大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜 作:疾風迅雷の如く
吸血鬼如きに背後を取られた。その事実は鴨川を驚愕させた。いくら相手がパワーアップしたとはいえ、竜人たる自分が遅れを取るなどあり得ない…
「ウスノロだと? この俺が?」
それは東堂に対してか、あるいは鴨川自身に対してか…そう尋ねた。
「そんなデカイ身体でまともに動けるとでも思ったの?」
東堂は調子に乗り、人差し指と中指の立て、二回曲げて挑発した。彼女が雄山くらいの歳であればもう少し慎重に行動するのだが彼女は本来騒がしい女子高生だ。それに加え魔力が開放されハイになっている。鴨川が自分の手でボコボコに出来ると確信すると調子に乗るのは無理なかった。
「だが百歩譲って俺がウスノロだとしても避けるだけじゃダメなんだよなぁっ!」
東堂の鬱陶しい挑発を無視して、鴨川は東堂のスピードが自分よりも速いと言うことを受け入れた。彼は普段おちゃらけているが違法薬を使っていたとはいえ人気店の社長である。感情的になるよりもこの状況を突破する方が頭の中で理解し、この状況を解決しようと考えなければすぐさま潰れてしまうだろう…
「チョロチョロ避けてもスタミナが尽きた時が終わりだぁっ!」
竜人の身体能力を生かし、東堂よりも優れた分野、持久戦に持ち込もうとしていた。竜人という種族は雄山が説明した通り竜の身体能力を得た人間だ。それ故に圧倒的なパワー、絶対的な防御、無限のスタミナ…etcが揃っており、東堂が上回ったのはその一つでしかない。
「はいっ! ほいっ!」
しかも東堂は鴨川が見た通り経験不足だ。現に行動をする際に無駄が多く大げさに避けている。
「くそっ!」
だと言うのに…何百発とパンチを繰り返しているのに何故一発も当たらない? 鴨川はそう思い、攻撃して避ける時の東堂をじっくりと見るとハッと気がついた。
「(スピードが上がっているっていうのか!? このままじゃ持久戦に持ち込めねえ!)」
東堂のスピードが上がっていると気がついた鴨川は更にスピードを上げる。が東堂はその先を行き徐々に躱すのも上手くなり、鴨川は逆に持久戦に持ち込むと不利になるという錯覚に陥った。そして鴨川は初めて東堂に戦慄し、竜の顎に当たる部分を触り…鱗の一つを抜いた。
「逆鱗モードだ!」
鴨川の身体に変化が起きた。緑色だった身体は赤く染まり、牙や爪は鋭く、凶悪なものへと変わっていった。
「なっ!?」
それに唖然としてしまった東堂は鴨川を見失った。右か? 左か? それとも後ろ? …そして振り返るとそこに鴨川がいた。
「が…!?」
それは一瞬だった。鴨川が自分と目があった刹那、トラックに叩きつけられた。そのダメージは混血とはいえ吸血鬼の身であっても大きく翼が折れていた。
「コれガ逆鱗モード。自らの逆鱗を取り暴走しソれに身を任せぅ。こうなれば誰にも止められェ。お嬢SUNぁ俺の逆鱗に触れタんだァ」
鴨川は爪を伸ばし、腕を上げる。
「…っ!!」
東堂は悲鳴を上げることなく目を閉じ、その爪が振り落とされる…そして生々しい音がし、その音を聞き自分は斬られたのだと思い、その痛みが来るのを我慢して待った。
「…?」
だがあまりにも痛みを感じるのが遅く、東堂は異変を感じ、何が起こったかを目で確認すると鴨川の手に万年筆が刺さっている様子が映し出された。
「っぁぁ…!」
鴨川は苦しみ、手に刺さった万年筆を抜こうとするがなかなか取れず、苦戦していた。
「鴨川…東堂に止めろって言った理由、なんでだかわかるか?」
その最中、傷跡から血をボダボダと流しながら雄山が言葉を発した。その様子を見るだけでも痛々しく、それが逆に不気味さを醸し出している。
「ユーザン先生!?」
東堂は喜び、恐怖、不安などの感情が混ざり複雑な気持ちで満たされていた。
