Fate/kratos 第四次聖杯戦争にクレイトスを招いてみた   作:pH調整剤

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強襲

外の理から魔人達を召喚せしめた、魔の初夜から4日目。

冬木市の朝は何の変哲もなくまた訪れた。

諸人は起床し、各職務を全うするための事前用意を開始する。

そして人工無機物であるこの棟梁も例外ではなかった。

朝焼けが水面を染めて、深緋に染まった未遠川を跨ぎ、鎮座するのはビル郡が林立する新都と住宅街が立ち並ぶ深山町を繋ぐ冬木大橋。

そんな大橋の最初の任務である拠点役を勝手まま命じた、カモメ達は弧を描くワイヤーアーチと主塔を占拠し餌狩りの機会をじっと伺っていた。

これを終えたら、次は自らを建造した人間達の橋渡しとなる。今日もまた経済を循環させるために車両の通行が激しくなるだろう。

 

そんな、また慌しい冬木の儀礼的日常が始まったのである。

七人のサーヴァントと魔術師たちを除いて。

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遠坂葵と遠坂凛の妻子は聖杯戦争の勃発を要因に、時臣から安全観点のリスクから逐電を命じられていた。

場所は葵の生まれ育った実家の禅城家である。

そんな慣れしたんだ久方振りの我が家で、葵は主婦の日課である朝食の下ごしらえに取り掛かっていた。

嫁ぎ先と違って潤沢な素材はなかったが近くのスーパーマーケットで用は足りた。

献立は日本の食卓で基本的な物品を軸にした。白米、味噌汁、納豆、鯵の開き、カボチャの煮つけ、金平ごぼう、ひじき、漬物。

冷蔵庫を覗くと、パックキムチとりんごの切った残りが入っている。

ついでの冷蔵庫の掃除もしてしまおう。

と朝餉の献立を追加した葵は、さっそく味噌汁作りから着手した。

良家の娘とは言え、食事については質素な食事の方が好ましいと感じていた。

「欲しがりません、勝つまでは」

とまでは行かないが戦時中の標語に倣うが如くだった。

今もなお生き馬の目を抜く、悪辣な命の駆け引きをする夫を、尻目に宮廷料理を箸で摘めるわけもない。

自主的な謹慎さを無意識ながら、本籍から転移しても遵守するのは葵の聖杯戦争への意気込みとも言えた。

葵は包丁で豆腐に切れ目を入れつつ、逐電を命じた主の奮戦する姿を脳裏に浮かべる。

愛弟子の言峰さんは心配ありませんと、憂虞する私を斟酌してくれたけど……。

どうも気が気でない。そしてもう一つの心配事。

間桐家に接受された桜と家出人、間桐雁夜。

風の噂では聖杯戦争のマスターとして参加などという、根も葉もない噂が耳に入っていた。

時臣と綺礼との横繋がりから、水漏れのように沸いてきた風説であった。

魔道から出奔した彼が何故帰ってきたのだろう。

桜を救うため……?そのために魔術師としてあの人を討ち果たすのだろうか。

あくまで最悪の推定に過ぎないが、想像しただけでぞっと、悪寒が体内を蹂躙し、頭蓋の神庭を痛点として刺激した。

魔術師として聖杯の争奪戦に参加するということは、夫を加害対象して看做す遠坂家の宿敵として見ろと同義。

無論、魔術師の妻としての心得と自覚は葵とて不勉強な訳ではない。

だが幼少時から友誼を育くんできた"大切な友人"に対していきなり敵意を向けろと、時臣の勅令でも無理だと突っぱねるだろう。

それは葵の和を取り持つ人格性の美しき長所であり、またそれを理解できぬ者には大いなる勘違いを引き起こした食虫花の短所。

その長短の意識に苛まれつつ、包丁の柄を震えながら握り豆腐をさらに刻んでいくが、これ以上切れなかった。

葵は沈思あまり豆腐を細切れのペースト状にしたことにようやく気づいた。

忘我の熟思に顔を紅潮させながら新たな豆腐を調達した。

「どんな時でも余裕を持って優雅たれ」

遠坂家で代々伝播されて来た金言。時臣も度々謙虚な信者が祈りの誓言を捧げるように、口ずさんでいた。

葵はその言葉を心中に穴に深く、充填し時臣の妻としての有り方を再認するのであった。

ふと…またその穴に皹を走らせる、思考が開く。

