一閃すれば衛兵達は造作も無く両断されて機能停止した。

 だが直ぐに、敵襲に気付いたガードナーが集まって来る。

 

「望さんは先に行ってください、あたしは……お兄ちゃんのところに行ってきます。きっと皆さんもすぐに来る筈ですから」

 

 心配そうに、今来た道の彼方を……則ち、ガードナーの来る方を見やるユーフォリア。それに望は、自分も付いていきたい衝動に駈られる。

 

「ユーフィー……ゴメン、気を付けろよ」

「−−あ……えへへ」

 

 しかし流石の望も、自分が為すべき事は判っている。その気持ちを抑えてユーフォリアの髪を撫でると彼女は一瞬、ポッと頬を赤らめた。

 

「…はいっ! 元気百倍ですよ!!」

 

 元気一杯の笑顔を見せた彼女は、ガードナーに『ルインドユニバース』を見舞いながら飛び去っていく。その後ろ姿を見送って、タワー内部を走り去る望。

 

「撫でるだけで『インスパイア』とは恐れ入りました……貴女のマスターは、天然の女タラシですね」

「う、うるさいっ……ノゾムはただ誰にでも優しいだけなのだっ!」

「それをタラシというのです。誰にでも優しいなど、単に不誠実で優柔不断の窮みでしょう」

「言わせておけば貴様〜〜!」

 

 その後ろを飛びながら、相反する天使二人は火花を散らしていたのだった。

 

 

………………

…………

……

 

 

 夜の屋上で対峙する二人。青眼に【夜燭】を構えた空、対してショウは背負う矢に指を掛けた姿勢のままだ。

 

「やってくれたな……今しがた、サーヴィランスゲートのガードナーが突破された。 もう、この世界も終わりだ

「そりゃあな。策戦ってのは、たてた時点で成功してなきゃ三流だ」

「……ふ、くくく……」

 

 そのショウが、唐突に笑い始めた。低く響く、無気味な笑い声。

 

「……お前は神剣士じゃない……だから、だからこそ先ずお前から始末してやろうと思ったんだ……」

「……そうかよ。で?」

 

 口角を吊り上げた表情のままで、ショウは矢を引き抜いた。それを【疑氷】に番え−

――ずに、周囲に闇を吹き出した。

 

「――何のチカラも持たない癖にウロチョロと目障りなゴミ虫から、踏み潰してやりたかったのさ!」

 

 そして矢……オーラフォトンで形作られたの矢を媒介にした神剣魔法『サドンインパクト』を発動した。

 

「どうした、逃げて見せな!」

「言われッ! なくてもッ!!」

 

 次々と足元から噴き出す黒マナを躱して、レストアスを利用した接近を試みる――

 

「……胸糞悪い……貴様らさえ居なければ、俺は…ッ!!」

 

 しかし、その時には既にショウの射撃体勢が整っている。番えた矢を引き絞り、紫色のオーラを纏う一射は"猛毒の齒牙"『ポイズントゥース』。

 

「邪魔だァッ!」

 

 射ち出された紫色の矢を、空は【夜燭】を盾に受け止めた。

 

「クッ……ソッタレ……!!」

「どうだよ、『浄戒』の力は!? 今頃、タワーに突入したお仲間が必死こいて探してるもんの力はよぉ!」

「チ――望の阿呆が……! まんまと先を越されやがって」

 

 だが止まらない。軋みを上げる【夜燭】の黒い刃。浄戒のチカラだけでは無い、負の情を凝縮した【疑氷】の矢は歪みきったショウの精神に呼応して、破壊力を更に上げている。

 

【くっ……あ!】

「グゥッ!」

 

 その矢が、遂に【夜燭】の黒い刃を(ヒルト)に近い部位で貫通した。貫通する際に軌道が逸れた事で命を拾う。

 

――誤解されてる場合が多いが、射撃武器とは装甲や盾に対して優位に立つ。防具は剣等の『線』の攻撃には強いが、『点』の攻撃には弱い。

 

「それでこの【疑氷】から逃れたつもりか? 甘いんだよ、俺の矢は獲物に()ち込まれるまで止まらねぇ!」

「っ!?」

 

 ショウの言葉に反応して、逸れた矢が軌道を捩曲げて戻って来た。【疑氷】の神獣が、主が狙う相手に追い縋る。完全に意表を突かれ、迎え打つしかなかった。

 

−−この近距離でも追尾式だと!? だから神剣ッて奴は……!

