比企谷くんの同級生(仮)   作:ほーき。

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短いですが、とりあえず投稿します。
続きもなるべく早くあげます。


9話

「っ! 痛い! お兄ちゃん死んじゃうから!」

「うっさいよ! 何でこんなになるまで……」

「こ、小町っ」

「はいはい。優しい妹がいて、お兄ちゃんは恵まれてるね」

「ばっ、バカ叩くな」

 

 愛する妹こと、小町が背中をバシッと叩く。

 非力な妹に叩かれ悲鳴をあげる兄という、何とも恥ずかしい構図は比企谷家で行われていた。

 

 * * *

 

 連日のテニス特訓で精神よりも肉体がボロボロになっていた。家に帰ると、ソファーに沈むように、うつ伏せになる。この光景も日常の一部と成りつつある頃。

 今日も今日とてソファーに沈み、ボケ老人のごとく唸るように小町の名を呼ぶ。両親が社畜もとい、共働きのこともあり、時々小町が料理を作っており、今日もフリフリのエプロンをあざと可愛く着こなし鼻歌を奏でながら品数を増やしていた。

 そんな中、残念な兄がうめき声で邪魔をされたのが、癪に触ったのかプリプリと怒りながら近づいてくる。

 

「お兄ちゃんはアレだね……」

「人を代名詞で呼ぶな」

「じゃあ、ゴミぃちゃん」

「やっぱ、代名詞でお願いします」

 

 妹にいいように扱われ自尊心を失いかけているが、何とか持ちこたえる。

 

「で、用件はなに?」

「あ、はい。湿布を背中に貼って頂きたくお呼びした次第です」

「妹相手に使う言葉遣いじゃないよ。お兄ちゃん」

 

 と、言いつつテキパキと棚から救急箱を持ち出し、湿布を探す小町――マジ天使。

 

 そして冒頭に戻り、身体中に湿布を貼ったもらった俺は動けずに、小町にペチペチと身体を叩かれていた。

 

「どうして、急にテニス何かしだしたの?」

 

 そう言われ気づく。奉仕部に関して、小町には一切話していなかった。

 や、だって、ねぇ……?

 あの事故の当事者三人が集まり部活をしている。何て言っても小町は邪推しかしない訳で……。

 とはいえ、隠すほどのものでもないので、部活参加の経緯と戸塚の依頼についてかいつまんで話す。

 

「ふーん。で、お兄ちゃんはどっちが好きなの?」

「小町ちゃん、人の話聞いてた?」

「二堂さんって、中二の頃お兄ちゃんが好きだった田代さんに近いのかな? で、雪ノ下さんは折本さんだよね。共通項は元気だけだけど」

 

 はーん、無視。完全無視。

 しれっと、人の過去抉ってくるわ。うちの妹はやりたい放題ですねぇ。

 

「そんなんじゃねぇよ。そういうのは止めたんだよ」

「恋愛?」

「……」

「ありゃ、黙っちゃった。……そっか、良い人たちだと思うよ。お兄ちゃんが入院したときも丁寧に気遣ってたよ?」

 

 確かに一理ある。

 雪ノ下には勉強を教わり、二堂とは手紙で暇つぶしをしていた。

 今までの学生生活で向こうから関わってきたことは初めてかもしれない。しかし、ここで変な勘違いを起こし、主体的に行動し今の繋がりを無くすのはおしい。

 こんなことを考えている俺に苦笑いを内心浮かべる。

 

「まあ、ぼちぼち上手くやろうとは思ってる」

「お兄ちゃんのぼちぼちは信用ないけどね~」

「ほっとけ」

 

 暖かい視線に気まずさを覚え小町から目を外す。

 

「明日、雪ノ下さんたちとテニスの練習するんだよね?」

「あ? ああ、雪ノ下の知り合いにテニスコート運営してる人がいて、そこが貸してくれるってよ」

「ひゃー、金持ちは知り合いも凄いね」

「言い方、言い方」

 

 少々ゲス小町が出てくるのは、さておき小町のリアクションも分からなくはない。

 あれだな、底辺は底辺が集まってくる。その逆もまた……なんだろうな。……たぶん。

 

 あと、一つここで話すとすれば二堂が驚いていたことだ。……まあ、あいつ表情はあまり表に出さないから、出した時の印象が色濃く残るのかも。

 二堂曰く、雪ノ下が誘うのは珍しいというか、前例がないようだ。前例がないとは、ここまで踏み込んで誘ってはこなかったことである。

 社交的な彼女が? という疑問は二堂がすぐに答えを出した。

 

「基本的に誘われる確率の方が圧倒的に高いんですよ。……宝くじみたいな物です。当たれば、もとい誘いに乗ってくれればお金は貰えませんが、ステータスは上がります。……学校生活という狭い世界では圧倒的な輝きを放っていますから」

 

 まあ、リア充はリア充で苦労があるのだろうくらいにしか思えない。

 誘われたことないですし……。

 