桜……ちゃんとご飯食べてるかしら。と間桐家に滞留する愛娘の食生活を案じながら、お玉杓子から鍋に味噌を溶かし込んだ。

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クレイトスのマスター、間桐雁夜は懊悩していた。

悩みの種は予想するまでもなく、クレイトス本人の問題である。

自前の雑な聖杯戦争知識に依ると、魔力供給無しに自立行動を可能とする、三騎士クラスの弓兵のみに備わる固有スキル「単独行動」がある。

クレイトスは度々雁夜のパスから切断し、単独で冬木市を闊歩する放浪癖があった。

正確には現世での散策などを楽しむ趣味などはないだろうから、確実に獲物を捜索するための行方不明である。

繰り返し言うが、彼はバーサーカーである。固有スキルに単独行動は付加されていない。

それなのに何故ここまで長時間魔力供給を断って、転転できるのか実に不可思議だった。

バーサーカーはまさか俺の余命の尽きに懸念しているのか?だから出来るだけ早くサーヴァントを狩り出そうと必死に……。

召喚日の問答で、千里眼の如く解明されたが、こんなことだったら無理でも惚けておくべきだった。

別の意味で寿命が縮まる……。雁夜は溜息と共に疲弊を吐き出した。

「マスター、見つけたぞ」

本皮のソファーで悩める銅像となっていた雁夜は、唐突に殺気を孕んだ声を掛けられたことによって元の状態に復帰した。

「脅かすなよ!バーサーカー」

心臓をどぎまぎさせながら、帰還した従僕の報告を受ける。

「で、何を発見したって?サーヴァントか?」

「あぁ、四体のサーヴァントと思しき連中が海岸線近くに集まってる。私たちも参じるべきだろう」

凛然と大軍との戦闘を望み、単機で殲滅しつくさんとする、クレイトスに雁夜は汗を玉にして遮った。

「四体……?!そんな団体で集結した奴らを相手にしてどうする気だ!」

「もちろん全体殺す、当然だ」

クレイトスの返答は論点が翼が生え、増設されたジェットエンジンが点火し、大気圏を超突破し宇宙の彼方へ飛翔していた。

雁夜は本人には心当たりがまったくない暴力的反論を、なるべく過去の事例に則って、逆鱗に触れないように慎重に諭す。

「だからお前一人で勝てる勝算でもあるのかってことだ」

「無論。私、一人では不服か?」

森羅万象の確定事項を述べるが如く、クレイトスは断言した。

雁夜も歴戦のスパルタ戦士から発せられる、何よりも雄弁な鼻を麻痺させる今まで浴びてきた血しぶきの臭いに圧倒されかけていたが、とりあえず計画だけでも聴取してみることにした。

「で、どうやって?」

 

「だから全員殺す」

 

秒針が半周した。

つまり……クレイトスの弁によると、戦闘計画的な緻密で面倒な図は側溝に投げ捨て、霊力迸る虎の巣に突撃し四体のサーヴァントを殺戮するのが本人の意する真である。

まさしく太古に怪物と兵士の死体運河を幾万開設した、戦争の神のみしか思案できない作戦計画であった。

だが雁夜はもちろんそれを知る由もない。

痺れを切らしたクレイトスは獲物のブレイズ・オブ・カオスを背から除装し点検し始め、雁夜に折れぬ気配をさらに強めた。

「これ以上、議論を交えても時間の無駄だ、スパルタは水と時間を金穀と同価値として扱う」

「尻込みするなら、この屋敷に蟄居していればいい。はっきり言ってマスター…貴様は重石だ」

唐突に従僕より宣言された戦力外通告。

バーサーカー陣営のCEO、狂戦氏は暫定マスター間桐雁夜選手に、身体的不健康を理由に陣営から退団するよう表明を強めたが

雁夜選手はそれを不服として、意向を拒否。

「俺はまだ戦える。お荷物だという認識はまったく当たらない」

とCEOに猛反発しこの通告は次の契約更改まで縺れる模様…。

 

って違う。雁夜は心中でスポーツ新聞風の文面を叩き割った。

「いいか、お前がこの冬木で現界していられるのはな、俺が魔力パスとして供給してるからだ!それなのにお前は勝手にパスを…?」

―――いや待てよ。先ほど浮かんで消失した疑問が雁夜の心を噛んだ。

そもそも何故バーサーカーは固有スキル無しに、パスを切断して冬木市内を散策する武力偵察をできたのだろうか?