 

 『電光の剣』で矢を粉砕して、息つく暇も無くショウに――

 

【オーナー、まだです!】

 

 レストアスの警告、それにショウから意識を戻せば――粉砕した矢の破片に、宿ったままの矢の破片。全方位を押し包まれて身動きも取れない、そんな空を指差して勝ち誇りながらショウは告げた。

 

「……言ったよな? 【疑氷】の矢は獲物に射ち込まれるまで止まらないッてよ!」

 

 鳴らされた指に破片が、一斉に空へと殺到する−−!

 

 

………………

…………

……

 

 

 セントラルタワー内部に走り込んだ望は、その光景に息を呑んだ。無茶苦茶に破壊された廊下や部屋は竜巻に襲われたかのようだ。

 

「何が起きたのでしょうか…」

「尋常な様子ではないな」

 

 時折外の様子すら覗ける廊下を走りつつ、望は精神を集中させる。だが、何も感じられない。

 

「気配は感じられない、此処に本当に『浄戒』が在るのか?」

「望……くん」

 

 呟き、通り過ぎようとした部屋。そこから――壁に手を衝いて漸く歩いているスバルの声が響いた。

 

「スバル……何があったんだ?!」

 

 身構える望だったが、その瞳に確かな意志の光が在る事に気付いて、そう呼び掛ける。スバルは損傷の癒え切らぬ躯を壁に預けてそれに答えた。

 

「ショウの……仕業だ…………アイツは僕の為に…いや、僕らの"願い"の為に……この世界の理を書き換えようとしているんだ……」

「スバル達の……"願い"?」

「僕らは……シティとスラムの調和……世界から格差を無くそうという……夢を追い求めていたんだ……この世界が滅びた、その瞬間まで……」

 

 はぁ、と息を吐いて。まるで、遥かな昔日を懐古する老人のような笑顔を見せた……

 

 

………………

…………

……

 

 

 腕を向けた姿勢のまま、残心など示す筈も無くショウは舌打つ。

 

「本当にしつこい奴だ……諦めてとっととくたばった方が楽だろうによォ」

 

 眼差しの先には大剣を構えたニンゲン。氷と風の鎧に護られ、その身はほぼ無傷だが……衝撃だけでも人は死ねる。

 自動車とでも正面衝突したような衝撃に、空は咥内に溜まった血を吐き捨てた。

 

「ショウ、聞かせろ……この世界は一体いつから繰り返している?」

 

 赤い血を零した口許を拭いながらの問い掛けに、ふとショウの瞳に浮かんだ憧憬の色。

 

「……この世界のマナが、枯れた日からさ。あの日から俺達はずっと繰り返してきた……滅びを回避する為に、ずっとな……」

 

 だが、その色も……一瞬の内に狂気に塗り潰された。

 

「そうだ……お前達さえ来なければ、俺達はずっとこの電影(ユメ)を見ていられたのに……!」

 

 『異分子を排除する』という役目の為にただ一人正気で在り続け、『同じエンディング』を何度も見てきた彼は……受け入れられない滅びを数億回も見てきたショウは――もう限界など、とうに越えてしまっていたのだろう。

 

「消し去ってやる……全て……俺達の"願い"を否定するならこの世界だって要らない!!」

 

 余りに近過ぎたのだ、希望が。見えるだけで手に入れられない希望など……付き纏う絶望よりも遥かに性質が悪い。

 

「そうさ……『浄戒』のチカラを手に入れた俺は無敵だ! 俺こそが、この世界になる! そして――永久に現在(いま)が続く理想郷を作り上げるのさ!」

 

 ショウの躯から発される強大なチカラの奔流。『破壊神』の神名、それを浴びながら感じたのは−−ただ。

 

「……虚しいな、本当に」

「……何?」

 

