Fate/kratos 第四次聖杯戦争にクレイトスを招いてみた 作:pH調整剤
自体の急展開に驚いたのは人物マスター、サーヴァントを含め、遠方のコンテナ山で光学機器を駆使し、状況を見守っていた衛宮切嗣もその一人だった。
切嗣は手早く舞弥の注意の無線を入れる。
「舞弥、新手の敵だ。用心しろ。近くにマスターは確認できるか?」
「了解。捜索します」
と魔術師殺しお得意のヒットアンドアウェイ戦法の要石である、偵察を指示すると再びスコープを覗いた。
イスカンダルは一頻り降伏と寡兵の演説を述べ終えると、ふと自分に近づく刺青の鬼兵に気が付いた。
「何奴…?貴様サーヴァントか!成る程、お前も余の軍門に下り覇を分かち合いたいと申すか?」
征服王は突然来訪したスパルタ人を手厚く持て成し、戦車より下車し頭から足元まで舐めるように、王の真贋はマケドニア軍の兵隊としての素質を審査する。
そして美術品を眺め終わったような、感嘆の溜息を漏らすと、また饒舌に油を刺して、無思慮な勧誘を加速させた。
「何たる鍛え抜かれた肉体!その鷲を彷彿とさせる射殺す眼光!貴様…何者だ!我が軍も最上級の精鋭兵が揃っていたが…」
「その神話時代の神々を模した石膏から蘇り、生を受けたような荘厳な雰囲気は!ゼウス神殿でもそこまでの神像は見た事がない!」
「ぬおおおおおおおお!欲しい!貴様が欲しい!さしては並の英霊ではないな?まぁ当然肉体的に見たら余には負けるが!」
「とにかく欲しい!!!!!!!!!!!!!」
とクレイトスの兵隊としての有り余る素質を褒めちぎる。
まるで女神に射抜かれた小男の寓話のように口説き、兵団への勧誘を止めない。
「貴様が我が軍門に下れば、百万騎の兵と交換してしても構わん!御旗を掲げ朋輩として手を取り合おうぞ!刺青の戦士よ!」
「さぁ!我がマケドニア王国のイスカンダル三世の元でゼウス神の庭を駆け巡ろうではないか!」
興奮を抑える口ぶりも無く、雌に雄が示す、求愛の絶叫し終え、ライダーはクレイトスに忠義の手を伸ばす。
先程まで寡兵の対象だった、剣兵、槍兵は唖然とその様子を傍観する。
だが、まったくクレイトスの発する殺意と憎悪を混合した思念に、ライダーはまったく気づこうともしない。
戦場で幾つモノ死線を乗り越えてきた、征服王にとってそう珍しいことではなく、この不感症はある意味職業病に近かった。
隣でそのまた別の巨躯男の殺意を、受信したウェイバー・ベルベットはヒッとライダーの背に逃亡した。
「馬鹿!ライダー!何暢気に勧誘なんてしてんだ!そそそそ、そいつ僕たちを殺そうとしてる!」
神聖な寡兵の場に水を差された征服王はウェイバーに音速凸ピンを叩き込み、一喝した。
「阿呆なのは貴様だ!当たり前であろう!殺し殺されの首のやり取り場で殺意を消す兵など居らんわ!」
「……ウスの子か?」
震える活火山、クレイトスが怒りを最小限押さえ込む奇跡を成し遂げながらライダーに問いを投げる。
だが生憎、爆発寸前の歯鳴りが声をかき消しライダーには肝心が伝わらない。
「うん?何か申したか?もう一度申してくれぬか?」
「貴様はゼ―――」
そういい掛けた瞬間、黄金玉が爆ぜたと錯覚するほど眩い金色が、埠頭を照らした。
金貨を鋳潰した如くの粒子が四散する。
そこに顕現するの絶対無二、万民が平伏する天に祝福された王。
尊大な侮蔑を撒き散らす視線は、サーヴァント達を捉えた。
「この
そう天下の法を司どった口ぶりは、地上を等しく己の所有物と見定めるまさしく慢心の神。
「今宵はまったく不愉快な夜だ、王だの庭だの、この
死刑宣告の条文は今もなお止む気配は見せず、傲岸を極め足る王は下界の愚民に槍を差し向ける。
黄金に食われた空間から古今東西の兵装が、剣先を罪人に向いて出現する。
王により開廷された神も拒絶する司法場は、王の処刑命令を待機し待ち望んでいた。
しかしクレイトスはそれを平然と崩壊させた。
背から抜かれた、ブレイズオブカオスは蛇が乗り移ったように、うねると街灯を玉座とするアーチャーの脚部を瞬に捕縛した。
つまりアーチャーを鉄とした鉄球が完成。
それを闇空に全力で振り上げると、クレイトスは地上に屈辱の刻印を押した。
「るあああああああああああああああああ!!!!」
狂戦士の憎悪の咆哮は、埠頭を震撼させる。
砕破したコンクリート地面から鎖を手繰り寄せると、次は横薙ぎに振り回しコンテナが積み重なった集積地に激突させた。
保管されていた貨物が地に散乱の雨を降らし、コンクリート片とコンテナの屑片飛び回り、土煙と黒煙が視界を奪う。
次の瞬間、金色の灯火が黒煙の支配を殺し、大小の郡体の金色の砲門が展開されると、そこから何百個の槍剣が狂ったように乱射された。
時折天空に暴発した宝具が闇を裂いて一筋の金色描く。
