Fate/kratos 第四次聖杯戦争にクレイトスを招いてみた   作:pH調整剤

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強襲.pt4

「アイリスフィール!アイリスフィール!」

 

衛宮切嗣が召喚せしめた英霊、セイバーは潮と煙が香り、

常に爆炎轟く、戦場で顔を青くしてアイリスフィール・フォン・アインツベルンの身柄を捜索していた。

先刻まで剣戟を刻んでいた、ランサーとは事態が事態なので一旦休戦を結び、互いのマスターの安全確保の任にあっていた。

我がマスターである、切嗣の行方もしれなかったが、それは元々だ。

それにしても…。

あまりにも自分の戦争感から懸け離れた、クレイトスとギルガメッシュの戦いには驚倒しそうになった。

騎士と騎士が名誉を秤に武勇に交わし、その果てに手に入れる褒賞こそ聖杯だと認識していたからだ。

ブリテンの王として、母なる祖国の地を征服せんとする、異民族相手に何度も剣を執り殺しあう血の惨劇をセイバーも知らない訳ではない。

自らが直々に剣で刎頚(ざんしゅ)した首の顔すら思い出せるほどに。

だがそれは無辜の民を喜々として、虐殺し、金品を強奪して、女子供を犯す屑の郎党の話だ。

 

この聖杯戦争は神託を受け、清き正しき英霊達が馳せ参じ、天命なる天啓を帯びた舞闘会。

あんな虫を解体していく如くの酷薄で残忍な苛虐性が暴力的に展開する決闘を繰り広げる英霊まで聖杯に選抜されていたとは…。

切嗣と言えばあの仄暗い眼窩から滲み出る、"何か"はあの刺青の巨漢も同じだった。

そうクレイトスの厳酷と切嗣の乾ききった冷酷を重ね合わせる、セイバー。

すると瓦礫の埋もれ、鉄骨で腹を挟み込まれたセイバーが主をついに発見した。

「アイリスフィール!」

急いで救出すべく駆け寄るセイバー。

その瞬間Cランクに匹敵する斧形の宝具がまだ、食い足らんとばかり、セイバーを追い越すとコンテナ積み場に暴虐の拳を叩き込んだ。

破壊エネルギーを纏った爆風が電灯をもいで、夜の帳に舞う。

宝具の威力に勢い付けられた、コンテナ屑が天より振る投石となり、むき出しにした鉄の牙をアイリスフィールに食い込まそうとしていた。

セイバーは即座に宝具を解放、魔力を心胆で練り風王鉄槌(ストライクア)により迎撃しようとしたが…。

――駄目だ!近すぎる!アイリスフィールまで巻き添えを!

 

既に天石はアイリスフィールの顔面を足場として定めていた。

「|ALALALALALLALALALLALALAAAAAAAAAAAAAAAIIIIIIIIIIEEEEEEE《アラララララララララアアアアアアアアアッィ》」

喇叭(ラッパ)を数十管鳴らしたような鬨の声が奔った。

猛牛も宙を歪ませる如くの唸り声を上げつつ、天より降る石に雷神を纏わせ突貫した。

そして円形の爆風と発破音が、石を砂状まで解体したことを知らせると、ライダーが虚空へと高度を稼ぎながら、セイバーに叫んだ。

「おい!セイバー!とっととお前の主人を回収しろ!ここもじき崩れるぞ!」

「礼を言う、ライダー!借りをいずれ!」

「なぁに、戦場の花と麗人に傷をつけるのは王としても許容できんだけよ!」

命からがらライダーに応援で助命されたアイリスフィールを抱きかかえると、ライダーに礼を交わす。

「では今宵の戦場はここまでだ!また剣戟を鳴らす時が来た時、存分に借りを返してもらおうではないか」

そういい残し、牛に甲高い鞭を刻むと、闇空へと颯爽に駆けていく。

 