 ピクリ、と。押し殺すように空が呟いた言葉にショウは反応した。

 

「ああ、判るさ。お前は"俺"と……"オレ"と同じだ。身の丈に合わない妄想(ゆめ)に囚われた莫迦野郎だ、終わらないだけで続かねぇ事にも気付かずに」

 

――ただ……大事なモノを護りたくて。でも、それを貫くには余りに弱過ぎて。チカラの持つ『意味』と『責任』を考えずに、手に入る全てを得て狂ってしまった。

 自我も願いも何もかも、どす黒い妄念に塗り潰して。

 

「ふざけるな……判る筈が無い。昨日今日来たような奴に俺の"願い"を理解できるものかァッ!!」

 

 ショウの【疑氷】にチカラが篭った事を悟って、【夜燭】を握る拳に力が篭る。召喚された大蝙蝠、その悍ましい顎が開き――

 

〔〔〔――――キィィィィィィ――――!!!!〕〕〕

「【――く、あぁぁぁ!!?」】

 

 放たれた凄まじい高周波と猛烈な羽撃(はばた)きは『血の渇き』の『イリテイト』。辛うじて戦鎧に救われるが、音は防ぎようが無かった。脳を撹拌されるような苦痛に、意識が薄らいでいく。

 

 地鳴りと共に、大気が鳴動する。激震に幾多のビルが軋み、硝子が砕け散り、次々と倒壊する。

 

「チカラ……そうだ、このチカラが有れば俺は……」

 

 そのチカラは、圧倒的。ただでさえニンゲンにはどうしようもない神剣士が−−『破壊神』の神名を得たのだ。スバルの分だけでなく、この世界が繰り返す為に必要な『浄戒』までも。

 

「ハハッ……ハハハハ――……」

 

 全ての『浄戒』を得、強化されたショウの機械の躯は――ギシリと動きを止めた。

 

「−−あ……?」

 

 霧散していくチカラ。何が起きたか判らないショウは、ただ茫然と立ち尽くすのみ。

 

「……堪えられる訳が、無いだろ。名前は起源だ……後から植え付けられるモノじゃない。ましてや、その神名はジルオル以外の誰にも使い熟す事は出来ない」

「なん……だと……?」

 

 加護を使い切り、【夜燭】をアンカーとして耐え忍んだ空。ショウを見詰めるその表情は暗い。

 前世の己と同じ破滅への道を辿りつつあるその男を見詰めながら。

 

「ショウ……もう終わりだ。頼む、俺は−−」

 

 『お前に同じ思いをして欲しくない』、その言葉が発せられる前に−−ショウの【疑氷】からチカラが噴き出した。

 

「――終わらせるものか……! 終わらせて堪るか……! 大事なトモダチの居る、この世界を……!」

 

 番えた矢を引き絞る。壮絶なまでの精霊光が【疑氷】と矢を覆い、憎しみと害意の権化たる黒翼の矢『ディアボリックエディクト』と化した。

 

「教えてくれよ……一体どうしたら滅びを回避できるんだ……破綻するまで繰り返す事以外どうしたら、大事なトモダチの居るこの現在を救えるんだ!」

 

 怨嗟を吐きながらショウは狙いを付ける。恐らくそれこそ、彼の純然たる願いの起源(オリジン)

 

「レストアス――俺の命を、燃やせ」

【な――何を仰るのですか、オーナー! 確かに、私の能力を使えば貴方を強化できる、しかしその代償は……】

 

 だが、空に返す言葉など無い。在る筈が無い。無に帰してでも己の壱志(イジ)を貫こうとしているその男に掛けるべき翻意の言葉など、彼には考え付かない。

 

「承知の上だ。けどな……それでも、俺がアイツを止めてやらなきゃいけねえんだ。一夜限りの事といえ、盃を交わした友と…いえ――ぶつかり合うなら、テメェを貫く為にへし折らなきゃいけねぇ」

 

 どれ程の思いを込めようと、所詮言葉は言葉でしかない。言葉では、実際に振るわれる暴力は止まらない。

 

【オーナー……貴方は、どうして……】

 

――だから言葉では無く行動で示す。チカラを止める為にはチカラを振るうしかない。言葉はその後で充分だ……!

