ヨン様の元だけは嫌だった   作:野山林檎

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今回は、前半斬魂刀とのお話。後半はストーリー沿いです。

それでは、どうぞ!


転生04

 

 ここは、どこだ?今いるのは星空の中。つまり、浮いてる。

 

『俺の……心の中?』

 

 この景色は、前に2本の斬魂刀の名を聞いた、もしくは屈服させた時に見た。

 

『……てことは、頭痛で気絶しちまったって訳だ』

 

 クソッ……。あと少し耐えれば、なんとかなった筈なのに。

 

『そもそも、なんで頭痛があるんだろ』

 

『知りたい?』

 

『うおっ!?』

 

 独り言のつもりだったけど、後ろに少女がいた。

 

『頭痛の理由が知りたいの?』

 

 袴を着ていてまだ幼い少女。正真正銘俺の斬魂刀である“天染の巫女”だ。そういや、頭が今は痛くない。

 

『うん。知りたい』

 

 すると、巫女は心底呆れた表情を見せた。

 

『いいわ、教えてあげる。それはね』

 

『それは………?』

 

 巫女は俺を指さしてこう言った。

 

『私が、まだ貴方を完全には認めていないから。貴方が知っている私の名前は本当の名前じゃないの』

 

『なっ!?』

 

 おいおい。確かに、何人かはいたよ?斬魂刀に本当の名前を教えて貰えてなかった奴。でも、まさか俺もその1人だったとは。不覚だ。

 

『私は、貴方のことは認められない』

 

『なんで?』

 

 教えて貰えないと困る。

 

『未熟な貴方が私を使って死んで欲しくないから』

 

『死ぬ?』

 

 確かに俺は未熟だ。この世界に来てから努力はしているけど、圧倒的に経験が足りていない。現実ではただの学生だったのだ。いきなり殺し合いなんて無理がある。

 

『そう。私の力は使い方によっては大きな力となる。でも、そのかわりに使い方を間違えてしまえば所有者自身を苛む』

 

『……』

 

『私は見たくないの。貴方には死んで欲しくない』

 

 なにも言い返せなかった。斬魂刀に自身を心配されている。“死んで欲しくない”と。だけど。

 

『それでも、俺は教えて貰わなきゃならない』

 

『どうして?』

 

『俺は、仲間を助けたいんだ。だから、君の力が必要なんだ』

 

 すると、彼女は困った顔をした。

 

『どうして?死ぬって分かってるのになんで使おうと思えるの?』

 

『仲間を助けるためには君の力が必要なんだ』

 

 すると、彼女は俯いた。

 

『なら……』

 

 

 顔を上げた彼女の顔には、覚悟が見えた。

 

『なら、証明して。貴方が私を使いこなせる実力を持ってるって事を』

 

 彼女の手には自身の斬魂刀が。そして、俺の手には浅打ち。仕方がない。それなら、

 

『それなら、行くぜっ!』

 

 

 

 一方、京楽と戻ってきた浮竹は刀を打ち合わせることで見事説得に成功。浦原も事情説明したことで味方に付けることに成功した。他にも砕蜂は夜一が。白哉は一護が。冬獅朗&やちるが剣八を、それぞれ説得したことにより、全員の隊長が無事に藍染が黒幕だということに辿り着いた。

 

 なお、この世界では雛森は殺されてはいない。理由は、俊弥が七番隊隊舎へと就任し、現世へと向かった翌日。雛森は七番隊副隊長へと就任していた為、鏡花水月には掛かったものの、最悪の展開だけは回避されていた。

 

 

 

 

 

 なんでだ。

 

チャキン

 

 俺の目の前で刀を鞘に収める巫女。ここまでの実力差があるとは思っていなかった。

 

『破道の八十八 飛竜撃賊震天雷炮!!』

 

 俺の手から放たれた巨大な光線。だが、これも先程と同様、巫女に届くことは無い。

 

『私には効かないわ』

 

 短刀を前にかざして、“消し去れ”と言うだけで全て吸い込まれてしまう。そして、

 

