白い司令塔(仮)   作:0ひじり0

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ひじりです。

楽しんでくれたら幸いです♪

では、どうぞ。


第拾陸話

「提督。今日からは私の寮になりますね。」

 

「すまない。迷惑をかけるよ。間宮。」

 

長門の寮で一週間が過ぎて今日からは間宮の寮にお世話になる。

間宮は戦いには参加はしないが100人の艦娘が押し寄せる食堂をいくら手伝いが居るとはいえ、八割の作業は間宮がこなしている。

一言で言うならこの鎮守府の縁の下の力持ちなのだ。

そして、最近になって配属された伊良湖にここでのノウハウを教えているらしい。

 

「電ちゃんから秘書艦も担当して欲しいと言われましたので教えて頂けますか?」

 

「もちろん。構わない。」

 

適当に世間話をしながら執務室に向かう。

 

「そう言えば、食堂は誰が担当するんだ?」

 

「電ちゃんと鳳翔さんに伊良湖の三人が中心に回すらしいですよ?」

 

「そうか。それなら心配は要らないな。」

 

「はい。」

 

執務室に着いて中に入る。

 

「すまないな。狭いが少しだけ我慢してくれるか?」

 

「大丈夫ですよ。狭いところは嫌いではありませんから。」

 

「そうか。ありがとう。」

 

私の椅子の隣にパイプ椅子を置いて間宮を机に向かわせる。

 

「じゃあ、教えるぞ?」

 

「はい……あの、一つお願いしてもいいですか?」

 

「ん?いいぞ?」

 

間宮は言いにくそうに両手の人差し指を合わせながらチラチラと私を見てくる。

少しして覚悟を決めたのか今度は真っ直ぐ私を見た。

 

「お、女の子の格好になって欲しいです!」

 

「…理由を聞いてもいいか?」

 

「や、やっぱり、その…まだ男の人は怖くて…その…。」

 

ん―…やっぱりまだ男の人に対しての嫌悪感は強いか…。

 

「声だけ戻すのではダメかな?」

 

「ダメ…ではないですけど、えっと…。」

 

「リスクもあるから服装は難しいかな。」

 

「そう、ですか…。」

 

凄く落ち込んでる間宮。

罪悪感が凄いよぉ…。

仕方ないかなぁ。

 

「ちょっと待ってね。」

 

「…え?」

 

私は帽子と上着を脱いでポールハンガーにかけて男装用のウィッグを外す。

 

「…これが限界かな?」

 

「ぁ…ありがとうございます!」

 

パァっと笑顔になる間宮。

そんなに男の人は嫌いなのだろうか。

まだまだ先は長いなぁ。

 

「これから少しずつ頑張ってくれる?」

 

「ぁう…は、はぃ…。」

 

思わず撫でてしまったが間宮は嬉しそうにはにかんでくれたのでよしとする。

何はともあれ今は執務室をしないと。

 

「とりあえず教えるから一緒に頑張ろっか。」

 

「はい!」

 

やはり料理をしてる間宮は記憶力などは良くて教えたら直ぐに覚えて書類を済ませる。

 

「どうですか?」

 

「………うん。記入漏れもないし、大丈夫だよ。」

 

「やった♪」

 

「ふふっ。お疲れ様。」

 

間宮は喜んでいたが私をチラチラと見てきて何か悩んでいる。

そして、自分の頭に手を当ててる。

間違えてたら恥ずかしいけど…。

 

「よく頑張ったね。」

 

「……はい♪」

 

頭を撫でると気持ち良さそうにする間宮。

良かった…間違えてなかったみたいだ。

 

「じゃあ、次は私の済ませちゃうね?」

 

「あ、はい♪」

 

間宮と場所を替わって執務を始める。

しかし、無言ってのも間宮が暇かな?

