Fate/kratos 第四次聖杯戦争にクレイトスを招いてみた   作:pH調整剤

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強襲.pt5

間桐雁夜は魔力供給のポンプ役を任じられことによる故の、擬似的魔術回路の激流紛いの要求によっての疝痛に身悶えしながら下水道の汚水に臥していた。

クレイトスが接敵した後、急いで他のサーヴァントの襲撃から身を隠すため、屋上から初期から予定した下水へ虫による移動を行った。

魔力が他の魔術師と比較して雀の涙ほどの雁夜でも、なんとか命辛々、辿り付く事が出来た。

そして雁夜の安住地である下水道は、暴発した宝具の嵐から奇跡的に回避していたのだが、僥倖に恵まれた安全地帯でも、狂を発する痛みと命危うしの格闘に脂汗を飛ばす。

だがそんな激痛の最中に置いても、度々込み上げる哄笑を抑えきれず、噴出しながら芋虫のように丸まっていた。

「時臣…今どんな顔してるのか顔を見てやるよ」

幻想の遠坂時臣をそこに召喚し、妄想に耽溺する雁夜。

当然、監視カメラ代わりに使役しているのは、間桐家のお家芸である虫である。

虫の視界を通じて網膜に映すのは、アーチャーを倉庫置き場へ殴りつけるクレイトスの暴虐の瞬間であった。

だが視神経と接続した、虫に雁夜は不満を持った。

あの常に優雅ぶった顔をどんな焦燥感に崩して、震えてるのか―。

それがまったく見えなかったからだ。

だが目に見えずとも、想像しただけで雁夜の胸に心地よい風が吹いた。

――ざまぁみろ!時臣ィ!

雁夜はもちろんここには存在しない負け犬、遠坂時臣に対して高らかに勝利の凱歌を謳い上げるのだった。

俺のサーヴァントは間違いなく最強だった。

これだけは確実に証明できた。

そしてアイツさえ居ればどんなサーヴァントが居ても負ける気しない。

だが、その前に俺の体が持てばの話だが…。

 

クレイトスの短所を嫌というほど理解した、雁夜は這いずりながら、バッグを漁りビニール製の小袋を出す。

その袋の中には銀錠剤が収納されていた。

――オピオイド系鎮痛薬。

有効成分はケシから抽出した化合物モルヒネ。

主に回復の見込みがない患者の緩和治療などに処方される、法的に許可された麻薬である。

要は安楽死が認可されていない、医療界での代替という訳だ。

癌より悪辣な刻印虫による病状の倍速進行は惨禍を極めた。

臓硯が万が一に備え、持たせた薬剤ではあるが、雁夜は言いつけられていた用法量を超えた頓服のルールを破り捨てていた。

この鎮痛剤がどれだけの副作用を持つか、要約で知ってたはいたはずだが。

そして、またぶり返して来た心身蝕む苦痛から逃避するように、雁夜は躊躇いも無く口内に錠剤を放りこみ、カプセルすら危うい固形物を嫌う胃に水で無理やり流し込んだ。

 