空へ舞い上がって、一足先に撤退したライダー陣営は、ミニチュアサイズまで縮小された、崩れかけの埠頭で燻る煙と瞬く光を見下ろす。

「まったくとんでもない乱戦だったなぁ…余も既に経験済みだが"ガウガメラの戦役"よりよっぽど恐ろしかったわい」

――ガウガメラの戦い。

やっと戦場の身を裂く恐怖から出所したウェイバー・ベルベットはライダーがぽつりと口にしたガウガメラについての簡易な史歴を思い返していた。

紀元前331年。ダレイオス3世が擁するペルシア帝国と、イスカンダル…アレクサンダー三世が指揮するマケドニアギリシャ同盟が激突した。

騎馬、歩兵を合わせを数十万人を超える大軍勢が太陽照りつける砂漠で殺しあったのだ。

その迫力は場にいないウェイバーでも享受できたが、平然とそれより凄かった。と言ってのけるライダー。

――確かに。凄かった。いろんな意味で。

ガウガメラ10回分を一気に味わされた、ウェイバーは雄として妙に格が上昇したとを鼓動より感じた。

そしてあの刺青のサーヴァント。

ライダーに対しての憎悪は地を裂くほどに足りぬと言った具合である。

こっちがトラウマ級の罪悪感を植えつけられるところだった。

「なぁ、ライダー…あの刺青のハゲ…お前の知り合いか?」

その疑問を受けて、ライダーは素っ頓狂な台詞で返す。

「はぁ?あんな神々が受肉したような戦士など知るわけないだろう!寡兵の時も言ったが、余は彼奴に惚れたのだ」

「余もゼウスの子を自称しているが、ゼウスになんて神、会ったことすらない!だが彼奴はまさしく雷神の生まれ変わりのようであった!」

そう、身振り手振り恋に酔う女子のような口振りに呆れ顔で正視するウェイバー。

「でもアイツ、お前に対してなんかヤバいほど敵意丸出しだったけど」

「問題ない!そしてこれは戦争である、奴が余を憎み、余は奴を寵愛する!それで良いではないか坊主!」

「無関心こそが毒なのだ!彼奴とはまた聖杯を巡り覇を争うことになるだろう、つまり機会があれば酒でも一献交わし誤解を解けばよいだけの話よ」

そう征服王は高らかに豪笑を鳴らし、牛を遊ばせないように鞭を振るった。

――でもアイツ、ゼウスって言葉に恐ろしく反応してたような…。

今もあのこっち向けた憤怒で染まった鬼神の表情を思い返す。

まるで絵本の筆でしかない世界を現実だと認識する幼児が悪徳極まる年長者に血潮吹き出るホラー映画を強制的に視聴させられたら、背後に本当の白面を装着した1000人殺人鬼がチェンソーを持って処刑の唸りを上げる。

とはまた別の恐怖であり畏怖。ウェイバーを形容しがたい遠く、遠く深遠である畏れの沼の下へ誘なった。

恐怖の種であるはずなのに、体を悪寒で震えないのは、恐れと同時に沸き起こった荘厳さが中和の作用を引き起こしたのだろう。

決して肝が太いなどというレベルの話ではない。

一体何なんだ。アイツは…。本当に神様みたいじゃないか。

まだ序戦中の序。その疑問は後の聖杯戦争で明かされるだろうと、一人ごちた。

「そう言えば、刺青の戦士が聖杯に願う奇跡は一体何なんであろうな!彼奴は世界征服じゃ決して満足せんぞ!たぶん地理上の端から端…」

そしてライダーの惚れた戦士についての、のろけもまだ終わりそうになかった。

 

 