ズガァァァン

 

『ガァァッ!!!!』

 

 突如後ろに現れた空間から飛龍撃賊震天雷炮が帰ってくる。

 

 先程から同じ事の繰り返し。斬り掛かれば容易く受け流され、鬼道は全て返される。

 

『なんでだ……』

 

『貴方に迷いがあるから』

 

『迷い?』

 

『そうよ』

 

 迷い。俺には迷いなんて……

 

『貴方は、無意識に自分が傷つく事を拒否してるの。仲間を助けるといっておきながら』

 

 そう、その通りだ。確かに、俺は自分にはいつも危害が及ばないようにしてきた。

 

 基本的に、敵の無力化。これだけを重視してきた。敵を傷つけない。それも確かにあるだろう。でも、俺は心のどこかでは自分の事を守っていた。敵を無力化していたのは自分を攻撃させないためだった。

 

『貴方のその意識は、いずれ貴方を苦しめる』

 

 そうなのかもしれない。確かに、現実で斬られる事なんて無かった。だから、京楽さんとの試合の時に斬られた恐怖は今でも俺に根付いているのだろう。

 

 一護は何度斬られても立ち上がったというのに。そうだ、一護はどんな時でも立ち上がった。なら、俺だって……

 

『おい』

 

『……なに?』

 

『行くぜ!』

 

 巫女に向けて走り出す。今度は、俺の全てを賭ける。

 

『縛道の六十一 六杖光牢』

 

 六の光の帯は巫女目掛けて飛んでいく。だが、

 

『甘いわ』

 

 当然、彼女は刀をかざして防ごうとする。

 

『ここだぁっ!!!』

 

『えっ!?』

 

 瞬歩で六杖光牢が巫女に当たるよりも速く、彼女を抱き寄せる。

 

 そのまま、六杖光牢は俺と彼女を突き刺す。当然、ガードは発動しない。

 

 気づいてはいた。ガードするには刀をかざす必要がある。なら、そうできないようにすれば良い。

 

『はっ……離れなさい!!』

 

 じたばたと暴れる巫女。俺は、ここで最後の攻撃に出る。

 

『一緒に喰らって貰うぜ!!』

 

『なっ!?まさかっ!!』

 

 そう、そのまさかだ。

 

『破道の九十 黒棺』

 

 巫女を抱き寄せたまま、黒棺を受ける。当然、物凄い重力によって俺の体は引き裂かれていく。彼女も同様だ。

 

 黒棺から解放された時には、既に俺の体はボロボロになっていた。彼女はあまり傷を受けていない。俺が抱きしめる形で護った。

 

『それが、貴方の覚悟。そして、答えなのね』

 

『……うん』

 

 彼女も、俺も星空の中を仰向けで浮いている。故に、彼女の表情は見えない。

 

『いいよ』

 

 俺の方を向いた彼女の表情は、今での飄々としたものではなく、年相応の可愛らしい笑顔だった。

 

『私の本当の名前はね………』

 

 

 

 

 

 

 俊弥が加わった事によって多少原作から変わったものの、根本的な所は変わっていなかった。

 

 

~恋次~

 

『断るって言ったんです。藍染隊長!』

 

『なるほど』

 

 ぜってぇに藍染隊長にルキアは渡さねぇ。俊弥と一護との約束だかんな。

 

『君は強情だからね。阿散井君』

 

 一歩ずつ、着実に近づいてくる。

 

『朽木ルキアだけ置いて下がるのが嫌だと言うのなら、仕方ない』

 

 なにをするつもりだ?