バーサーカーは半日以上も間を置いて燃料補給する事無しに、市内を歩き尽くしていた。

だが当然その間、ガソリン無しに一人でに車は移動できたということになる。

まさか食事?サーヴァントも食物の形でカロリーを摂取すれば、魔力供給できたことになるのだろうか…。

そもそも肝心の路銀すら渡していなかったし、万が一の何か問題を起こした時用に、地方新聞やニュースなどのバーサーカーの目撃情報にはなるべく目を通した。

だが「白色巨漢刺青男。白昼堂々食い逃げか」などというセンセーショナルなニュースはいくら漁っても発見できなかった。

と、なると何らかの形で、魔力供給を行っていることにはなるだろう。

雁夜はその何かを推理するために、じっと不機嫌そうなバーサーカーを観察してみる。

弄んでいるのは、貴金属で鍛造されたと予想するの鎖鎌の武装だった。

そう言えば召喚当初からこれを肌身離さず身に付けていた。

これがバーサーカーの宝具なのか?まぁ金色の右篭手の線も無くは無いが…。

とにかくファクターを手に入れた雁夜はそれを問いただした。

「なぁ、バーサーカー…それ」

丁度、検め終わった鎖鎌剣を元の背刀室に戻そうとする、それを指摘する。

「これか?これは私の契約である対価だ。そして今までこれで全て戦い抜いてきた」

と再び抜き、象嵌された刃面を鬱々しげに覗き、何かを懐古しているようである。

成る程。雁夜はわざわざ供給源を問うことなく真相のパズルを完成させた。

これが魔力の貯蔵タンク役を果たしていた訳か。

バーサーカーは過去の戦歴で確実に人外ではない相手も切り伏せてきてるのは薄々察してたいたが、その血を何千年も吸い込んで来た愛刀が魔力を宿したと考えるとすっと筋が通る。

それがこの四日間の半日近くパスを切断し、あたかも単独行動のように振舞っていた正体だった。

流石に無尽ではないと思うが、刀に膨大な残滓魔力と雁夜の供給を合算すると、永久機関の如く動けることになる。

これはますます手に余ることになるな、と解決した後も未来の疲労が尾引いたのを感じたのか、ささやかな頭痛を感じた。

 

そしてついに雁夜は竜虎合い乱れる、戦場の地へ踏み入れる決心を固めた。

「分かった、バーサーカー。お前の言う通りに従う。ただしこれだけは守れ。四体を一気に相手するな。分断して戦うか、単独を狙撃しろ」

やっと雁夜が言い分を食んだ事に安堵したのか、クレイトスは主人の言いつけ混ぜ返しながら、こう皮肉った。

「構わんが、お前が来ないと私は完全に約定を守り抜けるか分からんぞ。戦場は絶えず変化する自然だ」

「机上の石駒でしか戦えない愚鈍な軍師は、その事に気づけず煮え湯を飲まされてきた。私の代でもな」

雁夜はそれを受け、顔を崩しながらまた返す。

「重石はいらないんじゃなかったか?それとも俺は首輪役の重石か?」

「貴様は邪魔だが、安全な場所で脚を崩して棒を振る軍師も癇に障る。共闘するなら共に首を晒しあい守りあうのが戦の倣いだ」

「水と時間は金穀だったっけか?兵隊の"水"は輜重として重要だもんな。精々頑張って守ってくれよ。狂戦士」

クレイトスもまた顔つきは不動ではあったが、雁夜流の檄はスパルタの魂に可燃物質を運び爆ぜさせた。

正直、雁夜もバーサーカーの言による、お荷物発言は正論だと思った。

だったら家に閉じこもっていれば戦力低下を阻止できると、普通の人間はそう考えるだろう。

だが仮にクレイトスが拒んでも付いていきたい理由が二つあった。

まず、一つ目。

クレイトスが愛刀、鎖鎌剣がクレイトスのパス供給が足りぬ分を、補うドロップタンクとして機能しているのは先程辿りついた事実だが。

雁夜が危惧しているのは、戦闘時における魔力欠乏である。

己が既知しているのはあくまで現界を維持するだけは充足しているというだけで、サーヴァント同士の戦闘における残余量については当然把握していない。

そもそもどれだけの貯蔵量があるのかすら、克明と理解できていない。

土壇場で魔力欠乏で、死亡などという間抜けな死に方は狂戦士ですら御免こうむるとだろう。

そして、二つ目。

それは見極めであり能力の試金石。

俺はコイツの力をまだ見ていない。

これほどまでに多数のサーヴァントより覇の独占を強調するのは己が最強たる自負だろう。

と雁夜は勝手まま思案の海に沈む。

―――汝、自らを以って最強を証明せよ。

この現の通り、見定めさせて貰おうじゃないか。お前の実力って奴を。

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