既に埠頭は酩酊者が操縦する高射砲の発射基地に変貌しており、隣接する区画すら宝具の爆撃嵐が襲撃し、衝撃波が構造物を粉砕し常に黒煙が大気を汚し舞う。
高く積みあがったコンテナ台から偵察していた衛宮切嗣は、この期を攻撃の絶好のチャンスだと捉えていた。
無線から悲鳴に近い声で呼ぶ舞弥の声は無視する。
四方八方から飛来する宝具がこの場所に命中しないことを祈りつつ、スコープを覗き込んだ。
スコープ内を奔る奔る、宝具の軌跡に流石の魔術師殺しも戦々恐々する。
命を賭したマスター狩りの哀れ対象になるのは誰か。
スコープを懸命に動かすが、どこを見渡すも、瓦礫の小山と、猛る宝具のみで、破壊されつくした更地しかなかった。
すると一人の人間らしき黒い形が蠢き、頭隠して尻隠さずになっているのを見つけた。
それはランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。
この発狂した第一乱射に巻き込まれために、既に四肢を吹き飛ばす、戦闘不能状態であった。
ことの経緯は、瓦礫の雨から守るため、
あくまで
結果として、ケイネスの下肢を丸ごと潰し、ケイネスは両足とその他の半身部位、内臓を諸々を破裂させ、五感のうち、聴覚、視覚、嗅覚、味覚の四感を削がれた。
唯一、手のみだが触覚が残存したのは、ダンゴ虫が包まるように令呪が備わる手を防護したためであろう。
令呪のみがケイネスの最後の生身となった。
それを知らぬ切嗣は、焼け残った外套からケイネスだと認識。
スコープのレティクルを頭部に合わせ、ワルサーの引き金を絞る…。
瞬間、体の奇妙な感覚に陥っていた。ジェットコースターがレールの頂点から丁度居り始めたような…。
――不味い!
鉄骨が食い破られる、破断音を聞くと鳥肌が皮膚をひた走って、精神の雷管を叩き、一気に精神を取り戻すが、時は遅し。
槍状の宝具が建造物の支柱をまるで豆腐を裂くが如く、当然というように一気に倒壊し始めた。
切嗣は魔術回路を駆動させ、体内時間を強制操作する、
狂戦士によって引き起こされた、宝具の大花火の余波は他マスターすら飲みこみ、黄金の死を未だに撒き散らしていた。
「貴様アアアアアアアアアアアアアアアア!!この王たる
不幸を表す赤き月の瞳はさらに憎悪の輝きを増し、クレイトスに身を削ぎ落とす憎悪を吐き出した。
だが当のクレイトスはアーチャーを引き釣りながら、その呪詛に返礼するかのように、再び宙にアーチャーを振り出し、叩き付けの作業を再開した。
一回。二回、三回、四回、五回。六回。七回。八回。
畑の土を耕すように、鋤を叩き込んでは、煙と破片を排出する。
所詮人間界の技術で建築された、コンクリートの土台はついに降伏の根を上げ、海水の浸水を許し始めていた。
だがクレイトスは叩きつける土台が無くなれば、今度はコンテナ集積に先程の再演を繰り返す。
英雄王の猛り狂いを代弁する、
更地と瓦礫の山を駆け回りながら転戦し、爆風の列が近づいてきたら、その鉄球ごと跳躍し、また沈没していない土台に打ちつけ続けるのだった。
遠坂時臣は、綺礼の送る実況放送に優雅さの欠片もない、慄きと恐怖に見舞われていた。
そして、英雄王を蹂躙する賊は今もなお、アーチャーのプライドに汚水を塗りつけている。
これを令呪で呼び止めたら、その怒りの矛先は確実に自分へ向く。下手を打ったら、己が殺害の対象になるのだ。
そう安易の戻れとは呼び込めなかった。
紅の双眸を滾らせ、憎悪に固まった顔のアーチャー。黄金の門から放たれた宝具が自分を刺し貫き、遠坂時臣は剣山となる…。
これほどぞっとした事はなかった。
フローチャートの考えを巡らせただけで、髪が冷汗で湿り、内臓がストレスで噛むように痛みだす。
「我が師よ、応答願います。緊切の連絡です」
愛弟子の言峰の声は一見、冷静を保っていたように聞こえたが、明らかに動揺と焦燥を含んだ呼び声だった。
「何だ、綺礼…」
これ以上何があるのか、薮蛇を突く思いで報告を聴取する。
「このまま状況が推移すればアーチャーが乖離剣を使用する可能性があります、至急令呪による撤退の宣告を」
「エア…だと…」
乖離剣エア。英雄王、最大の宝具にして。最強の剣。
ひとたび振れば、天地開闢の再現と謳われる、何人を殲滅し消滅奉る生滅の剣…。
糸が切れたように時臣は頭を抱えこんだ。
「こんな序盤戦でエアを解放するとは…あり得ぬ!あり得ぬ!あり得ぬ!確実に!」
そう心中で連呼するが、一向に事態は改善しない。
時臣もそれを重々理解できてたが、どんな優秀有能な人間でも一度折れるとそうそう支柱は修復は出来ない。
あまりにも聖杯戦争の恐ろしさを味わい尽くした、時臣はがっくりと項垂れるとまた逃避の世界に入り込んだ。