 

『こちらも君の気持ちをくもう。抱えたままでいい』

 

チキッ

 

『腕ごと置いて下がりたまえ』

 

 やべぇっ……。藍染隊長が斬魂刀を抜きやがった。俺は、咄嗟に後ろへ飛んで距離を取ろうとした。だが、

 

一閃

 

 気づけば、俺が斬られていた。

 

『グァァ…………』

 

『れっ……恋次??』

 

 だけど、まだ浅い。まだ十分動ける。

 

『やれやれ。随分上手く躱すようになったじゃないか。阿散井君。成長したんだね、嬉しいよ』

 

 こうして話し掛けられている間にも腕からは血が流れていく。

 

『だけど、出来れば余り粘って欲しくないな。潰さないようにアリを潰すのは、力の加減が難しいんだ』

 

 もう、殺しに来てやがる。

 

『僕も、元君の上官として、君を死なせるのは忍びない』

 

『ハァッ……ハァッ……そうかっ。そうかよ、みんなアンタの手の中で踊らされてたって訳かよ!』

 

『君もだ。阿散井君』

 

 藍染隊長のあの不気味な笑みはそう言うことだったってのかよ。

 

『よぉ~く分かったぜ。もう、アンタは俺の知ってる藍染隊長じゃねぇって事がな!』

 

『もう、君の知っている藍染惣右じゃない……か。残念だが、それは錯覚だよ』

 

『なにっ?』

 

 藍染隊長の、笑みが増した。

 

『君の知る藍染惣右など、()()()()()()()()()()()()んだ』

 

 ここで、俺も我慢の限界が来た。ルキアを抱えたまま、全力で跳躍する。

 

『吠えろ!蛇尾丸!!』 

 

 剣先が伸びていき、藍染隊長へと向かっていく。

 

『始解か!』

 

 だが、それは藍染隊長の斬魂刀によって防がれる。

 

『そんなもの、時間稼ぎにもならない』

 

『そんなのっ、分かんねぇさ!!!』

 

 鞭のようにしならせて、真っ正面から狙う。

 

『やれやれ、困った子だ』

 

 

キィィィィン

 

 甲高い音とともに、蛇尾丸が素手で止められた。

 

『やはり、君が一番厄介な様だ。阿散井君』

 

 そして、藍染隊長の斬魂刀によって俺の蛇尾丸はへし折られた。

 

そして、

 

ズバァァァァァ

 

 気づいたら、既に俺は背中を斬られていた。有り得ねぇ。

 

 もはや、立っていることすら出来なかった。

 

『恋次ぃ!!!』

 

『ガハッ……ハァッハァッ』

 

 呼吸が荒くなる。まじでやべぇっ。

 

『さようなら。朽木ルキアを置いて下がりたまえ』

 

『いやだ。誰が離すかこの馬鹿が!』

 

『そうか、残念だ』

 

 藍染隊長が斬魂刀を構える。そして、降ってくる……。

 

 ことは無かった。藍染隊長の斬魂刀を受け止めている真っ黒い斬魂刀。

 

『よう!どうした?しゃがみ込んで。随分ルキア重そうじゃねぇか。手伝いに来てやったぜ、恋次!』

 

 一護だ。一護が来た!

 

『一護……』

 

『おう』

 

 だが、一護も傷だらけだ。

 

『あいつが、藍染か?』

 

『あぁ。逃げても無駄だぜ?』

 

『分かってる』

 

 もう、こいつらからは逃げ切れねぇ。なら、せめて動けねぇようにでもするしかねぇ。

 

『なんとか逃げれねぇようにするしかねぇ』

 

『あぁ、いっちょ共同戦線と行こうぜ!』

 

 俺は、もう一度蛇尾丸を構える。

 

『今から、俺が使う技が当たれば必ず隙が出来る。そこをやれ』

 

『分かった』

 

 一度しか使えねぇ技だが、ここで使わなきゃ意味がねぇ。

 

『 狒牙絶咬!!!』

 

 節の途切れた蛇尾丸が浮き上がり、藍染隊長の周りを囲む。それに気を取られている隙に一護が攻める。

 

『ウォォォォ!!!』

 

 一護の渾身の一撃は、藍染隊長の()()()()に防がれた。

 

『なっ!?』

 

 そして、一護が逆に斬られた。

 

『そっ……そんな……クッ、ソッ……』

 

 俺も、斬られた。そこで意識朦朧とし始める。

 