傍目からしたら激痛から遁げ出す、マスターとは思えない、無様な姿に映ったかもしれない。

だがこれも少しでも魔力を捻出する臓器として生き延びる下策だったのだから。

雁夜の身体はクレイトスの戦闘で消費する夥しい魔力に心臓を粉砕されるに等しい、最上級の苦痛を味あわせた。

それもそのはず、サーヴァントはゼウス神の直系として生れ落ちたオリュンポスの住人である。

従僕であったアレス神を抹殺するその巨躯から求められる魔力は、元々ストック分があるにせよ、この序戦の大決戦では心もとなかった。

素質を考慮するならフェラーリを赤子に買い与えるより愚かだったかもしれない。

雁夜の脆き、医学を魔術で欺いた砂上の楼閣の身体を、支柱として現世に繋ぎとめるのは、今、クレイトスがアーチャーに叩きつけている同じ憎悪だった。

そしてクレイトスの予想以上の戦果と興奮が、ささやかな報酬として脳内麻薬による微量の痛みを阻害している。

これでアーチャーに敗北していたら、憤怒と屈辱のショック死は免れなかったかもしれない。

運の女神に愛された雁夜はクレイトスの進撃を眺望しながら、苦痛による喘ぎと愉悦の嗤いを交互に繰り返すのだった。

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鎖で金音が狂を発し怒りを代弁する。

絞首する鬼神の狂戦士は、怨恨を哭いた。

ここまで英雄王を糾し憎悪を吐く理由はなんなのか。

理由など当にない。復讐の釜の底に這い蹲る、一匹の獣。

猛る獅子が餌の分別などする必要がない。

ましてや怨敵の血が混ざった、狩場の標的である。

例えるなら、偶然クレー射撃の的が親を殺害した憎き殺人鬼の親類だとして、それを嗤笑するような素振りしたら、屑肉に成り果てるまで銃弾を叩き込み続けることと一緒だった。

故に万物は比肩することなく君主の怒りの刃を胸に押し付けられていた。

 

 

「ゼ ウ スウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」

既に英雄王の傲岸にも慢心にも、眼中に無い。

神々への怨讐を種子として撒くには腐葉土と水が必要だけであった。

宣戦布告の芽が今咲かさん、とするための道具。

それがこの英雄王(ギルガメッシュ)であった。

 

クレイトスは哭いた。ただ三千世界を、ただ我らを小さい蟻として睥睨するオリュンポスの憎しみ足らぬ神に。

 

「がっ、あああ……エ、ア…よ…」

 

切断されかける首は、なにやら呪詛めいたことを呟く。

だがある意味は呪詛としても、絶対的に滅ぼすべき敵として認めた宣言としても、二重に機能していた。

金の霞が王の篭手と沿うと、宝物庫より出現するのは天地暴く破壊の根源として供覧す、封を解かれた天地開闢の鍵。

(アプス)は割れ、太陽(ウトゥ)は失墜し、この世の全てを書き連ねた、宇宙の記録層である天啓の書版(トゥプシマティ)はこの星の滅亡を予言す。

バビロニアの王が命じるまま、絶滅の焔が口を開けた。

 

――乖離剣。

 

「創生を語れ、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)…」

 

筒状の削岩機とも言える、刃の無い奇剣が回転する。

破断の空刃がそれを帯びると、彫上げが紅く咆哮した。

闇空が白色の柱の如き光芒が地を照らす。

 

海洋が切り開かれ…。

海のカーテンは開放され、底の釜は水を呑み干す。

モーゼがシナイ山に辿り付くために、海を拓いたように。

 

美しき光景だった。

遠漁中の漁師は眠気瞼を瞬くと、白柱が埠頭を串刺しにするのをただ口をだらんとして、 眺望していた。

荘厳たる神話が現実に降誕するの魅惑された面で見守った。船ごと崩谷の漆黒に誘われたことに気づかず。

 

スパルタの血がクレイトスに緊急避難を令する。

闘争本能が瞬時に冷え切り、クレイトスは回避のためアーチャーを水面に投げ捨て、反対方向に飛んだ。

とうに放たれた破滅の因果は、新都のそうそうと並ぶビル街へと白き鎌を下ろす。

鋼の高塔が中心より爆ぜ上がり、炎塊が弧を描き、海洋に水しぶきを上げて着水した。

まだ終わらない一閃は解体の台風を連れて神の掌というべき爆轟が建築物を一気に薙ぎ倒し、欠片と屑に砂時計が落ちるように粉砕していく。

そして、冬木の闇夜が幕間を落としたように白夜と変貌した。

 

 