 

 構えた【夜燭】と【是我】を握り締め、屋根を踏み締める。レストアスの加護は無いしダークフォトンも先程の防御でかつかつ、十中八九死ぬだろう。

 

「同感。全くもって難儀な性分だぜ。けどまぁ、それが俺だからな」

 

 【夜燭】を肩に担ぐ。弾けるような雷気が辺りに満ちる。昂るレストアスに向けて、崩れそうな体を叱咤しながら空元気を貫く。

 

――だが、(ゼロ)は無じゃない。限りなく零もまた、"可能性"はの一つ。『有る』という最小単位。

 

「それが義侠人(オトコ)のつれぇところよ――!」

 

 呆れたような意識の後、体の奥に熱が籠る。命の灯火が、強まったのだ。一気に――命の残りが燃えていく。

 

――砂漠に落とされた砂粒一ツ分だろうが、在るモンは在る。俺はただ……それを引き寄せる事が出来ればいい!

 

「教えて……みせろォォォッ!!!」

 

 射ち出された黒翼、大気すらも殺傷して迫り来る"反逆者の一矢"。それに−−

 

「行くぞ、レストアス――ライトニングブラスト!!」

 

 迷いも無く、空はハイロゥを真球型の『スフィアハイロゥ』に変える。三対六個の、龍が持つという如意宝珠を思わせるそれは、マナのサイクルを加速させるシンクロトロン。

 加速されながら撃ち出された雷霆。断末魔の悲鳴を思わせる大気の鳴動、既に負傷している空には余りに強過ぎる衝撃が伝播する。

 

「いい加減諦めろ! ニンゲン如きに何が出来る?!貴様のチカラなど……どれ程のものかッ!!」

 

 ショウと血の渇きの意思を宿した矢は、その叫びに呼応し更に勢いを増す。対し、減衰する一方の空の腕力。だが――それより早く、雷霆の方が撃ち抜かれた。

 

「ああ、そうだよ……確かに俺ァゴミ虫に違いねェさ……! テメェら神剣士からすりゃあ、取るに足らねぇだろうよ。それでもッ!!」

 

――青臭いのなんざ百も千も万も億も承知の上だ!! それでも、俺は諦めない……俺にだって、壱志がある!

 

「"家族"の為なら、俺の何を代価にしたって――『奇跡』如き起こして見せてやらァァァッ!!!!」

「な、にィ!?!」

 

 それに――なけなしのダークフォトンを纏わせて振り抜いた【夜燭】の黒刃が断絶した空間に、巻き込まれて砕け消える魔矢。

 間を置かずに駆け出した空。まだ残る破片に狙われる前に、ハイロゥを六枚の龍翼――『ウィングハイロゥ』に変えて翼撃(はばた)き、一瞬でショウを【夜燭】の殺傷範囲に捉えた。

 

「馬鹿な……ニンゲンの力で、俺の【疑氷】に抗し切っただと……ただ、家族の為だけに……!?」

 

 踏み込まれ、最早新たな矢は放てない。破片も間に合わない、閃く刃に抗し得ない。

 

「貰ったァァァッ!」

 

 技巧など一切無い、ただ精一杯の横一閃。疵だらけの【夜燭】の鈍煌は夜の海の水平線を思わせる。

 

「……だが、此処までだ。後はもう、罠を閉じるだけ――」

「――……?!」

 

 瞬間、周囲の闇が凝集して動きを強制的に止められた。この屋上は最初に発せられた闇で、ショウの狩猟場と化していたのだ。

 則ち、準備は万端。

 

「――インスネアリングブリッジ……!」

 

 そして――音も無く背後から忍び寄り首筋に迫った鈍くも鋭い輝き……血の渇きの牙を見た。

 

 

………………

…………

……

 

 

 全てが終わり、静寂に包まれた屋上。立っているのはただ一人、黒髪の青年だけ。

 

「……ニンゲンの力で、神剣士に後一歩まで迫るとはな……」

 