『グッ……』

 

『いっ、一護!!』

 

 まだ、一護は俺ほどじゃない。

 

『まだ意識があるのか。可哀想に』

 

 

 そこから、話は崩玉へと変わった。浦原喜助の話。崩玉の話。そして、それがルキアの中に隠されている……と。

 

『そう、それがその答えだ!』

 

 突如、地面から緑色の何かが生えて、藍染隊長の腕も同じ色であり尖っているそれに変わる。

 

 そして、藍染隊長はそれをルキアに刺した。

 

『なっ!?』

 

『グハッ』

 

 落とされたルキアの体には、大きな穴が開いていた。そして、元に戻った藍染隊長の手の中には隊長の言う崩玉があった。

 

『ほう、魂魄自体は無傷か。素晴らしい技術だ』

 

 見れば、ルキアの穴が塞がっていく。

 

『でも、残念だ。君はもう用済みだ。殺せ』

 

『しゃあないなぁ』

 

 そういって、動いたのは市丸隊長だった。

 

『射殺せ、神槍』

 

『やめろぉっ!!!』

 

 だが、伸びる刀は止まらない。それはルキアへと伸びていき……

 

『『っ!?』』

 

 朽木隊長がその身で受けた。自身を犠牲にして護ったんだ。

 

『兄さまっ!!』

 

 膝をつく朽木隊長。

 

『なぜ……なぜ私をっ?』

 

 だが、藍染隊長は止まらない。

 

『今度こそ、終わりだ』

 

 構えられた鏡花水月が二人目掛けて振り下ろされる。

だが、またしても奇跡は起こった。

 

『クッ!?』

 

 斬られたのは、ルキアでは無く藍染隊長の方だった。少し先には刀を振り抜いた姿勢でこちらに背を向けている奴がいる。着ている隊長羽織の背には『七』の文字。

 

『よう、待たせたな!』

 

『俊弥っ!!!』

 

 俺らの希望がやって来た。

 

『久しいね、俊弥君』

 

 片腕を無くした藍染隊長だが、まだ余裕が残っている。

 

『そうですね、藍染隊長。貴方を倒しに戻ってきました』

 

『そうか……』

 

 再び、刀を構えようとする藍染隊長。しかし、最早それすらも出来なかった。どこからか現れた夜一さんと砕蜂隊長によって動きを完全に封じられる。同様に、市丸隊長には日番谷隊長とその副隊長が。東仙隊長にも浮竹隊長と京楽隊長が。他にも総隊長や卯の花隊長などほぼ全員の隊長がいた。

 

『もう、藍染隊長達に逃げ場はありません。諦めて下さい』

 

『ふむ、終わった?何がだい?』

 

 だが、まだ様子がおかしい。

 

『この状況を見れば、頭の良い藍染隊長なら分かるでしょう。逃げることは不可能ですよ』

 

『そうか、だがすまない。もう時間だ』

 

 すると、それをいち早く察知した夜一さんの声が響いた。

 

『離れろ!砕蜂!!』

 

 二人は咄嗟に飛び退く。すると、藍染隊長の周囲に光の円柱が現れる。それは、真っ直ぐ空へと伸びていて……黒脾へと繫がっていた。

 

 他の二人も同様、円柱に包まれて浮いている。

 

 総隊長曰く、あの光には触れられないらしい。

 

『俊弥君、機会があればまた会おう』

 

 浮竹隊長が、藍染隊長を睨んでいる。

 

『地に落ちたか、藍染!!』

 

『元から、誰も天になど立っていなかったんだよ』

 

 そういって、藍染隊長は掛けていた眼鏡を外し、潰した。そして、髪を逆立てる。

 

『これからは、私が天に立つ』

 

 藍染隊長は、その言葉を残して黒脾へ消えた。

 

 そこで、遂に俺にも限界が訪れたーー。

 

 

 

 




なんか、原作の内容が多くなっちゃった。しかも、まだ一護あんま活躍してない。いいのかね、こんなで。

読んで下さりありがとうございました。

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