ちょっと雑談でもしよっと。

 

「間宮。質問いいかな?」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

私を見つめていた間宮は直ぐに返事をする。

 

「食堂での不具合なんかない?」

 

「そうですね…あ、そろそろ包丁とか古くなってきて幾つか交換したいです。」

 

「ん、わかった。そこの棚から申請書取ってくれる?」

 

「はい……えっと、これですか?」

 

「うん。ありがとう。」

 

間宮から申請書を受け取り書き込む。

そして、後ろにある金庫からお金を取り出して専用の財布に入れる。

 

「料理の道具なら早い方がいいよね?執務が終わって買い物に行こっか。」

 

「え!?いいんですか!?」

 

「もちろん。お昼も外で食べよっか。」

 

「はい!!」

 

それから一時間ほどで執務が終わり、時刻は昼前だ。

 

「じゃあ、この書類を提出してくれる?私も用意するから正門前で待ち合わせしよ。」

 

「はい!いってきます♪」

 

「いってらっしゃい。」

 

小走りで走っていく間宮。

あ、躓いてる。

 

――――――――――

 

「お、お待たせしましたぁ!」

 

「大丈夫だ。そんなに待っていない。」

 

正門前で間宮を待つこと10分。

いつもの割烹着のままで間宮が私に近付く。

 

「すまない。他の者には見せられないからな。今はこの姿で我慢してくれるか?」

 

「あ、はい…仕方ありませんもんね。」

 

残念そうに眉を曲げる間宮。

そんな彼女に声を元に戻して小さな声で囁く。

 

「着替えは持って来てるから安心して…ね?」

 

「っ!!はい♪」

 

瞬く間に笑顔になる間宮につられて私も笑う。

 

「では、時間が惜しいな。行こうか。」

 

「はい!」

 

私と間宮は正門の番をする門兵に声をかけてから正門をくぐる。

そして着替えるために近くの公園の公衆トイレに入る。

こういう場所で着替えるのに抵抗がある人も居るかもしれないけど私はなんともない。

着替え終わった私は間宮が待つベンチに駆け寄る。

因みに今日の服装は白いワンピースに丈が短めのデニムの上着を羽織り底がコルクの白を基調したサンダル。

春になって暖かくなってきたと言うことでお母さんがコーディネートしてくれた。

 

「お待たせ。」

 

「はぅ!?」

 

「間宮!?」

 

間宮は私を見ると額に手の甲を当てて仰け反る様に顔を背ける。

や、やっぱり変だったかな…?

私はファッション等には疎い。

服は全てと言っていいほどお母さんか電に決めてもらっている。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「はー…ふぅー…大丈夫、です。」

 

何回か深呼吸をして答えている。

そんなに変だったかな?

 

「やっぱり変だったかな?」

 

「そ、そんなことありません!」

 

間宮は私の両手を取って否定してくれた。

けど、か…顔が近いよぉ。

 

「あ、ありがとう。」

 

「はい!!」

 

まあ、いっか。

とりあえず、近場の金物屋などの調理道具がある場所は調査済みだから行かないとね。

 

「まあ、とりあえず行こっか?」

 

「はい!」

 

歩き出すと間宮は私の半歩後ろをついてくる。

むぅ…。

 

「ふぇ!?て、提督!?」

 

「今は提督じゃないよ?だから、並んで歩こ?」

 

「わ、わかりました。」

 

私は間宮の手を取って横並びになる。

間宮も嫌そうではなくて良かった。

そして、一軒目の店にはいる。

 

「わぁ…いっぱいありますね。」

 

「そうだね。値段は気にしなくていいから好きなのを選んでね?」

 

私がそう言うと間宮は一つ一つじっくりと見始める。

私も料理はする方だから間宮の隣で商品を手に取って見る。

 

「提督も…んむっ!?」

 

「今は樹で、ね?」

 

手を伸ばして間宮の口を指で押さえる。

壁に耳あり障子に目ありと言う諺の通り、人の繋がりはバカにできないものがある。

どこから私の素性がバレるかわからないから名前で呼んでもらう。

 

「い、樹…ちゃんは、料理はするのですか?」

 