そして共に海へ飛び込んでいた、クレイトスはこの崩壊の原因であるアーチャーに止めを刺すべくひたすら泳ぎ続ける。

瓦礫と破片で阻害される津波が入り込み、完全に沈没した元倉庫街域を捜索するが…。

居なかった。

クレイトスは既に獲物を取り逃がした失態を悟る。

歯噛みして当てようの無い憤怒を肺腑に叩き込み叫喚した。

これにて今宵の第一戦は終劇。

崩落した区画と、燃え盛る街を残して。

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齢、80近く重ねる老神父…。

兼第四次聖杯戦争の調整を司る、監督役である言峰璃正はあのアーチャーは撃ち放った虐殺によって被災した事によって生じた問題の収拾。

すなわち神秘の秘匿による隠蔽工作に追われていた。監督役に措ける最重要任務は、外部に魔術の痕跡を喧伝しないこと。

やることは山ほどあった。何も知らずただ被災者を救うべく奔走する"一般人"のレスキュー隊の折衝。

神秘を知る一部の中枢の人間には予め、情報だけは入れておいたが魔術と無関係の役人である。

ただの紙切れに従ってマニュアル通りにしか事を進められぬ指示待ち人間。

その無能さと、無関係の澄まし面をしていられる事が羨ましかった。

年齢的に考えたら縁側で茶でも啜っているのが年相応だったはず。

だが一度その異常事態(聖杯戦争)に関わっている璃正ような人間はさらに貴重であり、そう簡単に両機関が手放すはずもない。

そんな首輪を付けられた老犬はこの危機を打破するために知恵を絞る。

まずは、徹底的な痕跡の除去するための人材収集と、部隊編成。まずあのレスキュー隊を差し止めることから始めた。

 

酸素マスクを付けた隊員を除いて、魔力の残滓を吸入し、救助隊もまた被災者の列を増やすでけであろう。

まさかこの千年に一度の大震災に足るだけの機材があるとも思えない。

そうごちると、急いでその国務機関の人間に命令を飛ばした。

それを終えると、どっと疲れを響かせながら、樫材の長椅子に腰掛ける璃正。

次の瞬間、部屋を魔術的通信機の着信音で鳴り響かせるのはあの飼い主からの伝言だった。

 