傲岸の覇王と獰猛な戦神の、争いというより人型鉄球を打ち込む作業風景となった倉庫街。

本来の船舶の物資移動を補助する目的を捨て去り、ついに飛沫を散らしながら海水に潜伏しつつあった。

地盤一帯は海水の浸食と、無慈悲な鉄槌を下す戦神の猛撃で砕けた瓦礫、コンクリート屑を沈没の口に飲み込んでいく。

あちこちで燃え盛る炎が水面を煌かせ反射した。

また同じように英雄王は今だ恨めしく抹殺の気炎を双眸に宿らせ、燃やし続けていた。

未だに脚部を拘束し、叩き付けの工程を止める気配も無く、王の金剛石如くの威信を潰さんとする下賊に嫌忌の剣で刺突しまくる。

「この(オレ)をここまで陵辱するか…醜悪なる肉の怪物め…」

アーチャーは天の鎖でこの匪徒を這い蹲らせ、乖離剣で卑賊の不忠者を灰燼の残滓一つ余さず、寂滅する讒謗の絵面を脳裏に千回描くも、それを実行出来ずに居た。

当然、これらの兵装は己が比例すると認めた者だけに賜わす、ある種の月桂冠。

親愛なる友をこの屑の血で汚せる訳がない。

そんな矜持の狭間に押し込められ、苦悶の面体で塵を幾度も被る。

すると痺れを切らしたクレイトスは、自らの陣地に鉄球を釣る様に呼び戻した。

傲岸の王は汚水が混ざった塩水に顔を濡らしながら、崩壊した地面を摩擦する。

飼い主が命令を聞かぬ愚犬に首輪に付属するリードを、引っ張り上げどちらが上かを教え込む、犬として同等に扱われた事に、自尊心は枯れ木のように折れた。

だが当のクレイトスはそんな王の心中など、豚の交尾より興味を示さない。

横臥する黄金の王の、史上かつて誰にも触れさせた事のない、逆立った御髪を雑草を抜くように掴む。

アーチャーは崩落した自尊心をかき集めて修復する、真っ最中であったため胡乱げに事態を見送った。

そしてついにスパルタの戦神は血染めの神話を綴らんとせん、最後の仕留めに掛かった。

まるで家畜の血抜きをするよう、素手で髪を支点に、咆哮しながら首を捻じ切り上げようとしている。

「るあああああああああああああああああああ!!!!!!」

すると一気に痛点が英雄王の意識を覚醒させた。

「貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

だが不敬の憤慨はクレイトスの狂気を篝火に薪を新たに継ぎ足した如く、加速させる。

アーチャーのえび反りになって後ろに投げだした、脚部を両足で斧を落とすが如く踏み、釘付けにした。。

クレイトスは頭を反らし、全膂力を弓兵の斬首ならぬ抜首に注ぎ込んだ。

地盤がスパルタ人の脚力とバビロニアの王の頑丈さに根負けし、爆ぜるような快音を出しながら固定した部分が沈下していく。

クレイトスは二の腕と見間違える、頬筋を浮かばせるほど歯を肉食獣のように食いしばりながら止めの鬨声を吼え猛る。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

さながら奇妙な処刑道具であった。人間が人間を器械仕掛けに命を削ぐ。まさしく血滴る神話の再演。

クレイトスは今、古今東西を平伏させた黄金の主を討ち果し、神話から王の名を除名しそうとしていた。

ついに英雄王の頚椎と首が泣き分かれよ、裂け目から血を噴出しようとした、瞬間。

 

―――天の鎖よ(エルキドゥ)!!!!!!!!!

 

つまり、ギルガメッシュは"別の意味"でも折れてしまった。

そう宣誓すると、空間から割れて這い出た鎖の蛇が、王殺しをせんとす賊のクレイトスを天空より拘束した。

天の鎖。ギルガメッシュの朋友の名を冠した神をすら縛り殺す最上級の宝具。

高位の神性を擁するほど、凄烈に堅牢さを減らし増す。神に近く傲慢なる愚か者に制裁を加える牢獄。

最高神ゼウスの血を濃く受け継いだクレイトスは先程の激情を嘘のように停止させ、鎖に繋がれた罪人となる。

手堪えを感じた、アーチャーはついに不敵の笑みを漏らし、溜飲を下げた事により冷静さを幾分か取り戻して罪人に宣告した。

「これほどまでに(オレ)の顔に泥を塗りつけ、憎悪した雑種はそうそういない。褒めて遣わそう」

クレイトスの兵装である、腕からブレイズオブカオスを叩き落とすと、足で侮蔑を表し踏みにじった。

もう既にクレイトスの命は王の掌に把握されていた。嬲るもよし、肉を少しづつ削ぎ落とす陵遅刑に処してもよかった。

 

だがギルガメッシュはその程度では満足せぬほど、殺しの手順を頭で組み替えていた。

やはり寸刻みで潰す、陵遅刑がいいか。一撃に消滅させる乖離剣がいいか。

機会は一度しかないのだ。この雑種は永遠に動けないのだから、じっくりと吟味しよう。

勝者だけに齎される、命を弄ぶ権利。

苦渋を飲まされ続けた英雄王にとってはとてつもなく耽美で心を蕩けさせる甘さだった。

散々不敬の畜生働きしたのだから、地を這う蚯蚓より苦痛を伴う扱いをしてやる。

それこそが王としての威光、威厳を修覆する正しい王道であろう。

そう英雄王が処刑方の熟慮の海に飲み込まれていた頃。

 

クレイトスの心中は死よりも暗く、深き谷底に伏せていた。

多々思うの自らの体内を循環するおぞましい液体について。

貴きスパルタの血。汚れた神々の血。多々憎む。

 

―ゼウスの血。

 

―汚らわしき血。

 

―どんな怪物よりも黒く薄汚れた血。

 

―認めぬ。

 

―私は認めぬ。

 

―決して。オリュンポスの神々は烙印を押しても。

 

―タルタロスの底に墜ちても。

 

―認めぬ。

 

―あの呪われた血を絶滅させなければ。

 

―それが私の…。

 

―そして救済への道はそこにあるのだ…。

 

 

そして、希望の日差しとは言いがたい暗がりの火を見つけると、クレイトスは堅牢の鎖に繋がれた手を解いた。

 

 