「うん。するよ?でも、電やお母さんの方が美味しいから出番がないかなー。」

 

「そうだったんですか。」

 

「あ、もちろん間宮の方が私より美味しいよ?間宮の料理の味付けも私は好きだし。」

 

「す、好き!?」

 

「うわぁ!!」

 

間宮が手にしてた鍋を落としてしまう。

私は何とかそれをキャッチする。

そんなこんながあったけど何とか道具を決めてお会計をしてもらう。

 

「間宮。これ。」

 

「え?あ、はい。」

 

流石に見た目が中学生(願望)な私が十何万もする買い物をしてたら間宮が妙な目で見られるだろうと思い、こっそりと店員さんに見えないように財布を渡す。

そのまま滞りなく買い物を済ませて店を出る。

 

「て…樹ちゃん。」

 

「ん?」

 

「これ。ありがとうございました。」

 

「ああ。うん。気にしないでいいよ。」

 

間宮にお礼を言われて私は笑いかける。

そして、そのまま何軒か回って買い物が終わった。

 

「今は…ヒトゴーマルマルか。帰る前にちょっと休憩しよっか。」

 

「はい。」

 

最初に寄った公園のベンチに並んで座る。

 

「今日は楽しかったです。」

 

「そっか。いつも間宮は休み無しで働いてくれてたから喜んで貰えて良かった。」

 

間宮は食堂で働いている。

いくら手伝いが居ても間宮が丸一日休める日が無いのが現状だ。

私は申し訳なくなり、俯いてしまう。

 

「ごめんなさい。間宮にはずっと無理させてるよね。」

 

「え?無理、ですか?」

 

キョトンとする間宮。

 

「だって、間宮は食堂の仕事をまともに休めてないでしょ?」

 

「ああ、そう言うことですか。無理なんてしてませんよ?」

 

「でも…。」

 

そこで私の口を指で押さえられる。

先程私がしたように。

 

「私、嬉しいんです。」

 

間宮は私の口を押さえたまま語り出す。

 

「この鎮守府が出来て直ぐに着任しました。でも、直ぐにあの人が言いました。」

 

辛そうに顔を歪めて今にも涙が流れそうな程の悲壮が浮かんでいた。

 

「『兵器が生意気に食事をするな』って…。」

 

間宮が目を伏せて続ける。

 

「そこからは地獄でした。どんなに進言しても許可は下りずに補給の資材をそのまま出す日々でした。出されるそれを見て落ち込んで…悲しんで…泣き出す子も少なくなかっです。知ってますか?資材って凄く不味いんですよ?」

 

しかし、そこで間宮が笑顔になる。

 

「でも、貴女が来てくれました。変えてくれました。助けてくれました。私に…存在する意味を再び与えてくれました。」

 

間宮の目から涙が流れている。

その涙に悲しみの色はなかった。

瞳から涙を流しながら浮かべられた笑みはとても綺麗だった。

 

「だから…ありがとうございます。皆を…私を助けてくれて。貴女は私の恩人です。」

 

「間宮…。」

 

「私に出来ることがあったら何でも言って下さい。何でもします。」

 

間宮は私の手を握ってくる。

その手は温かかった。

 

「じゃあ…一つお願いしていい?」

 

「はい。何でも。」

 

「私も頑張るから…笑って、幸せになって欲しいな。」

 

驚く間宮の手に手を重ねて微笑む。

 

「………はい。」

 

皆幸せなんて出来ない。

 

私は無力だから。

 

でも、私の手の届く場所にいる人には幸せになって欲しい。

 

私にはそれすら出来ないかもしれない。

 

でも、この身が果てるまで必死に頑張る。

 

だから…笑おう。

 

笑顔でいよう。

 

―続く。




読んでいただきありがとうございました♪

今回は間宮との絡みになります。

この寮の工事のお話では三人の艦娘がメインになりますが誰かわかりますかね?

感想などあると嬉しいんです!

では、また次回お会いしましょー♪

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