あまりにも火急な協会の命令が璃正の老体に鞭を入れた。

何でも魔術協会からは緊急の応援部隊と涙ばかりの資材を遣したらしい。

勘弁して欲しかった。魔術協会の名も知らぬ唯我独尊を貫く魔術師を遣されても手に余るだけである。

自分が知っている限り、盟友の倅である遠坂時臣のような人格を持つ魔術師は稀有だった。

その何処から引っ張ってきてるのか、魔術の神秘の一端(アインツベルン)である資金だけ置いて帰って欲しいと出来もしない願いを請う。

このような緊急事態だ以外は、仏丁面を貫いて自前のコネでやりくりしろと注文してくる癖に。

憎憎しげに呪うのは自らの信用を切り売りする、知人から知人への自転車操業で冬木の保安を担ってからである。

怒りが一段落すると、外で部屋を叩く風切音が一室を揺らした。

――来たか。

急いで、来訪した魔術師達を邂逅すべく扉を開いた。

アッパーライトの鋭利な光を玄関前を刺すと、璃正は眩い光に眼を閉じざる負えなかった。

小型ヘリのブレードから発せられる突風の如き、旋回風が辺りの木々と砂を巻き上げ激しく乱舞させる。

よろよろとヘリが着陸すると、扉が開閉し闇色のタキシードを纏う長髪の男が璃正に近づいた。

「こんばんは。私。この度の応援部隊として協会より使わされたコルネリウス・アルバとと申します。以後お見知りおきを」

男は自己紹介した後、恭しく礼を示す。璃正もそれに返礼した。

「こんな老骨ですみませんな。私は第四次聖杯戦争の監督調整役に務める、言峰璃正です。遠方からご足労をおかけしたようで」

意外にも璃正の言葉が朗らかなのは、アルバと名乗った男が意思疎通できる人間として認識しただからだろう。

「いえいえ、とんでもない。第三次も歴任したマスターコトミネ…お会いできて実に実に光栄だ。あなたの忠犬…もとい忠君っぷりは協会内でも十分評判となっていますから」

声の抑揚を弾ませながら、さらりと嫌味をったらしく皮肉ったアルバに璃正は繭を一瞬動かすと、前言撤回の意を腹で決めると、あえて聞こえないフリをした。

「それでは用件を承りましょうか。あなたも世間話に興じに来た訳でもありますまい」

「勿論、では協会からの贈り物を」

アルバが指を鳴らすと、外套を被った同業者と思わしき魔術師が、扉からアッシュケースを運び地面に落とした。

「それは…?」

胡乱げに問う璃正。

「もちろん現金(マネー)です。あぁ少しこちらもバタ付いていましてね。金庫番の手違いでドルやらが混ざっていますが…」

「―――ひとまず一億円あります。どうぞご確認ください」

璃正は急いで駆け寄り、魔方陣が刻印されたアタッシュケースをその場で開放する。

あった。現金が所狭しと詰め込まれており、手に取って数えてはいなかったが、重量で実感した。

一体…この好待遇は…?札束を手に取りながら、璃正が協会より寄越したあまりにも度が過ぎた対応、贈り物と名の大金に懐疑心を噴出させる璃正。

「マスターコトミネ。一応勘違いして貰っては困りますが、貴方への自身への退職金でもプレゼントでもありませんよ?ちゃあんと然るべき場所でお使い下さい」

それをまるで乞食に金銭を分け与える貴人のようにアルバは嘲笑した。

「あぁそうそう、これも忘れていた。おい」

再び同業者と思しき黒尽くめの外套者に何かをまた運び出せようと指令を飛ばした。

だがその配送を下知された者は、鎧櫃の身に余る漆箱を重量で運びだせなかった。

地面に固定されたように必死に上げようとするが、掴んで離すを繰り返す。

「重量加減魔術も使えんのか、呆れ果てるな。無能の雑魚が」

アルバはそう痺れを切らしたように、吐息混じりで指を弾くと、外套の魔術師はガソリンを被った如く不可視の火種で燃え上がった。

突如襲った業火に面見えぬ部下は叫び声を撒きながら、地面を転がり回る。

当たりまえの如く、火は消化せず、神秘の魔術は無駄な足掻きを嗤うように火の勢いを止めない。

「あなた…!一体何を!?」

当然、アルバの思考を読めぬ璃正は怒声を飛ばし問い詰めた。

「あぁお眼汚し失礼。いや何、こんな屑未満の魔術師なんて、この先居ても無能は邪魔になるだけでしょう?だったらここで処分した方が、我々の為だと思っただけです」

「敵の弾より味方の無能がよっぽど恐ろしいなんてのはよく聞きますし、早めに摘み取ったほうが本人のためだと私は考えますが…」

「――如何かな!?諸君!」

そう、アルバが歌劇の台詞のように大声で髪を振り出す。そして顔色伺えぬ黒外套の部下達は無言で上司の蛮行を首肯した。

「まぁそういうことです、マスターコトミネ」

まったく一ミリも理解できぬ思考。まさしく魔術師の特有のエゴイズム。

璃正は同情と悲哀の念で、ぶすぶすと黒煙も燻し立てる無能な部下に眼を配す。

顔を隠していた外套を焼いて燃え残りである、ケロイドと頭蓋半々となったレア加減で焼却された顔に吐き気を催した。

その焼け残った長髪と耳につけたイヤリングからして女だったらしい。

璃正は、天におわす主よせめて安らかに彼女の魂を眠らせたまえ。と死体に鎮魂するのだった。

「さて、さて、忘れていた。これでしたね」

アルバは無能を理由に処刑した、部下の事だと当に忘却して、指を振って中に鎧櫃状に宙へ飛ばすとその重みと共に地へ打ち鳴らした。

漆色の箱を掌で滑らすように撫でながら、吟遊詩人は口ずさむ。

 

          人とて善心を持てば悪逆の誘惑を断ち切らん

―Ein guter Mensch, in seinem dunkeln Drange,Ist sich des rechten Weges wohl bewust

 

すると爆竹を丁度鳴らしたに近い、発破音を響かせると、箱は花弁を開いて黄金の雌しべを剥き出しする。

闇を照らす金塊。インゴッドがそこにあった。

 

「99.9パーセント純金のスリーナインです。ご安心ください、魔術で生み出したイーリガルな贋作ではありません。ちゃあんと真性刻印(シグネチャ)もありますから」

そうアルバが指を刺すと、そこには確かに魔術協会が所有する金塊であると保障する釘のような物体が小さく埋め込まれていた。

ある程度技術に達した魔術師がこうした金融資産を増やすために、純金などの希少価値を持つ財貨をホンモノに組織細部まで、大変酷似した贋作として偽造することは多々あるらしい。