 ショウは血の海の中に俯せに倒れ込んだ空を見下ろし――斬られてスパークする胸部を見た。後数瞬でも発動が遅れていれば、心臓部(コア)まで達していただろう。

 

「大した奴だよ、お前は……」

 

 踵を返しセントラルタワーに向かおうとするその足を、空が掴む。

 

「……待て……ショウ…………行くな……」

 

 致命傷寸前まで血の渇きに血液を吸い出され、意識は混濁し自分が何をしているのか、何を言っているのかすら判るまい。

 

「……まだ、諦めるには早い……俺の家族達なら……神剣士なら、本物の『奇跡』を起こしてくれる…………だから……」

 

 彼はそれを振り払おうとしない。その掌は、身躯(カラダ)ではなく精神(ココロ)を掴んでいる。

 

 そっくりだが正反対――鏡写しの心魂(タマシイ)を持つ二人の、最後の交わり。

 

「……有難うよ。もしあの日、あの時、あの瞬間にお前達が居てくれたのなら……俺達の現在も変わっていたのかもしれねェな」

 

 振り返ったショウの眼差しは――この世界で初めて会ったあの時と同じ。ぶっきらぼうながら、深い知性を感じさせる三白眼。

 

「……ショウ…………頼む……俺は……」

 

 フッと、手から力が抜けた。今度こそ失神したのだ。

 

「……だが、遅い……この機械仕掛けの躯は……もう朽ち果てた」

 

 呟き、歩き出す。終わりに向けて一歩ずつ、最後の現在(トキ)を刻む。

 

【――――……?】

 

 問い掛けるような思念を向けてきたのは、屋上のアンテナにぶら下がる血の渇き。血のようにその赤い瞳は、真っ直ぐショウを見詰めている。

 

「……何、飽きちまった。詰まらねぇからこの茶番……終わりにしようと思ってな」

 

 その決意を固めた瞬間から世界が輝きを増した。今まで鳥篭にしか見えなかった世界が急に光溢れ、『終わるには早い』と必死に呼び掛けている。

 

 だが、ショウの考えは動かない。"言葉"では、もう止まらない。

 

【――――……】

 

 歩みを止めぬ反逆者。並び立って羽撃くは、やはり反逆者。最後の最後に、漸く……理解しあって。

 互いに笑い合う。覚醒から一度も無かった事だ。その足に掴まり、ショウは宙を舞う。物語を終わらせる為、ピリオドを打ちに。

 

 色とりどりのネオンサインに満ち溢れる近代的なビル群。天高く迫り出した摩天楼。

 

「俺は貫くぜ、『トモダチを護る』って俺の壱志(ポリシー)をよ……」

 

 見上げれば乱雑に散りばめられた、スモッグに霞む天上の星々。

 見下ろせば整然と整えられた、市街の輝きは地上の星々。

 

「だからお前も…貫けよ。『家族を護る』って、お前の壱志(イジ)を。なぁ……空……」

 

 屋上に横たわる空に向けた声は、吹き抜ける夜風に溶けていった。

 

 

………………

…………

……

 

 

【……不様だな、小僧。それでこの【破綻】が選んだ『刃』に相応しいと思っておるのか、(うつけ)めが】

 

 その声が響いたのは、その直後。重厚な男の声は悠然と倒れ伏した空の真下に――。

 

「あ……ぐ……?」

 

 屋上にぶちまけられた空の血液を媒介とし、精霊光による『門』を作り出した、黒い『鍵剣(ケン)』。

 

【まぁ良いさ、今回は及第点をくれてやる。漸く……わざわざ貴様を『  』から破綻させた甲斐が出てきたのだからな……!】

 

 精霊光を纏って巨大化した鍵剣が、空の顔の真横に有る門の鍵穴に衝き立てられる。重苦しい音と共に、錠が回る。

 

「……"無間に果てぬ韻律"の名に於いて『銘ず』。世界よ、『矛盾の剣』たる【破綻】に集い、永劫の門を開け――……」

 

 死など生温い苦痛の中、薄れ行く意識で見たのは――どこかで見た覚えのある魔金の眼差しだった……


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