「お前達竜人を滅ぼした一族の名前は何だ?」
東堂の声を無視して鴨川に尋ねるとしばらくして鴨川が動き出す。
「ま、まさカ!?」
鴨川は自分の丁度首と胸の間くらいにある部分を見ると内と外の二つの正五角形の痣が浮き出ていた。
「そんな馬鹿な…何故キラーマウンテンが大和一族に伝わる秘術、空掌を使える!?」
鴨川は徐々に人間の形態に戻り、尻もちをついて尋ねた。
「決まっているだろ。俺は大和一族の一員だからだ」
「てめえ何もんだ…?」
「俺は大和宗家次期当主候補、大和雄山」
「…まさかキラーマウンテンが大和一族…それも宗家の人間だとはな。誤算だったぜ」
鴨川からため息が聞こえ、諦めの表情が見えた。
「さっきから大和一族って何ですか?」
雄山達の話についていけなくなった東堂が雄山に質問すると鴨川が代わりに答えた。
「大和一族は太古から続く陰陽師の一族だ。九尾や鵺などといったメジャーな妖怪を退治せず大和一族に伝わる秘術を用いて俺ら竜人をはじめとした伝承に残されていない妖怪達を歴史の闇へと葬り去った連中だ」
「秘術…?」
「その秘術は空掌。魔力や霊力を使わない訳のわからねえ秘術だが…これだけは言える。俺ら竜人はその秘術によって魔力や霊力を封じられて竜の形態になることも出来なくなり、殺された」
「魔力や霊力を使わないでそんなことが…!?」
本来魔力や霊力は気や一部を除いた超能力などでは封印できない。故に東堂はそれに驚いていた。空掌はその一部の超能力なのかあるいは別の何かなのか…鴨川が言ったとおり理解出来ないのだ。
「空掌は本来魔力や霊力を封印するために使われたもんじゃねえ」
「何だ…!?」
鴨川が声を上げると腿の部分に銃で撃たれたように風穴が開き、そこから血が流れた。
「空掌は本来、相手を傷つけるための純粋な武器だ。だが今の大和空掌弾は破壊に特化させた大和空掌砲だけじゃ竜人達を相手にするのは難しかった。そこで大和一族は陰陽術…当時の魔法陣と空掌を合わせ魔力や霊力を封印する術を作り上げて竜人達を殺していった」
「そうか…だからこんな痣跡が出来る訳だなぁ…」
鴨川は自分の痣を見て、感心する。
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「お喋りはここまでだ。鴨川…お前に幾つか質問をする」
「その前に煙草貸してくれねえか? 禁煙していたんだがちょいとばかし吸ってみたくなるんだよな」
「断る。生徒の前で煙草吸わせるような真似はさせねえし何よりも俺自身が煙草が嫌いだ」
雄山やその同期は煙草が如何に危険か教育されており、嫌煙をする傾向が強い。
「そう言うなや。てめえらに逆らったところで既に俺は竜人としての力はねえ。抑えることなんぞすぐにできる。煙草吸ったって身体が元に戻る訳じゃねーし、そのくらいの欲求くらい通してもいいだろ?」
「我慢しろ。その代わり後で奢ってやる」
「チッ…まあそう言うならいいか。で、質問はなんだ?」
「何故学園都市に送る弁当にオーバーを混ぜた?」
「上から学園都市を混乱させろって命令だよ」
「その上ってのは何なんだ?」
「妖魔連合会会長、
「何言ってやがる。怪獣は架空の存在だろうが?」
貞子やトイレの花子さんなどの妖怪は存在するが怪獣は存在しない。どちらも近年生まれたものであるが貞子や花子さんなどの妖怪は都市伝説から生まれた存在であり、ある程度確証がある。しかしその一方怪獣は映画などの存在であり、現実にいたらそれこそ世界は混乱する。
「信じねーなら信じねーでいい。だけど俺は嘘は言っちゃいねー」
だが鴨川の様子を見ても嘘は言っていない。雄山はそう判断して次の質問をした。
「そいつの居場所は?」
「妖魔連合会本部…そこに三頭竜がいる」
「よし、煙草吸ったら案内しろ!」
鴨川に煙草を吸わせ消臭ガムを食べさせると、雄山達は妖魔連合会本部へと行くことになった。