鉄を槌で潰した圧壊音は、英雄王の思考に氷水を掛けた。

振り返ると捕縛したはずの賊が奇妙な動きをしながら、破断を体で鳴らす。

それは絶望の調べであり、クレイトスの憤怒の熱さ。

「あ、あり得ぬ…(オレ)の友が…」

打って変わって狼狽した声を発し、万が一を考え俊敏にクレイトスから距離を取った。

この雑種は曲がりにも、神性の血が入っていた。だから鎖もあれほど堅牢に機能したはず。

と推論を積み重ねようが答えには一向に届かない。

またゆったりとした足取りで王の領域へと入り込む、クレイトスに近衛隊の金色砲門が横並びに展開した。

「――打ち鳴らせ、我の宝具たち(ゲートオブバビロン)よ!」

指揮官より砲撃を下知された、主砲群がいっきに宝具の弾頭を飽和爆撃した。

そしてクレイトスが取ったその、退避行動…。

類似的に言うならば、突貫工事に近い所業であった。

最後に残存した、崩落すれすれの割れた地盤に手を伸ばすと捲り上げ、一気に傾斜度を上げられた倉庫街のコンクリートグラウンドは急ごしらえの坂となった。

そして持ち上げられた地盤はビスケットよりも脆く、 吹き飛んだ複数の瓦礫が宙で降灰しながら盾となり誘爆した。

そして区画の傾斜を味方につけ、一陣の風となったクレイトスは草原を疾駆する豹のように海水に沈んだ焦土を早駆けする。

「――おのれえええええええええええええええ!!!!」

だがアーチャーの首を狙う狂戦士を、射殺す策は尽きていない。王は指揮棒の手を翻すと、幅一杯に射程範囲を横隊の陣形と挟むように縦にも黄金の列は形成する。

下の線を消した正方形。

故に戦略など拵えて、逃避する場所はなく(やじり)は天の鉄槌として宝具の豪雨が血で染めるだろう。

そして(あな)より、、斧槍剣メイル鉄球フレイル刀又槍銃剣が顔を出し砲門が次弾を装填したことを告げる

古今東西東西南北の兵装の原典はクレイトスに照準を向けた。

幅一杯に射程範囲を次は狙撃するのでは無く面で潰す。

逃げ場など無い。クレイトスは身を剣山として供することになる。

―道など作ればいい。

スパルタの血脈は、こうクレイトスに囁くと紅きより暗い血を沸騰させ、血液が心臓から送り出されたと共に、叡智を授けた。

岩盤抉りて爆ぜ飛ばす煙は一帯を終幕のように告げた。

それを目視した英雄王はさらに恐慌状態に身を震撼させた。

黒煙にはまだ影が残っている。未だに。死なず。死せず。

何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?

アーチャーの思考は疑問による疑問の混乱で蹂躙されていた。

 

それを嘲笑うがように答えは単純明快であった。

直接、射出しても抜剣された双剣(ブレイズオブカオス)が跳ね飛ぶ宝具を補足していた。

喩えるなら触手。

鉄剣が鞭を振るうように宝具を撥除け、取り付き、方向を強制修正させる。

 

そしてアーチャーの自爆圏内の半歩まで辿り付いた、クレイトス。

王殺しの逆賊は…

 

―――再び玉座へ奔る。

 

駆け、もう十歩。

 

双剣が弧を切って、首を刈り取ろうとする。

 

もう半歩。

 

三。

 

二。

 

逆鱗に触れたように一閃の光沢が闇夜を照らす。

クレイトスを一度封殺すべく、王は天より鎖を召還したのだ。

再度、鎖は風を切ってとぐろを巻きながら、狂戦士の首を狙い、絞首しよう試みる。

しかし、その餌食に掛かったのはクレイトスではなく…ギルガメッシュであった。

過程は他愛も無い。

首に掛かりかられた、鉄鎖を捻じ切り、新たに長鎖を確保した狂戦士。

そして背後に滑るように周り込み、腕を交差し、背を扼殺の支点として蹴り上げ、その友の手(エルキドゥ)でアーチャーを絞首刑に処した。

もちろんギルガメッシュには神性が宿っているが、その硬度を増しているのはクレイトスによる化け物じみた腕力の所為である。

天の鎖は、壊れない程度の耐久力でクレイトスを補助した。

「があああああああああああああああああああぁあああああ………」

英雄王は言語として解せぬ獣よろしくの狂声を上げながら、それを扼殺か破断かの断末魔として永遠に記録しようとしていた。

ほんの一欠片の自尊心による心中か、乖離剣による恥の勝利か。

傲岸の英雄はついに針の海を下とする、断崖絶壁まで追い詰められたのだ。


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