だがそれを野放しにしては、次次と送り込まれる金による、価値暴落によって外の世界の経済性を破綻させかねない。

金の価値が朽ちたら、次は銀、プラチナという順に連鎖的な希少資産騰落もあり得るからだ。

そして一抹の神秘すらを露出させることを嫌う機関がそれを、許容する訳がなかった。

そのために一部の中枢に居る人間との取り決めで真贋を判別する手段を作り出した。

それが真性刻印(シグネチャ)と呼ばれる偽造防止技術である。

「こんなモノを私に押し付けて、協会は…一体何をする気だ!」

璃正は先程までの冷静さを捨てて、アルバに向けて困惑を怒鳴った。

アルバはその老骨の醜態を弄ぶかのように、惚けたように今更説明し出す。

「おや?申し上げておりませんでしたか…?これはこれは失敬極まりないご無礼を。お詫び申し上げます」

と相変わらず芝居掛かった台詞で璃正を苛立たせた。

「答えて下さい!それがなんなのかを!」

答えを欲する璃正にアルバは封殺の言葉を投げかけた。

「魔術協会及び聖堂教会は、やっと条約を交わし終えました…誠に残念なことです」

璃正には何を言っているのか、アルバの説明が足りない故に理解できなかった。

するとアルバはポケットから、羊紙を取り出し裁判官が判決を言い渡すが如く読み上げた。

 

「――過去三回、執り行われて来た、聖杯戦争は…」

「――今回の四回目で無制限凍結を布令す」

「――現段階で発生している冬木での第七百二十六号聖杯は、大小問うことなく、ただちに解体し、サーヴァントを使役し聖杯を目的とした戦闘行為またはマスター同士の戦闘は恒久的に禁ずる」

「――そして監督者はこれを正式に参戦者のマスターに布告し、終戦させる義務を帯びるとする」

「――よって、聖杯戦争の終結と聖杯の破棄を両機関は全会一致で支持し、この布令の尊守を履行しなかったマスター及び関係者は両機関の罰則法則に反したものとし厳粛な処断を下されるものする」

 

「と、のことです」

 

 

耳を疑った。

聖杯戦争の終結…?何故今のこの段階で…?

「一体何故です!何故魔術協会と聖堂教会は聖杯戦争の凍結など!」

熱を帯びて吼える璃正を尻目に、アルバは平然と水を掛けた。

「さぁ?私は上の意向なんて知りません。何らかの事情があったのは考えるまでもないですが…」

「我々の外部の人間には理由など必要ですか?訳の分からない事を慮っても意味などありません。ただ我々は自分の仕事をするだけでいいでしょうに。マスターコトミネ」

璃正はアルバの冷めた物言いに反論できなかった。

理由を知らされる立場でもないのだから、粛々と仕事をしろ。

と孫とその祖父代まで懸け離れた青年に論破されたことに唇を噛んだ。

名ばかりの監督役。一体私は…。

璃正が屈辱の沈思に震えていると

アルバは腕時計に目をやると仰天したように叫ぶ。

「あぁ!これは不味いぞ、予定時間を大幅に超過してしまった。それではマスターコトミネ!互いに身魂を尽くして、任務に望みましょう!それでは」

そういい残すと再びブレードの回転を上げたヘリに乗りむ。

扉を横に閉鎖したかと思うと、また唸る風音に紛れながら叫んだ。

「最後にもう一言!この工作費を仮に遣い残した場合は、残存した分、確実に返却してください!老い先が短いからと言って、間違っても着服なんてしないで下さいよ、マスターコトミネ!」

そう皮肉を投げると、勢い置く扉をスライドさせ、アルバの搭乗を確認したヘリは木々を風圧で押し倒しながら、その"任務"を行うべく空へ舞い上がっていった。

璃正はアルバ以外の同じ型番のヘリが被災した新都方面へ向かうのを発見した。

夜風を皺入った顔で受けながら、置き土産にしていった工作用の手間賃を見やる。

また、どれだけ協会は魔術師を展開したのだろうと、アルバの言う意味の無い問答を心中で繰り返すのだった。

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