「明日に備えて寝るわ。……あと、湿布貼ってくれてありがとな」

 

 小町にお礼を言いゆっくりと立ち上がる。

 ソファの脇で固まっている小町の顔を見ると、目を丸くしこちらを呆然と見ていた。

 

「なんだよ」

「お、お兄ちゃんが感謝の言葉を言うなんて」

「二度と言わん」

「じょ、冗談だってば、相変わらず冗談が通じないなぁ~。ま、でもこんなこと滅多にないからね。どういたしまして」

 

 ニコニコしながら軽くお辞儀をされるとこっちが照れるんですが……。妹相手にドキドキしてきた。

 もうこれは病気ですねぇ。

 ん? 病気か……。病気なら明日は行けないな。

 などと、一人で考えながら自室に戻り眠った。

 翌日、ニコニコしながら手を振る雪ノ下と申し訳なそうに佇む二堂が玄関にいることも知らず。

* * *

 

小町と話した晩はぐっすり眠れ、翌日――まあ、今日なのだが、比較的快適に起きることができ、ジャージやら、必要な物を詰め込んでいた。

そこで、ふと気づく。どうして、少しワクワクしているのだろうかと。

……戸塚だな。休日に戸塚と部活とはいえ、一緒に過ごせるのだ。

それにこれから経験するだろう地獄の特訓にワクワクしているわけがないと、一人納得していると玄関からチャイムの音が鳴る。

週末の朝に一体誰が、と思いつつ準備を進める。小町が対応するだろうし出なくていいか。

しかし、玄関に向かう元気な足音が聞こえない。

む? どうやら小町はまだ寝ているようだ。

両親は週末なこともあり、昼過ぎまで寝ているはず。

仕方ない俺が出るか。

開けた玄関の扉から顔一つ出し訪問者を伺うとそこには……。

 

「ひゃっはろー」

「おはようございます」

 

元気に挨拶する雪ノ下と、申し訳なさそうに佇む二堂がいた。……えぇ、何でこの子ら俺の家知ってんの?

と疑問を抱きつつも、咄嗟に扉を閉めようとドアノブを引いた俺は悪くない。しかし、完全に閉じることはなかった。

雪ノ下が扉の隙間から顔を覗かせたのである。

 

「っ! ……おい」

 

危ないだろ。ちょっとこの子無邪気過ぎませんかね。

ドアノブから手を離し、諦めたことを示す。

それに満足したのか、微笑みながら改めて挨拶をしてきた。

 

「おはよう、比企谷くん」

「あぁ、おはよう……。じゃなくてだな」

「うんうん、良い天気だね! じゃあ、行こっか」

 

わぁ、強引。有無を言わさないあたり、先ほどの俺の立ち振舞いに些か怒っているのかもしれない。

にしても、その笑顔どうにかなりませんかね。怖い。

 

「いや、まだ朝食も食べてないし、こんな朝に押し掛けなくても、ちゃんと行ってたぞ。……多分」

 

多分を付けるところが俺らしい。自分クオリティーに感心していると、雪ノ下はその答えを準備していたのかスラスラと喋る。

 

「うん、朝早くに来たのはごめんね。でも、比企谷くんってば、体調が~とか、家族が~って言い訳にして来ないかもしれないじゃない?」

 

最後の「じゃない?」のところで首を傾げながらウインクしないでもらえますか。ちょっとときめいちゃうから!

しかし、そこまで信用されてないといっそ清々しい。

 

「よく分かったな。比企谷検定二級レベルだわ」

「そんな気持ち悪い検定はいらないかな」

 

言ってて自覚はあったが、そんな良い笑顔でおっしゃらなくてもいいんじゃないですかね。

 

「それに、朝食は作ってきたよ」

 

言い忘れてたよ、と雪ノ下は一層笑みを深くする。

 

「……」

 

うーん。そういうことじゃないんだよなー。やっぱり、どこか人よりずれている。いや、多分本人の中じゃ、数手先読んでのこの行動なのだろうが……。

ふと、先ほどから雪ノ下の側で静かにしていた二堂に視線を向ける。

 

「……えっと、一つ言えることがあるとすれば、雪ノ下さんの作るサンドイッチは格別です」

 

二堂はそう言うと、そっと視線を俺から逃げるように外した。

……この子、雪ノ下に懐柔されてない?

懐疑的な視線を送ると、さらに首を横に動かす。これは確定ですね。

……サンドイッチか、まあ、興味ないこともないな。ましてや、可愛い(見た目)女の子の手作りだし。

 

「とりあえず準備してくる。戸塚またしてもあれだしな」

 

車内にいるであろう戸塚を待たせる訳にはいかない。重い腰を上げ、すでに準備していた荷物を取りに向かう。

すると、後ろから雪ノ下が付け加えるように話す。

 

「あー、戸塚くんはいないよ。というか、今頃、部活頑張ってるんじゃないかな?」

「……は?」

 

戸塚は?

 

 

 

 

 

 


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